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リアクション
5.過去
ショートカット同好会の部室には、いつの間にか大きなクローゼットが運び込まれていた。
そして部屋を二つに分断する大きな分厚いカーテン。
「こ、これはさすがに京も着たくないのだわ」
「でもこんなセクシーな服、私だって着れないよ」
「今日は篤子ちゃんがいないんだから、どっちか覚悟しなさいよ」
カーテンの向こうから聞こえる、女の子たちの声。
叶月は椅子に座って、ぼーっとしていた。
ヤチェルの暴走は収まったようだが、まだ心配は続いていた。
ふいにノックの音がし、扉が開く。
「失礼、こちらがショートカット同好会の部室かな?」
と、顔を出したのはエルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)と土御門雲雀(つちみかど・ひばり)だった。
声に反応したヤチェルがカーテンを開けて出てくる。
「ええ、そうです。入部希望の方ですか?」
「いや、ぜひ実験台にと思って」
そう言ってエルザルドは雲雀を差し出した。
「じ、実験台!?」
何も知らされていなかったらしい。雲雀は慌てて嫌がったが、ヤチェルは言った。
「あたしが会長の松田ヤチェルよ。よろしくね」
そして雲雀の肩を掴み、強制的に奥へと連れていく。
エルザルドは一息つくと、室内を見渡した。カーテンの向こうに人がいるのは分かったが、見えるところにいるのは叶月だけだ。
「君も会員なのかい?」
叶月はエルザルドを見て言った。
「いや、俺はただの会長のパートナーだ」
「へぇ、そうか」
叶月の隣へ腰を下ろし、エルザルドは言う。
「見たところ、彼女は普通の女の子だね。これといって特徴もないし」
「まあ、趣味嗜好は変だがな」
そしてエルザルドは叶月へ問うた。
「ちょっと尋ねてもいいか?」
「ん、別にいいけど」
「どうして、彼女と契約する気になったんだい?」
カーテンの向こうでは、雲雀がりをに服を脱がされていた。
「ねぇ、ちょっと気になるんだけど」
と、京がヤチェルを見る。
「何? 京ちゃん」
ヤチェルは雲雀が脱ぎ終わるのを待っていた。
「会長は、どうしてそんなにショートカットの女の子が好きなの?」
ヤチェルは目を丸くしたが、すぐににこっと微笑む。
「昔ね、いじめられてたの」
抵抗する雲雀のズボンを脱がそうと、りをが必死になっていた。
「ショートカットの女の子に?」
「そうじゃなくて、いじめられてたあたしを助けてくれたのが、ショートカットの女の子だったの」
りをに隙をつかれ、雲雀の細い足があらわになる。
「すごく強くて、かわいい子だったわ」
りをの脱がした服を京が受け取る。
「でも、彼女と友達になる前に離れちゃったの。両親が離婚しちゃったから」
「え?」
「だからね、こうしてショートカットの女の子を探していれば、いつか出逢えるんじゃないかと思ってるの」
ヤチェルは用意していた服をりをへ渡した。
「……そうだったの」
すぐさまりをが雲雀へ服を渡し、着替えを手伝い始める。
何となく落ち込んだ様子の京を見て、ヤチェルは笑った。
「なんてね、嘘よ。本気にしないで」
「え、嘘? そんな、ひどいのだわ!」
「でも両親が離婚したのは本当よ」
と、ヤチェルは苦戦しているりをを助けに向かった。
「似てるんだとよ。あいつの兄貴に」
叶月はそう言った。
「それは、見た目が?」
「さあな。ただ似てるとしか言わないから分からねぇ」
「その、兄とやらは生きているのかい?」
叶月は溜め息を吐いた。
「分からねぇ。そういうこと、全然話さないから、生きてるか死んでるかも分からねぇんだ」
「それで君は、契約してしまったと?」
「……すげー必死に頼んでくるもんだから、断わり切れなくてな」
と、苦笑を浮かべる。しかしエルザルドは、その笑みが後悔を表すものではないと分かっていた。
それどころか、たぶん……彼も自分と同じく、彼女を放ってはおけなかったのだろう。いろいろな意味で。
シャッとカーテンが開き、着替えを終えた雲雀が姿を見せた。
大胆に開いた胸元、下はミニスカートに春色のブーツ。
「どうかしら?」
と、ヤチェルたちも顔をのぞかせ、エルザルドの反応を待つ。
「に、似合わないでありますよぅ……」
雲雀はそう言ってスカートの丈を気にするが、同時に胸元も隠そうとした。
「へぇ、よく似合ってるよ」
と、エルザルドは笑った。
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