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うきうきっ、合同歓迎会!

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うきうきっ、合同歓迎会!

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(2)受付と波羅蜜多実業高等学校スペース

 綺麗な青空と、これからやってくるであろう新しい後輩をもてなそうとする人々。みんな、どこかそわそわした表情で自分の担当の準備を進めている。合同歓迎会スタッフはいろいろな学校から集まっているので、事前に腕章とスタッフ名簿とパンフレットをを受け取っていた。

 入口の受け付けでは案内係のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がそんな様子をニコニコと見守っていた。
「新入生さん、たくさん遊びに来てくれると嬉しいですぅ。去年の先輩さんも、こんな気持ちだったのでしょうか……?」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は自分が入学した時のことを思い出しながら、参加者に椅子の貸し出しを行っている。
「僕たち、先輩って呼ばれるね! 緊張してくるなぁ……」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)もこくりと頷いて、パンフレットをぱらぱらとめくった。
「うふふ。メイベル、アナウンスの時間ですよ? そろそろ特設ステージにいかないと♪」
「司会のお仕事、頑張りますぅ」
 今回、メイベルたち3人は特設ステージのアナウンス役も兼任していた。合同歓迎会スタッフは大きく分けて3種類の担当があり、1つは受付・アナウンスなどの補助業務。2つ目は人手が足りない個所を助ける裏方業務で、こちらは特設ステージの設置補助など力仕事やお使いが中心だ。最後の3つ目は警備係で、その1人であるクロス・クロノス(くろす・くろのす)は入口の守りを担当している。クロスはパイプ椅子を持ち場に2つ並べると、1つ目に自分が座り2つ目には何冊かの本を積んだ。
「クロスちゃん、何読んでるの?」
 セシリアは受け付けと少し離れた位置にいるクロスのほうに歩いていく。クロスは、ん? と顔をあげると読んでいたものの表紙を見せた。
「パンフレットで地形の確認をしていました。危ない人がいた時に、すぐに対処できるようにしたいですから」
 とはいえ、ピリピリした空気では周りを不安にさせてしまう。本でも読みながらのんびり待っていたほうが、吉だと判断したようだ。
「そうだ、ちょっと待っててね!」
 セシリアは受付に戻り、フィリッパに何事か提案すると持参した大きめのバスケットから作ってきたサンドウィッチを出してきた。綺麗に盛り付けられ、ハムのピンク色やチーズのイエローが何とも食欲をそそる出来になっている。フィリッパはスタッフ用のコーヒーメーカーで温かいコーヒーを淹れ、うきうきとクロスのもとに戻っていく。
「まだ、昼には時間がありますけど……ふふ」
 張り切っている背中を見ながら、フィリッパは柔らかい表情を浮かべた。
「クロスちゃん、これ良かったら後で食べてね!」
「サンドウィッチ……これ、あなたが作ったんですか?」
「うん! 頑張ってるスタッフさんにも美味しいもの食べて、元気になってもらいたいなぁって」
 それほど空腹ではなかったが、1つもらって食べてみると体に優しい味がした。
「ありがとうございます、コーヒーと一緒にいただきますね」
 ひきたてのいい豆を使ってあるコーヒーの香りを楽しみながら、クロスは少し前よりこの歓迎会が成功するといいなと思った。



「あのぅ、ここでイスって貸してくれるんですかー?」
 普段は機人三原則でウェイトレスをしている川村 まりあ(かわむら・ )が裏方の本郷 翔(ほんごう・かける)に尋ねた。
「はい。いくつご入り用でしょうか?」
「えーとねー。10!!」
「多いですね」
「だってぇ、キャバクラですから〜。キャバクラ嬢、目指してるの私1人だしぃ、しょーがないんですけどー……」
 翔が参加者名簿を調べると、確かにキャバクラを目指している参加者はまりあ1人だった。
「川村様、少々お待ちください」
 翔がスタッフ用の無線を使って問い合わせをすると、もう1人波羅蜜多実業高等学校の生徒が近くにいることが分かった。メイベルがアナウンスをするとスーツを着たガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が現れる。
「同じ学校で困ってらっしゃる方がいると聞いたのですが……」
 背が高く妖艶な外見を持つガートルードを見ると、まりあはパァッと顔を明るくさせる。
「ハーレック様。自由無法者同盟様は今回の企画の趣旨と方向性が違うのですが、学校スペースでの宣伝許可が下りました。いかがでしょうか?」
 ガートルードの所属する自由無法者同盟は一般的な悪事で生活の糧を得てる人の同盟である。パラ実では働きながら学校に通っている生徒も多く、彼女はそういった人が入れる同盟の代表をしている。
「ガートルード……先輩? 女の子の憧れの職業TOP10の一つであるキャバ嬢になってみませんかー? 綺麗なドレスを着たり出来ますよ〜」
「正直、もてたことなどないのですが……」
「パラ実はキャバクラ就職率100%ですよ〜。そんなに綺麗なんだから大丈夫ですー!」
「ま、まあ、私にできる範囲でなら手伝いましょう」
「私、将来キャバクラ『ひまわり』を作るんですー! 開いたら来てくださいね♪ 皆さんの出会いを応援する場にしますよっ」
 まりあは嬉しそうにガートルードを引っ張ると、椅子をほったらかしにして彼女に着せるドレスを選びに行ってしまった。翔は静かにその場に立っていたが、2人がいなくなると黙々と椅子を運び店を整えていく。ひまわりの造花で店内は飾られていたが、もう一味ほしい。空いていた小ビンに公園から摘んできた花を活けてテーブルに配ってゆくと、豪華ではないが心のこもったいい店になっていった。
「なかなか、雰囲気のある……」
 翔が振り向くと、こぼれおちるような大人の色香が漂う紫のドレス姿のガートルードが立っていた。小柄なまりあは可愛らしいオレンジ色のドレスに、ドレスとお揃いの色のひまわりの髪飾りを付けている。
「お帰りなさいませ。お茶のご用意もできておりますので、開店までごゆっくりなさってください」
「わー、すごーいですー!! よぉーし、キャバ嬢めざしてくれる女の子が増えるようにがんばりましょー♪」
 翔は喜んでくれるまりあの様子を見ると、満足そうな顔をして丁度蒸らし終わった紅茶をそそぎにいった。今日はこのままこの店の裏方を担当するつもりのようだった。
「あれっ、ここって出店スペース??」
 友人の店に遊びに行こうとしていたレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が、パンフレットと店を交互に見ながら不思議そうな顔をしている。ガートルードが綺麗に口紅の塗られた唇の両端を優雅に持ち上げると、さっと顔を赤らめて固まってしまった。