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うきうきっ、合同歓迎会!

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(7)お土産スペース

「新入生、か。もうそんなに経ってたんだな」
 ぽつりと呟いた匿名 某(とくな・なにがし)の右腕には、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)がぎゅうっと自分の両腕を絡みつけていた。某は恋人を見ると春の陽気のせいか、少しロマンチックで感傷的な気分になったのかもしれない。
「すごい賑わいですね〜。なんだか見てるだけ楽しくなってきます!」
「ああ、そうだな」
 無邪気にはしゃぐ彼女を、自分は最初から女性として見ていたかというと……アホの子一号なんて呼んでた頃もあった。入学してから他の奴らと絡んでいくうちに、友人や……親友と呼べる奴もできて行った。あいつもここに来ているのだろうか。
「某さん、あのお店……行ってみてもいいですか?」
 上目づかいでお願いという名の可愛いわがままを言ってくる彼女が、今はとてもいとおしい。こんな日々がいつまでも続けばいい。
「……お前も、そう思うだろ」
 親友の姿を脳裏に浮かべ、ぽつりと呟いた。
 隣では恋人も友人たちもこの席にいたら楽しかったと考えていたが、彼女は側にいてもいいと言ってくれた人との時間を大切にしようと考えていた。少しぼんやりとして心の距離を感じる恋人の様子を見ながらも、彼女は前向きにその腕の温かさを感じていた。


 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は守護と自由の比翼の軍資金集めと宣伝効果を狙って、香水屋を開いていた。
「いらっしゃい、お2人ですね?」
 某と綾耶がやってくると、リアトリスは見慣れない道具を並べて準備に取り掛かる。
「あれ、ここって香水屋さん……ですよね?」
「はい、お客様のお望みの物をこの場で調合します♪」
「へえ、面白いな」
 リアトリスは早速、綾耶の雰囲気から彼女にあった香水を調合していく。
「数種類のハーブを揃えています。そうだな、こんなのはいかがでしょうか」
 香水の中でもハーブ、つまり天然香料を使ったものになる。リアトリスはバニラの香水を調合した。アイスクリームやお菓子を連想させる甘い香りの香水で、綾耶の可愛らしい雰囲気を表現したようだ。
「これ、いくら?」
「500Gです、ありがとうございますっ」
 財布を出した綾耶を制して、某はさっさと500G払ってしまう。プレゼントをもらった綾耶がそれに対してどう気持ちを伝えたのかはリアトリスの耳には届かなかったが、喜んでくれたようで満足していた。桜色のパーカーと茶色のミニスカートで元気に歩いている榊 花梨(さかき・かりん)と公園を見て回っていた神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、対称的に黒のGジャンと黒のジーンズという黒で統一された服装を着ていた。
「花梨。そんなに、慌てなくても平気ですよ」
 微笑みながら言う神楽坂の言葉を聞きながらも、花梨のうきうきは止まらない。
「すごーい!? こんなにお店があるなんてっ。
 食べ歩きもしたいし、お土産も買いたいかも……早く行こ!!」
 ぐいぐいと神楽坂を引っ張り、リアトリスの香水屋の前までやってきた。好奇心旺盛な花梨は調合の様子が気になっている。そんなに気になるなら、と神楽坂は1つ彼女のために香水を注文した。
「わぁ〜、ありがとう!」
「ふふ、レイスがなんていうかも楽しみですね」
「さて、貴女には……これかな?」
 リアトリスは彼女が着ている桜色のパーカーに注目すると、春らしく桜の香水を調合した。香水というほど香りは強くなく、それでも付けたところが風を受けるとふわりと桜の香りが漂った。
「えへへ、何だかちょっと照れるかも」
 どうもねー! そうリアトリスにお礼を言うと、花梨は神楽坂と一緒に愛!部のほうに歩いて行った。なかなか、香水屋は繁盛していた。


「そりゃ、独り身でお祭りはさみしかったけどさ……」
 冒険者の店「叢雲の月亭」では白川 流(しらかわ・ながれ)ヨハン・ローゼンクロイツ(よはん・ろーぜんくろいつ)が『ひもつりくじ』なる奇妙な露店を開いていた。ひもを引っ張ることで先につながっている品物をプレゼントするものなのだが……。
「流君、ほら! 呼び込みしないと!」
「だって、賞品がモヒカンシリーズじゃないか……他には、ナニこのサクランボって?」
 どうも丁度いいアイテムが手に入らなかったようで、この店は他と比べてずいぶんと涼しい印象だった。そんな中、とことこと警備スタッフの浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が休憩時間を利用して遊びに来た。ゲーム系の屋台はここだけなので興味を持ったようだ。
「あっ、特賞はワイヤーガンですか。1回やってみましょうか」
 流は浅葱を見ると、女の子かっ!? と腰を浮かせたが、ヨハンに男だよとハリセンで叩かれておとなしくなった。
「どうぞどうぞ、何が出てもしりませんけどー」
 ヨハンは適当な接客をしながら浅葱にひもをひかせる。
「何が出るかはお楽しみ〜♪」
 流のよくわからない歌と共に引っ張られて来たのは……ネギだった。
「こ、これは?」
「「ネギです」」
 な、なんでネギが……。不思議に思いつつも、まぁモヒカンよりはいいかも。と思って浅葱はその店を去って行った。しかし、この店で当たったネギは彼の数時間後に影響を及ぼすことになる。


「しょーご先輩、準備はいいですか!?」
「オッケー、りをさん。いつでもいいよ!」 栂羽 りを(つがはね・りお)如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は『惚れ薬っぽいモノ』という効果不明の薬の実演販売をするところだった。惚れ薬(仮)は漢方薬、トウガラシ、など血行が良くなりそうなものをバンバンいれては混ぜ混ぜした恐怖の薬なのであった。当然すさまじいニオイが店の周りには漂っており、興味はあるが買いに行く勇気のない人々が店の周りをたむろしていた。
「私が客引きしてみますとも! えい、ぐびぐびっ……ぷっはー!」
 りをはそのすごい味の液体を気合いで飲み干すと、ぽわ〜っとした熱っぽい瞳を正悟に向ける。
「しょーご先輩、すきっ!!」
「おお、りをさん!!」
 隣に出店していた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はニヤリと笑うと、正悟に親切なアドバイスをしてやる。
「おや、うっかりこちらの薬を飲ませてしまったようである」
 冒険漫画を読みながら、ゆっくりとした調子で報告すると正悟の顔色がさっと変わった。
「え、えー!? 何を飲んじゃったんですか!?」
「ふむ。おそらく、『嘘が本当になるかもしれない薬』だろう」
 なんだ、その、訳のわからない薬は。慌てながらも薬を吐かせようとバシバシ薬を吐かせようと正悟はりをの背中を叩いた。
「キャーッ、しょーご先輩ったら……だ・い・た・ん」
「り、りをさん〜……!?」
 本当は毒島がすり替えたという薬は飲み残しのマズイジュースだったのだが、面白いのでそのまま放っておいた。りをは思い込みなのかわざとなのか、正悟にくっついてイチャイチャしている。目はハートになっており、この状態が解けるのがいつだかは誰にもわからなかった。
「そうだそうだ、解毒の仕方を思い出したのである」
 毒島は人の悪い笑みを浮かべて両手で作った2匹の狐を軽くちょんちょんとくっつけた。
「な、なんですか。それは」
「チュウ」
 実演販売で集まった人々は、毒島のコメントを聞くと『チュー、チュー!』とネズミのようにはやしたて始めた。混乱気味の正悟はなんだかそれしか解決策がないような気がして、りをの肩をグッと抱き寄せる。
「しょーごセンパーイ……♪」
「……すまない!!」

 ガスッ! ガスッ!!
 
 そう言うと、正悟は全力で頭突きをした。そうして気絶した後輩を担ぐと保健ブースめがけて疾走していった。