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「――というわけなんです!」
「はぁ……」
「どうしてあんな服を売り出したのかわかんないけどさ。元に戻してもらえないかなぁ?」
 マリエルの説明に生返事を返す魔女に舞羽が重ねて頼む。
「やっぱりいつものこの子がいいんでねぇ。支払えるものは何もないけど……」
 と、持ち物を探った師走が、ああ、と何かを差し出した。
「柏餅があった。まぁ、おひとつ」
「え、ありがとうございます……?」
「ねぇ、魔女さん。僕たち誰かに心配かけるのも嫌なんだ。だから元に戻らないと」
「そうですわね。魔法で変わってしまった性格など、その人間のそれではありませんわ」
 皐月の言葉に亜璃珠も頷く。皆がその後ろで強く首肯していた。
「みんなを元に戻して……魔女さん」
 未央がうろんな瞳で魔女を見やる。
 そんな皆をぐるりと見回した魔女は、ごねるかと思いきや案外素直に頷いた。
「あ、でも、その前に!」
 みんなが安堵の息をつく中、牙竜が声をあげた。
「こんなすごい服どうやって作ったんだ? 俺、それを聞きに来たんだけど」
「ふぇ?」
「いやぁ、着るだけでパワーアップなんてすげーじゃねぇか。な、どうやって作ったわけ?」
「どうやっても何も……普通に作っただけ、です」
「何か否決があるんだろ? な、ちょっとだけ! 教えてくれって!」
「え、で、でも……」
 ふるふる、と首を振った魔女は、それでもと縋る牙竜の押しに負け、実は……と小さくつぶやいた。
「は、ハンドメイドが好きで……。中でもお洋服づくりが好きで……作ってたら丹精こめすぎて魔法がかかっちゃったのかな、と……」
「へっ?」
「だ、だから! 魔法をかけようとしてかけたわけじゃなくて……。その、無意識というかなんというか……」
 つまり、そういうことらしい。
 呆けた一同を見て、魔女は涙目で頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! こんなふうになるなんて思わなくて……!」
「え、えーっと……」
「あっ、ちゃ、ちゃんとお代もお返しして、魔法を解きますね!」
「それならいいんです、けど……」
「本当にごめんなさい!」
 偏屈だと聞いていた魔女があんまりにもあっさりと謝ることに呆気にとられながら、マリエルは愛美の手を引いた。
「あの、それじゃあ、お願いします」
「はい!」
 マリエルの言葉に魔女はロッドを手にして強く頷いた。

「あの……」
「はい?」
 一人ひとりに謝罪をし、魔法を解いていた魔女に、秋日子は声をかける。
「キルティの……この子の着ている服も魔法の服…なのかな?」
「え?」
 けれど魔女は首をかしげる。
「この服はわたしがつくったものじゃないですよ?」
「えっ」
「それに、その服魔法のアイテムじゃないです」
「やっぱり、そうなんだ……」
 わかった、ありがとう。と秋日子が言うと、魔女はぺこりと頭を下げて、今度は怪我人を口説き始めている虚雲の元へ行く。
「……だから言ってるじゃないですか。僕は性格なんて変えていないですって」
「うーん……でもなんかやっぱり納得いかないなぁ」

「さあ! 着替えろ女性陣! 俺が見張ってる!」
「安心できるわけないでしょ!」
「さっさと消えてくれないか」
「姉御の着替え覗くなんざゆるさねぇぞ!」
「あのう、貴方の眼鏡とスパイクも回収しますので……」
 着替えの為に、と魔女が宛がってくれた部屋の前では、鮪が皆の非難と魔女の言葉に追いやられていた。
 しかし、魔法のアイテムを魔女が回収した瞬間部屋へと入り込んでいってしまう。
 盛大な複数の悲鳴のあと、がらがらがっしゃーんという物音。
 少しの間をおいて、ぼてっと投げ出された鮪の手には数枚の下着が握られていた。
「ヒャッハー! ぱんつゲットだぜ!」
 そう叫ぶとそのまま鮪は走り去っていった。
 ぱちくりと瞬く魔女の前を、怒り狂った女性陣が駆け抜けていく。
 そんなパートナーを追う者、苦笑しながら後に続く者、魔法が解けた瞬間頭を抱える者。
 それぞれが様々な反応をしながら魔女の尖塔を後にする。
「あー……それじゃ、かえろっか、まなみん」
「ううう……恥ずかしい……」
「ま、マナ……」
「それじゃあ、魔女さん。お騒がせしました」
「い、いえ、こちらこそ」
「あ、そうだ」
 別れの挨拶をするマリエルや真奈たちの先を行こうとしていたショウがふと振り返る。
「他にも買っていった奴が結構いるみたいだから、直してやらないといけないんじゃないか」
「ええっ!?」
「そうですねぇ。学校にもいっぱいいましたし」
 リタの同意を聞いて魔女は慌てたように置いていたロッドを握り直した。
「そ、それじゃ私も蒼空学園に行きます! そのままにしておくわけには!」
「やった! じゃ、一緒に行って服作りの秘訣教えてくれよ!」
 牙竜が嬉しそうに声をあげて、魔女の肩をつかむ。
「なぁ、名前は?」
「え……」
「魔女じゃ呼びづれーだろ」
「あ、はい、あの……ティアです」
「ティアな! よし、じゃ行こうぜ!」
 明るい笑顔を向けられて、魔女は戸惑ったように頷く。
 塔の外に出たティアは、街中や学園で魔法の服を着てしまった人々を見つけるたびに駆け寄って謝罪と衣装の回収をしていった。
 そうして最後の一着を回収するまで、愛美に負けず劣らずの悲喜交々が待ち受けているのだった。
 けれど、最後には皆、安堵の息を漏らすのだった。
「やっぱりいつも通りのみんながいいな」と――


担当マスターより

▼担当マスター

奏哉

▼マスターコメント

 はじめまして、こんにちは、奏哉です。
 今回は皆さんのリアクションを見て楽しく書かせていただきました。
 衣装や性格が変わってしまったキャラクターたちはいかがだったでしょうか。
 力量不足で「消化不良かな?」というところもあるかとは思いますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
 それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。

▼マスター個別コメント