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機械達の逃避行

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機械達の逃避行

リアクション

「ふぅ、世話が焼けますね」
 ミサイルを不発弾にして落とした雨宮 七日(あめみや・なのか)が眉をひそめた。続いて日比谷 皐月(ひびや・さつき)がやってきた。
「ちわ、センセ。久しぶり……って、言ってる暇もなさそうだな」
 手を掲げて微笑みかけた日比谷皐月だったが、乱射されるミサイルの脅威を前に、真剣な表情に変わる。
「まずは防御を固めないとな」
 言い放つと【ディフェンスシフト】【ファイアプロテクト】【護国の聖域】を連続発動。
 起木保の防御力を上げ、炎の耐性を上げ、魔法防御力を上げ、更に最大の盾であるタワーシールドにより、起木保を護る。
「すまない」
 走ったために噴き出した汗とは別の汗を拭いつつ、起木保が頭を下げた。
「白雪の……バッサイーンでもいいや。暴走の原因に心当たりは?」
「全く見当がつかない」
 問いかけに先程と同じように、起木保が首を振る。日比谷皐月は、暴走を続ける白雪に黒い瞳を向ける。
「……パートナーの事は、パートナーが何とかすべきだ……ってのは、傲慢かね」
「できれば、そうしたいところだが……」
 起木保が佐々良縁に渡されたハンドガンを見て、唇を噛んだ。日比谷皐月はそんな彼の肩をポン、と叩く。
「えーと、機晶姫のパートナースキルは……SPリチャージだったか。んじゃ、センセ。オレがバテない様に、回復頼むよ。そうすりゃセンセも無事で居られるんだから」
 悪戯っぽく微笑んで、タワーシールドを構えなおした。
「ってことで七日、頼む」
「取り合えず、あの機晶姫の動きを止めれば良いんですよね?」
 雨宮七日は、はるか先を行く白雪を見据えた。
「ああ」
「動きを止めた後は貴方に任せます」
 彼女は、白雪を見ていた眼をちらりと日比谷皐月に向ける。
「良いですか、私はあくまで動きを止めるだけなので……貴方の失敗が、そのままこの作戦の失敗になります。注意してください」
 日比谷皐月と起木保が息を飲んだのを、了承と受け取って雨宮七日が構えた。
「では、往きますよ」
 凶刃の鎖を構え、攻撃しようとした時再びミサイルが彼らに向かい来る。
「伏せてー!」
 佐々良縁が叫ぶとともに、打ち上がったミサイルを狙撃。
 ドオォオオオン
 空中で爆発。もうもうと煙が上がり、破片や塵が降り注ぐ。
 蚕養縹の十手による防御や、日比谷皐月のタワーシールドにより、怪我をする者はいなかったが……。
「見失ったか……」
 苦々しく息を吐く起木保。爆風が煙幕となり、二機の行方を隠してしまった。
「白雪―! バッサイーン!」
 起木保が、叫ぶ。
「ん? あの声は起木センセ? どうしたんでしょねぇ?」
「今度はあの先生、なにやらかしたんだい?」
 自転車を引きずりながら歩いていた宮坂 尤(みやさか・ゆう)が声の方を見る。スヴァン・スフィード(すう゛ぁん・すふぃーど)も苦笑して覗く。
「知り合いなのか?」
 猩 朱紅(せい・しゅこう)の問いに、スヴァン・スフィードは頷いた。宮坂尤が一歩進み出る。
「行ってみましょう」
 闇雲に走る起木保の元に、三人が急いで向かう。宮坂尤は猩朱紅を後ろに乗せて自転車で。スヴァン・スフィードは小型飛空挺で。
「こんなところでどうしましたセンセ?」
 見知った顔に、起木保が息をつく。
「実は――」
 起木保は、事の経緯を掻い摘んで伝えた。
「白雪さんが、暴走して、暴れてる? それはぁ、大変ですねぇ」
 あまり心配していないように聞こえる返答に、起木保は曖昧に頷いた。
「どうにか止めたいんだが、二人を見失ってしまったんだ……」
「それなら、私が探し出しますよ」
 そう言った宮坂尤は猩朱紅を振り返る。
「これ使うと尤はタヌキになるから、あんまり乗り気はしないんだがねぇ」
 そう言いつつも頷き、二人は【超感覚】を使用。自転車二人乗りをしつつ、野生の勘で居場所を突き止めようと試みる。
「あ、自転車の二人乗りは――」
「ん? 交通法規違反? 気にしなさんな」
 今更気付いた起木保に、猩朱紅が手を振って見せる。
「えーと、こっちでしょうか」
 感覚に沿って、自転車が進んでいく。起木保達はその後に続く。
「おーおー、派手にどんぱちやらかしとるのぅ」
 小型飛空挺で二人の上を飛びながら、スヴァン・スフィードが呟いた。上空からであれば容易く、二機の行方が分かる。
「尤、次の角を右じゃー!」
 声に応じ、宮坂尤が道を右に折れる。
「次は、直進――」
 言いかけたスヴァン・スフィードが宮坂尤達の自転車を見下ろし、咳払いした。
「おーぃ、尤よ! 行き過ぎてるぞー!」
 彼女の眼下で、自転車が慌ててUターンする。
「野生の勘も、あまりアテにならんのぅ」
 苦笑して、白雪達の動向を眼で追った。

 日差しを照らし返す白いカーディガンを風に揺らし、薄桃色のキャミソールワンピースを着た姫神 司(ひめがみ・つかさ)は、ウインドウを覗いていた。
 ガラスの先では、様々な色や形のチョコレートが塔を作っている。
 ドォオオン
 ボオォオオ
 どこからか耳をつんざくような音。人々の悲鳴も聞こえてくる。
「なんだ、あの騒ぎは」
「あれは土ぼこりでしょうか?」
 隣でグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が音の元を見て、首を傾げる。白を基調とした、ホーリーローブも風に揺れる。
「あ、今何か埃に混ざって別の物が飛んだような……」
「気になるな。近くに行ってみるか」
 頷きあった二人は、音の元へ駆け出した。土埃に紛れて見えてくるのは、駆けまわるバッサイーンと、破壊を続ける白雪の姿。
「ふむ、どうやら機晶姫が暴れているようだな……」
「前を行くのは……確か、バッサイーンとかいうロボットですね。このままでは、空京の街を壊してしまいそうです……」
 疾走と暴走を続ける二体は、見ている間にも街に傷を作っていく。
「よし、街の外へと誘導しよう」
 思い立った姫神司は、空飛ぶ箒を取り出した。グレッグ・マーセラスもそれに倣う。
 そして、土埃の中へ向かって駆け出した。
「バッサイーンか……単純なネーミング、嫌いではないぞ」
 そう言ってバッサイーンの前に立った姫神司は、ずいっと魔法の箒を突き出した。
「これを切りたいなら、わたくしについてくるがいい」
 そして、箒に跨り、バッサイーンの上空を飛ぶ。バッサイーンの眼が、箒に向いた。
「作戦成功のようですね」
 グレッグ・マーセラスが微笑み、箒に跨って彼女に続く。視線は、背後から来る白雪へ。
「司、ミサイルが来ます! 右か左に避けてください!」
 彼の声に応じ、姫神司が左に避ける。ミサイルは何もない土の上で爆発する。
「司の背中は、任せてくださいね」
「頼りにしているぞ」
 背中を向けたまま応え、姫神司がバッサイーンを郊外へと導く……。
「ここより先は、危険区域です。速やかに離れてください」
 そう叫ぶのは夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)
 空京の街の中、市民を守るべく 通路を見渡す。
「あちら側なら、大規模な戦闘が行われても大丈夫でしょう」
 懐から武者人形を四つ取りだし、交通規制用の棒を持たせる。用意した戦場へつながる道を塞ぐためだ。
 武者人形を適当な場所に配置して、封鎖しても交通が滞らないよう誘導させる。光る棒が、振られていく。工事現場の誘導のようだ。
「この道を塞げば、広場へつながる道はありませんからね。あとは彼らを広場へ導けば……」
 自身のやるべきことを再確認してふと上空を見た。姫神司とグレッグ・マーセラスがバッサイーンを導いている姿が視界に入る。
「誘導するなら、この先の広場が安全ですよ」
 声を張り上げると、二人は頷いた。
「うむ、了解した」
 二つの箒が、夜住彩蓮の指した広場へ向かっていく……。
「これで戦場は確保できました。あとは……市民の皆さんが間違えて足を踏みいれないようにするだけですね」
 地図をしまい、再び声を張り上げる。
「空京市民の皆さん、ここから先は危険区域です。速やかに退避して下さい――」