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リアクション
「暴走するロボット……いいでしょう、私が原因を突き止めて改造してやりますよ!」
黒いオーラを纏いながら楽しげに哂うのは島村 幸(しまむら・さち)。眼鏡も不気味に光る。
笑みを浮かべたまま【超感覚】を発動。感覚を研ぎ澄まし、バッサイーンの向かう方向を察知。
「こっちですね」
不敵な笑みを浮かべ、走る。得物を見つけた肉食獣のごとく、バッサイーンに迫る。
飛んでくるミサイルも、炎も、軽々と避けてバッサイーンと並走する。【強化装甲】の効果もあり、擦り傷一つない。
「さあ、調査開始です」
金の瞳をきらりと光らせ、バッサイーンを隅から隅まで観察する。
「特別な金属でできているわけではないようですね。外見上は特に――!」
言いかけた島村幸の眼が瞬かれた。
「あれは……」
観察を続ける島村幸の背後から、軍用バイクがモーター音を響かせ近付いてくる。ハンドルを握るのは、シグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)。
その目前に、白雪が放ったミサイルが迫る。
「おとなしく堕ちるっスよ!」
運転をそのままに、スナイパーライフルを構える。
【超感覚】と【シャープシューター】、【スプレーショット】を連続使用した上での狙撃。たまらずミサイルが砕け、爆発。
上空から破片がばらばらと降り注ぐ。
「その調子で、白雪の妨害を頼む」
バイクの後部で、バッサイーンを睨むのは、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)。シグノー イグゼーベンは深く息をつく。
「まったく、ていおうはいつも無茶なことばっかり言うんスから」
白雪の動向を監視したまま言う。背中から聞こえてくるのは、彼の想定以上に真剣な声音。
「しかし、俺は……お前ができることしか言わないぞ。俺は、俺が信じたお前を信じているからな」
思いがけぬ発言に、シグノー イグゼーベンは一瞬、息を飲んだ。
しかしその顔はすぐに苦笑いに変わる。
「……そういうコトはテープレコーダーのある時に言って欲しいっスね……っ!」
そう言いつつも【破壊工作】【トラッパー】を連続使用して、白雪の猛攻を和らげる。
ペダルを踏み込み、そのままバッサイーンへと近付いていく。
「ていおう!」
「よし!」
ヴァル・ゴライオンはバイクから飛び降り、狂血の黒影爪を着用。効果【隠れ身】でバッサイーンの背後へ回る。
狂気は【セルフモニタリング】でどうにか抑えている。
バッサイーンに最接近したところで【博識】使用。バッサイーンの全てと知識を照らし合わせていく。
「ふむ、これは――」
調査をする二人とは別に、バッサイーンに目を向ける者が一人……。
「その名、手前への挑戦と受け取りました。いざ御覚悟を」
金の瞳が鋭く揺らめき、扇が掲げられる。更に空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)の厳しい視線が、バッサイーンの手元に突き刺さる。
「ちょっと狐樹廊、どうしてバッサイーンなのよ!?」
手をバタバタ動かして問いかけるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に、空京稲荷狐樹廊は暗い瞳で笑った。
「どうしてバッサイーンに拘るか、ですか? ……そうですね、初恋の相手の名が若葉だったとでもお思いください」
「嘘でしょう? そんな、単純な……」
「ええ、もちろん冗談です」
にこりともせずに、パートナーに応じる空京稲荷狐樹廊。
「攻撃することに関しては、本気ですが」
そう言って駆け出した。
「わ、ちょっ……もう、仕方ないわね」
リカイン・フェルマータもため息をつきつつ、バッサイーンを追っていく。
更に、そんな二人を追うように、バイクが走ってきた。
運転手はヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)。背後にアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)を乗せている。
止まったバイクは、乗車している主と同じように黙り込む。
「なっ……」
先に正気を取り戻したのはアレックス・キャッツアイ。開いたままだった口を、閉じて膨らませる。
「ちょっと二人とも、何やってるんスか?! どう見てもそっちよりこっちの方が止めるべきっスよ!」
叫んで白雪を指す。しかし前を行く二人が振り返ることはない。
「……仕方ないっスね……」
全身でため息をついたアレックス・キャッツアイは、白雪を向く。飛んでくるミサイルに狙いを定める。
「それが最善のようですね」
納得したように頷いたヴィゼント・ショートホーンも、トミーガンを構え、乱射されるミサイルを迎撃する。
爆風を受けつつ、彼の意識は背後のパートナーへ向けられる。
「……お譲、自分はともかく弟子の前で無茶はしないでください」
引き金を引きつつ続ける。
「お譲だけならフォローもできやすが、それを受け継がれたら空京がほろびかねません」
そんな忠告を聞いてか聞かずか、前方の二人はバッサイーンとの睨み合いを続けていた。
軍用バイクの脇に、疾走する影が近付いた。
「白雪ちゃんは任せた!」
二振りの刀、初霜と花散里を持ち、土埃を上げて走り続けるバッサイーンを見遣るのは東條カガチ(とうじょう・かがち)。
「みーちゃんは危ないから、下がってなー」
連れていた柳尾 みわ(やなお・みわ)を振り返り、蛇行しつつ導かれていくバッサイーンを追う。
柳尾みわは、やや口を尖らせつつも頷き、バッサイーンに目を向けた。それを確認した東條カガチはバッサイーンに視線を戻す。
「さて、どうしたものかねぇ」
言いつつ、飛んできた白雪のミサイルと、火炎放射機の炎を【超感覚】と【女王の加護】の発動によって巧みに避けていく。
攻撃の間隙を縫い、バッサイーンを攻撃しようと刀を構える……が。
「えぇい、ちょこまかと!」
不規則な蛇行に狙いは定まらない。舌打ちをする東條カガチの傍らで、柳尾みわは銀の眼をぱっちりと開き、視線でバッサイーンを追いかけていた。
「……ねずみみたい……」
ぽつりと言って、視線だけでなく顔ごと動かして追う。そのまま四足ついて身をきゅっと屈めて狙い澄ます。
右、左、斜め左、斜め右……と、動きを読んだ耳が、尾が、ぴんと立つ。
「……みーちゃん!?」
前を行っていた東條カガチがパートナーの異変に気付くが、もう遅い。
低い姿勢から、ぴょーんと大ジャンプをした柳尾みわは、しゅたたたたっ、ぴゅーっと走っていく。
猫がネズミを追うように、軽やかで鋭い走り。しかし、バッサイーンは更に先を行く。両者の距離は、開き縮まりを繰り返す。
「ああもう、動かないで」
銀のウェーブ掛った長い髪を振り、柳尾みわは眼を光らせる。
「いまあたしが捕まえてあげるんだから!」
言い放った彼女は、文字通り一直線にバッサイーンへ向かう。
「みーちゃん、ストップ! ストーップ!!!」
あっさり追い抜かれた東條カガチは、止めるべき対象を一筋の風邪となった柳尾みわへと変え、全力で走りだした。
東條カガチ達の先にも、バッサイーンを追う者がいた。
「とりあえず止めなきゃね。まずはこの糸で――」
椎名 真(しいな・まこと)が【ナラカの蜘蛛糸】を繰り出そうと構える。
その背後から、顔を出した獣人の少年が、ぴょこんと耳を動かし、瞳を眩しいほどに輝かせた。
「あ、バッサイーンだぁあ!!」
お気に入りのおもちゃを発見したような声音と表情を浮かべる彼方 蒼(かなた・そう)。
「やっと見れて良かったね」
感激する彼方蒼に笑いかけ、椎名真は視線をロボットへと戻す。【ナラカの蜘蛛糸】を展開するが、ノコギリに一刀両断された。
「う、仕方ない。こうなれば実力行使か……」
息をつき、小さなロボットに厳しい視線を向ける。
「壊れない程度にいくよ。気合いの……一げ――」
言いかけた時、隣から一筋の風が飛び出した。
「わ、蒼!?」
椎名真の驚きの声を背に、バッサイーンへと駆け出した彼方蒼。その茶色の眼に、銀色の風が映った。
「あ、みわちゃんだっ! おーいっ!」
少年は走りつつ両手を振る。しかし彼女は、振り返ろうとすらしない。
「きこえないのかな?」
首を傾げ、走るスピードを上げる。大きく手を振って再度叫ぶも、顔を背けられるだけ。
「ムシしないでぇー……」
瞳を潤ませて言うが届かない。茶色の耳が、尾が、きゅうんと地面を向く。
「うぅ……バッサイーン止めたら、気付いてくれるかな? やってみよっと」
彼方蒼は納得したように頷いて、更にスピードを上げた。
「蒼!」
「みーちゃん!」
パートナーを追いかける、東條カガチと椎名真。
「バッサイーン、白雪!」
更に起木保の叫び声。追うものと追われる者の連鎖が、奇妙な状況を作り出していた。
一方、広場に程近い木陰……。
ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)とアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが) は茂みに身を寄せ、近付いてくる土埃を見ていた。
二人は【リヒテン・マルゼーク】のメンバーで行う作戦のために、待機しているところだった。
「へへっ、上手くいくといいな」
「上手くやらなければならないだろう。失敗は、空京の破滅を呼ぶ」
ケーニッヒ・ファウストの燃えるような赤い瞳が、街中へ向けられる。
「みんな、こっちよ。戦場にいたら危ないわ!」
空京市民や遊びに来ている一般民に、天津 麻衣(あまつ・まい)が声を掛けて回っている。
と、瓦礫の横で腕を押さえている女性を目にとめた。
「大丈夫? 今、治してあげるわ」
天津麻衣は【ヒール】を唱える。柔らかで温かい光が、負傷した女性の腕を治していく。
その姿に、ケーニッヒ・ファウストは優しく笑った。
「場は間もなく整う。あとは……作戦の決行を待つのみだ」
蛇行するバッサイーンを睨み、ケーニッヒ・ファウスト達は時をただひたすら、待つ……。
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