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グルメなゴブリンを撃退せよ!!

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第三章 決戦


「まさか外壁を壊して進入してくるとはな」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は苦虫を噛み潰したような表情だ。
 既に店内は乱戦の様相を呈していた。
「大丈夫? 今ヒールをかけるからね」
 麻生 優子(あそう・ゆうこ)が負傷した李影 鈴菜(りかげ・れいな)にヒールをかけている。
「っ、クレーメック! 完全にお店を囲まれてますわ」
 声を張り上げて、桐島 麗子(きりしま・れいこ)が状況を報告する。
「ただ食い物を強奪しにきた。と考えるには少し大げさな布陣がしかれているようだ。二人とも、頭を切り替えろ。これは退治なんてもんじゃない、戦場だと思え」
「はい!」
「はい!」

 ゴブリン達は暗くなってから、襲ってくる。
 という情報はかなり前から流れており、そのための対策として照明などを多く取り付け野外も明るくできるようになっていた。
 だから、皆の意識は夜に集中していたし、それだけ昼には気が抜けていた。
 そこを狙われた。外壁の薄いところを吹き飛ばして、そこから一気に進入してきた。
 おかげで、吹き飛ばされた壁周辺にいた人達がまとめて負傷を負い、間髪いれずに小回りの効く機動力を持ったコボルドの部隊が進入してきて、まともに応戦できた人の方が少なかった。
「どうするんじゃ?」
 天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)に問いかける。
 夜の奇襲に備えて、照明の点検をしようと屋根裏部屋に入っている最中に今回の戦闘である。
「まさか、こんなタイミングでくるとは思いませんでした。これじゃあ、照明の防衛は無意味ですね。長期戦をされたら私達の方が不利です。とにかく、幻船は作戦通りに空から全体の監視を、何かあったら私でなくクレーメックにお伝えください」
「ゴットリープは、どうするんじゃ?」
「完全に包囲されてるこの状況では、まだ中の一般のお客さんは脱出できていないでしょう。私には【スウェー】があるので、切り込み役にうってつけです。他の人の面子次第ですが、一般客をここから退避させる方のお手伝いをします」
「了解ですじゃ。くれぐれも、無理をなさらぬように」
「わかってますよ」
 幻船が天窓を開けて、攻撃の当らないであろう高度まで飛び上がっていく。
 それを確認し、ゴットリープも動き出した。


「最初の予定とちと違うが、それでもやる事に変わりはないであろう。いいか、我より前に出ることのないよう。無理して怪我を負われても厄介だ。目指すは一点突破。決して隊列を崩さず、包囲網を食い破りましょうぞ」
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)の号令に、急遽編成された包囲網脱出部隊の面々が「おう!」と答えた。
 店内に残っていた一般の客や、負傷を負ってしまった者を外に出すための作戦は彼の言葉通りに、包囲網の一点を力で突き破るという単純でいて、危険な賭けだった。
 だが、絶対に成功させなくてはいけない賭けである。
 最前線に立つのは、ケーニッヒにアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)、それに合流したゴットリープら【新星】のメンバーが勤め、中央の一般客と負傷者を治療と防衛に萌河坂 ミアル(もえかさか・みある)天津 麻衣(あまつ・まい)を含むヒール所持者が配備されている。
 他に、遊撃担当としてセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人にもこちらに回ってもらっている。
「あー、もっとあのおいしいスペアリブ食べたかったなぁ。カブとソラマメの入ってたの、すっごくおいしかったのに」
 セレンフィリティは不満そうに【アサルトカービン】を構える。
「今はそれどろこじゃないわよ」
「わぁってるよ。でも、正直こっちじゃなくて、囮部隊にいきたかったかも。あっちの方が派手にやっていいんでしょ?」
 この一点突破作戦を成功させるために、もう一つの急造部隊を作りゴブリンの注意を惹きつけるための作戦を行っていた。
 そもそも、なぜこんな危険な作戦を遂行しなければならなくなってしまったのか。それはもちろん、一般の客に被害を出さないようにという意味合いもあったが、それならば中でしっかり守った方が危険は少ない。
 だが、それはあくまでゴブリン混成部隊の目的が食料ならば、という前提があってこそだ。
 今回の攻撃方法や、動きを見る限り彼らの目的は、店舗の中に居る敵の撲滅であるような気がしてならない。というのが、クレーメックの考えだった。彼らは、最初から戦うつもりで相応の準備をして、この状況に持ち込んできたのだ。
 誰か内通者でもいるかのような、ともクレーメックは呟いていた。
 そうであるなら、混成部隊の敵は店内に居る全てである。本来なら食料までの導線から外した場所に一般人を集め、そこを守る形にすればそれなりの効果を発揮できると考えていた。だが、中に居る全てを狙う場合では、彼ら全員を完全に守りきるのは不可能だ。最悪、建物そのものを崩壊させてくる可能性がある。
「うまくいくかなぁ」
 麻衣は不安そうに周囲を見渡した。
 囮部隊が派手に動いて混成部隊の注意を惹きつける間に、一点突破を狙うこの作戦は一瞬の判断ミスが命取りになりかねない。
「大丈夫よ。きっとうまくいく」
 そんな麻衣を励ますのは、同じ治療担当のミアルである。
 部隊には、他にラザフォード・パイパー(らざふぉーど・ぱいぱー)赤崎 瑞穂(あかさき・みずほ)
結城 葵(ゆうき・あおい)などの姿もあった。
「みんな頑張るんだから。だから、私達も頑張ろう、ね」
「そう、だね。うん、頑張ろう」
 それはただの気休めでしかなかったが、不安を共有できればそれだけで少しは気持ちが軽くなる。二人はちょっぴりずつ勇気をわけあった。
「合図がきました」
 少し離れたところで、爆発音。ゴットリープが報告する。
「さぁ、我についてまいれ!」
 先陣を切ってケーニッヒが駆け出す。少しタイミングをずらして、一般の人とそれを囲むように防御陣形を取りながらミアルと麻衣達も駆け出した。


「やれやれ、まさかこんな事になるとは」
 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は周囲を見渡しながら、そう呟いた。
 非戦闘員をまとめて脱出させるための作戦として、丁度その反対側で大きく攻め込む作戦が行われていた。翡翠は最後尾で、銃での援護射撃を行っている。
「本当は、もっと新人さんに経験値でも稼いでもらおうと思ったんですけどね」
 【マシンピストル】のマガジンの入れ替えを先ほどから頻繁に行っているのが、なんとも言えない感じだった。
「主様、いかがいたしますか?」
 山南 桂(やまなみ・けい)がコボルドを打ち倒しながら尋ねる。
「そうですね、桂さんはもっと前に出てください。自分達は囮ですから、できるだけ多くこっちに人員を割かせましょう」
「わかりました。主殿はどうされます?」
「もちろん、前に出ますよ。少し、お灸を据えてさしあげましょうか。いきますよ、美鈴さん」
「はい」
 柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)が元気のいい返事をしたのを確認して、三人は混成部隊によってあけられた穴から前線へと繰り出した。



「うまくいってるみたいね」
「そうね」
 脱出部隊のセレンフィリティとセレアナの二人は戦闘の最中ですら会話をする余裕があった。そもそも、こんな緊急事態になっているのが混成部隊が組織的な戦術を持って今回の戦闘を仕掛けてきたからで、個々の戦闘能力ではこっちの方が上なのだ。
 遊撃担当の二人は、セレンフィリティが銃撃で道を開き、背後をセレアナが守る形で弓持ちや投石をしてくる相手を狙って潰していく。遠距離攻撃持ちを潰すには、セレンフィリティの銃は最も効果的だ。
「っ……ふふふ」
「どうしたの、セレンフィリティ」
 ちらりと視線をセレアナが向けると、どうやら返り血を浴びてしまったらしい。
 そんな状況で笑みを浮かべる姿はどこか恐ろしく、そして妖艶でもあった。
 もちろん、ランスでセレンフィリティに近づく敵を返り討ちにしているセレアナは既に返り血で大変なことになっている。
「……うざったい。けど、今夜のシャワーは気持ちよさそうね」
「ふふ、そうかもね」