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グルメなゴブリンを撃退せよ!!

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グルメなゴブリンを撃退せよ!!

リアクション

「はぁぁぁぁっ」
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)の鋭い一閃によって、コブリンが膝をつく。
 そのゴブリンは、一部隊を率いているリーダーだったのだろう。突然のできごとに周囲のゴブリンとコボルドに動揺が駆け抜けていく。
 その隙をついて、一気に脱出部隊が最後の壁を突き破っていった。
「よし、そのまま走り抜けるんだ!」
 ケーニッヒが号令をあげつつ、自身はそのまま隊列のしんがりへと移動していく。
 同じく後ろに回ったゴッドリープが真一郎に声をかけた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ、お役に立てたらなによりです。それより、まだ俺達には仕事があるようで」
 壁を突破しただけではまだ作戦は成功ではない。ここで、追撃部隊を食い止める必要がある。だが、この先に敵が潜んでいないという確証が無いため割ける人数はそれほど多くない。
「そうですね。お力を借りてもよろしいですか」
「こちらこそ、こんな状況になるまで動けずに申し訳ない」
 真一郎は混成部隊の逃走経路を塞ぐために、店から少し離れた場所に身を潜めていた。
 だが、やってきたあまりの数に動くに動けないでいたのである。数えたわけではないが、コブリンの数はおよそ150体はいるであろう大部隊である。さすがに、そんな大部隊を個人でなんとかしようとするのは自殺行為だ。
 その為、身を隠したまま様子を伺っていると、脱出部隊の様子が目に入ってきた。
 真一郎は彼らの援護をするため、その辺りで指揮を執っているゴブリンに目をつけ背後から一撃で切りつけたのである。
 結果は大成功で、広がった動揺に乗じて脱出部隊は一気に壁を突き抜けることができた。
「さて、第二ラウンドですね」
「ここを守り抜かなければ、無理をさせてしまった一般の人々に顔向けができぬであろう。貴殿等の力、しばしお借りしたい」
「ここからは、俺も派手に動くぞ」
 しんがりを勤めるメンバーには、メティス・ターナー(めてぃす・たーなー)辻 耀介(つじ・ようすけ)などの姿もあった。
 激戦を潜り抜けてきたはずなのに、誰の表情にも疲れは出ていない。むしろ、一つ任務をやり遂げた自信がみなぎっていた。
 その表情のおかげだろうか、ここはより苦しい戦いになるだろうが、不安を全く感じなかった。
 ケーニッヒは、高く【グレートソード】を掲げた。
「いくぞ、突撃!」



「周囲に目を配るのです。今は混戦状態です、前ばかりを向いてしまっては危険なのでございますよ」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は、ランスで周囲の敵を一気になぎ払いながら声を出す。本来なら愛用のバイクにまたがり、最大級の突進力を活かしたいところだが、今からバイクに乗るのはさすがに危険だ。
「ハインリヒ、あちらの作戦は成功したようですわ」
 奮闘するハインリヒに声をかけたのは、クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)だ。
「あちら、とは脱出部隊のほうですね。それはいい情報でございますな」
「ええ、私も【ギャザリングヘクス】を配るのが終わりましたので、こちらに参りましたわ」
 戦闘も半ばを超えてきたのか、包囲戦を仕掛けてきたゴブリンもだんだんとハインリヒ達のいる囮部隊の方へと集まってきていた。戦術として考えるなら、包囲を崩すのは上策ではない。これは混成部隊が相当焦っているという事であり、こんな奇襲を受けたにも関わらず皆が的確に動けたからだろう。
 それに、脱出に成功したという事は増援を呼べるということでもある。あとはとにかく被害を抑えつつ、時間が稼げれば勝利は確定したようなものだ。
「亜衣、あんまり前に出過ぎないようにお願いします」
「わかってるよ!」
 ハインリヒの声に、天津 亜衣(あまつ・あい)は元気に応える。まだまだ余裕はありそうだ。彼女を中心に、葛葉 薫(くすのは・かおる)雪国・淡谷(ゆきぐに・あわや)などが最前線に出て敵の動きを大きく揺さぶっている。
 大規模な範囲攻撃魔法が使えないよう、敵を巻き込む位置を取りつつ連携が取れるぎりぎりの距離を保つ。なんて無茶苦茶な仕事をこなしつつ、周囲の仲間に気を配り疲労が見えたら後退させる。ハインリヒは彼等の後ろに敵が回りこまぬように、周囲を警戒しつつ仲間の前進や後退を守り、いつ分断されてもおかしくない縦長の戦線を維持していた。
 幸い、個々の技量で言えばこちらの方が上だ。実戦経験が少ない者も少なくないが、それを補える落ち着きと観察力を持った【新星】のメンバーが的確な指示を粒さに出していくので無用な混乱などもなく、常識的に考えれば圧倒的に不利なこの状況を大きな被害なく乗り切っていた。
 それに最も貢献したのは、空から戦況を観察していた幻船だろう。
 脱出作戦や、囮部隊の状況把握など、彼が居なかったら不可能だった事は少なくない。武器を持って戦いこそないが、こんかいの戦闘を一手に支えきっている。
「そろそろいいだろう。下がるぞ!」
 クレーメックが号令を出し、前に出ていたメンバー、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)典韋 オ來(てんい・おらい)上杉 菊(うえすぎ・きく)らが少しずつ後退していく。
 包囲網は半壊し、弧を描く形で残っている。店の中を通り抜ければ、反対側から脱出するのは難しくないだろう。
 だが、今回の作戦の目的はこのゴブリンを撲滅して初めて達成する。
 最初の状況では、こちらが生存するのが最も重要だった。
 しかしここまで駒を進めてだいぶ状況が変わってきている。
「幻船、あちらの残存兵力はどれぐらいだ?」
 クレーメックが無線機に問いかける。
「ふむ、もう最初の半分も残っておりませんですじゃ。コボルドの部隊は、勝手に逃げていきおったようですじゃ」
「そうか。数はどれくらいだ、大体でいい」
「およそ、40か50……といったところですじゃ」
「ふむ。最初の三分の一ほど、か。もうとっくに撤退してもいい頃合だが、いい指揮官に恵まれなかったようだな。もっとも、こちらには好都合だ」
「それで、どのようになさるおつもりでございますか、大将?」
 戻ってきたハインリヒがクレーメックに尋ねる。
「もうすぐ日が落ちる。こちらから深追いをするのは危険だ。部隊と共に脱出した梅琳少尉が増援を手配しているはずだ。幸い、とりつけた照明があるからある程度の明かりは期待できる。それでも夜目は奴らの方が効くから過信はできないが、あくまで時間を稼ぐだけなら無理はないだろう。なにせ、冷静さを失っている指揮官だからな」
「なるほど。では、より周囲に警戒しつつも守りを固めればよろしいのですね」
「ああ、ただ魔法には気をつけろ」
「そちらこそ、誤射には気をつけてくださいね」
「わかっているさ。麗子と優子にも散々言われたよ」
「それなら、安心ですね。では、あともう一仕事してまいります」
「よろしく頼む」