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【学校紹介】蒼空学園新入生歓迎会。

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【学校紹介】蒼空学園新入生歓迎会。

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第七章 歓迎会も終わりに近づき。


「スタンプラリー……ねぇ」
 説明を受けて、周りが「楽しそう!」「やってみようよ!」と乗り気になっている中、錦 昂樹(にしき・こうき)はただただ面倒くさそうにあくびをしていた。
 そう、面倒。
 だから、やらなくてもいいのだけれど。
 昂樹はスタンプラリーのカードを受け取った。もっとも、首から下げるなんてダサいことはしなかったけれど。
 そして、軽く準備運動を始めた。屈伸。足の筋を伸ばす。手首足首の関節を回し。
「よしっ」
 一声上げて、走り出す。
 面倒ならば参加しなければいいけれど、学生らしい、普通の学園生活を送るようにと環菜に言われていたから。
 こういうイベントも、きちんとやっておかないと。
 でも、どうせ参加するならば一番がいい。
 一番にゴールして、ゴール地点で悠々と待ってやる。
 だから、走った。

 学校入口で、山葉 涼司がぶっとばされるのを見たり。
 購買で小鳥遊 美羽のミニスカメイド姿を見たり。
 食堂でミミ・マリーからハンバーガーをもらって食べて。
 音楽室で風森 巽に促されるまま決め台詞を叫び。
 美術室に溢れるエヴァルト・マルトリッツの放つ瘴気にも耐え。
 教室で神崎 優から説明を受け。
 最後に通った校長室で、柄にもなく環菜に「誕生日おめでとう」とだけ言い残し。

 一番最初にゴールにたどり着いた。
「なーんだ。わりと呆気ない物なんだな」
 自分で決めたことをこなしたことへの達成感に笑みを浮かべ、その場に座る。
 後続はあとどれくらいで来るのだろうか。来たら、遅かったなとか言ってやろうか。
 悪戯っぽく笑いながら、「疲れたっ」と感想を漏らした。


*...***...*


 そうしてスタンプラリーの完走者が出る一方で。
 園居 瑠那(そのい・るな)は、自分が未だ一つしかスタンプを集めていないことに気がついた。
 と、いうより、今目が覚めた。
「あ、あ、大丈夫ですか?」
 ティエリーティア・シュルツの声にはっと顔を上げる。
「……ええと?」
「僕のクッキーを食べて、すぐに倒れちゃって……」
 混濁気味の意識の海へダイブして、記憶を探る。
「教室から、食堂へ向かって……それで、休憩所でティエリーティア先輩からクッキーをもらって……」
 口に含んだ瞬間、形容しがたい味――簡単な、ありきたりな言葉で言ってしまえばひどく不味い――が口の中に溢れ広がり、頭痛と貧血が同時に起こって眩暈がして、そしてそのまま倒れてしまって。
 時計を見た。
 スタンプラリーが始まって、もう数時間と経過していた。完走する生徒も出ていることだろう。自分はこんなに出遅れているのに!
「わぁっ、どうしようっ……!」
 うろたえていると、
「おい、どうした?」
 学園内を巡回していた鈴木 周(すずき・しゅう)に声をかけられた。
「あ、あの、自分、スタンプラリー参加者なのですが……っ」
「迷ったのか? おっしゃ、案内してやるぜぇ!」
「きゃあぁぁあ!!?」
 案内、と言いながら周は瑠那のスカートをめくろうとする。ぎりぎり、そう、ぎりぎり見えないところで阻止できたが、危なかった。見えるところだった。
「な、何するんですか先輩!?」
「え、スカートめくるのは男として当然の礼儀だろ?
 ん? どーしたんだよ。先輩だからって緊張しなくていいぜ?」
 周は、瑠那が震えた声を出している理由が緊張によるものだと思い込んでいるらしい。
 違うっ! 自分の行動を振り返ってください!
 ……と言いたいところだけれど、我慢する。一人でスタンプラリーを攻略できる気は、しなかった。
「ここからだと、まずは食堂だな。ほらついてこい」
「は、はい……」
 伸ばされた手を掴むか掴むまいか、一瞬悩む間に、
「きゃっ!」
 凍っていた床に足を取られて、転びかけ――
「なーにやってんだよ? 何もないところで転ぶなよドジだなぁ」
 周に、助けられた。腕を掴んで引っ張られ、顔面床ダイブはまぬがれる。
 ドジじゃないのに、床が凍っていたのに、と思いつつ、「ありがとうございます……」礼を言っておく。
「でも、いつまでも抱き抱えなくても……。あと、手も繋がなくて大丈夫です」
「嫌そうなフリして遠慮なんかすんなよ、水臭ぇぞ。ほら、行くぜー!」
 しっかり手を握ったまま、先導されていく。
 悪い人ではない、と思うけど。
 あまりにもウェットな人だから、ちょっと戸惑う。
 

 食堂での説明を受け、学校入口に向かう途中で。
 瑠那と周は、ずるずると滑るワックスだらけの床に困り果ててしまっていた。
「まっ、清掃のおばちゃんが間違ってワックスこぼしちまったんだろうよ。気にせず行くぜぇー!」
「え、っ、きゃあぁぁあ!」
 周は瑠那を抱きかかえ、走る。滑る床を、わざわざ走る!
 思わず悲鳴を上げるも、なんと周は転ばない。足を取られる様子もない。
「女の子を抱いている俺は強いぜえぇぇ!」
 しかし謎の言葉を発するこの先輩が、怖い!
「せせせ先輩、もっとゆっくり行きましょう!? ワックスがっ!!」
「大丈夫だって! オラオラ行くぜえぇー!!」
 と、調子に乗るものだから。
 ずるんっ!!
 派手に滑って、
「ぅだあっ!!」
 転んで、
 ガンッ!!
 廊下に頭を強打した。
 しかし、女の子好きとしての周の意地だろうか。瑠那はワックス地帯を抜けたところに放られ、多少お尻に衝撃は受けたものの怪我はない。
「せ、先輩〜っ……」
 周は廊下のど真ん中で大の字になったまま動かない。
 その時、
「あらぁ〜? 怪我しちゃったんですかぁ? う〜ん、今日は多いですねぇ〜」
 のんびりとした口調が聞こえ顔を上げる。そこには藍乃 澪が立っていた。
 澪は、ワックス床に構うことなく周に近付き、
「フローラぁ、この子運ぶの手伝ってくださぁ〜い」
 フローラ・スウィーニーに声をかけ、周を抱えて戻ってくる。
「あ、新入生さんですねぇ? はじめまして、先生は藍乃 澪って言います〜。保健の先生ですからねぇ、困った時にはいつでもいらっしゃいねぇ〜?」
「は、はい。あの、その、悪い人じゃないけど、ちょっとおバカでHな先輩は……?」
「う〜ん、頭打ってるけど、きっと大丈夫〜。先生が責任もって治しちゃうからね〜♪」
 だから、スタンプラリーを続けておいで、と微笑まれて。
 瑠那は、澪とフローラに一礼し、廊下を早足で歩いていく。


 学校入口で説明を受け、スタンプを捺してもらった。
 が、また迷ってしまったらしい。
 校内に入ることもままならず、うろうろとしていると、
「ルミナスホープ、貴女達と守った花壇は今日も綺麗よ」
 人の声が聞こえた。
 不安と希望を胸に、声の主を探し求めると、花壇の手入れをしているアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)と目が合った。
「あら、新入生さん? ここにスタンプはありませんよ」
「えっと……迷ってしまったみたいで……」
「そう。校舎行くには、この道を真っ直ぐ行って、左に曲がればいいわよ」
 道は、分かった。「ありがとうございます」と礼を言って頷いて。
 歩いて行こうと思ったけれど、視界に飛び込んできた花壇に目を奪われて足を止めた。
「花壇、気になる?」
「はい。花が綺麗だなぁって……」
「そう。……じゃあ、先輩から少しお話させてもらってもいいかな?」
 こくん、と頷いた。先輩の、先達者の話しならなんでも聞きたいと思う。
「ここはかつては不毛の土地と言われて、草花が芽生えない場所でした。
 でも、数多の生徒の行動が、想いが重なり連なり、それこそ学園崩壊寸前の冒険を経て、たどり着いた結果のひとつが、この綺麗な花達です」
 信じられなかった。
 色とりどりの草花。青々とした木々の緑。
 不毛の土地? ここが?
 目を開いて、辺りを見回していると、「興味あります?」アリアが訊いた。
「一連の騒動は纏められていますから、興味があれば校長室へ行かれると良いですよ」
「はい。一度……その出来事を見てみます」
 そう言うと、アリアはふっと微笑んだ。
「貴方とお話ができて良かった。
 ようこそ蒼空学園へ。貴方の学園生活に、希望の光が満ちていますように」


 アリアの案内で、無事校内に戻ってきた。
 しかし相変わらず迷子である。
 うろうろとしていると、
「どうした?」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)に話しかけられた。
 ああ、また先輩の手をわずらわせることに……と申し訳なさで身体を小さくしながら、
「迷ってしまいまして……」
 消えそうな声で、言う。
「そうか。どこへ行きたい?」
「音楽室に行こうと思っています。でも、もうここがどこかもわからないし、音楽室の次は購買へ行って美術室へ行って……って、予定だけはきっちり立ててあるのに、道が……」
 言いながら、どれだけ自分は道をわかっていないのか、と不安と不甲斐なさが混じり合い、声が震えてきた。思わず瑠那は俯く。
 そうしていると、頭にぽん、と温もり。顔を上げると、恭司が瑠那の頭を撫でていた。
「……え、あ? 先輩?」
「誰でも最初は迷うし、不安だ。キミだけじゃない、気にするな」
「…………」
「俺だって、ここに来た時はよく地図と睨めっこしていたぞ? 無駄に広いんだ、この学校は。迷子なんて続出モノだしな。
 今日は一日仕事もないし、散歩を兼ねて見回りをしていたところだ。キミが嫌でなければ道案内をしよう。
 だから、そんな暗い顔をするんじゃない。せっかくの門出だ、笑っていこう」
 恭司の優しい言葉に、不安でガチガチだった心が暖かくなった。
「……はいっ!」
 だから、心から笑えた。


 結局、瑠那はスタンプラリーを全校生徒の中で一番最後にゴールして。
 あまりの遅さに、初対面であるはずの加能 シズルレティーシア・クロカスも心配させ。
 それでもなんとか、完走したのだった。


*...***...*


 完走のみを、まるでタイムアタックのように、目指す新入生が居た。
 友達なんていらないと思っていたけれど、一人で回るうちに友達が居てもいいかなと思う新入生が居た。
 友達を欲した新入生が居た。
 変な先輩が居た。
 頼れる先輩が居た。
 愛ゆえの鞭を繰り出す先輩が居た。
 その洗礼を受けて立った新入生が居た。
 校長の誕生日を祝った生徒が居た。

 これからの蒼空学園での生活を、楽しみにする生徒が、たくさん居た。



担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいははじめまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 このたび蒼空学園の学校紹介シナリオを担当させていただきましたー。
 百合園でばっかりマスタリングしていたので、うっかり自分が蒼空学園担当で登録していたことを忘れていましたヨ。やだうっかりさん。
 さてさて今回。新入生歓迎会ということと、学校を見て回る新入生が少なかったことがあり、新入生PC様の出番が多めです。ご了承くださいませ。
 しかし、そのせいで他のPC様の描写が少なくなったりはしていませんのでご安心を! 灰島はいつも通りです。

 新入生さんは見て回り。
 在校生も、見て回り。
 迷子の面倒をみる先輩や、場所の説明をしてあげる先輩。
 また、新たなチェックポイントを作りだす方や、罠を仕掛けちゃう生徒様まで居て。
 おいおいすげーことになってますわね? と灰島勝手にニヨニヨしておりました。
 広げた風呂敷はちゃんと畳んだつもりですが、皆様に満足いただけるリアクションになっていますでしょうか?

 今回ご参加くださいました皆様。
 面白素敵アクションをくださった皆様。
 皆様のおかげで、このような形に物語をまとめることができました。
 私信をくださった方、ありがとうございます。毎度毎度、灰島心の栄養源です。
 みんな大好きです。
 是非またお会いいたしたいです。こっちの片想い万歳ですがっ!

 それではそれでは、最後まで読んでいただきましてありがとうございました!