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【学校紹介】少年は空京を目指す

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【学校紹介】少年は空京を目指す

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 食堂の少し離れた位置では、星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)、そしてアリサとサクラが一つのテーブルを囲んでいた。
 どこか緊張した様子の凛へ、アリサはぺこりと頭を下げる。
「誘いに感謝する。丁度、空腹を感じていた」
 食堂でランチをしていた凛がアリサを見付け、智宏の言葉に勇気を貰って声を掛けたのが、この場の始まりだった。
 凛はやや身を乗り出すようにして、アリサへ問い掛ける。
「そ、その帽子、可愛いね」
「そうか? ありがとう、そう言われるとやはり嬉しいものだな」
 アリサも笑みを浮かべて答え、そんな二人の様子を、智宏は微笑みながら眺めていた。
 そんな彼へ、サクラがそっと話しかける。
「凛、嬉しそうね」
「ああ。ずっとあの子と話したかったみたいなんだ」
 優しげに頷く智宏に、サクラはくすっと笑って言葉を続ける。
「あなたも、嬉しそうよ」
「凛にはたくさん友達をつくってほしいと思っているんだ」
 保護者のような智宏の穏やかな言葉に、サクラもまた頷いた。
 気付けば自分の分の料理を片付けた凛とアリサも、大分打ち解けてきたようだ。
「今日はこの後、訓練ですか?」
「いや、今日は休みなんだ。サクラと一緒に……その、人探しをしていてな」
 歓談を交わしていたアリサは、そこで少し言い淀む。
 恋人の後をこっそり追い駆ける手伝いをしているというのは、さすがにはっきりと告げられるような内容ではなかった。
「? そうでしたか、あの、頑張って下さい」
 きょとんと目を丸めた凛は、疑問気ながらもアリサとサクラの二人を見て言った。
「ありがとう。そろそろ行きましょうか、アリサ」
「そうだな。凛、また話そう」
「はい、楽しみにしてます」
 笑顔で見送る凛と智宏を残し、アリサとサクラは食堂を後にした。
 残された凛は、ふーっと深く息を吐き出し、嬉しそうに智宏を向く。
「き、緊張したけど、とっても楽しかったです」
「うん、君が楽しそうで俺も嬉しかったよ。じゃあ、俺たちも行こうか」
 そう言って立ち上がる智宏に続いて、凛もまた機嫌良く席を立った。


 ◆◆◆


「イコン&機晶姫研究部だ! 君達! 一緒にイコンや機晶姫について語り合わないか!!」
 教室の中央で、月夜見 望(つきよみ・のぞむ)は声を上げた。
 部活を立ち上げたは良いものの、なかなか部員を捕まえることが出来ずにいる。焦ったように生徒の姿を探す望は、ちらりとパートナーの天原 神無(あまはら・かんな)の横顔を窺った。
「イコン&機晶姫研究部です! 皆さん! 一緒にイコンや機晶姫について語り合いませんか!!」
 彼女に手伝いを要請している以上、成果が上がらなければ何をされるかわからない。
 そんな恐れを抱きつつ、必死に声掛けを続ける望に、不意に一人の女性が歩み寄った。
「君、入部希望か!?」
 途端に表情を輝かせる望に、オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は緩く首を横に振った。肩を落とす望へ、丁寧に一礼をする。
「通信部部長のオリガと申します。今日、通信部でボトルメールをやりますの」
「ボトルメール?」
 神無も、ひょっこりと顔を覗かせる。
「ええ。折角ですから、お二人も一通書いて頂けませんか?」
 笑顔のオリガに、戸惑う二人は顔を見合わせた。
 やがて神無が、ゆっくりと頷いてオリガの手を取る。
「うん、あたしたちもぜひやってみたいな」
(勧誘の時間が減って、人を集められなければ、それを理由に……ふふ♪)
 企むような笑みを浮かべた神無を怪訝と見てから、望も同意を示すように頷いた。
「では、こちらに……わたくしも一通、書いてみますわ」
 二人へ紙を渡したオリガは、さらさらと紙上へ筆先を滑らせる。

『海の向こうの貴方へ
 はじめまして、天御柱学院のオリガと申します。
 届いていますか?
 今日、楽しいことがありますように
 今日、悲しいことがあれば立ち直れますように
 悲しみは海ではありませんから、いつの日か飲み干せますわ』

「なんて書こうかな、望くんはもう書いた?」
「ああ。ほら」
 そう言って望の見せた手紙には、イコンや機晶姫に対する熱い思いがつらつらと書き連ねられていた。
 文通相手募集!の文字で締めくくられたそれを、神無は不満そうに眺めている。
(こうなったら、さっきの理由で逆夜這いをして、望くんの胸を揉み揉みしてやるんだから)
 暗い決意を固めた神無もまた望への愛をふんだんに込めた手紙を書き終え、オリガへと渡した。
「では、海に投げ込みますわね」
 オリガはそれぞれの手紙を瓶に詰めると、窓を開け、海へと投げ込んだ。
 流れていくボトルメールを満足げに見送り、綺麗に一礼する。
「ありがとうございました。これからも通信部をよろしくお願いしますわ」
 その言葉に、望ははっと勧誘のことを思い出す。
 慌てた様子で声を上げ始める望を、神無の赤い瞳がじっと見守っていた。


 ◆◆◆


「……くそっ! またダメか!」
 教室に設置されたシュミレーターを降り、榊 孝明(さかき・たかあき)は悔しげに声を荒げた。
 休日であるにも関わらず、孝明は朝から訓練に明け暮れていた。そんな彼を、パートナーの益田 椿(ますだ・つばき)はどこか不安げに見詰めている。
「少し休まない? あんまり根を詰め過ぎても、いい結果は出ないよ」
「……なかなか、思うようにはいかないな」
 溜息を吐き出した孝明は、シュミレーターに背をもたれさせた。
(強化人間は危険だ……俺は、上を目指す。強化改造を止めさせるために!)
 拳を握り、すぐにシュミレーターへ戻ろうとする孝明を、椿の手が引き留めた。
「結局、一人で訓練したって無駄なんじゃないの? あんたの腕なんて、そんなすぐには上がんないよ」
「…………」
「それより、この前うまく行った感じで他の奴らと協力すれば良いじゃない」
 授業中の訓練で、かつてない程にうまく戦闘が運んだことがあった。
 連携訓練の時のことだ。ペアを組んだ相手と丁度波長が合ったのか、互いの実力を最大限に引き出すことができた。孝明の脳裏に、その時の光景、達成感が蘇る。
「やはり、今必要なのは個人のイコン操縦技術よりも、お互いの連携や戦術を立てられる人間か……」
「そうそう、一人より二人、二人より四人って言うしね」
 そう答えたのは、椿ではなかった。
 咄嗟に視線を向けた孝明の目に、少女を連れた眼鏡の青年が姿を現す。
「誰だ?」
「俺は星渡智宏、この子は時禰凜」
 智宏の紹介に、凛もまたぺこりと頭を下げる。
 食堂を後にした二人は、たまたま教室の前を通りがかり、孝明たちの会話を耳に入れたのだった。
「折角だ、俺たちと一緒に訓練してみないか? 何か見付かるものがあると思うよ」
「! ああ、頼む」
 願ってもいない申し出に、孝明はすぐに頷く。
 実直な使命に燃えた彼の瞳に、椿もどこか安心したように笑った。
「あたしは椿、こっちは孝明。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「さて、そうと決まれば始めようか。時間が惜しいんだろ?」
 微笑む智宏の問いに孝明が頷き、四人は一斉にシュミレーターへと乗り込んだ。


 ◆◆◆


「あーあーっ、なかなか釣れねぇなあ!」
 拗ねたように声を上げながら歩く聡に、翔は呆れたように溜息を吐いた。
 ナンパ組一行はすっかり打ち解け、わいわいと騒ぎながら廊下を進んでいく。すると、不意に細身の女性が飛び出してきた。
「そこのあなた!」
「ん?」
 びしっと勢いよく指差す女性に、さしもの翔も驚きを隠せず足を止める。
「そう、そこのボサっとした顔のあなたですわ!」
「俺に何か用か?」
 ナンパ組一行は、ざわざわとざわめき立っている。ナンパをしていたら可愛い女子の方から、それも一番乗り気でない翔に声が掛かったというのだから、聡を始めとした彼らが騒ぐのも仕方なかった。
 しかし、女性の方は逆ナンという様子でもなかった。勝気な笑みを湛え、真っ直ぐに翔を見据えている。
「あたくしは、ヴィヴィアン・アンダーウッド(う゛ぃう゛ぃあん・あんだーうっど)。あなた、有能なんて最近持て囃されていらっしゃるようですけど……あたくしから見た、ら全然生温い紅茶と同じレベルね!」
「はあ……」
 困ったように後頭部を掻く翔とは裏腹に、ひとまず言いたいことを言ったヴィヴィアンは満足げな笑みを浮かべる。
「覚えておきなさい。あなたの功績程度、すぐにこのヴィヴィアンが抜かして差し上げますわ」
「ちょっと待てよ。折角だから、翔の友人の俺と対策会議がてらお茶なんてどうだ?」
 そう宣言して背を向けたヴィヴィアンはどうやら翔の恋人ではないらしいと判断し、和泉 直哉(いずみ・なおや)は反射的に彼女を呼び止めた。しかし、ヴィヴィアンは振り向きもせずにつんと鼻先を逸らす。
「お断りですわ。あたくし、こう見えて忙し……あら?」
 言い放って歩き出そうとしたヴィヴィアンは、そこでぴたりと足を止めた。きょろきょろと、不思議そうに辺りを見回す。
「こちら、どこなんでしょう? あたくし、食堂に行きたいのですが」
「……送ってくよ。ヴィヴィアンって言ったっけ、一人じゃ行けねーだろ」
 肩を竦めながら提案する直哉に、ヴィヴィアンはきっと眉を吊り上げる。
「べ、別にあたくし、送ってくれなんて頼んでおりませんわよ!?」
「はいはい。じゃ、俺こいつ送ってくるわ。じゃあな」
 そう言って歩き出す直哉の背を、一同は呆然と見送る。
 それはヴィヴィアンも同じだった。ぽかんと暫く眺めていたと思うと、慌てて彼の後を追う。
「ま、待ちなさい! この借りはすぐにでも倍にしてお返ししますわ!」
「無事に食堂に着いたらな。ほら、はぐれんじゃねーぞ」
 喚くヴィヴィアンを上手くいなしながら歩いていく直哉の背中をしばらく見送り、一行は誰ともなく深い溜息を吐きだした。聡はと言えば、ふるふると肩を震わせている。
「だー! ちっくしょー! おら、さっさと行くぞ野郎ども!」
 先を越された聡はやけになったように叫び、一行を引き連れてずかずかと歩いていく。
 その最後尾について、翔はやれやれと肩を竦めた。