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【学校紹介】少年は空京を目指す

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【学校紹介】少年は空京を目指す

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 天津 のどか(あまつ・のどか)は、ふらふらとあてどなく空京を彷徨っていた。
(うーん、なかなかいませんね……)
 歩き回る彼女に、目的地は無い。
 彼女の目的はただ一つ。ナンパされること、それだけだった。
「お嬢ちゃん、迷子かい?」
 そうとは知らず、ふと通り掛かったウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)は優しく彼女の肩へ手を乗せつつ問い掛ける。
 途端にのどかの目が獲物を見付けたかのように光ったのを見たのは、ウォーレンの後方でこっそり様子を窺う水城 綾(みずき・あや)だけだった。
「ええ、服を買いに来たんですけど、場所がわからなくて……」
 力無く眉を下げたのどかに、ウォーレンは優しく微笑んだ。
「案内してあげるよ」
「あ、ありがとうございます!」
 ウォーレンの申し出に、のどかは大袈裟なまでに表情を輝かせると、艶めかしい手つきで彼の手を取った。
 慣れた様子で手を握り返すウォーレンと、並んで歩き出す。
「きゃっ」
 唐突に、のどかはふらりとウォーレンへ倒れ込んだ。
「おっと、大丈夫かい?」
 咄嗟に受け止めるウォーレンの視界に、短いスカートから覗くのどかの生足が飛び込む。
「す、すみません……」
「い、いや」
 慌てたように視線をそらすウォーレンに、のどかは申し訳なさそうに謝罪を零した。
 そうして再び、二人+一人は歩き出す。しばらく歩いた先で、またもさも偶然であるかのように、のどかはバランスを崩す。
「……!」
 反射的にウォーレンの伸ばした手は、のどかの調整により、丁度彼女の乳を捉えた。
 特有の柔らかな弾力感が、ウォーレンの掌へと襲い掛かる。
「ご。ごめんなさい! 私、その……」
「い、いや、ごちそうさま。行こうか」
 結局終始その調子で進んでいく二人を止めることもせず、綾は少し離れた位置から見守り続けたのだった。


 ◆◆◆


 山のように荷物を抱え込んだリュート・エルフォンス(りゅーと・えるふぉんす)は、困っていた。
 パートナーのおつかいでお菓子を買いに来たはいいものの、到底一人で持ち帰ることの出来るような量ではなかったのだ。
「はぁ。もう無理。ちょっとそこの喫茶店で休憩だよ……」
 ふらふらと覚束ない足取りで一件の喫茶店へ向かったリュートは、その入り口付近にどっかりと荷物を下ろした。疲れたように、深々と溜息を吐きだす。
「まったく。ちょっとは量考えて欲しいなぁ……もう。このままじゃ持って帰れそうに無いし……そうだ! 天学の制服着てる人に話しかけて手伝ってもらおう!」
 名案とばかりにぱっと顔を上げたリュートは、きょろきょろと辺りを見回した。
 そこに、丁度喫茶店へと向かってくるアンジェラ・アーベントロート(あんじぇら・あーべんとろーと)の姿が映る。
「ねぇ、ちょっと困ってるんだけど、手伝ってくれないかなあ」
 リュートはすかさずアンジェラへ歩み寄ると、両手を合わせてお願いのポーズをした。
 アンジェラはぱちぱちと目を瞬かせてから、きょとんと首を傾げる。
「お手伝い、ですか?」
「そうそう。お詫びにここで何か奢るからさ、お願い!」
 頭を下げるリュートと喫茶店を見比べ、アンジェラはふわりと笑った。
「構いませんわ。丁度、喫茶店を探しておりましたの」
「それは良かった。買い物に来たんだけど、一人じゃ持ち切れなくなっちゃってさ。まあ、まずは入ってから話そうか」
「ええ、そうしましょう」
 意図せずナンパ紛いのことに成功したリュートは、荷物を抱え直すと、アンジェラを伴い喫茶店へ入って行った。


 ◆◆◆


「さて……気に入ったものが見付かるといいのですが」
 神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は、アクセサリー店のピアスコーナーを眺めていた。色とりどりの輝きを宿したピアスが並び、紫翠は一つ一つ丁寧に見比べていく。
 そんな紫翠の耳元では、紫色をした滴型のピアスが揺れていた。それを見咎めたパートナーのシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)は、怪訝と双眸を細めて問い掛ける。
「そう言えば、いつもピアスしてるよな。何か理由があるのか?」
「理由ですか? いつもしているので、無いとかえって落ち着かなくなってしまったんですよ」
 苦笑交じりに紫翠が答えると、「そうか」と納得したように零して、シェイドは早足に店外へと出て行った。アクセサリー店がどうにも気恥ずかしかったらしい彼の後姿を、紫翠は不思議そうに見送る。
 そんな彼と入れ替わりで、長身の超 黒閃(ちょう・こくせん)が店内へと現れた。真っ直ぐに紫翠へ歩み寄った彼は、その隣に並ぶと、低く問い掛ける。
「ピアスを選んでいるのか……」
「ええ。どうかしましたか?」
「いや……時間があるなら食事でもどうか、と」
 言葉少なに誘いを掛ける黒閃の言葉の意味に、紫翠は一歩遅れて気付いた。
 ひくり、と浮かべた笑顔を引き攣らせ、穏やかな声音を辛うじて保ち答える。
「あの……これでも、男なんですけど」
「!? そうだったのか……すまない」
 驚き頭を下げる黒閃に、紫翠は慣れた様子で首を振る。
「いえいえ。それより折角ですからお食事、行きますか?」
「ああ……そうだな」
 肩を竦めて薄く笑った黒閃は、紫翠の提案に頷いた。
「じゃあこれ、買ってきますね」
 紫翠が金の十字架のピアスを買い、二人で揃って店外へ出る。
 パートナーの隣に立つ謎の男の姿に、シェイドは疑問気に首を傾げた。
「何かあったのか?」
「一緒に食事に行くことになりました。行きましょう」
「? ああ」
「……俺は超黒閃。よろしくな」
「オレはシェイド・ヴェルダだ、よろしく頼むぜ」
「二人とも、お店見つかりましたよ。あそこで良いですか?」
 こうして、奇妙な三人組はレストランへと向かって行った。