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リアクション
1章 山門にて
『……空京のかいはつよていちにある山を、「魔の山」といいました。
昼まはみえず、夜になるとあらわれるという、ふしぎな山です。
山のいり口には、赤ちゃけた大きな門がありました。
りっぱなつくりで、京都のお寺にもまけないものです。
【お宝】のもとへいくには、ここをとおり抜けなければなりません。
門をはいるとしばらく広い道がつづきます。
そのあとには旅人たちをまよわせる山道があります。
しばらくあるくと山頂があり、山寺へといたります。
けれど旅人たちの多くは【お宝】を目にすることはありませんでした。
なぜならば、「魔の山」はおびただしい「まもの」たちのすみかだったからです……」
〜パラミタに伝わる民話・「魔の山」より〜』
■
「……で。ここには『見張り役』の達の魔物がいる、っていう話なのよね」
木々の間から闇を纏って、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)は山門を眺めていた。
そこには南禅寺を模した様な赤茶けた山門があり、上部に「空京外山寺」の額がある。
「『空京外山寺』ですか……いかにも、って感じですね」
「ていうか、ネーミングセンス、悪っ!」
ふわあっ、と欠伸まじりに応えたのは、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)。
傍らから、橘 舞(たちばな・まい)が覗きこむ。
「眠いの?」
「『偽蜘蛛作り』でね」
背後を見る。
月光を受けて、あとは膨らませるばかりとなった大きな「蜘蛛の人形」の姿が浮かび上がる。
「趣味悪っ!」
「いたずらも、大事な『冒険のスパイス』なのよ、舞」
「どうやって、運ぶつもりです?」
千代に止めるつもりはないようだ。
山門を見上げている子供達の数を、こっそりと点呼する。
「このまま道に沿って、隠れながら移動するわ。あと王ちゃん……じゃなくて、リーダー達には内緒よ」
「了解。けれど定時連絡だけは欠かさないで下さいね。でないと、敵と間違われてしまいますから」
「はいはい! 行くわよ! 舞」
ブリジットは舞を伴って、闇に消えて行った。
残された千代は、【殺気看破】と【超感覚】を駆使して、子供達の安全を守り続ける。面差しはすでに「母」のものだ。
その目が、ふと夜空に向けられる。
「いやな星! 監視されているみたいですね……」
□山門付近
その頃――。
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は黒ずくめの服装で山門付近を歩いていた。
「【光条兵器】でも取り出しますか!」
両手に光るガントレットを装着。
子供達の行く手を照らしていく。
「これで、泣きだす子もいなくなるでしょう」
黒ずくめの服装のせいか?
大きなホタルが、フワフワと飛んでいるような錯覚を与えたようだ。
喜んで、唯斗の後をついてくる。
「【蛍の光で道案内】と洒落込みます!」
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が覗きこむ。
「誰から聞いたのだ?」」
「道のこと? シー・イーからですよ」
「シー・イー? 王でなくてか?」
「はい。空大に入ったからって、王ちゃん。やっぱり賢くなった訳でもなかったのですね……」
はははっ、と笑う。
あっ! と短い声。
「あぶない!」
エクスが小さく声を上げて、子供達に近づいた。
小さな子供が、ふえっと泣き出さんばかりに膝を抱えてうずくまっている。
「ほたるぅ、ほたるさん、どこ?」
「やれやれ、わらわ達のせいで転ばれても困るのだがのう」
エクスは苦笑しつつ、闇の中そっと手をかざす。
ヒール。
ふええっ、と鳴き始めていた子供は、膝をさすって首を傾げる。
「あれれ? 怪我、治っちゃった?」
「気のせいだよ! 行こう!」
他の子供達に手を引かれて、子供は元気に隊列に戻っていくのであった。
エクスらの傍を通り過ぎて、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は飛行状態で隊列を追いかけて行く。
「上は9歳から下は5歳、といったところですか……。
はぐれたらおしまいですかね?」
言った傍から。
とててて……。
子供の1人が、道のわきにそれて行く。
「わわっ! 駄目です! そっち行っちゃ!」
両脇から抱え込んで、隊列に戻す。
と、別の子供達が遅れはじめる。
「だから、駄目ですってば! もう!」
首根っこを持ち上げて、一行に戻してゆく。
「あれれ?」
「どうして、もどっちゃったかな?」
子供達は首を傾げるが、深くは考えない。
こうしてエクスと睡蓮の働きによって、子供達は元気に山道を歩いて行くのだった。
「ありがとう! エクス! 睡蓮!」
唯斗はパートナー達に礼を言うと、隊列に目を戻すのであった。
「うん、これで【光条兵器】が威力を失うまでは、大丈夫でしょう。
威力を失ったら? その時は、仲間に任せてしまえばいいですよね?」
皇 聖歌(すめらぎ・せいか)と春日 将人(かすが・まさと)、彼のパートナーの衛宮 睡蓮(えみや・すいれん)は、子供達に先行して山を徘徊していた。
将人は片手に地図、片手に【光条兵器】「アマノフツツキノツルギ」を携帯している。
「とはいえ、ここは暗いし。3人きりで来たのは無謀すぎたかなあ?」
「そんなことないと思いますけど?」
聖歌は飄々として、分かれ道の一方に白骨を置く。
「はい、これで『こっちには行くな!』の印。イッチョ出来上がりだね!」
満足そうに、足下を眺める。
「聖歌さん、これ、白骨よね?」
「ううん、置物だよ」
聖歌はかかとで踏みつけた。
ゴムでできたそれは、しなやかに曲がる。
「良く出来ているけどね」
にっこり。
対象的に、質問した睡蓮はぞぞっと背筋を震わせ、置物から目をそらした。
「キミはこういうの駄目なの?」
「ええ! 全然っ!」
睡蓮は両目を瞑り、将人の裾をギュッと掴む。
そのまま放さない。
やれやれ、と将人は頭をかきつつ、携帯電話で大鋸と連絡を取るのだった。
「あー、山門ブロック・A−2ポイントだが。異常なし。B−1へ移動する」
「了解だぜぇ。魔物と鏖殺寺院に気をつけろよ!」
大鋸の気遣う声が、携帯電話を通して流れてくる。
「こちらも了解! あ、あとSP余ってたら、【光条兵器】持ちの奴でも貸してくれると助かる」
唯斗の声が流れてくる。
「まだ少し持つと思うけど」
「分かった、もう少し先を見てから、そちらへ合流する!」
「そうしてくれると、助かる」
定時連絡終了。
生温かい風が流れた。
ふわわっ、と木の葉が睡蓮の頬を掠める。
「きゃああ……っ!」
「……っと!」
将人は慌てて、睡蓮の口を両手でふさいだ。
「こんなところで大声出してくれんなよぉっ! 子供達に聞かれちまう」
こけっ。
勢い余って、そのまま転倒。
睡蓮を抱きすくめたままの格好で、道の脇へ転がって行く。
(いやああああ、離さないでね? 怖すぎだわっ!)
もがががっともがきつつ、睡蓮は将人の腕の中で非難の声を上げる。
なに2人でイチャつてんだか…….。
偽白骨を仕掛け続ける聖歌から、しかして羨望の目を向けられる2人なのであった。
エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)は、自己の能力を駆使して、体を張って貢献する道を選んだ。
「獣人化して、ヤギに変身するよ!」
おっきなヤギに変身!
「怪我をしたふりでもしましょうかね?
おっと! その前に。銃型HCは隠さないと!」
さささっ。
深い巻き毛の中に隠して、子供達に近づく。
めえええええっ。
ヤギの鳴き声に、子供達は足を止めて振り返る。
「あれ? やぎさんだよ?」
「ばっかだなあ! まものにきまってんだろ!」
ぽかっ!
りーだーが思い切りエメリヤンの頭を殴る。
けれど、そこは子供の力なので問題ない。
だが――。
(……うむ。ここは、一旦やられたふりをした方がよさそうだね!)
めえええっ!
弱々しい声を上げて、エメリヤンはどうっと倒れた。
「あれれ? このまもの弱いぞ?」
「あれれ? やぎさん、足引きずっているよ?」
エメリヤンは思いっきり足抱え込んで、右後足の鎖をアピールする。
「くさり、とったはいいけど」
「けがしているみたいだね?」
「でも、びょういんはとおいしなぁ……」
「でも、おいていくのもかわいそうだよ? つれていくしかないかなぁ」
いったい、何でこんな魔の巣窟に家畜がいるのか?
子供達は全く疑問に思わないらしい。
ともかく、子供達の「無知さ」のお陰で、エメリヤンはまんまと一行の中に位置を獲得することに成功した。
だが、一行に紛れ込んだのはエメリヤンばかりではない。
緋王 輝夜(ひおう・かぐや)、日比谷 皐月(ひびや・さつき)の両名も、能力を生かして子供達に近づく。
「【ちぎのたくらみ】じゃん!」
輝夜は皐月のスキルに舌を巻く。
「別に、スキルを使うことばかりが能じゃない
おまえみたいになにもなければ、それにこしたことはない」
「あたしはどーせ、まだ子供だからね!」
輝夜の外見は中学生ほどだ。
「大きいお姉さん」としてなら、十分に一行に加わることが出来る。
一方の皐月は、文句なく子供達の年齢に近い。
だが輝夜の声がやや戸惑っているのは、皐月の外見ではなく、表情が変化に乏しいからだった。
(何を考えているのやら、さっぱりだね。
これで、子供達の間に溶け込めるのかっつーのっ!)
その予感は当たって、皐月は明らかに一行から浮く存在となってしまう。
「魔の山の飛空艇を見に行く……」
そんな理由で、皐月は子供達に混ざった。
大胆で元気のいい輝夜に比べ、明らかに子供達の受けはよくない。
(そんな感じで、皐月だけチョットしんどいかもだよー)
草むらに隠れ、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は【精神感応】で輝夜から情報を聞いていた。
傍らでは、仲間の高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が銃型HCを眺めている。
彼らは、結和に送られてくるエメリヤンの銃型HCを通じて、子供達の正確な位置を掌握していた。
結和はほかに定時連絡のため、携帯電話も気にかけている。
(わかりました。七日さんには私からその旨連絡しておきます)
(あたしはどうすんだよ?)
(そのまま交信を続けて下さい。子供達に危険が迫った場合は、輝夜さんだけが頼りですからね?)
(了解だよ! それから、セクハラは今回は「厳禁!」だからね!)
べえっと舌を出して、輝夜は交信を切った。
「今、王ちゃんから連絡があったんだけどぉ」
結和が携帯電話を切る。
「唯斗のSPが尽きるらしいって。誰か子供達の近くで、明り役を頼めそうな奴はいないかなぁ? って」
「輝夜では、なぁ……」
「皐月に頼めないかなぁ?」
彼らの頼みは、輝夜を通じて皐月に伝達された。
「オレに『明り役』を頼む、と。そういうんだな?」
皐月は一瞬両眼を閉じて、両手に念を込める。
ぼうっと。
手の中が明るく光りはじめる。
それはいままで先導していた、今は消えかかっている「蛍の光」に代わって、子供達の新たな明りとなるのだった。
「お前! 『こんとらくたー』なのか? すごいんだな!」
すごい! すごい! すごい!
自分達の仲間の中にコントラクターがいると知って……しかも、それは自分達と同じ子供だ!
こうして、皐月は子供達の中に自分の居場所を獲得し、とけ込むことに成功したのだった。
「おれにもできるかな?」
「叶わない願いなんてねーさ……たぶん、な」
子供達の輝く目を眺めて、皐月にほんの少し暖かな笑みが戻るのであった。
「さ、次は【殺気看破】だ。これでゴースト達を警戒しながら、進むとしよう。ちなみに足下のこの『白骨』は……大丈夫だな」
こうして彼ら11人は、迷子になったり、敵などに攫われる子供が出ないことに最後まで貢献したのであった。
そして、子供達に「最初の試練」が立ちふさがる――。
□偽蜘蛛
山門付近を過ぎて広い山道へと至る間の、ひらけた荒野だった。
闇の中に、ゆらりっと、大きな影が現れる……。
■
……皐月達の行動を目の当たりにして、「子供達と仲良くなりたい!」といった動きは一気に加速する。
隊列の中には既に、白銀 司(しろがね・つかさ)、セアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)、ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)、伊礼 悠(いらい・ゆう)、ディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)、閃崎 魅音(せんざき・みおん)と言った面々が加わっていた。
「わーい! やっぱり、冒険はとみたんだけに限るよね? 隊長殿!」
完全に子供達の中で子供になりきって遊んでいるのは司。
無邪気にりーだーと肩を組む。
「司、そんなことより、周囲の警戒を怠るなよ!」
きつい言葉を掛けたのは、セアト。
(ったく、精神レベルまでガキと同じかよ……)
嘆息つきつつ、薄闇に目を配る。
「ちょっと待ってよ! りーだーはあたしのものなんだからね! 司ってば!」
ぷんぷん怒って、りーだーの脇を固めるのはヴェルチェ。
【ちぎのたくらみ】を使ってはいるが、妙に色っぽ過ぎないだろうか?
「そうだぜ! そうだぜ! りーだーは皆のもんだからな! ぷんぷんっ!」
駄々をこねるのは、紫音。
パルメーラの依頼で来たが、現在は単独行動だ。
「まるっきし、駄々こねとる場合どすか!」
微笑ましそうにいうのは風花。
いま一人のパートナー・アルスは呆れ気味に一行の後を追う。
「えーん待ってぇ! ペンギンさん、GO!」
皆の興味を引こうと、魅音は【氷術】で造ったペンギンを手で持っていく。
予定よりはるかに小さい造形物だったが。
「わぁ、つめたそー」
「魅音ちゃん、さわらせて!!」
「うん!」
子供たちには、思いのほか好評のようだ。
その路肩の草むらから、ひょこっと悠とディートハルトが首を出す。
2名が孤立していたのは、彼らの「いでたち」のためだ。
「やっぱり【偽ゴースト】では、無理であったか」
「というより、ディートさん。あなたのせいだと思うのですが……」
はあ、と溜め息をついてパートナーを見上げた。
「も少しやんわりと、とか。私は思うのですが……」
そこには、妙に威圧感のある白い「偽ゴースト」が闇を彷徨っている……。
そして、戦闘は突如開始される!
「や! あれは【ナラカの大蜘蛛】じゃねぇのぉ?」
りーだーは隊列を下がらせ、サッと身構える。
サポーター達も、サッと身構える。
飛びかかろうとしたところ。
「駄目だ! おまえら!」
りーだーからストップがかかった。
「ここから先は『キケン』だ! 『おんなこども』の出る幕じゃない!」
(って、子供は「キミら」の方ですからぁっ!!)
9名は内心ツッコンだが、ツッコミを入れている場合ではない。
「ハイハイハイッ! りーだー!」
司が手を上げた。
「『りーだー』って『大将』のことなんだよね? だったら、こんなザコは私達先兵に任せちゃったら?」
「【ナラカの大蜘蛛】はザコじゃないっ!」
「1匹だわ! 山頂にはわんさかいるんでしょ?」
有無を言わさず、ヴェルチェは【先制攻撃】の体勢に入る。
うーん、と子供達は不満げな表情だ。
「だったら、トドメは任せるから。ここはあたし達に任せてよ!」
ヴェルチェは加速をつけると、偽蜘蛛に【先制攻撃】を放った。
(どーせ、誰かの悪戯でしょ?)
ヴェルチェ達には分かっていた。
噂に名高い【ナラカの大蜘蛛】にしては、迫力に欠けるのだ。
司が果敢に攻めて、追い打ちをかける。
だが、【ナラカの大蜘蛛】――もとい、ブリジットが放った「偽蜘蛛」は、ヨタつきながらも大口をあけて威嚇する。
恐怖から、子供達はパニックに陥った。
「えーん、助けて! いんちょーせんせー!」
院長の名を叫びながら、横道にそれて行こうとする……。
(こんなところで、迷子になられても困ります!)
悠とディートハルトはすばやく追いかけると、彼らの行く手に立ちはだかった。
ふわふわと安全地帯へと、一旦避難。
「あれれ? みんなは?」
ぐすんっ。
鳴き始めた所で、ふわわっ、と移動をはじめる。
「え? ゴーストさん。ついて来いっていうの?」
コクコクと頷く。
子供達の方へと移動する。
子供達はぐずぐずと鼻をすすりながらも、悠達の後を追いかけて行くのだった。
「ごめんね、善いゴーストさん達もいたんだね? これからは僕らと一緒に行こうよ! ね?」
「えーん、暗いよ、怖いよ、誰か助けてぇーっ!」
腰を抜かして、偽蜘蛛を見上げている子供達もいた。
「こないな時の私達どすなぁ」
風花とアルスは子供達に駆けより、手を貸す。
立ち上がれない。
「仕方ないどすなぁ。 アルス! 先導を頼みまんねん」
「了解じゃ、わらわに任せるがよい」
ボッ。
【火術】の火を調節して、明りを生み出す。
「お姉ちゃん達が来やはったさかい、大丈夫どす! きばってぇな!」
風花は腰を抜かした子供達をおぶり、アルスは安全地帯へ彼女を無事先導するのだった。
彼らの活動のお陰で、子供達は全員脱落者を出すことなく、偽蜘蛛に立ち向かうこととなる。
「えーい、化け蜘蛛! これでどーだ!?」
バシッ! バシッ!
紫音は力任せに殴りつける。
度重なるコントラクター達の攻撃を受け、偽蜘蛛はいまや骨組があらわになりかけている。
(マズイわね!)
ブリジットは爪先を噛んで、引き際を数え始める。
「やあ、とうっ!」
紫音の連続攻撃!
偽蜘蛛は次の瞬間ふわっと宙に浮かんで、消えてしまった。
ブリジットが【サイコキネシス】で闇の中に引き上げたのだ。
が、一瞬のことで、子供らの目からは紫音が霧散させたように映ったらしい。
「凄いぞ! 紫音!」
「おめえ、つええんだな!」
「かっこいーっ!」
紫音はたちまちのうちに、子供達のヒーローにされてしまった。
「おめえーは、俺の隣だ! な! 紫音」
子供は強い者が好きだ。
りーだーは、紫音を自分の参謀役に任命する。
「けど、りーだーの隣はあたしなんだからねぇ!」
べーと舌を出して、腕組みは死守するヴェルチェなのであった。
でも、と首を傾げる。
「子供達の足元をずっと照らしてくれてた人。一体誰だったのかしら?」
子供達は、意気揚々と薄闇の中を行進して行く――。
頃合いを見て、闇の中にブリジットと舞の2名が姿を現した。
ブリジットは骨組みだけになった偽蜘蛛を、【サイコキネシス】で持ち運びよい大きさに折りたたむ。
ぶんむくれて。
「まったく! あいつらってば、大人げないわよね?」
「でも、怪我人が出なくてよかったわよね?」
舞は【光術】の玉を呼び寄せた。
ふうっと、掌の上で霧散する。
「舞にはかなわないわ」
「子供達にはいい思い出になったと思うわよ?」
ふふっと笑って、2人は夜の中、家路に着くのだった。
だが、「試練」は子供達だけとばかりは限らない……。
□広い山道
その陰謀の首謀者――南 鮪(みなみ・まぐろ)は【ちぎのたくらみ】で子供に変身し、計画実行の機会を窺っていた。
彼の狙いは、パルメーラ・アガスティア。
「お宝はよぉ。幻の【飛行戦艦】なんかじゃないぜぇ。パルメーラに決まってんだろっ!」
とは、彼の言い分。
「という訳で、俺は、俺の【お宝】を拉致りにかかるとするぜぇ! ……と、そのまえに余興もだ、な!」
パルメーラ、パルメーラは……と彼女の姿を捜す。
いた! 彼女は、子供達の隊列の中にいる。
「……俺が無理やり引き込んじゃったんだもんね!」
草むらに隠れて、陰ながら見守っていたパルメーラを探しあてた後、「子供達のおねえちゃん」として無理やり組み込んでしまったのだった。
(でないと、正々堂々と悪戯出来ねぇだろう! 俺ってば、賢い! あったまいい!)
「だから、パルメーラおねえちゃん! 鮪くんの傍から離れちゃ駄目だぜぇ!」
「え? ええっ!? 鮪くんだって!?」
聞き覚えのある名前に、パルメーラは戸惑った。
だが、このモヒカン小僧は幼く、あの鮪にはとーてーみえない。
そんなこんなで、パルメーラが小首を傾げている間に、鮪の魔の手は下着の中まで延ばされてゆくのであった。
「ええーん、パルメーラおねえちゃん! 大好きだぜぇっ!」
「……て、あたし、君のお母さんじゃないんだけど? ああんっ!」
だが、悪いことは長くは続かない。
ちょうどその頃――。
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、空飛ぶ箒で鮪達の頭上を飛び、空から監視していた。
箒は【迷彩塗料】で、自身は【光学迷彩】で姿を消してあるため、鮪達からは見えない。
【ダークビジョン】で夜目を聞かせ、【女王の加護】と【殺気看破】は常時発動状態! となれば。
魔物ばかりでなく、いかなる不審者をも探しあてるのは容易なことで。
「そう、では、子供達は今のところ全員無事なのね……」
大鋸からの定時連絡を携帯電話で聞きつつ、地上を見下ろす。
そこには、モヒカン小僧を相手に困り果てたパルメーラの姿があった。
「見ようによっては、子供がお姉さんに甘えているように見えなくもないけど……」
あのいでたち、子供達の引きよう……何か気になる!
嫌な予感を覚えた祥子は、大鋸を通じて千代と連絡を取る。
「奴は初めからいた子じゃねえってさ。山で、途中から加わった子供だとよ」
「何ですってぇ!」
となると、答えは唯一つ。
「おのれ、鮪め! しょーこりもなく、パルメーラに何て事を!」
祥子は空飛ぶ箒にまたがったまま、【サンダーブラスト】の体勢に入った。
「我が雷にうたれて、己の所業を反省するのねっ!」
バリバリバリッ!
空を切り裂く稲妻は、そのまま鮪を直撃する。
鮪、退場。
「そっか、やっぱり、あの鮪くんだったんだ! ありがとう、祥子ちゃん」
窮地を救われて、ニッコリ笑う。
パルメーラの信頼を感じて、祥子はホッと一息つくのであった。
(よかった。この笑顔こそ! 私達空大の【宝】なのだから――)
かくして鮪によるパルメーラ拉致計画は、幕を閉じたのであった。
空大の【宝】を手に入れることは、想像以上に難しいようだ。
■
一行は山門前の道を抜け、本格的な登山道へと侵入した。
うっそうと茂る森林の中、細い山道を一列に並んで歩いて行く……。
■
その頃――。
山門前では、異変が起きていた。
夜空の星々が次々と空を離れ、地に結集して行く。
ふわふわと漂う「白い無数の固まり」となり、結合して一体のゴーストとなった。
「見張り役のゴースト」――。
けたたましい笑い声を上げると、ふわふわと闇へと消えて行った。
彼の行く手には、何も知らずに冒険を楽しむ子供達の姿がある……。
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