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リアクション
第1章 御輿作り!
夏祭りの開催前。喧嘩御輿に向けて、参加予定グループのメンバーたちは、御輿の装飾に精を出していた。戦いはすでに始まっているのだ。
【武術部神輿】の御輿は、世界樹イルミンスールをモチーフとした不思議な御輿だった。
マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)がイルミンスールの枝や落ちた樹皮をベースに装飾し、イルミンスールの校章もつけたのだ。
神輿のてっぺんには小さな立場があり、ここにメトロ・ファウジセン(めとろ・ふぁうじせん)が立って、更に小さな御輿を担ぐ予定だ。
マイトがおだてて、
「御輿の上に乗るのは、みんなのアイドルであるメトロしかいない! 頼む!」
と言うと、メトロは、
「そう頼まれたら仕方ないじぇ」
と、まんざらでもない顔をしてこの役を引き受けた。
湯島 茜(ゆしま・あかね)はイルミンスール武術部の部員ではなかったが、今回【武術部神輿】に協力していた。
テクノクラートの茜は、神輿にヘキサポッド・ウォーカーを取り付け、動きが安定するようにした。……担ぎ手の出番はあるのだろうか。
「んー、俺もなんか武術部らしい装飾をしてーなって思ったけど、特に思いつかねーな……」
椎堂 紗月(しどう・さつき)は腕組みをしながら、頭を捻った。
「……よし、どこぞの武将じゃねーけど、これをメトロ嬢に被せっか」
紗月は羽根兜に『武』の文字の兜飾りをつけたものをメトロに頭に乗せた。
「こんなのダサいじぇ」
「何を言う、これは武の象徴なんだぞ。よく似合ってるぜ」
「……そう?」
やはりおだてには弱いメトロであった。
【雪だるま王国】の御輿作りの中心になったのは、鬼崎 朔(きざき・さく)のパートナーであり、アーティフィサーのスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)だった。
スカサハは仲間たちが持ち寄った光る箒や空飛ぶ箒を使い、御輿を巨大雪だるま風に仕立て上げる。
雪だるまの鼻の部分には彼女の大好きな戦闘用ドリルを取り付け、耳は雪だるま王国の『女王陛下』こと赤羽 美央(あかばね・みお)が超感覚を使用した際に発現するチンチラの耳を模した。
「最後に演出用のメモリープロジェクター、それからいざというときのために加速ブースターもつけて……完成であります!」
できあがった御輿を見て、スカサハは満足そうに頷いた。
「……あ、いつもの癖で……」
そこで、スカサハはあることに気がついた。ついつい六連ミサイルポッを持ってきてしまっていたのだ。
「ええい、いらないので中に入れておくのであります!」
スカサハは、御輿の中に六連ミサイルポッドをぶち込んだ。
「これは随分としっかりしたものになりましたね」
音井 博季(おとい・ひろき)は、自分たちの御輿にそう感想を漏らした。
「どうせなら、これも」
博季は御輿にヒートマチェットをくくりつけた。
「何気なくサイコキネシスで振動させたりしたら、きっと素敵な武器に……なりますよね?」
【イリヤ神輿】の御輿は発想が違っていた。
「アッ、コンナトコロニれっさーわいばーんガー」
棒読みでそんなことを言ったミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、ペットのレッサーワイバーンを御輿の中に組み込み始めた。
「ワイバーン神輿だぜ! 強いぞーカッコイイぞー」
ミューレリアの言に寄れば、ワイバーンには動かず火も吐かないように命令してあるので、安全だということだ。
「これはなかなかワイバーンに似合うな。闘志がみなぎってくるようだ」
パラ実イリヤ分校生徒会会長姫宮 和希(ひめみや・かずき)のパートナーガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)は、和希の持ってきた竜の牙と巨獣の牙で御輿を装飾していく。
アーティフィサーである彼が原始的な飾り付けをするのはギャップがあって面白い……と思いきや、ガイウスはドラゴニュートなので、実は絵になっているのかもしれない。
和希に竜の牙と巨獣の牙を渡したのは、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)だった。
「俺は寧ろ和希に飾り付けをしたいぜ。着飾った女の子ってかわいいよな」
スレヴィはそうつぶやきながら和希を見たが、和希は学帽に晒しにはっぴ、ホットパンツと、かわいらしいのとはほど遠い格好をしていた。
女の子扱いされるのが嫌いな和希に自分の考えが知れたら、きっと怒られるだろう。スレヴィは和希をコーディネートしたい衝動を抑えつつ血煙爪や日曜大工セットの中身で御輿を飾り、仕上げにみかんを供えた。
「和希の乗る場所はあたしが作るぜ!」
泉 椿(いずみ・つばき)はパラ実式工法の特技を生かし、日曜大工セットで在りし日のピラミッド型校舎を再現した。しかし、その素材はダンボールで、パラ実式工法というのがなんとも不安の残るところである。
椿は最後に、友情のミサンガと御藝神社のお守りで神輿を飾った。
こうして、なんとも奇妙なイリヤ御輿ができあがったのである。
「御輿に乗っていただく存在として、関羽様ほどふさわしい方はいなかったんだがな」
残念そうに言ったのは、【みんなの教導団】のトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)だ。
トマスは、地球でも広く神として祭られている関羽が金 鋭峰(じん・るいふぉん)のパートナーであるという事実が、今回の勝負で教導団が他校に一歩差をつけられる要素だと思っていた。
そこで、関羽に御輿に乗ってもらい、気合いの入ったメイクもしてもらおうと考えたのだ。
関羽及び金との交渉には、パートナーの魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が当たった。彼は、「教導団の力を正しく他校に見せつけるには関羽の力が必要だ」と力説したのだが、「神輿を担ぐのは面白そうだが、生徒同士の勝負に介入するわけにはいかない」と関羽にも金にも断られてしまった。
「戦力兼デコレーションになっていただければ、百人力でしたな」
子敬は説得しきれなかったことを悔しがる。
「まあ、ないものねだりをしても仕方がない。例え関羽様に臨席いただけなくとも、勝利のためにしっかり御輿を担ぐぞ。これは使命だ!」
トマスは祭に向け、気持ちを切り替えた。
その神輿の装飾を担うのは、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)だ。
「喧嘩神輿では激しいぶつかり合いが予想される。強固な神輿を用意しなくてはな」
風次郎は、拾ってきたひび割れた装甲板のひびをはんだ付けセットで補修し、表面を磨く。そして、その装甲板を登山用ザイルと日曜大工セットで神輿に括りつけ、神輿を戦車に見立てた。
【みんなの教導団】の御輿は、実に教導団らしいものになった。
パラ実はやっぱりパラ実だった。
【出鼓虎神輿】のレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、
「最初からクライマックスだぜ!」
と言いながら、いきなり闇黒ギロチンを神輿の中央に据え付けた。
「やるじゃねえか。俺は死の聖杯をてっぺんにくっつけて、ポータラカの金属片と光条石を装甲代わりに
すっかな!」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)がレイディスに続く。
「オレがイケメンにしてやるぜえ!」
自称イケメンの吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は、「竜司最強」と書かれたダンボールとパラ実スパイク、キメラの翼をボンドで御輿に貼り付けた。
「カッコいいじゃねえか。コイツを乗せれば今度は強く見えるぜ」
竜司は更に、武者人形を御輿に乗せた。
「ここらで隠し味の投入だ」
万有 コナン(ばんゆう・こなん)は秘密兵器として、脅威の肺活量をもって吹き戻し(※口にくわえて吹くと、するする伸びた後、先からくるくる巻いて戻ってくるあのおもちゃ)を射出する『ノーズフェンシング機構』と、棒の先から内蔵した巨獣の牙が突き出す『ビッグタスク機構』を内緒で御輿に取り付けた。
御輿の外装は象のようになった。
「ヒョッホー! これはわしらの拳じゃ!」
水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)は、神輿の前方に鉄甲を縄でしっかりと固定した。
「他の面子も色々やるだろうとは思ってたが、こいつは予想以上だな」
兎に角派手な神輿にしたいと思っていた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、御輿を見て本番が楽しみになった。
「あとはこれで十分だろ」
武尊は日曜大工セットを使って、金鳳凰の変わりに光るモヒカン、 飾り紐の代わりに銀の飾り鎖を取り付けた。
個性派揃いの中で、【プレジデント・ミコーシ】の御輿……いや、ミコーシは一際異彩を放っていた。
アレックス・ノース(あれっくす・のーす)は発砲スチロールやダンボールで作成した自由の女神像、ラッシュモア山の彫刻、そしてパートナーのエイブラハム・リンカーン(えいぶらはむ・りんかーん)までもミコーシのデコレーションに用いた。
そこに、ガルム・コンスタブル(がるむ・こんすたぶる)がアメリカ国旗を追加し、パートナーのザッカリー・テイラー(ざっかりー・ていらー)には携帯音楽プレイヤーでガンガンアメリカ国歌を流させた。
【プレジデント・ミコーシ】のメンバーは四人(リンカーンは装飾の一部となっているので実質三人)。人数が少ないのではないかと指摘するガルムに、アレックスはこう答えた。
「ノープロブレム! ジャパンでもこういうだろう? 『三人寄ればモンテスキュー』!! Ya−Ha!」
「Shit! このフレンチブルドック野郎! それを言うならモンティパイソンだろうが! いや、むしろサタデー・ナイト・ライブにすべきだな!」
「HAHA! 軽いジョークさ。対策はパーフェクト! こいつが本当のダークホースってやつだぜ!」
アレックスはそう言いながら、馬を四頭ミコーシに繋げた。
「ハッハァー! リアルムスタングってェ奴だな!」
ガルムは馬に跨り、投げ縄を頭上でブンブン振り回す。
「「これが俺たちA(アメリカ)チーム!」」
女子の自分に、力が物を言う御輿は厳しい。そう考えた芦原 郁乃(あはら・いくの)は、女の子用の御輿で祭に参加することにした。
神輿は、青島 兎(あおしま・うさぎ)が車輪つきの小柄なものを用意した。これなら、女の子でも問題なく動かせるだろう。
「花やリボンで飾りを付けよう」
郁乃が兎やパートナーの荀 灌(じゅん・かん)と共に色とりどりの花やリボンで御輿を飾り付けていると、一緒に祭に参加する予定の釉木 香奈葉(ゆうき・かなは)が、パートナーの西条 あゆむ(にしじょう・あゆむ)にねだって言った。
「お神輿の中には絶対クマさんいれるの!」
「クマさん? うーん、そうねえ。みんな、花でクマの人形を作らない?」
あゆむの提案を、郁乃立ち三人は受け入れる。郁乃たちは人形作りにとりかかった。
「香奈葉、お神輿にお絵かきした〜〜い」
作業中のあやむに、今度は香奈葉がそうおねだりをしたが、これは「後でね」と断られてしまった。
「つまんないの〜」
香奈葉はみんなの隙を見て御輿に絵を描こうとしばらく待っていたが、そのうちに待ちくたびれて眠ってしまう。四人はようやく作業に集中することができた。
「まるでお花畑にいるクマさんだね」
飾り付けの終わった御輿を見て、郁乃が言った。
「でも一人じゃ寂しそうだから、ウサギさんの人形も作っておこう」
最後にウサギの人形がクマの隣におかれ、御輿が完成した。ちょうどそこで、香奈葉が目を覚ます。
「うん、よくできてるの!」
香奈葉は自らが指揮をとってかわいらしい神輿作りを行っている夢を見ていたのだが、夢で見た通りの神輿ができあがっていたので、自分が寝ていたということに気がつかなかった。
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