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リアクション
【雪だるま王国】VS【出鼓虎神輿】
「さあ、休んでいる暇はありません。こちらでは【雪だるま王国】と【出鼓虎神輿】が接近しています」
ロザリンドは、ビデオカメラを忙しく動かした。
「雪だるま王国はそのものずばり雪だるま型の御輿。そして【出鼓虎神輿】は……すごく、パラ実です!」
ロザリンドはちょっと楽をした。
「【出鼓虎神輿】のメンバーはみなさん褌に晒と気合いが入っていますね。ちょっと目のやり場に困ってしまいます。おや、あの方だけ服装が違うようです」
ロザリンドが、御輿の上に立ったレイディスに目を向ける。彼だけは、なぜかチアリーダーの衣装を着てスパッツをはいていた。
「む、殺気! みんな、後ろからくるぞ!」
殺気看破を使用していたレイディスは、敵の存在を仲間に告げる。【出鼓虎神輿】は方向転換し、【雪だるま王国】と正面から向き合った。
【雪だるま王国】の御輿の上には、雪だるま王国の女王として指揮をとる赤羽 美央(あかばね・みお)と、御輿を担ぐにはちょっとだけ――本当にちょっとだけである――身長が足りなかった四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が立っていた。
「よっしゃテメェら、突撃だあ! 作戦は特になーし! 全力でぶつけてぶつけてぶつけるだけよお!」
【出鼓虎神輿】の屈強なメンバーを招集したナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が、気合いの入った雄叫びを上げる。祭で勝負事と聞いては、盛り上がらずにはいられなかった。
「こまけぇことは気にしねぇ、ごり押しKAMIKAZEアタック! いっくぜー!!」
「「「ヒャッハーッ!」」」
ナガンの合図で、【出鼓虎神輿】が【雪だるま王国】に襲いかかった。
【雪だるま王国】にも、胸の高鳴りを抑えきれない者がいた。ルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。
「祭です! 喧嘩御輿です! 熱い! 熱すぎます! 私もう筋肉がはち切れてしまいそうですよ」
ねじりハチマキに褌、半被スタイルのルイは、今か今かと美央の顔を伺う。美央がとうとう口を開いた。
「さて、皆さん。雪だるま王国たるもの、お祭でも最善を尽くさねばなりません。頑張りましょうね。いざ出陣です。雪だるまの加護がありますよう」
「「「おー!」」」
【雪だるま王国】も前進する。両陣営は急接近した。
「うおおおお! バラバラにしてやるぜぇ!」
「筋肉がうなります!」
最初に衝突したのは、共に両陣営の先頭に立つラルクとルイだった。
「筋肉です! 御輿の前に筋肉がぶつかっています!」
ロザリンドのレポートにも熱が入る。
「私の気合という名の龍の波動を受けてみなさい! 喧嘩神輿一番の担ぎ手はこの私です!!」
「気合いなら負けるきがしねえなあ!」
二人は互角の勝負を繰り広げた。
「ヒョッホォオオオ!! わしらの神輿は天下無双じゃぁあ!!!」
ラルクの隣では、邪堂が御輿を担いでいる。邪堂はラルクが地を蹴るタイミングをしっかりと確認し、彼と息を合わせて御輿をぶつけた。
「雪だるま王国騎士団長として、引き下がるわけにはいきません! ……おっと失礼」
その邪堂の相手をするのは、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だ。彼はぶつかり合いの際、どさくさに紛れて邪堂の脛を蹴ったり、隙を見てバレない程度にしびれ粉のスキルを使ったりと、セコイ嫌がらせをしていた。
(昔の偉い人は言いました。「将を射んと欲すなら、まず馬を射よ」と。なんと的確なアドバイスでしょうか! 神輿も同様に担ぎ手さえ排除したら、我らの勝利はより盤石なものになるでしょう!)
「雪だるまの神輿もとは面白いな! パラ実は神輿より担いどる連中の方に目がいってまうわ」
観客席から戦況を見守っていた社は、クロセルに声援を送った。
「クロセルさ〜ん! もっと目立ってもええで〜」
(目立ってしまったら怒られるでしょう!)
クロセルは心の中で答えた。
一方、【出鼓虎神輿】の左脇を固めるコナンは、隠しもせず至極ナチュラルに博季の太股に膝蹴りをかましていた。
「ぐおお……! そこは駄目です……!」
博季が苦痛に顔をゆがめる。
「隙あり! 『ノーズフェンシング機構』の恐ろしさを味わえ!」
コナンが息を吹き込むと、吹き戻しはピーヒョロと音を立てながら博季の顔面を捉えた。
「博季!」
チームメイトの鬼崎 朔(きざき・さく)が博季の身を案ずる。
「ヒャッハー! 人の心配をしてる場合じゃないぜぇ?」
その朔を、武尊がサイコキネシスで攻撃した。
「やってくれたな!」
「御輿に攻撃しなかっただけでもありがたく思え。作ったやつがかわいそうだからなあ!」
「綺麗です! 綺麗なパラ実です!」
ロザリンドは感覚が麻痺している。
「お返しだ!」
朔は、武尊にグリントフンガムンガを投げつけた。
「うおっ、あぶね!」
これを避けた武尊が体勢を崩す。その隙に、朔は相手の御輿を攻撃しようとした。
「何するつもりだテメえ! 俺が見てないと思って汚えことしてんじゃねえぞ」
そのとき、竜司朔を怒鳴りつけた。彼は御輿の後方を担いでいる。
「それともあれかあ? 惚れちまった俺様に振り向いて欲しくて、「悪い子ぶってんのかあ? グヘヘ、しょうがねえなあ。モテる男は辛いぜェ」
妄想全快の竜司に【雪だるま王国】の女性陣からは非難の声が上がったが、それも彼には黄色い声援にしか聞こえなかった。
「汚いのがなんだ。勝つためには手段を選ばない!」
朔は再び御輿を攻撃しようとする。が、今度は仲間の童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)
が彼女を止めた。
「朔殿、落ち着くでござる。挑発に乗っては敵の思うつぼ。拙者にいい考えがあるでござるよ」
「いい考え?」
スノーマンはゆっくり頷くと、美央に目配せをする。スノーマンは美央が著した魔術書。美央はスノーマンの意図をくみ取って、頷き返した。
「えい!」
「こうするでござるよ!」
美央が味方にアイスプロテクトをかけるのと同時に、スノーマンがブリザードを放った。
「いくら夏とはいえ、その格好には寒さがこたえるでござろう!」
スノーマンの予想通り、ブリザードの効果はてきめんだった。ほとんどが褌と晒しか身につけていない【出鼓虎神輿】のメンバーは、がくがくと震え始めた。
「はっくしょんっ! どしたどしたー! だらしねぇぞテメェらー! ぶえっくしょんっ!」
後方を担いでいたナガンが、御輿の上に上ってメンバーに発破をかける。しかし、彼らの顔はみるみる青ざめていった。
「く、こうなったら同じ属性の魔法で相殺するしかない!」
レイディスは氷術を放った。
「「「余計寒いわ!」」」
会場が一つになった瞬間だった。
【出鼓虎神輿】の担ぎ手たちは、思わず御輿から手を離して縮こまってしまう。当然御輿は地面へと叩きつけられ、ごちゃごちゃとした装飾はバラバラになった。
「勝負あったようです!」
【出鼓虎神輿】のメンバーは、ロザリンドの声で自分たちが負けを宣告されたことに気がついた。
「くそー、負けちまったか! しかし楽しかったぜ!」
「いい勝負でした」
爽やかな笑顔のラルクに、これまた彼に負けないくらい爽やかな笑顔を浮かべてルイが手を差し伸べた。
美しい筋肉の交わりに、会場から拍手が起こった。
【雪だるま王国】VS【出鼓虎神輿】、【雪だるま王国】の勝利!