校長室
秋の実りを探しに
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湖のほとりではにぎやかな?昼食風景が繰り広げられていたが、そこからは少し離れて、森の中で昼食を取った生徒たちもいた。 「これは、すごいな……」 薔薇の学舎の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が開いた弁当箱……と言うより重箱の中身を見て、守護天使レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は感嘆の声を上げた。一段目は焚き込みご飯とひじきのおにぎり。2段目は煮物やから揚げ、卵焼きなど、行楽弁当の定番おかずがずらりと並んでいる。 「どうぞ、召し上がってください」 翡翠はにっこりと笑って、ポットに入れて来たお茶をカップに移してレイスに渡す。 「頑張ってベリーや木の実を取ったから、すっごくおなかがすいてたのよね。いただきまーす!」 地祇榊 花梨(さかき・かりん)が瞳を輝かせて箸を取った。 「から揚げは俺のものだ!」 花梨が箸を伸ばそうとしていたから揚げを、横からレイスがさらう。 「レイスひどい! それ、私が狙ってたのに!」 花梨は負けじと、卵焼きを口に突っ込む。 「たくさんあるんですから、そんなに慌てて食べなくても……」 翡翠は苦笑して二人を見たが、 「何言ってんだよ、翡翠も食べろよ。さっさと食わないと、すぐなくなるぜ!」 左手におにぎり、右手に箸の二刀流で口をもぐもぐ動かしながらレイスは言った。 「ちょ、口に入れたまま喋らないでよ!」 花梨が頬を膨らませたが、そう言う彼女も、言いながら煮物に箸を伸ばしている。二人とも、翡翠にちゃんと食べて欲しいと思っているのだが、だからと言って翡翠の分を分けておこうとか、食べるのを少し遠慮しようと言うつもりはまったくないらしい。 「いえ、私に構わず、好きなだけ食べてください」 翡翠はにこにこして、パートナーたちが奪い合うように弁当を平らげて行くのを見ていた。 「このへんにしようか? あんまり奥まで行くと、馬車まで戻るのが大変になるし」 蒼空学園の朝野 未沙(あさの・みさ)も、パートナーの機晶姫朝野 未羅(あさの・みら)、魔女朝野 未那(あさの・みな)、英霊孫 尚香(そん・しょうこう)と、森の中で弁当を食べる場所を探していた。 「そうですねぇ、あまり遠くまで歩くと疲れちゃいますぅ」 未那がうなずく。四人は森の中の、開けて陽だまりになっている場所に布を広げた。 「近くに川があるみたいですねぇ。せせらぎの音がしますぅ」 一番最初に布の上に座ると、未那はうっとりと目を閉じた。 「私、お水汲んで来ようか?」 未羅が未沙に尋ねる。 「うん、お願い。お腹をこわすといけないから、そのまま飲んじゃだめよ」 未沙は携帯用の湯沸しを荷物の中から出しながら言った。 「機晶姫って、生水でお腹をこわすのかい?」 尚香が不思議そうな顔をする。 「その子によって違うんですって。未羅ちゃんは自分のことを良く覚えていないから、どっちだかわからないの。もしかしたら大丈夫かも知れないけど、具合が悪くなっちゃったら大変だし」 未沙は、水音が聞こえる方へ駆けて行く未羅の背中を見送って言った。 未羅は十五分ほどで、水筒を一杯にして戻って来た。 「すっごくきれいな小川があったよ! 夏に水遊びに来るといいかも!」 「さすがに、そろそろ水遊びという気候じゃないからねぇ」 尚香が残念そうに言う。 「じゃあ、夏になったらまた、今度は四人だけで来ようか」 湯沸しに水を入れ、火をつけて、未沙はパートナーたちに提案した。 「賛成ですぅ!」 未羅が手を叩いて喜ぶ。 「さぁ、食べましょう」 布の上にお弁当のサンドイッチを広げていた未那が言った。 「この『さんどいっち』とかいう奴、どんな味なのか楽しみだったんだよね」 尚香が一番に、サンドイッチに手を伸ばす。 そして四人は、せせらぎや葉ずれの音を聞きながら、のんびりと昼食を楽しんだのだった。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 集合時間の三時になった。 「さあ、そろそろ戻りましょうか。皆戻って来ているわよね?」 ミス・スウェンソンが参加者たちを見回す。 「店長、獣さんと田中さんが、まだ戻ってないみたいなんですが……」 店員の一人が、心配そうにミス・スウェンソンに報告した。 「……もう少し、待ってみましょう」 ミス・スウェンソンが言い、参加者たちは馬車の周囲で、まだ戻っていない葦原明倫館の獣 ニサト(けもの・にさと)とパートナーの機晶姫田中 クリスティーヌ(たなか・くりすてぃーぬ)の帰りを待った。 ……が、いくら待っても二人は戻って来ない。 「悪いんだけど、誰か、探しに行ってくれる?」 困り顔のミス・スウェンソンに頼まれて、幾人かの生徒たちが走り出す。 はたして、ニサトとクリスティーヌは、絶賛道迷い中だった。湖の周囲は人が良く立ち入るので、踏み固められて道が出来ているのだが、その道をはずれて、湖のある方向を見失ってしまったのだ。 「こうなるから、私は奥の方には行きたくなかったんだ。しかもコンパスも何も持ってきていないという無計画さ。呆れて物も云えん」 クリスティーヌは盛大にため息をつくと、担いでいたリュックサックのポケットからスキットルを取り出した。 「これが呑まずしていられるかぁ!」 スキットルの蓋を取り、ぐい、と中身をあおると、ニサトの方へ突き出す。 「オラァ! 呑むぞこの野郎ッ! 私の酒が呑めないなんて云ったら、どうなるかわかってるよなぁ?」 「……一口で酔うなんて、いったい何持って来たんだよ……。て言うか、酒なんか持って来てたのかよ」 ニサトはスキットルの口を顔に近付け、匂いをかいだ。きつい蒸留酒の、独特の芳香がする。 「何匂いなんかかいでやがるんだ。飲め飲め!」 クリスティーヌは左手でスキットルをニサトの口元に押し付けつつ、右手で銃を抜いて突きつけた。 「あーあー……。こうなっちゃかえって戻る方が皆に迷惑かも知れないし、今日はここで野宿か……」 ニサトがため息をつき、覚悟を決めてスキットルの中身を口に含んだその時、 「あっ、いたいた!」 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がニサトとクリスティーヌの方へ走って来た。 「戻って来ないから、皆心配していたんだぞ」 「悪い、道に迷ったんだ。……結構奥まで入って来たのに、良く見つけられたな」 ニサトは軽く手を挙げてエヴァルトに謝る。 「いや、ここ、湖からそんなに離れてないぞ」 エヴァルトは首をひねる。 「たぶん、歩いているうちに方向感覚が狂ったんだろう。山なんかで迷ってむやみに歩いていると、同じ場所をぐるぐる回ってしまうことがあるらしいからな」 と、 「うぉら、貴様も飲め飲めぇ!!」 クリスティーヌが、今度はエヴァルトにスキットルを突きつけた。 「……すっかりここで野宿のつもりで、酒飲んでこのざまなんだよ……。この状態で戻っても皆に迷惑かけるし、俺たちはここで解散にさせてもらうわ」 ニサトはそう言ったが、 「いや、それでまた迷って戻れなくなったら大変だ。ミス・スウェンソンも心配するだろう。……ふんっ!」 エヴァルトは拳を固め、クリスティーヌの腹に当て身を入れた。 「ぐふぁ……」 クリスティーヌはくたくたとその場に崩れかける。それをひょいと肩に担いで、エヴァルトはニサトに言った。 「馬車に着いたら、念のため適当にぐるぐる巻きにしておけば大丈夫だろう。さあ、戻るぞ」 「うわ……」 自業自得とは言え、ちょっとクリスティーヌが可哀想になったニサトだった。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ こうして、若干のハプニングはあったものの、一行は無事に空京の『ミスド』の前に戻って来た。 「ミス・スウェンソン、今日はありがとうございました。おかげさまで、空京に来た目的をすべて果たすことが出来ました」 秀明が、ミス・スウェンソンに礼を言う。 「では、これから地上に戻るのかな?」 黒崎 天音(くろさき・あまね)が秀明に尋ねる。 「もう何日かは空京に居る予定ですが、その後は地上に戻ります。でもまた、皆さんにお会いする機会があると思いますよ」 秀明は生徒たちを見回した。その顔には、満足そうな微笑が浮かんでいた。そして、 「今度、今日の収穫を使ったプチドーナツを試食に出すから、みんな食べにいらっしゃいね。秀明君も」 「生徒さんたち、またニャー!」 ミス・スウェンソンとアイリに見送られ、生徒たちは家路についたのだった。
▼担当マスター
瑞島郁
▼マスターコメント
お待たせいたしました。リアクションをお届けいたします。 のんびりピクニックで過ごす一日はいかがでしたでしょうか? (一部、のんびりでない方もいらっしゃいましたが……) 謎の中国人少年・楊秀明については謎が残りましたが、本人が言っているように、近い将来、またお目にかかる日が来るかと思います。その時に、今回彼がはっきりと語れなかったことが明らかになるでしょう。 その時にまた、彼に会いに来て頂ければ嬉しいです。それでは、また。
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