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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
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 空京の街に冬用のコートを買いに来ていた東雲 いちる(しののめ・いちる)が、道で配られていたチラシに目を通すと、慌ててギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)に電話した。
「ギルさん! 一緒にカマクラの中でお鍋をやりませんか? えっと……2人で」
『構わないがどこでやるんだ?』
「空京の街でチラシを配っていたんですけど――」
 いちるは内容をかいつまんで説明する。
『ふむ……なるほど、わかった。何時にその公園に向かえば良い?』
「18時でどうでしょう?」
『うむ』
 電話を切ると、いちるはうきうきとした足取りでコートを予約したお店へと急いだ。

 18時少し前には公園の入り口にギルベルトが到着した。
 いちるからメールがあり、もうカマクラを確保したと連絡があり、場所も書かれていたので、あとはカマクラへ向かうだけ……なのだが、広場の入り口で少し考え込んでいた。
(いちるが気を使って一緒に過ごせる時間を作ってくれてるというのに……気の利いたことが何も出来ないとは……)
 しばし停止。
 そこへギルベルトを見ていたタノベさんが、肩を叩いた。
 2人で少し会話をし、ギルベルトはタノベさんから何かを受け取ると、若干軽い足取りで、いちるの待つカマクラへと向かったのだった。

「ギルさん、大丈夫でした? もしかしてカマクラの場所分かりづらかったですか?」
 ギルベルトがいちるの待つカマクラの中へと入ると、少し遅くなったギルベルトを心配していたいちるが出迎えた。
 外は寒いが、中は鍋の熱気とコタツで温かい。
「べ、別に……迷子になどなっておらんわ! ただ……ちょっと……用があっただけだ」
「そうですか……良かったです。外寒かったですよね! お鍋も出来てますよ!」
 いちるはホッと胸をなでおろすと、ギルベルトをコタツの中へと導いた。
 お鍋は白ワインを用いたブイヤベース風の海鮮鍋になっていた。
「はい、これ。温まりますよ」
 鍋の横にある小さな鍋から、白い温かそうな液体を透明のカップに注ぐと、薄切りにしたレモンを添えて、ギルベルトに手渡した。
「ホットワインか……確かにこれなら温まるな」
 一口すすっただけで、ほんのりと頬がピンクに染まる。
「さすがに私はお付き合いできませんが……気に入ってくれたのなら良かったです」
「まずくはない」
「ふふ」
 素直ではない褒め言葉にいちるは満足そうな顔だ。
「お鍋も温まりますよ! いっぱい食べて下さいね!」
 いちるは鍋から海老とホタテと白菜、春雨を皿にとり、手渡す。
「うむ……まずくない」
「良かったです!」
 自分の分もよそうと、口を付けた。
「ほわぁ〜」
 温かい汁をすすると、いちるの頬も赤みが増した。
「たまには……」
「はい?」
「たまにはこういうのも悪くない……な」
「……! はいっ!」
 2人して顔を赤らめながら、鍋の中身が少しずつ減っていく。
 食べ終わると、ギルベルトがちょっとそわそわしだした。
「……その……少し、外に出ないか?」
「あ、良いですね。お鍋とコタツで暑くなったので、外の空気が丁度いいかもです」
 ギルベルトに誘われて、いちるは外に出ると、感歎の声を上げた。
「凄い……星が落ちて来そうです」
「そうだな……」
 満点の星空に溜息を吐く。
「ひゃっ!」
「少しじっとしていろ」
 ギルベルトはそっと後ろに回ると、いちるの首に何かを掛けた。
 冷たい何かがいちるの肌に辺り、声を上げた。
「これ……良いんですか!?」
「俺だけ何もしないのも気が引けるからな……べ、別にいらなかったら返せ」
「いります! 大事にします!」
 いちるの首に掛かっていたのはシルバーとアクアマリンで出来た雪の結晶の形をしたネックレスだ。
 ギルベルトがタノベさんから受け取ったのはこのネックレスのようだ。
(値は少ししたが……これだけ喜んでくれたのなら、高い買い物ではなかったな)
 2人はもう少しだけ星空を寄り添って眺めたのだった。