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軍人に恋愛など必要なーい!

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軍人に恋愛など必要なーい!

リアクション

   2

 同日、18:00

 シャンバラ教導団校舎(偽)。
 教導団第四師団所属クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)大尉は、豆撒き組のリーダーとして、某所にいた。インカムに向かって、キレの良い口調で話しかける。
「こちらクレア・シュミット大尉。現状を報告せよ、どうぞ」


「はぁ〜い、パティですぅ〜。ただ今敵を探して歩き回ってます〜。今のところ、異状はありません。どうぞぉ〜」
『了解。引き続き警戒せよ。通信終わり』
 通信が切れ、クレアのパートナー、パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)は、先頭を行く三船 敬一(みふね・けいいち)に声をかけた。
「三船くん、どうですかあ?」
「今のところ、敵が隠れている様子はない」
【超感覚】で奇襲を警戒している敬一は、周囲に目を配りながら答えた。
「敵が我々を襲ってくれればいいのですが」
「わあっ、びっくりした! 白竜くん、いつの間にそこにいたの?」
「……最初からです」
 ブラックコートで気配を完全に断っていた叶 白竜(よう・ぱいろん)に、パティは飛び上がった。驚かせて申し訳ありません、と白竜は頭を下げる。
「それにしてもぉ、相手を全滅させるなんて穏やかじゃないですねぇ」
「全滅ではなく、殲滅です」
と、白竜「まあ、意味はほぼ同じですが」
「サバゲーならフラッグ・アタックでも良かったんだろうけどな」
 そう言ったのは、白竜のパートナー、世 羅儀(せい・らぎ)だ。
「フラッグ・アタックって何ですかぁ?」
「双方の旗をどちらかが取れば勝ち。全滅しても、勝ち。ゲームとしちゃその方が面白いとオレも思うが、最大の難点は、取れなかったら引き分けってことだ」
「バレンタインを行うかどうかを決めるのですから、引き分けでは意味がないのでしょう」
 正直なところ、白竜はバレンタインに興味はなかったが、軍人として上官――今はクレアだ――に従うべきだと考えていた。それに――これも広い意味では豆撒きになるだろう。鬼役を追い払えば、今年一年、厄払いにもなる。
「しかしあれだね、何かご褒美が欲しいところだね。何だっけ、あの太い海苔巻き?」
「さあ?」
「……恵方巻き?」
と敬一。
「そうっ、多分それ。さすが日本人!」
 そんなところで褒められても嬉しくない。
「あ、私も食べたいですぅ」
 カチコチに真面目な白竜と、どことなく呑気な羅儀、明らかにほのぼのしすぎているパティ。このメンバーで先発は大丈夫なのか、とかなり本気で心配する敬一であった。


「付け目は敵に統率がないことだ」
 同時刻、音楽室――学校を模した建物の中で、四方を壁に囲まれたここが一番死角が少ないと思われた――でクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、パートナーの三田 麗子(みた・れいこ)に言った。
「敵の顔ぶれを見たか? 麗子」
「多分」
 麗子は適当に答えた。所詮、これは気晴らしのゲームである。楽しめればいい。が、クレーメックはあくまで生真面目だ。
「私やシュミット大尉のように、指揮を取る者がいない。ということは、個々に攻撃をしてくる可能性が高い。それを叩けばいい。簡単なことだ。我々は無理せず、生き残ることに専念すればよいのだからな」
 何もそこまで真剣に、と麗子は思ったが、
「我々軍人の本分は、規律と命令に忠実であること。私は恋愛よりも軍人の誇りを選ぶ!」
 ――クレーメックの目を見て、言うのはやめておいた。


 更に同時刻、校舎(偽)上空を何かが飛んでいた。
 誰もいない屋上に降り立ったそれは、骨のような翼をたたむと、にやっと笑った。
「……教導団の連中が、バレンタインを賭けてサバゲーやるっつー噂は本当だったみてぇだな」
 緑色の長い髪に金の瞳、派手な風貌だが、どこか――どこかおかしい。
「ったく、どいつもこいつも幸せ充実。腹が立つぜ。大体、どうせどっちが勝ったって、バレンタインをやる奴はやるに決まってる」
 連れはない。独り言だ。だが男は楽しげにくくくっと笑う。べろんと出した舌には、五芒星の印があった。
 その星が光り、逆向きになる。
 コンクリートの屋上が光り、そこから見るもおぞましい姿のそれ――ゾンビが現れた。
「俺様の可愛いペットちゃん。ちょいと行って、脅してきな」
 ずるり、ずるぅり――。
 ゾンビは足を引きずりながら、男の開けたドアから建物へと入っていった。
「教導団の連中も生温いってぇの。どうせ中止にさせるなら、これぐらいやらなきゃな。ま、非リア充もやられっちまうかもしれねぇが、尊い犠牲ってやつだ。しょうがねぇよな。だ〜ひゃっはっは!」
 その男――ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)の高笑いは、吹き始めた風に流されて、誰の耳にも届かなかった。