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先生、保健室に行っていいですか?

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先生、保健室に行っていいですか?
先生、保健室に行っていいですか? 先生、保健室に行っていいですか?

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CASE2 百合園女学院の場合

 乙女の花園、百合園女学院。ここでの保健室のとあるにの様子を見てみよう。
 保健室にいて対応しているのは十二星華の一人でもあるパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)
 やってくる生徒を、時に肉体的に、時に精神的に治療する。
 その威圧的な様相とは違い、女性が憧れる甲斐甲斐しさと慈悲深さがなやめる乙女たちに心の安らぎを与えていた。
 そんな彼女がいる保健室に一人の来客が訪れる。
「失礼します……」
「ん。……どうした、鼻血など噴き出して。盛大に転んだのか?」
 やってきたのは真口 悠希(まぐち・ゆき)である。ティッシュで必死に鼻を押さえて出血を抑えていた。
 しかしいまだ噴き出しているのか、白い部分がどんどん鮮血に染まっていく。
 とりあえずは止めるのが先だと思い、シャウラはまず悠希をベッドに寝かせて落ち着かせる。
 時折、新しいティッシュに交換するのを何回か繰り返すとようやく鼻血が止まった。
「よし、これで良いわ。もう少し落ち着いてから戻りなさい。」
「……はい」
 鼻血以外は問題ないと判断して、治療を完了するシャウラ。
 診断結果に答える悠希の声はどこか力ない様子だった。
 どうやらそんな雰囲気に気になったのか、シャウラは悠希に話しかける。
「どうしたの?まだ何かあるようね?」
「……」
「黙るのは勝手だけど、それでは相談しようがないわよ。私にはあなたの話を聞くことは出来るけど、あなたの気持ちを察するなんて器用な真似はできないわ。言いたいことがあるなら、答えなさい」
 ためらいからか、話そうとしない悠希にシャウラは突き離す言い方をする。
 だがその言葉が返って悠希に響いたのか、重く閉ざした口をそっと開いた。
「先生、僕、どうしたらいいのか分からなくて……」
「後悔?男である自分が女学院にいるっていうことが辛いの?」
「……!知って、たんですか?」
「これでも先生よ、訳あり生徒に対する情報もいくらか交換しているし、把握しておかないといけないからね」
「……」
「さて、と。鍵を閉めるわ。言いたいことは言いなさい。ちゃんと聞いてあげるから」
 シャウラは悠希の気持ちを察して、保健室の内鍵を掛ける。
 悠希が寝ているベッド傍に椅子を持ってきて腰掛ける。
 悠希も話しやすいように上半身を起こして彼女にそっと胸の内を語った。
 体育の授業に垣間見える女の子の白い肌、そっと流れ込む柔らかな匂い、胸元の男子にはないふくよかな膨らみ。
 慣れてきたと思ったが、やはり男としての自覚を持っている分やはり耐えられない時がある。
 その都度鼻血を出して周りの生徒に心配をかけてばかりなので困っているということだ。
「まぁこればかりは仕方がないけどね。あなたの秘密を知っている人は何人かいるの?」
「はい、何人かは……」
「なるほどね……」
 幼い頃から同性にいじめられてきたせいか男性に対して抵抗感を抱いてしまうためにこの学院に入学。
 幸い見た目は他の女子に紛れても何ら問題ない外見だった。
 だが心はれっきとした一人の男性としての個を確立しているので女の子に囲まれた生活に慣れることのできない部分もある。
「僕、やっぱり性別がばれたらここにはいられないでしょうね。男が女学院にいること自体、駄目なんだから……」
「別に駄目ではないと思うわよ」
「えっ?」
「そのうち分かるわよ、きっとあなたにもね」
 沈んだ表情の悠希にシャウラはそっと言葉を掛ける。
 意味が分からないといった感じだが彼女はそれ以上何かを答えることはなかった。
 その時見せたシャウラの柔らかな表情が悠希の瞳に焼きつく。
 何故か分からなかった、だがその表情を見ていると彼の心は落ち着いていった。
 いつかきっと、曖昧な言葉だが彼女の心の冷たい部分には暖かな日差しが当たる、そんな感じを覚えていた。

 
 とある日の保健室、シャウラが所用で出かけているので保健室は無人……ではなかった。
 誰もいないことをいいことに、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が保健委員としての務め兼授業サボりをしている。
 授業に出ないことは確かに魅力的だった。しかしそのためやることがない。
 怪我人でも来ればそれなりに時間が過ぎるのだが、今日に限って訪れる者は誰一人いないといった感じだ。
 さすがにあまりの静かさに欠伸をして暇を持て余している大佐。
「誰か来ないかな、重篤患者とか」
 さらっと保健委員では対応できないような患者を希望する大佐。だがあくまで冗談だ。
 本当に来たら色んな意味で大変なことになってしまうだろう。
 そんな危険な想像をしていると、保健室の扉を叩く音が響いた。
 誰か来た!と若干心弾んでいることは隠しつつ、訪ね人を室内に招く。
「失礼いたします、あら毒島さんではないですか」
「小夜子ではないか、どうした?」
 純白の髪に透き通る肌をした女生徒、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が片足を庇う歩き方で毒島に近づく。
 椅子に腰かけて大佐に病状を話すと、最近の訓練のしすぎで足の打撲が中々治らずにいると彼女は話した。
 それではと、大佐は小夜子の打撲部分を見てそこに治癒呪文をかける。
 青紫の部分が徐々に本来ある肌の色に戻っていく。
 やがて痛みも完全に引いたのか、小夜子は足の痛みを感じなくなるまでに回復した。
「ありがとうございました毒島さん」
「何、我も退屈しておったところだ。何時でも怪我してくるがよい、ちゃんと治してやるぞ」
「あの、怪我しないようにというのがお決まり台詞では……?」
「そんなテンプレ的な台詞などつまらん」
 大怪我すること大歓迎、とでも取れる発言に小夜子は苦笑する。
 その後、二人は軽く話して小夜子は一足先に教室へと帰っていった。
 一仕事終わり、机の上にあったコーヒーを口に運ぶ。
 ほろ苦い味が彼女の喉を通り過ぎる。
 今日もまたゆっくりとした時間が流れていた。


 保健室というのは基本的に混むということはない。
 では混雑すると一体どのようになるだろう。
「待ってください、鼻血は綿ボールで止めるようにしてください!あぁ、そんなに消毒液を使っていけませんってば!って、それは止血帯ではないです、ちゃんと指示通りにしてください!!」
 保健室に詰めかけている生徒たちを一人の保健委員が対応している。
 毒島ではなく、本日の保健委員はイナ・インバース(いな・いんばーす)、ネコ耳バンドを愛用している女子生徒。
 普段はほんわかとしている彼女だが、今はそんな彼女はどこにもいない。
 何故だか今日に限って怪我した生徒がたくさんいたのだ。
 理由は爆発物処理演習という何とも危険極まりない授業のせいだ。
 現に外からはけたたましい音と叫び声が混じり合った交響曲が奏でられている。
 ここまでなら問題はない、イナは野戦病院で看護師経験もあるため忙しいのには慣れている。
 問題は対応する人数だ、イナ一人なのだ。
 シャウラは十二星華としての仕事のため不在、大佐は現在授業中のため手があかない。
 しかし大佐の場合は前回のサボりの付けが回って授業を受けなければならなかったのだ。
 そんなこんなでイナは一人で仕事をするしかなかった。
 怪我しただけならまだいい、しかしここは仮にも女子高。
 危険すぎる授業内容に精神的にダメージを負ってしまう生徒がいた。
 カウンセリングも兼ねた仕事もこなさなければならないため、イナはもう手が回らなくなってしまう。
「大丈夫よ、実際にあなたが実戦でやるとは決まっていないんだから安心して……だから!その程度の怪我には軟膏塗っときゃいいだろうが!ちっせぇかすり傷でピーピー喚くんじゃねぇ!!」
 泣きじゃくる生徒をなだめつつ治療も継続している。
 しかしあまりの忙しさにイナの口調は段々と荒くなる。
 忙しさは収まることは知らず、保健室前の廊下はまだかまだかと行列を作っていた。
 時に天使の笑顔、時に悪魔の形相と使い分けてイナの一日は過ぎていく。
 結局、この日は放課後まで彼女は生徒の介護に追われることになるのであった。