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高山花マリアローズを手に入れろ!

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高山花マリアローズを手に入れろ!

リアクション

 その頃、森の広場では、一同が目を覚まし、不寝番をしていた連中が消えているのに気付いて騒いでいた。
「一体何があったんだよ?」
 世 羅儀(せい・らぎ)もパートナーの白竜の姿が見えぬのに気付き動転していた。
「こんな事なら、一緒に寝ずの番をするんだった!」
 羅儀はつぶやいた。
 本来なら、昨晩は自らも寝ずの番をするはずだったのに、少し微熱のあったため、白竜だけが不寝番をすることになったのだ。慚愧に耐えない。
 その時、どこからか声が聞こえて来た。
『羅儀……羅儀、聞こえるか?』
 白竜の声だ。声は頭の中に響いてくる。どうやら精神感応で語りかけて来ているらしい。食虫植物以外はさっきの広場と似たような場所ですわね
『白竜、どこにいるんだ?』
 羅儀は精神感応で答えた。
『ドリアードの国だ。他の連中もここにいる。夕べ捉えられてしまったが、安心しろ。みんな無事だ』
 その言葉に羅儀は胸を撫で下ろす。
『よかった。それで……帰って来られるんだね』
『ああ。心配するな。それより、大事な連絡があるからシズルさん達に伝えてくれ。閉じられた空間から出て、マリアローズの咲く場所に向かうための方法をドリアードに教えてもらったんだ』
『わかった。ちょっと待ってくれ、メモを用意するから……』
 そう言うと、羅儀はメモを取り出し、白竜の言葉を写し取っていった。

 それから、一行は羅儀のメモに従って先を急ぎはじめた。
 メモによれば、例の三叉の巨木の真ん中に見えない道があるという。それが、閉じられた空間から出る道で、先頭をいく者が木の幹に手を当ててドリアードから教えられた呪文を唱えれば道が見えてくるという。呪文はメモに書いてあった。それで、シズルが先頭に立ち、木の幹に手を当ててメモのとおりに呪文を唱えるた。すると、巨木が消え、目の前に一本の道が出現した。

「道だ……!」
 スタインが興奮ぎみに叫ぶ。
「よかったですわね、スタインさん。これで、先に進めますわ」
 と、レティーシア。
「ああ」
 うなずくと、スタインは皆に感謝しながら歩きはじめた。
 道はそれほど入り組んでおらず、まっすぐに山頂に向かっているようだった。道なりに歩いていくと、やがて目の前に巨木のある広場が見えて来た。その巨木の前には、巨大な食虫植物が生えている。
「食虫植物以外はさっきの広場と似たような場所ですわね」
 レティーシアが言う。
「あれが、最後のトラップみたいよ」
 シズルが説明する。
「あの巨木の向こうにも見えない道が続いているらしいわ。でも、その道を行くためには鍵が必要で。その鍵を持っているのがあの食虫植物だって……」

「つまり、ラスボスってわけでございますわね。シズルさん」
 いつの間にかシズルの横に立っていた秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が言う。つかさはシズルの師匠だ。
「そういう事ね」
 シズルは自分の師を見下ろした。
「じゃあ、行きましょうか」
 シズルは身に帯びた日本刀を手に走り出す。
「ああ! 待って、シズルさん」
 つかさはシズルの後を追って走り出した。
 
 食虫植物はシズルに気がつくと、早速触手を伸ばして来た。つかさが追いついて来て叫ぶ。

「シズルさん。こういうものに不用意に近付いてはいけませんっ……不用意に突っ込んでは巻き込まれてしまいます」
「……分かってるわ。師匠」

 シズルは顔を赤らめた。つかさは笑顔で言った。

「さて、戦いしか知らないシズルさんに色々教えないといけないですね。今日は触手プレイについて教えましょう。触手プレイとは生物や植物の触手でウネウネされたり、樹液などでドロドロにされる女の子を見たいという世の中の男性はそういう変わった趣向の人も居ますのでね……やられる方は実際楽しくもなんともないのですが……。とりあえず離れていてくださいませ、私が見本を……」
 いうと、つかさはやみくもに食虫植物に突っ込んでいく。待ちかねたように、植物は触手を伸ばして来た。つかさの体が絡めとられる。
「あぁん……そんな……いきなり駄目です……」
 ピンク色のツインテールを揺らしてつかさが悩ましげな声を上げる。
「師匠……!」
 青ざめるシズルに向かって、つかさは言った。
「シズルさん、こういったものとやるときは覚悟する事……やられてしまう事をね……ああ! そこは駄目……」
「……師匠……」
 色っぽく喘ぐつかさを、シズルは固まったまま見上げている。
「誰かが助けてくれるなんて事はないかもしれないのですからね! ……ああ! ダメですってば……いやあ」
 触手から樹液があふれ、つかさの体がドロドロになってきた。
 ぼう然と見上げていたシズルの背後から触手が。

「ああ!」

 シズルの体も絡みとられる。



「シズルさん!」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)は絡みとられたシズルを見て叫んだ。
「助けないと!」
 そういうとアサシンソードを片手に触手に突っ込んでいく。
 その後ろ姿を見て、藍玉 美海(あいだま・みうみ)があきれたように言う。
「ふう、沙幸さんったら無謀にも食虫植物に突っ込んで行くだなんて、そんなに触手につかまりたいのかしら?」
 その声が聞こえたかのように沙幸が答える。
「相手は植物だし、根元から切り落とせばきっと動けなくなるはず!」
 言葉通り、沙幸は迫り来る触手をアサシンソードなぎ払いながら進んでいく。狙いは根元だ。
 しかし、巨大な植物の根は若木程の太さがあり、簡単には斬れそうもない。しかも、
「わわわ、なんなのこのうねうね動く蔓は!」
 植物の蔓が伸びて来ては、沙幸の小さな体を巻き取ろうとする。
「しつこい! もう、いや!」
 沙幸が叫ぶと、
「氷術!」
 背後から美海が氷術をかけた。すると沙幸を捕まえようとしていた触手がみるみる凍っていく。
「ありがとう、美海。二人なら無敵ね!」
「それは、どうでしょう……」
 美海はハンカチをマスク代わりにしながら首を傾げた。
「確か、あの食虫植物は……妙な香りで近づくものを眠らようとするはずでしたから……」
 美海が言った時、どこからともなく素晴らしくいい香りがして来た。
「あれ? なんだろう……この変な香りは……」
 沙幸は大あくびをした。
「なんだか眠く……、だ、だめ、こんな所で寝ちゃったら……、触手に絡まれた女の子がたどる道なんて……一つしか……」
 沙幸は、変な想像をして顔を赤くしつつも眠ってしまった。その体に触手が巻き付いていく。
「ああ! 沙幸さん!」
 美海が叫んだ。
 
「ぶった斬りゃ全部解決!」
 胸にさらしを巻いただけの獅子神 刹那(ししがみ・せつな)は絡み付こうとする触手をものともせず、綾刀を振り回して暴れ回っている。走るたびにさらし越しの大きな胸が揺れる。
「こういう、分かりやすい戦いが一番スカっとするぜ!」
 刹那が楽しそうに叫んだ。
 その側で服部 保長(はっとり・やすなが)がヒートマチェットを片手に戦っている。そして、遠慮がちに決めゼリフを言う。
「伊賀の忍の極意、特と見……いや、見なくていい……」
 保長などという男名だが、実はお色気たっぷりのくの一だ。
 二人の色っぽい女性を従え、閃崎 静麻(せんざき・しずま)が怯懦のカーマインをぶっ放している。
「あ!」
 保長がつぶやいた。
「静麻殿、大変でござる。つかさ殿、シズル殿に続き、沙幸殿まで触手に絡まれたでござる」
「何?」
 静麻は前方を見た。そこでは3人の女性が触手に巻き取られ、色っぽく喘いでいる。
「くそ、いまいましい蔓だぜ」
 静麻は植物の根元に向かって爆弾を用い破壊工作で攻撃した。しかし、化け物植物にはたいしたダメージを与えられない。

「くそ、もういっちょ」

 今度は死角に入り、同じく爆弾を用いブラインドナイブスで攻撃。しかし、なかなかダメージを与えられない。
「そんな攻撃じゃ駄目だぜ」
 刹那が首をすくめた。
「あいつは今までの奴とはわけが違うぜ。なにしろラスボスだからな! あそこに捕まってる子達も加えて全員で技をかけないと、どうにもならないと思うぜ」
「しかし、捉えられた御仁達、みな催眠ガスや触手の攻撃で正気を失っているように見えるでござる」
 保長がシズル達を見て言った。
「目をさましてもらえないと、にっちもさっちもいかないでござる」
 その言葉に静麻はうなずいた。
「……ってことは、いよいよアレの出番だな」
「え?」
 刹那が青ざめた。
「アレを出すのか?」
「ああ。みんなを正気に戻すには、あれが一番だぜ」
 と、静麻がふところに手を入れる。
「悔しいけど、一理あるな。仕方ない。逃げるぜ! 保長!」
「え? え? なんでござるか?」
 話が見えていない保長の首根っこをつかみ、刹那は思い切り走り出した。それを見届けると、刹那は懐から爆弾を取り出し、化け物植物に向かって思い切り投げつけた。

 ド……カアァァァァァアン!

 凄まじい轟音とともに爆弾がはじける。しかし、この爆弾の恐ろしいのはそこではなかった。

「んあ?」
「ムガ?」
「いい?」

「なんですか? この悪臭は!」

 ハンカチ片手に美海が叫ぶ。
「く……さーい!!」
 沙幸が切なげな声を上げて正気に戻った。

「は! ……なんですか? この強烈な悪臭は!」

 つかさも我に返った。

 化け物植物も悪臭に気付いたのか、悲鳴のような音を立てて、捉えていた少女達を触手から離してしまう。

 静麻が得意げに言う。
「どうだ、見たか。世界一臭いシュールストレミングのエキスを全力で濃縮して仕上げた、俺様の最臭兵器爆弾……」
「確かに凄いけど……」
 鼻をつまんで刹那がつぶやく。
「味方まで、参ってしまったようでござる」
 二人の後ろでは、スタインを始め一同があまりの臭さに苦しみもがいていた。


 しかし、おかげで沙幸やシズルやつかさは正気に返り……
 美海がつぶやく。
「すいません。色っぽい沙幸さんの姿につい見とれてしまいました……。しかし、そろそろ本気になりましょう。相手は植物ですし、凍り付かせてしまえば身動きが取れなくなるか、もしくは動きが鈍くなるでしょう」
 そういうと、美海はブリザードを唱えた。

 美海の周りの蔓や葉が一瞬にして凍り付く。
 その隙を狙い、沙幸は渾身の力をこめたアルティマトゥーレを根元に放った。
 刃が根の半分まで届き、植物が半分ほど傾ぐ。

「化け物が傾ぎましたわ」
 つかさがつぶやいた。
「きっと、沙幸さん達の攻撃が効いたのですわね。それでは、私もそろそろ本気を出すとしましょう……」
 そういうと、彼女は口の中で何かを唱えはじめた。そして、
「我は射す光の閃刃!」
 叫ぶ声とともに、女神イナンナの威光が光の刃となり植物に襲いかかる。刃は植物の茎や根をズタズタに切り裂き……。

 ズ……ズウウウウ……ゥン

 音を立てて巨大な食虫植物は崩れ落ちた。

「倒したか……」
 シズルがつぶやく。
「ええ」
 つかさはうなずいた。
 その時、レティーシアが倒した植物の残骸の中で、何かがきらりと光るのに気付いた。
「鍵ですわ」
 レティーシアはそれを拾い上げ、シズルに手渡す。シズルはそれをまじまじと見た。双葉をかたどったような小さな奇麗な鍵だ。
「これが探していた鍵ね」
「間違いないですわ。その鍵を木の幹の一番下にあいているうろに入れろとメモに書いてありますわ」
「よし」
 うなずくと、シズルは巨木の幹のうろを探した。そして、ちょうど自分の肩の高さのあたりに小さなうろがあるのを見つけ、そこに鍵の先を入れた。鍵はうろにぴったりとはまり、そこから根を張ってぐんぐんと成長する。そして、花が咲いたと思うと、巨木がゴゴゴゴ……と音を立てはじめた。そして、幹の真ん中にトンネルが出現する。

「この中をひたすらまっすぐに行けとメモに書いてありますわ」
 と、レティーシア。
 言葉通り、ひたすら幹の中の道をまっすぐに進んでいく。

 木の中の道は薄暗くてひんやりとしている。しかし、木陰に休むような穏やかな涼しさだ。危険は感じないが警戒は怠らずに進む。10分ばかり進むと、目の前に光が見えてきた。

「出口だ!」
 スタインが真っ先に駆け出した。一同もそれを追って走り出す。
 そして、駆け出した先には……。

「凄い……!」
 シズルが感極まって叫んだ。
 そこは、一面の花畑で、色とりどりの高山植物が咲き誇っている。
「メモによれば、この中にマリアローズがあるはずですわ」
 レティーシアが言った。
「探しましょう」
 一同はうなずくと、各々花畑の中に分け入っていった。