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リアクション
4章 消えかけた命 ミュゼットの元へ急げ
それから一行は元来た巨木の中の道を急ぎ足で通り過ぎて行った。驚いた事に、一同がトンネルを抜けてしまうと巨木は陽炎のように消えてしまった。
「一度きりの往復切符か……」
シズルが振り返ってつぶやいた。
それから、さらに森の道を急ぎ足で下っていく。誰もが焦っていた。急がなければならない……ミュゼットの容態は一刻を争うのだから……。ところが……。
「お急ぎのようですね」
一同の前に妙な男が立ちはだかった。赤い髪を後ろで束ねた男だ。
「私の名前はエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)。そこのお嬢さん、おもしろいものをお持ちのようですね」
そう言って、エッツェルはレティーシアが胸にかかえているマリアローズに目をやった。
「それは、マリアローズですね。10年に一度しか咲かないという、貴重な花……」
すると、スタインがレティーシアを守るように一歩前に出た。
「察しのとおり、これはマリアローズだ。妹の病気を治すために採って来たんだ」
「なあるほど……妹さんの命を。もしかして、あなたはスタインさんですか? 掲示板で仲間を募集していた……」
「察しのとおりだ」
「そうだ」
「噂では、まっすぐな気性とその猪突猛進差でさすがのシズルさんもあきれていたとか……?」
そういうと、エッツェルはクックと笑った。
「だから、なんなんだ?」
スタインが不快そうな顔をすると、エッツェルは言った。
「少年、あなたはもし今、同じく妹が病気で花を求めてやってきた人物と出会ったら……どうしますか?」
「え?」
スタインが青ざめる。
「あなたは、それを手に入れるのに大変な苦労をしたようだ。なにしろ、マリアローズは10年に一度の花……。そして、あなた方が持っているのはどうやらひと株きり。つまり、助かるのはどちらかの大切な人だけだ」
「……」
動揺するスタインに向かって、エッツェルは意地悪く尋ねる。
「何を迷っているのです? ふふふ。あなたには『その時』の覚悟がありますか?」
そういうと、エッツェルはいきなり一行に襲いかかって来た。
「レティーシアさん! スタインさん!下がって下さい!」
紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が前に飛び出して妖精の弓を撃つ。
エッツェル肩に矢が当たり、血が噴き出した。
「それでは、私も……」
プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)龍骨の剣で袈裟懸けに斬りつける。エッツェルの肩から胸にかけて血が噴き出す。それを見て睡蓮が安心したように言った。
「どうやら、強そうなのは見かけだけのようですね」
しかしプラチナムは首をかしげる。
「あなた、なぜ避けようとしないんですか?」
プラチナムの言葉にエッツェルが笑い出した。
「クククク……それは、痛くも痒くもないからです……」
「なんですって?」
睡蓮が眉をひそめると、エッツェルは笑いながら言った。
「『痛みを知らぬ我が躯』によって全ての物理攻撃は、私に効きません!」
青ざめる二人の前でゆっくりとエッツェルの傷が塞がっていった。
「おまけにリジェネレーションですか」
睡蓮がつぶやく。
「厄介な奴みたいですね」
プラチナムが答えた。
「これなら、どうです?」
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が叫ぶ。そして、ティアマトの鱗を両手に持ち斬り掛かる。エッツェルは龍鱗化。唯斗の攻撃を跳ね返した。布袋 ねね(ほてい・ねね)がアーミーショットガンで援護射撃を行う。しかし、結果は同じだ。
「そこまでですか?」
エッツェルは笑いながら言った。
「それでは、次はこちらから攻撃させてもらいましょうか……」
エッツェルは『絶対闇黒領域』で闇の化身となった。そして、左手の平にある開口部から奇剣『オールドワン』を引き摺り出し思い切り振り回した。
刃がムチのようにしなり、襲いかかってくる。
「きゃっ!」
睡蓮が吹き飛ばされて悲鳴を上げる。他の一同もオールドワンの刃で大ダメージを受けた。
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が命のうねりを唱えた。仲間全員のダメージが回復。しかし、回復しきる前にエッツェルは『地獄の門』を用い大魔弾『コキュートス』を撃った。一同にに闇黒属性と氷結属性の魔法ダメージ。
「駄目だ。物理攻撃が効かない上に再生能力も攻撃力も強い。ケタが違いすぎる……!」
と、唯斗。
「ううん! 絶対に何とかなるよ!」
つぶやくと、ねねは『博識』を用いた。そして叫んだ。
「光輝系か魔法の攻撃を使ってみて! 今のあいつ『龍鱗化』で物理攻撃には強くなってるけど『絶対闇黒領域』なんか使ってるから光輝系の攻撃への防御力が落ちてるはず」
「それならば、わらわにまかせろ!」
と、エクス・シュペルティアが前に出る。そして、
「『我は射す光の閃刃』」
と、叫び、女神イナンナの威光を光の刃に変えて放った。光の刃がエッツェルの体を切り裂く。しかし、エッツェルは笑っている。
「なかなかやりますね。では、こちらの番……」
そして、再び『コキュートス』を撃った。
「ああ!」
一同が吹き飛ばされる。みな、血だらけになり、立ち上がるにも立ち上がれない。あまりにも力の差がありすぎる。誰の目にも、勝負の行方は見えていた。
「もう! やめてくれ!」
スタインが叫んだ。
「マリアローズはお前に譲るから……!」
「なんですって?」
エッツェルがスタインを見る。
「いいのですか? それを私に譲れば、妹さんの命は助からないのですよ」
「いいんだよ。もう、これ以上みんなが傷つく姿を見たくない」
「スタインさん」
唯斗がよろよろと立ち上がった。
「俺たちの事なんか気にしなくていいんだよ。俺はね、ミュゼットさんを護りたいんだ。そのためには戦うさ。この手が届く限り何度でも……」
「いいんだ」
スタインは首をふる。
「ミュゼットのために誰か一人の命でも犠牲にしちゃいけない。そこまでして、助かったってミュゼットは喜ばないよ」
「スタインさん……」
ねねが唇を噛み締める。
「ごめんなさい……ごめんなさい。スタインさん」
「レティーシア。マリアローズを僕に……」
「わかり……ましたわ」
レティーシアはスタインにマリアローズを差し出した。スタインはそれを持って、まっすぐにエッツェルの元へと歩いていく。
「本当にそれでいいのですね?」
エッツェルが念を押した。
「ああ、いいよ。つべこべ言わずに持っていってくれ」
「くっくっくっく……あーっははははは」
エッツェルが朗らかに笑い出す。
「なんだよ、なにがおかしいんだよ?」
スタインは眉をひそめた。
「嘘ですよ。私に妹なんていません」
「なんだって? じゃあ、何のためにこんな芝居を。みんな死ぬところだったんだぞ」
「ふふ……まっすぐなスタイン君。でも、ただまっすぐであればいいというもんじゃない……ということが分かりましたか?」
「え?」
「でも、今の君は良い顔です……あなたの未来に幸多からんことを」
「……」
エッツェルはそう言うと、武器をおさめて歩きはじめた。
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