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復讐を捨てた果てに

ザンスカールのとある家で。

「たっだいまーっ!」

音楽業界でマニピュレーターをしている、椎堂 紗月(しどう・さつき)
仕事が終わるとまっすぐに家に戻ってきた。

「お父さん!」

妻にウリ二つの息子の葉月が紗月に飛びかかった。

「ねえねえ、お父さんお歌歌ってよ!」

女性にしか見えない紗月にそっくりなのは娘の未月である。

「しょうがないな〜」

「二人ともまずは“ただいま”でしょ。
ふふ、お帰りなさい、お父さん」

鬼崎 朔(きざき・さく)と紗月は7年前に結婚した。
そして双子の子供が出来て3年。

今日は二人の誕生日なのだ。
未月と葉月の好きな食べ物を用意して、パーティーは始まった。

紗月は趣味で続けている歌を披露すると、子供たちは踊り始めてた。
そのぐらい大好きなのだ。

(紗月の歌声、本当にキレイだな。
……この人が夫で、良かった)

朔は心からそう思う。
かつては復讐に生きていた。

だが、それを捨てて愛する人と歩み始めた新しい人生。
平凡だけど、それでも心のそこから感じられるこの幸せ。

朔はいつの間にか涙が流れているのに気がついた。

「どうしたんだ?」

「「お母さん、大丈夫?」」

紗月と子供たちが心配そうに覗き込んでくる。
朔は笑いながら答えた。

「あ、ごめん。イヤなことがあったんじゃないんだ。
……家族みんなでこれからも過ごせたらな、って」

復讐を捨てた果てにあるものを、朔はかみしめていた。