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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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(2)『水泳』

『『さぁ〜〜↑↑↑〜〜て皆さまお待ちかねっ、ここからは「アナタの心に一輪挿し」神崎 輝(かんざき・ひかる)がお伝えしま〜〜〜す!!』』
 アイドルらしからぬ……いや、むしろ『らしい』だったりするのだろうか。『熱狂のヘッドセット』を握りしめるは、意気揚々と『小型飛空艇』に乗り込んだ。
『『我こそはと第二種目『水泳』への参加に名乗りをあげた猛者たちが今っ! 一斉にスタートラインに立とうとしています、いえ!! 川の中へ入ろうとしていますっ!! 今まさに『入水』の時です!!』』
「入水って……オレたちゃ死ぬのか」
 フライング気味に水に入りていたハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が静かにツッコんだ。
 天候は晴れ、陽射しも強い、故に無駄に、そう無駄に暑い。こんな暑い中、サイクリングやマラソンなんてやってられるか、んなもんは正気の沙汰じゃねぇ、とパートナーにゴネてムクレた。
 結果はこの通り。彼は非常に満足していた。
 脚を撫で流れる水も、厚い胸板に当たる水も実に心地よい。この涼水の調べを、こともあろうに『入水』だなどと表現するとは……水を差すとは正にこのことだ。
「ったく冗談じゃねぇってんだよ、なぁ、レリウ……ス」
 パートナーであるレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)を見上げ、気付いた。
「やべ、レリウスに化粧すんの忘れてた……」
 化粧とは言っても『顔』にではなく『肢体』にである。幼い頃から戦場で生きてきたレリウスの体には弾痕や斬り傷が無数に存在する。どの角度から見ても酷い傷跡は体のどこをどの角度から見ても見えてしまう。
(まぁ、一般人じゃねぇんだし、そんなに騒ぎ立てるような事はしねぇよな)
 と思ったのが甘かった。
『『な〜〜んとっ!! 傷だらけです! 全身傷だらけ、正に傷だらけの戦士が光臨しましたっ!!』』
 ギラついた実況アイドルが早速食いついた。
『『戦士がいま水の中に入ります! 痛くはないのでしょうか、染みないのでしょうか、しかし傷は纏うように全身に見られます、どこから入っても逃れる術はありません〜〜〜!!』』
「だぁ〜!! うっせーんだよテメェっ!!」
 ある意味、一般人よりもタチが悪い。おかげで、傷に気付いてなかった生徒たちまでレリウスに目を向けてしまっていた。
『『資料によると〜、彼の名前はレリウス・アイゼンヴォルフ、なるほどぉ〜教導団所属ですか〜、ということはアレですね、体の傷は正に勲章というわけですね』』
 どこの猪木だ。
『『しか〜し!! ボクの目は誤魔化せない!! 大きな傷ばかりが目立ちますが、体中に無数の小さな傷があることをボクは見逃しませんよっ!!』』
「おいテメェ、いい加減に―――」
『『小さな傷跡はドジッ子の証、いえ、やんちゃ坊主の証に他なりません!! さぁレリウス選手、無事にゴールまで辿り着くことが出来るのか、それともやっぱりコースアウトなのか〜〜?!!』』
 ………………………………。
 少しでも悪意を感じたなら粛正していただろう、それはおそらくレリウスも同じ。しかしこれは一体どうした事だろう、これも『熱狂のヘッドセット』の効果なのだろうか。
 ―――無理に笑い話にされたことで、どこか心は楽になっていた―――
「行くぞ」
「お、おぅ」
 傷だらけのやんちゃ坊主に促されてハイラルも水中に潜り込んだ。どうにも腑に落ちない気持ちを抱えながらに2人のレースをスタートさせた。
『『さぁ〜てさて、各選手一斉にスタートしました、まず飛び出したのは〜〜〜〜やはり『レリウスハイラルペア』だ〜〜〜〜』』
 川の流れを諸ともしない力強いドルフィンキック、そして手を繋いでいるとは思えない程に息のあったクロール。正攻法だが確実に、そして高難度な事を顔色変えずにやってのけるあたりがこれまた憎たらしい。
『『おぉ〜っと、開始早々、各チームに戦術の色が見え始めましたよ〜〜、『桐生オリヴィアペア』はディフェンスシフトかぁ〜〜〜〜?!!!』』
「ディフェンスシフトねぇ、フフフ、よく言ったものだわ」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がクスッと笑った、無論、水面から顔を出した状態で。
「こ……こんな感じで良いか……なぁ」
 オリヴィアよりも一回り小柄な桐生 円(きりゅう・まどか)も顔を出して彼女に訊いた。『レビテート』の塩梅は如何だろうか、と。
「適宜よ、。そのまま続けて」
「わ……わかったよ」
 レビテート。地面から少し浮いた状態での移動を可能にするスキルである。それを使って2人は水中にも関わらず地に立ったままの状態を維持している。いわゆる「立ち泳ぎ」だ。はその発動と調整役を担っていた。
 そしてオリヴィアはと言えば、
「ふぅ〜ん、面白くないほどに、異常ないわねぇ」
 『ディテクトエビル』を用いての周囲の警戒を行っていた。
「一応学校対抗のチーム戦って聞いたから妨害行為が横行すると思ったけど〜、何だか拍子抜けしちゃうわ」
「いやでも何か……するなら……ゴール近くでやった方が効果的……だからじゃないか……な」
 可愛い顔してSっ気のある事を言っていた。ちなみにが息を乱しているのはオリヴィアを支えているからである。
 水中での『レビテート』が立ち泳ぎを可能にしたと言っても、流れの中でその状態を維持するのは思ったほどに容易ではない。体の小さなには尚更だ。
「そうねぇ〜、じゃあ、さっさとゴール、目指しちゃおうかしら」
「それじゃあ今度はボクがガンバル番だねっ」
 さっきからずっとは頑張っているのだが、それをそうと主張しない所もまた彼女の良い所である。
『『おぉ〜っと、これは!! 『桐生オリヴィアペア』水中を一気に加速だ〜〜〜』』
 今度はオリヴィアがしがみついた。水中で、そしての『ロケットシューズ』を使い一気にブーストした。今度の『レビテート』はその加速の中で舵を取ることを可能にしていた。
『『なるほど〜〜!! 何とも頭脳的な作戦!! ロケットシューズは消費SPが0なので何度でも何度でも何度でも立ち上がり呼ぶ―――じゃなくて、何度でも使う事が可能!! 何とも上手い使い方だぁ〜〜〜!!!』』
 スキルを巧みに利用していると言えば、こちらのペアも見逃せない。
「お先に失礼しますわ」
 ご機嫌な声で参加者たちをごぼう抜きにしているのはティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)、そしてペアを組むシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)である。彼女たちは『軽身功』を駆使して水面を走り進んでいた。
「こんなに楽をして良いのでしょうか」
「注意を受けないという事は問題ないという事です、心配いりません」
 そう答えると多少傲慢な態度に思われがちだが、もちろんシャーロットは競技開始前にルールの確認と『軽身功』の使用許可を得ている。
 それなのにそう答えないのはティセラへのささやかな反抗でもあった。
「先日、セイニィと買い物に行かれたそうですね」
 おもむろにティセラが訊いてきた。
「とても満足のいく買い物ができたと言っていましたわ」
 買い物……空京デパートに行った時の事だろうか。あの時は確か……。
「えぇ。楽器屋を幾つか回って、本屋巡りにも付き合ってもらいました」
「楽器に本屋、ですか……」
 なぜ急に彼女の話題を出してきたのだろう、それも探りを入れるような感じで。
 セイニィとペアを組みたいと申し出た時、ティセラはそれを阻んで自分と組んだ。セイニィから遠ざけようとしているのかと思ったのだが……。
「パイプを好まれていると聞きました。どこで購入されているのです? 空京にシガーバーなどがあるのでしょうか?」
 とか、
「客員教授をなされているそうですが、毎日朝が早くて大変なのではありませんか?」
 など、途中からシャーロットへの質問ばかりになっていた。
「セイニィがいつもお世話になっているようですし。ゆっくりお話したいと思ったものですから」とティセラは後に告白した。
 単なる興味……いや、確認にも近いものだろうか。それもこれもセイニィを想うが故、なのだろうか。
 会話をしながらの水上歩行。とても『水泳』という種目に参加しているとは思えない優雅さだった。
 そんな2人とは対照的に、自らに文字通り『足枷』をつけて泥臭く水中を泳ぐ者たちがいた。
 『ルカルカダリルのペア』である。
 手錠で繋いだ2人の足を一本に見立てれば、足は3本。両足でバランスを取りながら、中央の足を動力部にして力強く漕ぎ進んでゆく。息のあった2人だからこそ、要領を得るのもまた早かった。
 完走を目指す以上、水中で自在に動く術を時間をかけずに掴むことは必須であり、それを急ぐことは当然の事でもある。しかし2人はそれ以上にどのペアよりもそれらの修得を急いだ。それはこれがベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)教諭主催の授業だからである。
「さぁて、そろそろ行くよ」
 ルカルカダリルにはそう呟いた教諭の声が聞こえた気がした。
 次の瞬間、水かさが一気に増幅した。
『『あぁ〜〜〜〜っとこれは!! 川上から水が!! 鉄砲水が流れてキタァーーー!!!』』
 教諭が用意した障害、それはトライアスロンを発案したその時から、会場となる川の水量を絞る事だった。そしてそれを頃合いを見て解き放つだけで、災害クラスの障害壁が参加者たちを襲うことになる。
 トライアスロンという競技に教諭が加えた大規模なスパイス。しかし残念な事にルカルカダリルはこれに動じる事なく対処した。
 抱き合うように互いに身を寄せ、それぞれ肩と腰にしっかりと腕を回すと、ダリルは腰に差す『黒曜石の覇剣』を川底に突き立てた。
 水量が増したと言っても、長い時間それらが続くはずはない。まして教諭が何か仕掛けを用意していると想定していた2人であればこそ、そう断定する事は容易だった。となれば対処法は簡単だ、流れが収まるまで流れの緩やかな水中で耐えているだけで良い。
 鉄砲水の襲来に、参加者たちは次々に水中へとその身を潜らせる。そんな中、ただ一人テンションを急騰させたのがセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だった。
「くぅ〜〜〜〜〜きたキターーーー!!!」
「えっ、ちょっ、セレン?」
 セレンフィリティのテンション急騰に誰よりも驚いたのはパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
「突入よーー!!」
「突入って―――」
 テンションMAXなセレン、迫り来る鉄砲水、手を離せば失格。考える時間は正に刹那だったが、彼女は意を決した。
「いいわ、一緒にいきましょう」
「あぅう、その言葉、別のシチュエーションで聞きたかったわ」
「……余計なこと考えてないで、集中っ!!」
「冗談だって。行くよっ!!」
 勢いよく2人は水中へ潜り込んだ。
 教導団所属の2人にとっては急流を川上に向かって泳ぐ事など、とうに経験済み、訓練だって積んでいる。さすがに鉄砲水を相手にしたことは無いが、その位でなければ張り合いがない。
 2人息を合わせて水を斬るように腕を回す。ただ加速するだけでは流れに打ち勝つことは叶わない、それでも川底に逃げるでは面白くない。鮭や鮎といった川魚のように、流れの弱い道を探り、そして果敢にもその流れに正面から向かって行く。
「伊達に普段から水着姿でいるわけじゃないわ!」
 完走を目指すべくペース配分はしっかりしようと心掛けていた、しかし間違いなくここが勝負の分かれ目。2人は持てる力の全てを込めて、この急流に挑みそして見事に泳ぎきったのだった。
『『おぉ〜〜〜っと何とっ!! 突然のアクシデントにも関わらず、第二種目『水泳』、は脱落者なし! 脱落者なしでゴールを迎えましたぁ〜〜〜〜!!』』
 ある者は流れに挑み、またある者は流れに耐え忍び、またある者は空を行き流れをやり過ごした。
 第二種目『完走者:5ペア』。
 暫定順位、一位:シャンバラ教導団、二位:百合園女学院、同率三位:天御柱学院、空京大学。