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尋問はディナーのあとで。

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尋問はディナーのあとで。

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第五章 尋問はディナーのあとで。

 うんざりとするような廊下を進み、扉を開けると食堂と思われる部屋にたどり着いた。
 中央に置かれたテーブル。調度品。幼い頃のリナの写真。それらはこの館に来て、初めて生活観のある空間だった。その部屋にはきちんと窓もついており、真っ白に見えるが外もはっきりと見える。どれくらい時間が過ぎたのかわからないが、そこはようやく発見した出口らしい出口と思われた。


 ☆     ☆     ☆


「ふぅ、ここからなら逃げられそうだ。これってリアル『メタル○ア』だよな。」
「何を安心しておる。まだ逃げ出した訳ではないぞ。」
 魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)は、有名な電子ゲームを例に出して安堵する猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)の気を引き締める。しかし、緊張の糸が僅かだが解れたのは確かだった。
(よかった。よかった。拷問でもされて、魔導書に内緒で合コンに参加したことがバレたら、どうしようかと思ったよ。)
(ふぅ……先日観たホラー映画のせいで一人で寝られなくなり、勇平の写真を枕元に置くどころか、抱き枕まで作製してしまったなど……死んでもしゃべる訳にはいかんからな……)
 思わず二人は顔を見合わせると、ぎこちなさそうに笑った。

 ――しかし、その緊張感を切り裂くような冷たい声が後ろから響き渡る。
「何をしているのかしら?」
 心を凍てつかせるような冷たい声。そこに立っていたのは、リナ・ヘイワーズことサディスティック・リナ。そして、執事のシャドウだった。
「人の食堂にズカズカと入り込むなんて、お仕置きだわね。」
 リナは鞭を左右に伸ばすと、威嚇するような音を立てる。


 ☆     ☆     ☆


 ブチッ……。その瞬間、何かがキレるような音がして、白いスーツ姿のエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)がキレた。
「貴女は『女王様』じゃない、単なる『暴君』です! 女王様なら女王様らしく、奴隷に鞭だけじゃなくてケーキも出さないと駄目でしょう! 心酔などしてくれませんよ!」
「……ケーキ?」
 あまりの剣幕さに危険を察知した、瀬島 壮太(せじま・そうた)はエメの言葉を繰り返す。
「勿論、奴隷が望む責めですよ! 罵りながらお仕置きします! それが嫌なら跪いて靴を舐めなさい、私がご主人様です!」
(リナとそう変わんねぇー!)
 壮太は思わずツッコミを入れようとしたが、揉めそうなので言葉を噤み、リナに問いかける。
「リナ。おまえが本当に望んでるのはこんな事なのか?」
「あら、どういう事?」
 リナは壮太の声に耳を傾けた。

「随分なご趣味だけれど、そんなのでお友達がいるのか心配ね。いたとしても、愛想付かされたりしないかしら?」
「なんですって!? 無礼な!!」
 しかし、横からのドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)の言葉にリナは激怒する。
(あぁ……流れがバラバラで話が進まねぇ。)
 苦労人の壮太にとって、この状況は電撃に打たれたにも等しく、頭を抱えてしまう。
(こんな事なら、パラミタに来てから一度もナンパに成功してないと言う秘密を語る方が楽だぁ……)
 だが、ドルチェも止まらない。
「私もどれだけの時間、吸血行為をしてないと思ってるの? まるで拷問だわ!!」
 閉じ込められた事により、長時間の吸血行為をしていなかったドルチェのイライラもピークに達していたのだ。

 そんな中、高峰 雫澄(たかみね・なすみ)はリナに思った事を尋ねてみた。それは誰もが考えた事かもしれない。
「君は何でこんな事をしてるの? 秘密を聞いてどうするつもりなの?」
「……知ってる? 秘密を共有すると友達になれるのよ。アハッ」
「友達? 秘密を共有すると?」
 リナの言葉を聞くと、雫澄は大きく口を開いて言った。
「僕の子供の頃の……将来の夢は『実姉のお嫁さん』だった。じゃあ、リナさんの秘密は?」
「実はドSなんです。」
 エメは非常に不愉快そうな顔で呟いたが、展開はシリアスだったので無視されてしまった。
「私も、友達って多いほうじゃないのよね。寂しくなんてないけれど。……嘘。本当のこと言うと、少し寂しさは感じるかしら。」
 ドルチェもリナに声をかける。

 だが、リナの方は笑ったような泣いたような顔をしていた。同時に周囲の風景が歪みだす。
「わ、私の……秘密。……実は……もう……。」
「そろそろ、時間切れですね。」
 執事のシャドウが口にすると部屋の中で何かが割れたような音が聞こえ、闇が空間を包み込んでいく。


 ☆     ☆     ☆


「これは……。もしや、女王器(=マジックアイテム)……」
 魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)が声を発すると、この地に来ていた皆の頭の中にも様々な映像が浮かんでくる。

『秘密を共有すると友達になれるんだって。でも、私の秘密を話すとみんな怖がって逃げちゃうの……。』
『あの子、私に秘密を隠していたの。尋問してやったら、泣きながら言っていたわ。リナは怖いって。リナは意地悪ばっかりするって。』
『私、どこかおかしいのかな? 人とは違う感じがする。』

『……お嬢様、大丈夫ですかっ! お嬢様っ!』

『シャドウ……、もうあの子の意識は目覚めないんだ。仕える必要はないんだぞ。』
『私がもっとしっかりしていれば、お嬢様はあんなお姿には。』

『すごい物を手に入れました。これならお嬢様も喜んでくださいます……。』
『馬鹿な。そんなに大枚をはたいて……君は正気なのか?』
『お嬢様のためならば……私は構いません。』

『これが最後……最後なんです。最後にもう一度だけ……』

 闇の中より出でた大量の情報が渦のようになり、流れ……。
 深い闇に消えていく。


 ☆     ☆     ☆


 最後に見えたのはそれほど広くない、いばらの館の一室だった。
 カプセル状のベッドに寝かされ、天井から延びる管で繋がれ、死んだように眠り続けるリナ・ヘイワーズの姿。時折笑顔を見せたりする事から死んでいる訳ではなく、植物人間状態なのだろう。傍らには女王器が置かれ、執事のシャドウが何やら操作していた。
 周りにはこの地に集められた者達が寝かされている。部屋には扉がついており、そこから外にも出れそうだった。

 そして、執事は額の汗を拭うと、全てをやり終えた顔で語りだした。
 数年前にリナは事故で植物人間状態になり、それを不憫に思った執事が「夢を共有できる」女王器(=マジックアイテム)を大金を出して手に入れ、いばらの館に閉じ込めた者達とリナとを同じ夢を見させていた事。それらを見せられた者達が自宅に戻り、噂を流す事によって、新しい人間が近づいてくる事など。リナの親族がいばらの館を手放す事になり、今回が最後となる事。

 執事はほぼ全ての秘密を話した後、髪型も服装も乱すことなく、上品に微笑んで深々と頭を下げた。
「……皆様、ありがとうございました。お嬢様も楽しめたようです。皆様のここでのほとんど記憶は残りませんが、お嬢様に代わりまして私がお礼を言います。最後に皆様を選んで、本当によかった。」
 全ては闇に消え、太陽の光が照らす頃、みんなは荒野で目を覚ましたという――