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尋問はディナーのあとで。

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尋問はディナーのあとで。

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第三章 暴かれていく秘密

『壁にかけられた、写真の中のリナはいつも笑っていた。』

 リナ・ヘイワーズは、ダイニングルームの中央に置かれたテーブルの前に腰掛けると、いつも無言でその写真を見つめていた。上等なアンティーク・ドールや室内に置かれた調度品の数々にも勝るとも劣らないほど上品に振る舞い、執事のシャドウが差し出すブイヤーベースを音も立てずに飲む。両親による厳しい躾けは、嫌で嫌でしょうがなかったに違いない。
 でも彼女はナプキンを膝に置き、躾けられたとおりディナーをとる。陽の神である太陽が消え、陰の神である月が姿を見せるその時間に、ルビーのように赤い葡萄ジュースを飲みながら、執事によく言っていた。

『秘密を共有すると友達になれるんだって。でも、私の秘密を話すとみんな怖がって逃げちゃうの……。』


 ☆     ☆     ☆


 深い闇――まどろみを破るように弁天屋 菊(べんてんや・きく)は目を覚ました。何か夢のような物を見ていたが、あまり詳しくは覚えていない。確かローズピンクの牢獄でリナに弱みを握られ仲間になり、ミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)らと戦ったような気がする。有無を言わせない、強い魔の力も感じた。
「理由はどうあれ。普段は仁義だなんだと言っておきがら、自分可愛さに尋問する側に回るなんて。あたしゃ最低だよ!」
 最低と言っておきながら、菊はどこかでウキウキとしていた。料理人の腕を振るい、汁粉を作り周りに並べる。目の前にはレッドローズの抜け道から脱出し、その先の罠から月詠 司(つくよみ・つかさ)猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)を逃がす為に捕まった久途 侘助(くず・わびすけ)である。侘助は腰と両手両足を椅子に固定され、観念した様子で菊を見ていた。

「さぁ、食ってもらおうか! この椀子汁粉を! 丹精こめて作ってるので味は保障するぜ!」
「これが拷問? ……って、目の前に汁粉なんて置いて、俺を喜ばせる気か? それに汁粉は最初から椀に入ってるだろう! 俺にツッコミをさせるつもりか!」
「うるせぇ! 漢(オトコ)なら黙って食わねぇーか!! あたしが丹精込めて作ったんだからさッ!」
「うぐぅ……。」
 味は絶品であるが、糖分は通常の五十倍と言う【弁天屋印の椀子汁粉】が、次々と侘助の口に押し込まれていく。
「う、うぅ……馬鹿な!? 予定と違う! や、やめ……うぷっ!!」
「作った以上は冷めきる前に食ってもらう。いいや食え。残すなんてゆるされねぇ、食い物を粗末にするんじゃねぇ!」
 まさに【鬼】であった。おそらく侘助がバタンキューと倒れるまで、彼女の尋問は続くのだろう。でも、菊も辛いのだ。表面上は笑っているように見えるが、心の中ではおそらく泣いて……。
「ギャハハハハッ! 食え! 太りたくなかったら白状しな!!」
 号泣しているのであろう。
「す、すまん……俺は悪いと思いながら、パートナーの分の……団子を食った……。」
 そのあまりの責め。ついに侘助は己の罪を認めた。
「何だって!? そんな仁義に反する事……この外道! 外道!! 外道がッ!!!」
「ぐわああぁぁぁっー!!!!」
 相手が悪かったとしか言うしかない。侘助は再起不能になるまで責められ続けるのだろう。


 ☆     ☆     ☆


 そして、菊による恐ろしい拷問に並ぶような惨劇がブルーローズの牢獄で行われていた。
 ベッドに並べられたのは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とパートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)である。ひたすら闇に隠れてやりすごそうとした彼女らは、装備を奪われただけでなく、僅かながらに身体を隠す程度の布を残し、服も切り裂かれていた。
「闇に隠れて、私達から逃れようだなんて、哀れな娘ね。たっぷりと遊んであげるわ。」
(クッ、油断しましたわ。この二人……強い。)
 アデリーヌは自らの判断ミスを嘆く。彼女は目を覚ました後、すぐにさゆみと話し合い対策を練った。
「あぁ、何て不運なの。牢獄からの脱獄なんて無理ゲーよ。」
「それなら、救助が来るまで人目の付かない場所に隠れると言う手もありますが、この牢獄の中で隠れる場所と言えば……」
 パートナーの事を第一に考えるアデリーヌは、さゆみとともに隠れた。だが前述のように、リナには簡単に見つかってしまう。
(な、ならば。)
 アデリーヌは説教部屋に連れて行かれる最中、リナに噛み付き、スキル【吸精幻夜】を発動させる。だが、リナはアデリーヌを睨みつけただけで、効き目があるように見えなかった。それどころか隠れ、さらに抵抗した罪として、晒し者のように視姦され言葉責めされてしまう。
「ホラホラ……これ以上、捲れたらとんでもない事になっちゃうわよ。それとも、このままお外に連れ出そうかしら?」
(う、うぅ、そんな……SAYUMIN。最大のピンチ!!)

 そんな、さゆみのピンチを救う為に、リタ・ピサンリ(りた・ぴさんり)は動き出した。リタは、さゆみ達から自分に標的が向くように……。
「早く出せ! ブス! お尻ペンペーン!」
 とアカンベーしながら挑発を繰り返す。だが、その挑発はリナを逆鱗に触れてしまう。
「生意気な口を聞くな!!」
 リナは鞭を振るい、リタの足を捕らえると引きずりこみ、鞭の嵐を降らせる。
「いて、痛てて! そんなへなちょこ鞭なんか全然痛くないよー!」
 強がってみせるリタだが、効かないはずはなかった。『サディスティック』と言われるだけあって、リナの攻撃は執拗ながら、長く耐えることのできる臀部を狙い打っている。これにはさすがのリタも降参せざる得ないだろう。しかも、リタのパートナーのベネデッタ・カルリーニ(べねでった・かるりーに)は腕を組み、その状況を微笑ましく見守っているではないか。
(リタ。素晴らしい自己犠牲の精神ですね。心を鬼にして躾けてきた甲斐がありました。見守りましょう。私は……)
 あえて言おう。ベネデッタは鬼であると。だが、そんなベネエッタの横に女の影が立ち塞がる。

「クスッ、ベネデッタ様も囚われの身だって事を忘れないで下さいね。」
「!?」
 そこにはレラージュ・サルタガナス(れら・るなす)がいた。しかも後ろに神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)も立っている。
「後ろをとりましたよ。」
「私の後ろをとるなんて、中々の腕前の女ね。」
「ふふ……言ってはいけない事を言いましたね。じわじわと弱らせて……行くのが長く楽しめるんですよ……色々と。」
 紫翠は女と言う言葉でスイッチが入ったらしい。そのあまり殺気にベネデッタは後方へ飛ぶ。そこには一脚の椅子が備え付けられている。
「わ、私は元修道院長で宗教裁判も受けた事があるんですよ。嘗めないで下さいね。」
 ベネエッタは笑いながら、その椅子に腰掛けた。グニュ……だが、その椅子は奇妙な感覚をもたらした。
「……えっ?」
「おい、この椅子は女王様以外、使用禁止だ!」
「嫌あぁぁぁ!」
 美形で、冷静で、優しそうで心は鬼……。そんなベネエッタは悲鳴をあげてしまった。なんと、それは椅子ではなく。変熊 仮面(へんくま・かめん)と双璧をなす変態。変幻自在の土下座の達人。天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)その人だ。

 高いところが好きな変熊の事。
「ハハハッ、三回転半ひねりした後、こぶ茶を飲んで首吊りなのだよ!」
 ……ぐらいのアクロバットな芸を見せるに違いないと判断した天空寺は、目を光らせながら行動した。
「奴が天なら、オレは地!! 地を這う椅子! トリプルスパイラルチェアー!」
 意味不明な決断だが、彼は椅子になる事を選んだ。見事な擬態。まさにディナーの時に使われる椅子そのものであった。
「女王様! いや……サディスティック・リナ! 君の瞳にフォーリンラヴ!!」
 熱く、燃えるような眼差し。だが、リナは冷たく汚らしい虫を見るような目で流し目するだけだった。


 ☆     ☆     ☆


「さて、次は獲物は……」
 リナが好色そうに周りを見渡すと、真っ赤な髪の毛の男が目に付いた。彼はリナの視線を感じると、そそくさと陰に隠れる。
「そこの!!!」
 すると、リナはその男。リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)に声をかける。だが、リョージュは素早く白石 忍(しろいし・しのぶ)の足を引っ掛け、口笛を吹きながら上手い具合に姿をくらます。
「おのれ、貴様! パートナーのこの女がどうなっても良いのか!!」
 リナは叫ぶと忍の両腕を縛り上げ、天井から吊るし、その雪のように白い臀部を鞭で打ち据える。
「あああぁぁ……!」
 忍は艶かしい声を上げた。
「どう。この女も実はこうされたがっているんじゃないの!」
 衆人監視の中で行われる激しい罵倒と痛みが忍を襲う
(リョージュくん、私を置いて逃げるの? ……そのほうがいい……こんな姿見られたくないし、でも……リョージュくんが捕まってこんなことされたら……ああっ。)

 悲劇のヒロインのような忍の横目に……。
「つ、次は私達の番かな?」
 小鳥遊 アキラ(たかなし・あきら)は心配そうに風間 宗助(かざま・そうすけ)に尋ねた。しかし、宗助はリナにどちらかと言えば同情的らしい。
「僕も友達とか今までほとんどいなかったからわかるんですけど、なんとなく彼女と僕って似てるような気がするんですよねー。」
「な、何言ってるの。そんな事ないよ! 宗助はあんな事しないでしょ。」
 あんな事……。具体的には次のような事である。

「あら、頬を染めて。そんなにこの鞭が欲しいの? それなら秘密を白状するんだよ!」
「わ、私。秘密なんて……ひいっ!」
 白石 忍(しろいし・しのぶ)への尋問が続く中、リョージュは持ち込んだデジカメでパートナーの悶える様を隠し撮りしていた。
(へへっ、この映像はなかなかそそるぜ。それにしてもあのリナって女。何者だ? アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の【吸精幻夜】が効かなかったみたいだし……。)
 リョージュも隙を見て、【吸精幻夜】を使用しようとしていた。だが、リナの不可解な抵抗力に疑問を感じてしまったようだ。
「無駄な事を考えるな。貴様の刑は……。」
「うっ……。」
 気がつくとリョージュも執事のシャドウに後ろをとられていた。歌なんか歌って、軽口で逃げようとしたがそんな雰囲気ではないらしい。なぜなら、シャドウはリョージュの最もされると嫌な拷問の方法を呟いたのだ。なぜ……。

『どうして、彼女はあれだけ的確な尋問を行えるのか? 各自の嫌がる事をまるで知っているかのように彼女は尋問を続けていく。』