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恋なんて知らない!

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恋なんて知らない!

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「私のチョコをあげるから、もうこんな事はやめましょ?ねっ?☆」

 ブレイブをジョブに、そして別の一面として、アイドルも生業としている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は自信に満ちた顔でそうのたまった。
 深く澄んだ蒼い瞳の先に映るのは、一組の男女。

『宮本 武藏』『小野 小町』

「……此奴、不可解な背格好をしているが、何者なのだ?」

「……さぁ?私にはさっぱり」

「チビじゃない!!ただ少し成長期が遅いだけだもん!!」

「……」

 時は3月14日。
 パラミタ大陸のある程度まで栄えた某街、とある夜の日の出来事だった。

「お主、何を言うておるのじゃ?」

「チヨコ?とはそもそも何なのだ?」

「うむぅ……」


 『ホワイトデーのお返しを奪って回る悪い奴らがいる』との話を聞きつけた彼女は、街中を練り回って、ようやくその2人組を見つけ出したのだ。


「チョコ!甘い甘い恋の味がするチョコ!!あ、でも私があげるのはあくまで『友チョコ』だからね?だって、ほら!私、アイドルだしっ☆」

「……恋?」

「そうそう!恋!人生最高のイベントでしょ?だから相手に美味しい物を贈るの!それにお返しするのが、今日!」

「……ほぅ」

「……で、お主、結局何が言いたいのだ」


 無精髭を撫でながら、武藏が興味を示す様に顔をチョコレートに向けるが、それを小町が言葉で制す。


「だ〜か〜ら〜、……他の人たちから笑顔を奪うようなことは、もうやめてもらえないかな?って言ってるんだけど!」

「恋、で笑顔……?」

「そう!貴方達がやっている事は、他の人の幸せを奪ってるの!」


 ぴくり、と小さく眉を潜める小町に、追い討ちをかける様に美羽は言った。
 
 あくまで、彼女は今回の件について穏便に済ませたかった。
 こんな事をするのは愉快犯以外に考えられないし、それなら愉快犯を楽しませてあげれば一件落着と考えていたからだ。

 だが。


「ふざけるなっ!!!!!!!!!!!!」


 彼女の予想は、外れた。


「!」

「恋愛から人々の幸福など、絶対に得られぬ!」

「そんな下らぬ物は、現世より無くなるべし!……いや、我々の手で消滅させるべしっ!!」


「……話し合いには応じない、ってことかな?」

「貴様と話す言葉等、一切持ち合わせてはおらぬな」

「そっか、……ならこっちもその気で行かせて――」


 ブレイブとしての武器、ゴールデンアクスを小さな腰から取り出そうとした時だった。
 本日、彼女にとって二度目の予想外な妨害が入る。


「う”るぁああああああっ!!!」

「ぬぅっ!!」

「!?」

「うぴゃっ!?☆」


 武藏は、刹那的とも言える早さで抜刀すると、小町に向かって繰り出された拳撃を逆刃で受け止める。
 瞬間の攻撃と防御の間に生じる亀裂から噴き出る衝撃波は、小柄な美羽を吹き飛ばしてしまう。


「オメェら、死ぬ覚悟はもう済ませてるってことで文句はねぇよなぁ?」

「お主は……?」

「名前なんてどうでもいい。どうせお前らは来世に向かうんだからな!!!」


 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)。パラディンとして従事している拳闘士の一人。

「てめぇらは、ミュリエルに涙を流させた……。それだけでぶっ殺すには十分なんだよボケ!!!!」

「はて……ミュリエル……?」

「お前らが奪ったものはなぁ!!アイツが俺の為に見繕ったもんなんだよ!!返しやがれ!!」

「……その事なら、論議叶わぬ話」

「……関係ねぇ。…………とりあえず、三億光年はぶっ飛ばす!!!!!!」


『い、いいんです……、気持ちだけで、嬉しいです、から……』

 恋や愛なんて言う感情は、マトリッツも理解してはいない。着飾る為のアクセサリーにも、興味なんて無い。
 ただ、妹の様に大事にしているミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)に涙を流させ、強がりを言わせてしまった自分が許せなかった。

 だから、マトリッツは一人ひた走り、武藏達から奪われたものを取り返す為に動く。


「ただ、奪われただけなら、同じ物を買えば済む話だ……が!!
お前らは、俺の妹分を泣かした!!……それは、許さん!!!」