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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

リアクション

 
 榊 朝斗(さかき・あさと)が目を覚ますと、そこには薄暗い天井が広がっていた。
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)達と食事しながら雑談していた所まで記憶があるのだが、それ以降のことを覚えていない。
 朝斗はぼんやりする頭で立ち上がろうとした。
 だが、手が思う様に動かせない。足も動かせない。

「え? なんで?」

 朝斗はどうにか腹筋だけで身体を起こした。
 そして――絶句した。

「なんで僕縛られてるの!? 
 なんでメイド服なの!?」

 朝斗は棺桶の中で、いつの間にか手と足の首を縄で縛られ、メイド服を着せられていた。
 縄で縛られた覚えも、メイド服を着た覚えもない。
 では、なぜ……。

「疑問を感じつつも、あさにゃん(猫耳メイドになった朝斗)は興奮していたのだった……」
「全然してない! って、ルシェンじゃないか!?」

 正面の一段高くなった場所に、ルシェンが高そうな彫刻の施された椅子に腰かけていた。
 ルシェンの服装が黒い修道服に変わっている。
 その服装をしている時、朝斗はいつもとある災難に巻き込まれる。

「ここってもしかして……」
「はい、正解。
 ここは『ルシェンの懺悔室』inイルミンスールです」
「やっぱりか!」

 ルシェンの懺悔室。
 懺悔という名のあさにゃんを弄ぶ行為を行う場所。
 要はルシェンの「男の娘で遊びたい」という欲望を解放するためだけの空間だ。
 
 あさにゃんはこれまでに数回弄ばれた。
 精神的ダメージはあるが、死ぬわけではない。
 どうせ抵抗しても無駄なので、諦めている。
 
 あさにゃんはため息を吐いた。

「それで、僕は確か私服だったよね。
 なんでこんな服になってるの? 
 ルシェンが着替えさせたの?」
「ああ、それはですね……」
「私が着替えさせたのです」

 声のした方を振り返ると、ブルーの猫耳と尻尾が愛らしい海音シャにゃん(富永 佐那(とみなが・さな))が笑顔で手をあげていた。
 あさにゃんの顔が赤くなる。
 ルシェンならともかく(実際やられたら変わらないのだが)、海音シャにゃんに着替えさせられたのは恥ずかしかった。
 そんなあさにゃんの心境を知ってか、海音シャにゃんが目を逸らして謝ってきた。

「ごめんなさい。あさにゃんの……を見てしまいました」
「み、見た!? 何を!?  何でそこを言わないの!?」
「…………ポッ」
「なんで顔を赤くしてるのさ!!」

 顔を赤くして俯く海音シャにゃん。
 その反応に慌てるあさにゃんを、ルシャンは可笑しそうに見ていた。

「まぁまぁ、それくらい良いでしょう」
「よくないよ!」
「ほら、今日も懺悔のために『天使(?)』達が来てくれましたよ。
 はい、拍手」
「僕、手を縛られてるんですけど!」

 あさにゃんを無視して話を進めるルシェン。
 ルシェンが拍手をすると、あさにゃんの背後で暗幕が開かれた。
 そこには鎖に繋がれた、ルシェン曰く『天使(?)』がいた。
 あさにゃんと同じ服で猫耳と尻尾をした、マスクをした集団。
 背中には確かに天使を模した羽がある。
 しかし、スカートから伸びたすね毛の生えた太い足や、服から飛び出したお腹の脂肪。さらに、あさにゃんを恍惚の眼差しで見つめながら、ブツブツ呟いている姿は到底天使とは言い難かった。

 あさにゃんの全身を悪寒が駆け抜けた。

「あれ、絶対天使じゃないよ! 豚の間違いでしょ!」
「失礼ですね。天使ですよ、天使。
 羽とかついているじゃないですか」
「ブヒヒとか言ってるし!」
「世の中には、そういった天使もいるんですよ」
「ウソだ!」

 あさにゃんは逃げ出そうとするが、手足を封じられている。
 暴れてみるが、棺桶は微動だにしなかった。

「天使と早く戯れたいのはわかりますが、あまり急ぎすぎてはいけませんよ。
 今日はあなたの他にも、もう一人いるのだから」
「へ?」

 ルシェンが指を鳴らす。
 すると、スポットライトが部屋の一角に置かれた棺桶を照らし出した。
 
「ア、アイビス!?」

 そこにはアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)いた。
 あさにゃんと同じように猫耳と尻尾付きのメイド服を着せられ、手足を縛られている。

「アイビスには特別に金色の天使を用意しました」
「ひぃ!」

 ルシェンが指さす天井を見上げたアイビスが、怯えた声をあげる。
 なぜなら視線の先には、依然求婚を申し込んできた黄金色に輝く玉ねぎが、網にたくさん捕らわれていたからだ。

「残念ながら、逃げられませんよ」

 脱出を試みるアイビスを見て、ルシェンが高笑いを浮かべていた。
 助けを求める二人の生贄を無視して、ルシェンが祈りを捧げた。

「さて、準備は整いましたし、さっそく……」
「あ、その前にルシェンさんにプレゼントあるんですけど」
「はい?」

 そう言って海音シャにゃんは、部屋の隅にいたローブで顔を隠した人物を、ルシェンの前へと連れてくる。

「どなたですか?」
「ルシェンさんもよく知っている人物ですよ」

 そう言って、海音シャにゃんはローブのフードを外す。
 そこに現れたのは、顔を赤く染めてとろんとした目でルシェンを見つめる、弓彩妃美だった。

「げっ!?」
「あぅん、背の高いのおねぇさまぁぁぁぁ!!」

 立ち上がって逃げだろうとするルシェンだったが、それより早く妃美に抱きつかれてしまう。
 そんな妃美は、あんなに嫌がっていたメイド服を恥ずかしがる素振りも見せず着ていた。

「ちょっと何なんですか!?
 ん、この臭い……もしかして、お酒!?」
「正解です」
 
 海音シャにゃんはあさにゃんを独り占めするために、妃美にお酒を飲ませてルシェンに差し向けたのだった。
 ルシェンは、酔っぱらって胸に顔を埋めてくる妃美をどうにか引きはがそうとしていた。
 海音シャにゃんがニヤリと笑う。

「よし、これでOK。
 ふふ、あんな汚れた連中にあさにゃんは渡せませんよ。
 代わりに私がたっぷり汚しちゃうんですから♪」

 海音シャにゃんは指をワキワキさせながら、逃げ出すことのできないあさにゃんに近づいていく。

「さぁ、あさにゃん覚悟してくださ――へっ!?」

 突然、海音シャにゃんは足を掴まれた。
 それはおかしなことだった。
 ルシャンは妃美に捕まり、その妃美もルシェンしか見えていないはずだったからだ。

 海音シャにゃんは困惑しながら、振り返る。
 すると、妃美が海音シャにゃんの足首をしっかりと握りしめていた。

「ちょ、妃美さん!?」
「おねぇさま、はっけん〜」
「は、離してください。私はそれほど身長は高くありませんから!
 仮に私の身長が高く見えたとしても、それは靴のせいです。
 実際の身長はルシェンさんに到底及びません。
 だから、ハ・ナ・シ・テ……!」

 妃美の手がなかなか離れない。
 どうにか抜け出し、いち早くあさにゃんを弄りたい海音シャにゃん。
 すると、今度はルシェンも同じ足を掴んできた。
 ルシェンは妃美に足で腰を抱きしめられながら、必死に手を伸ばしていた。

「何、一人で逃げようとしているのかしら?」
「逃げるだなんて、侵害です。
 私はただあさにゃんで懺悔を――」
「問答無用!」

 ルシェンは勢いよく足を引っ張り、海音シャにゃんを転ばした。
 海音シャにゃんも妃美の餌食になっていく。
 三人が揉み合う中、ルシェンのポケットにあったスイッチが押された。
 すると、あさにゃんの棺桶が『天使(?)』達に近づいて行く。

「あ、ちょっと、今何か押した!?
 待って! 助けて!
 ルシェン! 海音シャにゃん! 妃美さん!
 誰でもいいから止めて――ぎゃぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!」

 一方、アイビスは身動きが取れないまま、大量の黄金の玉ねぎに埋め尽くされた。
 ≪黄金の玉ねぎ≫達は、アイビスにすり寄りながら語りかけてくる。

「あんさん、可愛いのぉ。うちと結婚せぇへん?」
「ひぃ」
「すべすべだな。若い子の肌はいい。一生このままでいたいわ」
「や、やめ――」
「おほっ、短いスカートじゃないか。どれどれ中身は……」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ブチ切れたアイビスは自力で縄を引きちぎると、アヴェンジャーを構えた……。


「ここにいる人達だけで撮っちゃおうか」

 食堂に朝斗達の姿はなく、暫く待ったが帰ってくる気配はなかった。
 仕方ないのでいる人だけで、集合写真をとることにした。

「……はい。そんな感じでOKだよ。みんなちゃんと笑っててね」

 生徒達全員がフレームに納まったのを確認して、想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)がカメラのタイマーを押した。
 そして自身も写真に入るために、列に混ざろうとカメラを離れた時だった。
 
 ドガガガガガガ

 銃撃音が鳴り響き、食堂の壁がブチ壊れた。 

「な、なんだ!?」

 生徒達が驚いていると、土煙の中から大量の黄金の玉ねぎが飛び出してきた。
 続いてアヴェンジャーを乱射するアイビス。
 天使の羽をつけた不審者に追いかけられるあさにゃん。
 乱れた衣服のルシェンと海音シャにゃん。
 そして最後に飛び出してきた妃美は、魔法少女・ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))を見つけるや否や、いきなり走ってきた。

「ロゼねぇさまぁぁぁぁぁ!!」
「ぬわっ、き、妃美!?」

 ろざりぃぬは殆ど反射的に足払いを決めて妃美を転ばすと、関節技で動きを止めにかかった。
 食堂は求婚する玉ねぎと、ブチ切れ状態でアヴェンジャーを乱射するアイビスの乱入で大混乱になっていた。

 ポミエラが天井に向かって叫ぶ。

「もうっ、なんなんですの!」

 その時、タイマー機能により、カメラのシャッターが押された。

 (おわり)
』」