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魔法薬からの挑戦状

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魔法薬からの挑戦状

リアクション

「危険物は消毒だ−!」
 
 火炎放射器で魔法薬ゴーレムを焼き払おうと放射する大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)
 意気揚々と叫ぶ剛太郎を、コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)は心配そうに見つめている。
 イルミンスール魔法学校の学生も火術を使える生徒を中心に出張っているようだが、あちこちから色んな悲鳴や歓声が聞こえてきている気がする。
 本当にこの対処法であっているのだろうか?
 剛太郎の消毒は、ただの危ない火遊びにしか見えないが……炎の向こうで揺らめいているゴーレムに、効いているのだろうか?

「剛太郎……」
「バーニング! ファイアー!」

 止めようとしたコーディリアの横を、何かが通り過ぎていく。
 それは、もう一体の別のゴーレム。
 火を恐れずに通り抜けていくゴーレムを見て、コーディリアは嫌な予感を感じる。
 やはり、何か対処法が違っているのではないだろうか?

「ちょっと」
「ほら、コーディリアも!」

 ノリにノっている剛太郎を見て、コーディリアは何かを言いたそうな顔をしつつも、止める気を失う。
 今のところ、校舎に影響はない。
 まだ攻撃が無効と決まったわけでもない。
 なら、少しだけノってあげてもいいのではないか。
 そう考えて、コーディリアは剛太郎と共に叫ぶ。
 叫んではいけない言葉。
 先ほどのモノが何か知っていれば、絶対に叫ばなかったであろう言葉。
 それは、すなわち。

バーニング!』

 それは、秘められた十分間の奇跡の力。
 体内より強大な力を練り上げ、全ての装備と共に爆発を起こす力。
 剛太郎のパワード装甲の全ては、強大な爆発と共に四散する。
 爆風の中から生まれいずるは、全裸の剛太郎。
 それはさながら、生命力の爆発を象徴する光景にも似ているだろうか。
 そして、同様の爆発と共に服を四散させるのはコーディリア。
 それはさながら、どんな攻撃を受けても服しか傷つかないコメディな光景にも似ているだろうか。

「な、ななな……」

 満足そうな剛太郎と、足元に脱げ落ちた服を慌てて拾い集めるコーディリア。
 巻き込んだ者と巻き込まれた者との差は、こんなものだろうか?


「爆発するたび素っ裸になるなんてもう嫌ー!」
「普段から裸同然のあなたが何言ってるのよ……」
「そういう問題じゃないわよ! 何の意味があるのよコレ!」
「製作者に聞きなさいよ……」
 
 何やら言い争いをしているのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人だ。
 どうやらセレンフィリティが効果を受けたのは、爆発の薬のようだった。

「どうせ聞いたってノリで、とか言うわよ!」
「言うかもしれないわね……」
「そんな事聞いたら爆発するわよ、私」
「出来るじゃない、物理的に」

 言いながら歩くセレンフィリティとセレアナ。

「大体、あたしだって。流石に全裸は嫌よ! あの人、ちゃんと実験してから作ってるんでしょうね!」
「してるんじゃない? 他人で」

 廊下を歩くセレンフィリティとセレアナの声を、教室の中にいた奏輝 優奈(かなて・ゆうな)が聞きつける。

「なんや、外が騒がしいなぁ……何やっとんやろ?」

 優奈が居たのは、魔法実験室。
 作っていたのは、魔法薬です。
 すっかり実験に没頭していて気づきませんでしたが、優奈好みの状況が外では広がっているようだった。

「あれって……もしかして、課外自由実験(?)でもしとんやろか?」

 よく分からないゴーレムが、二人の女性の前にヒョコヒョコと進み出ているのが見えた。
 霧で出来ているかのような、不思議なゴーレム。
 優奈の目から見ても、実験体のような雰囲気。
 ならば、乗っからない手はない。
「よーし、ウチの作った「分裂薬」も実験させてー!」
「は?」
「分裂薬?」
 聞きとがめるセレンフィリティとセレアナの目の前で、優奈は霧状のゴーレムに分裂薬を振り掛ける。
 その途端、人型のゴーレムは小さい子供のような複数のゴーレムへと分裂してバラバラに逃げていく。

「げっ」
「セレン、バーニングを……っ」
「嫌よ!」

 言っている間にも、小さいゴーレムのうちの幾つかはセレアナの体を通り抜けて走り去っていく。

「おお、大成功や……」

 その優奈をじっと見ていたセレアナは、納得したような顔でスタスタと優奈へと近づいていく。

「なるほど、このゴーレムはこういう効果なのね」
「なんや?」
「ごめんなさい、歯を食いしばって! すぐに終わらせるから!」
「は?」

 優奈が分裂させて、セレアナが複数回にわたって受けたゴーレムの持つ効果。
 それは、すぐ近くの相手に全力ビンタしたくなる薬。
 分裂の薬で数回にわたって受けてしまったため、効果も数回分。
 パーン、パーン、と響くセレアナの往復ビンタ。

「……まったく、なんて薬なのよ!」
「ウチが何をしたって言うんやー!」

 優奈が何をしたかと問うならば。
 ビンタの分裂増殖である。