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魔法薬からの挑戦状

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魔法薬からの挑戦状

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第二章 探索・校舎一階

「ゴーレムの向こう側に、なんて素敵な人が!」
 
 ジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)は、自分に立った今効果を与えたゴーレムを吹き飛ばす勢いで通りがかった女子生徒の元へと向かっていく。
 物理攻撃の効かないはずの霧のゴーレムを蹴飛ばし、壁に放り投げるジェニファ。
 しかし、それも不思議ではない。
 何故ならば、ジェニファに与えられた効果は一番最初に見た人に全力で告白する薬。
 告白に関する行動であるならば、全ての能力を倍増させるというトンでもない効果を持つ魔法薬である。

「ね、姉さん。女性が好みだったなんて」

 一方、そんな魔法薬のゴーレムだとは気付かないマーク・モルガン(まーく・もるがん)は、少しの絶望と共にそう口にする。
 とんでもない機動力で女子生徒に迫ったジェニファは、驚くべき優雅な所作で女子生徒を抱え上げる。

「わたくしはジェニファ、運命の人よ、貴女のお名前は?」
「え? ア、アリアですけど……」
「美しい響きね。さあ、朝まで一緒に踊りましょう」

 その口説き文句を見て、マークは近くをふわふわと移動しているゴーレムへとキッと目を向ける。

「くっそ、こんなゴーレムがいるから悪いんだ!」


 マークは光条兵器(吹き矢)を取り出し、ゴーレムに叩きつける。
「この吹き矢(光条兵器)は、矢を飛ばすだけじゃない、こうやってスティックとしておまえを叩き壊すことにも使えるんだ!」


「……っていう事が出来ればなあ……」
「何言ってるのよ」
「ね、姉さん!?」
「他の人に告白するゴーレムだったみたいね、あれ。ほら、イルミンを守らないと!」
「う、うん……」

 ジェニファに引っ張られるようにしながらも。マークは少しほっとした笑顔を浮かべる。
「姉さんを」ではなく、一人の男として「ジェニファを」守れるようになれたら。
 そんな事を、考えながら。

 イルミンスール魔法学校の二階の一角。
 そこに、バラが咲き乱れようとしていた。
 いや、バラが咲き乱れているのは二人を囲む特殊な趣味の女子生徒達の頭の中だろうか。
 そこに居たのは二人の男。
 ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)桐条 隆元(きりじょう・たかもと)である。
「俺、恋愛対象は男でも可愛ければOK! とか言ってるせいか節操の無い奴、ってよく誤解されるんだよな……俺は守備範囲が広いだけだっつーのッ!」
「そうか」

 ナディムの言葉を真面目に聞いているのは、隆元。
 その周りで、遠巻きに特殊趣味の女子生徒達が見守っている。

「見ず知らずの奴に好きだって告白なんかしたら節操の無い奴って余計に誤解されそうな気がすっからさ」
「そうか」

 ざわざわとざわめく女子生徒達。

「つまりだな」
「待て。わしは真面目な性格ゆえ恋愛事の冗談が一等好かぬ。相手が友(人)なら真剣に考えるゆえ尚更な」
「ああ、分かってるさ。好きだー! たかもぐあっ!」

 ナディムに向けて放たれたのは、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の問答無用のブリザード。

「よ、よかったあ。なんだか分からないけど間に合った……?」
「ぬぅん!」
 
 マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)の言葉と同時に、ナディムがブリザードのダメージから復帰する。
 告白に関する行動では効果が倍加。
 何とも恐ろしい薬の効果ではあるが……マーガレットによる「ナディムのオオウチサマー!」を見たくはない。
 リースとしては、いつもの二倍のナディムを、何とか止めないといけない。
 一方のマーガレットとしては、ナディムが誰かに好きって告白して告白された子を勘違いさせちゃったら好きって告白された子が可愛そうだから、と。
 ナディムが誰かに告白する前にナディムを止めようと思っている程度だ。
 まさか、隆元に薬の効果で告白しようとしていたなど知るはずもない。

「や、やるしかありません……」
「ちいっ……こいつらをまいたら、俺の全力ダイブを見せてやるからな!」
 
 そんな捨て台詞を隆元へと残して走り去っていくナディム。

「ちょ、ちょっと! ダイブって!?」
「お、追わないとです!」
「なんなんじゃ……」

 慌ててナディムを追いかけていくリースと、その後をさらに追うマーガレット。
 実に不思議な構図であった。