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ハロウィン・ホリデー

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ハロウィン・ホリデー

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「すみません、シェイド……やっぱり、人混み苦手です……」
 個室のベッドに腰を下ろしながら、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は力なく笑った。
 ノースリーブのスリットの大きく入ったドレスに、猫耳と尻尾、鈴のついたチョーカーまで付けている。仮装パーティーということで気合いを入れて準備してきたのだけれど、いざパーティー会場に繰り出してみたら人混みに飲まれてしまい、しかも慣れないハイヒールで足下も覚束ず、すっかり草臥れ果ててしまった。
 そこをパートナーのシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)に見つかって、個室に運ばれてきたのだった。
 シェイドは顔を半分覆う白い仮面に黒いタキシードとマントという姿。二人並ぶとさながら、怪人に攫われた歌姫というところだろうか。
「慣れろよ」
 部屋の鍵を掛けたシェイドは、紫翠の隣に腰を下ろす。そして、細い銀の髪を梳くようにして、頭を撫でてやる。
「しかし、その姿良く似合っているぞ……誘っているようにも見えるな?」
 そうしながら、まじまじと上から下まで紫翠の格好を眺めて、そっと耳元に囁いてやる。そんなつもりは、と紫翠の唇が動くけれど、シェイドはお構いなしで洋服の隙間から紫翠の白い肌に触れる。
「油断大敵……隙ありすぎだぞ?」
 柔らかな肌の上に手のひらを滑らせながら、シェイドは紫翠のドレスを少しずつ剥がしていく。もう片方の手は紫翠の肩に回し、肩紐を外してやりながらわざと積極的に肩に触れる。
「ちょっと……シェイド……」
 弱い所に触れられ、少しずつ紫翠の呼吸が乱れていく。シェイドはさらに紫翠を追い込むように、細い首筋に唇で触れた。

 いつの間にかベッドの上で失ってしまった紫翠に、シェイドはくす、と微笑みかける。
「……俺の物、って印付けとくか」
 それから、ひときわ強く首筋を吸い、真っ赤な跡を残した。
 満足そうに唇を舐めて、立ち上がる。そして、紫翠の体を抱き上げると、そっと屋敷を後にした。

●○●○●

「玉ちゃん、どこ行っちゃったんだろ……?」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、自分をパーティーに連れてきた張本人、玉藻 前(たまもの・まえ)の姿を探していた。更衣室ではぐれてしまってから、合流出来て居ない。
 一応、用意してきた青い、セクシーなドレスと仮面とで仮装は済ませているけれど。その、セクシーなドレス、の所為で月夜の心は少しばかり重たい。どうしたって、お世辞にも豊満とは呼べない胸のラインが出てしまうのだ。最近の月夜はそのことを気に病んでいる。パートナーが、胸は大きい方がいい、とか言っているのを聞いてしまったので。
「どうしましたか、お嬢さん」
 はぁ、とため息を吐いたところに、突然声を掛けられた。月夜は慌てて顔を上げる。
 立って居たのは、ドレス姿の女性だ。顔は仮面で隠れている。
「宜しければ、お話でも?」

 誘われるままに、月夜はドレスの女性と個室にやってきた。ホールから失敬してきたいくらかのお菓子と飲み物を、机の上に広げる。乾杯して、最初はぽつぽつと事情を話していた月夜だったが。
「でね、私のパートナーは、大きな胸が良いって……私は大きくないし、そのこと気にしてるのにぃ、私の前でそんなこと言うのぉ……」
 だんだん、くだを巻き始めた。
「女性の魅力は、そこだけではありません。貴女は充分に魅力的です……さあ、もう一杯どうぞ?」
「うにゃー、おいしぃー」
 女性に勧められるままに杯を干すうち、月夜はすっかりできあがってしまった。机の上に赤ら顔を乗せ、ふにゃぁ、とか言っている。女性はクスクスと笑うと、大丈夫ですか、と心配顔を繕って月夜の背中を撫でてやる。
 その手つきに何となく、覚えがあった。
「……あれぇ……玉ちゃん……?」
「ふふ、やっと気付いたか」
 月夜に呼ばれ、女性――玉藻は付けていた仮面を外す。普段は和装しか身につけない為、ドレス姿で顔を隠していれば解らないだろうと踏んでいたのだが、ここまで見事に気付かないとは。
 玉藻はよしよしと月夜の頭を撫で、そのまま抱きしめ、唇に触れてやる。
「玉ちゃん……」
 アルコールに毒された月夜はすっかり、その腕の中に身を委ねていた。

●○●○●

 そろそろ太陽も傾いてきて、パーティーもお開きの時間だ。
 既に数組、姿が見えないような気もするけれど、ののもパトリックもその辺りは、深く追究しないことにしている。多分、その方が彼らが幸せだろうから。
 一応お開きの挨拶をして、けれど、後は流れ解散だ。また更衣室が一気に混んでも困るし。
 ののとパトリックはのんびりとお客さん達に挨拶をしながら、少しずつ片付けを始めている。