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リアクション
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「何も、してこないね」
「……そうだなぁ」
コボルドを眺めながら、林檎の木のすぐ傍に居る、鞭を手にした少女、ネスティ・レーベル(ねすてぃ・れーべる)と、高級スーツを身に着けた男性、榎本 尚司(えのもと・しょうじ)の組み合わせは、ぱっと見ではヤクザとお嬢様か、猛獣使いと猛獣のどちらかであると思われる。
「私、収穫のお手伝いがしたいんだよね」
「収穫か、いいねー」
「「…………」」
入口で見取図を貰いながら、収穫が出来それであればお願いしますと、村人に言われていたのだった。
既に何人かはモンスター退治に来ているだろうから、こっちは安全に収穫すればいいや、などと考えていたのだが残念。呼び出したアッシュに次ぐ早さで果樹園に入った為、暫く前からこうしてコボルドと睨みあいをしているのだった。
「「…………」」
ちらり、と、2人が同時にお互いを見て、目が合った。
「よし」
先に口を開いたのはネスティだ。
「襲ってくるモンスターには容赦なく返り討ちにするよ! ……おっちゃんが!!」
言うが早いか、ネスティは林檎に手を掛けようとした。
「おいおい! 俺にやらせる気か! 若いんだから頑張れ!」
そうは言いながらも、襲い掛かるコボルドからネスティを護る為、尚司が放ったチェインスマイトは2体を仕留めた。
だが、元々そこに居たコボルドは5体。
尚司は素早く次の攻撃を出そうと――
「さ、お行きなさい」
ネスティとは違う声が聞こえたと同時に、尚司の横を何かが通り抜けた。そしてそれは2度目のチェインスマイトから外れた1体のコボルドを縛り上げる。 ……何故か亀甲縛りで。
「お怪我はありませんか?」
声の主はけしからん胸を持つ城 観月季(じょう・みつき)だ。
「ああ、大丈夫だ。いや、スマンな」
尚司は思わずその胸元へ視線を……
いやいやいや、それは失礼だ!
慌てて視線を戻した。
「収穫のお手伝いなら、安全な場所が向こうにあったよ」
そう言ったのは、ゆる族のぴっぴこ ぷぅ(ぴっぴこ・ぷぅ)を抱っこしているルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)だった。
「え、ホントに? どこどこ?」
さっきの間で既に数個の林檎を手にしていたネスティが尋ねた。
「うん、ここをこっちに行ってね……」
ルゥも村人から貰ったのであろう見取図を手に、ネスティへ場所の説明を始めた。
「安全とは言え、モンスターが居ないとも言い切れませんわ。充分に気を付けて下さいね」
「お嬢さん方は行かないのかい?」
観月季の言葉に尚司が返した。
「ええ、コボルド達に少々お話を伺いますから」
「私達は大丈夫だよ。気を付けてね」
観月季とルゥは言った。
「ああ、お互いにな」
「ぷぅ、またね!」
ネスティはぷぅの頭をナデナデして、尚司とその場を離れて行った。
「ぷぷぷぅ、ぷひぷひ、ぷぷぃ?」
「ナデナデ良かったね。え? さあ……どこだろう?」
傍から見れば可愛い仔豚と会話をしている不思議な光景なのだが、本人達は会話が成立しているので何の問題も無い様だ。
「アディールですか? そう言えば居ませんわね」
そんなルゥとぷぅの会話を聞いて観月季が言った。
「先に行っちゃうなんて、ヒドイよォ……」
木の陰からアディール・テイェ・カーディフ(あでぃーる・ていえかーでぃふ)は今にも倒れそうに現れた。
その姿は儚げで美しく、木に寄りかかる、それだけで絵になる様だった。
「あら、随分と遅かったですわね」
襲ってきたコボルドとの戦闘を1人でこなして来たアディールに観月季は言った。そして
「大丈夫ですわ。アディールさんなら出来ると信じていましたもの」
と、微笑んで続けた。
「ありがとう観月季ちゃんっ、僕頑張ったよ……っ!」
1人で倒れそうになるまで戦った僕、頑張ってる! 今なら魔乳にふかふかさせてくれるっ! はずっ!
敢えて自分にヒールを使わずにここまで来たアディールは、思惑通り観月季のけしからん胸めがけて倒れこみ……
「あ……」
目の前を横切ったものに、ルゥは思わず声を出した。
「え? ちょっと!」
それ――今までコボルドを縛っていた世界木の蔓キッコウMenは、アディールの体に巻きつき、動きを止めてしまった。 ……やっぱり亀甲縛りで。
「あらあら……」
捕まえていたコボルドが走り去るのを見て、観月季は言った。
「ぷぷー。ぷぎゅぷひ、ぷいぷい、ぷぅぷぅぷー」
「アディールを敵だと思って縛ったんじゃないか、って? そんな筈は無いよ。 ……多分」
「それにしても、当たり前ですが随分と警戒されてしまいましたわね」
観月季は辺りを見回した。
コボルド達は逃げてしまったものの、遠巻きにこちらの様子を伺っている。
「じゃあこの後は……」
「ぷぅー」
3人はこの後の作戦を立て始めた。
(うう……何なんだよ、この蔓は!)
とても変わった趣向の持ち主に好かれそうな格好の、1人を除いて……。