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銀細工の宝船

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序章

「では、」
 こと、と姫神 司(ひめがみ・つかさ)は紅茶のカップをテーブルに置き、指を絡ませてオーナーに視線を投げる。場所は飛空艇内部、船長室。部屋には地図やコンパスなど必需品が並ぶ棚の他に、レコードやオルゴールなども一緒に部屋の奥にある業務用の机に置かれている。姫神とオーナーは、その机の横にある来客用のソファーに座り、四角いテーブルを挟んで向かい合っていた。外にはオーナーが募集した学生たちが集まり、出航を待っている。姫神も外で待っていることはできたのだが、護衛に関する疑問の解消のために船長室を訪れていた。
「今回の護衛対象である品物は高価なものばかりで、直に確認する必要があったというわけだな?」
「そうです。確かに仰る通り、私は屋敷で待機していた方が安全だったでしょう。しかし己が可愛くて半端な品物を取り寄せてしまえば、私の命は助かってもオーナーとしての私は死ぬ。それではとうていこの先、経営なんてできません」
 顎の無精ひげをさすり、紳士服に身を包んだ初老の男……オーナーはにこりと愛想のいい笑顔を姫神に向ける。そして「いいお茶をありがとう」と言って席を立ち、小さな窓から外を眺めた。
「先ほども言ったように、この船に乗っている銀はどれも貴重なものばかりです。私が直々に確認するほどのね。だからこそ貴女たちに護衛を頼みました。必ずこの船を守ってくれると信じていますよ」
「……承知した。ところで、ひとつ頼みがあるのだが」
「うん?」
「実は銀食器に興味があってな、もし滞りなく依頼を達成できた暁には、そなたのカジノやオークションの様子を見学させていただきたい」
「ああ、いいですとも。期待していますよ」
「任せてくれ。必ずタシガンへと送り届けよう」
 胸を張る姫神が言葉を言い終えたと同時に、目覚まし時計のような激しい鐘の音が船長室に響き渡る。姫神が驚いて目をぱちくりさせると、オーナーは愛想笑いを浮かべて「失礼、電話だ」と言ってポケットから携帯を取り出した。
 しばらくの間オーナーは電話先の相手と言葉を交わした後、苦虫を噛み潰したような顔で電話を切る。「どうされた?」と姫神が尋ねると、
「どうやら空賊が既に待ち伏せているらしい。手が早くて困ったものだ。今更先延ばしにもできんし、悪いが、航空ルートを変える他ないようだね」
 と言った。