イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【原色の海】はじめての魔法。

リアクション公開中!

【原色の海】はじめての魔法。

リアクション



第4章 魔法使いになる方法?

 ──が。
「その前にボクの話を聞いて下さい」
 と、言った男性が、いや、鎧がいた。
 カップルの女性たちの幾人かが、その舐めまわすような視線に寒気を覚えてぎゅっと彼氏の腕にしがみつき、幾人かの女性と彼氏が、不愉快そうな目を向けた。
 そして不安そうに両親の膝に戻る子供たちを、両親が抱えている。
 ──いや、全く彼に他意はないのだが。
「嫌だな。僕は真っ直ぐ一途なまでに魔法に対しては真剣なのだよ?」
 魔鎧の中の見えない眼球がナメクジのようにホールを這い回る。
「ど、どうぞ」
 促したものの、ユルルの声もさすがに動揺を隠しきれなかった。一応彼の行状についてはドン・カバチョから聞かされている。
 彼女の許可が出たので、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は話し始めた。水を得た魚というか、立て板に水というか、なんとも滑らかな語り口だった。
「はじめて僕が魔法を使えたのは丁度、30歳の誕生日でした。
 バルチャ家に代々伝わる言い伝えによるとバルチャ家の男子はいずれも30歳にまるまでは魔法が使えず30歳まで童貞を守り通す慣例があります。ええ、童貞はもっと評価されるべきですね。
 30歳になったら本気を出すと言い続けて学校では常に白い目で見られて来ました」
「……女の子はどうするのー?」
 雰囲気に何となく気圧されながらもおずおずと小さい女の子が聞くと、
「女子の家訓は真逆です」
 と、言って、話にすぐ戻る。
「魔法と言うのは膨大な学問であり魔法を修めるには人の一生ではとうてい時間が足りずご先祖様はいずれもリッチ、ヴァンパイアなどの長寿種、不死種に転生するのが一般的だったようです。
 魔法の深淵を覗くにはまずは童貞から始めましょう」
 ……。
 場が静かになった。
 気まずい沈黙。
 そしてご両親は、ねーおかーさん、どうていってなにー? と、子供が聞き出さないかびくびくする羽目になってしまった。
 百合園のお嬢様たちは顔を赤く染めて手で覆っている。いや、理解していないお嬢様もいたが。
 ──司会のユルルがえー、あー、と何か気の利いた一発ギャグを言おうとした時だった。
「……見損なったぜ」
 そこに一人の男が立ち上がった!
「おまえのその称号【P級四天王パンツ大審判】はただの飾りか!? パンツ四天王のくせにパンツの話もせず、あまつさえ怖がらせるとか恥ずかしがらせるだけだと!? パンツの風上にも置けねぇぜ!」
 ドドーン!! と指を拳ごと突き付けたのは、南 鮪(みなみ・まぐろ)だった。
「えー、パンツについてはまた今度ゆっくり……」
 とユルルが言いかけたが、鮪は遮って、
「関係? あるに決まってるだろうがァ! ヒャッハァ〜! 空大のスーパーエリートにして元祖四天王の俺が世界のはじめての魔法について語ってやるぜェ〜!」
 ──こうして、鮪の謎演説が再び始まった。
 いや、演説の内容が謎でも彼にははっきりとした目的がある。過去にもこうやってパンツで百合園の乙女を、彼の通う空京大学へ導いたことがあるのだ。言ってみれば、百合園の経営陣にとって、鮪は微妙に敵であった。ちなみに「とも」とは読まない。
「気が付いたら俺はパンツを手にしていた。導かれる様に。誰が穿いているパンツでも皆が気付けば手の中だ。
 だがある時気付くとパンツを与えていた。そりゃそうだ、大抵新品の方が良いからな」
 そうだわ、と頷く百合園の純真な乙女たち。空気に妙な流れができ始める。
「だが誰かが使っていた物は必ず何か暖かみがある。俺はそれを重視して保護してるぜ、それが大事な世界の魔法だからな。
 そして聞くぜ人が最初に身に付けたのはパンツだと。シボラの世界樹もパンツが助けたしな!」
「シボラの世界樹が……?」「そういえば聞いたことがあるわ」
 ざわざわと、場がざわめいた。そして鮪は、パートナーのジーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)の方を指差した。
 彼は、適当な長袖Tシャツ姿で車座の周囲をぶらぶらしながら聞いていたが、
「あのおっさんが言ってたぜ、人間が最初に身に付けたのはパンツだってな! 宇宙を作った凄い奴に怒られても付けたかったってよ」
(目的と手段が逆だった気がするが)
 と、話しを振られたジーザスはちょっぴり思ったが、
「うん? 良く判らないが日本の侘び寂び見たいなものじゃないのかね。もしくは一つの道の悟りとやらの一種では?」
 と、几帳面にも答えた。
「うむ、着物すらにも困りし者に己の下着まで与える逸話は確かにあった、己の物を他者に与えられる心は、生ける者全てに与えられた奇跡の魔法と言える」
 ジーザスの真面目な口調に、純真な子供と百合園生はうっかり騙されてしまう。
 子供たちの親には少し嫌がられるが、まぁ。そこはそれ。
 ホールは謎の熱気と感動に包まれていた。途中でパンツ! パンツ! と叫んで彼女に肘鉄を喰らわせられた男性もいたそうだが。