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盗んだのはだ~れ?

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盗んだのはだ~れ?

リアクション

「そこっ!」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は水竜の尾の一撃に合わせて拳を叩き込む。
 しかし、水中でデカい図体を回転させながら打ち込まれた攻撃に、透乃の拳は威力を失い吹き飛ばされる。
「ぐっ――!?」
 飛び石の支柱に磔されるように激突した透乃に、水弾が数発叩き込まれた。
「透乃ちゃん、大丈夫ですか!?」
「ど、どうにか」
 砕け散った支柱の破片ごと吹き飛ばされた透乃を、飛行する緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が鎖で絡めとり引き上げる。
「やっぱり水中戦は厳しい〜」
「私も色々やっているのですが、なかなかうまくいきませんね」
 魔法で水竜を水面近くまで来させようしているのだが、抵抗されてうまくいかない。
「でもおかげで少しは動きが遅くなって、接近戦ができてるんだけどね」
 笑顔で感謝を述べる透乃。
 すると、ボロボロをなった服を掴むと、突然脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと透乃ちゃん!?」
「ボロボロだしいいかなって。この方が動きやすい――陽子ちゃん!!」
 話している所に再び水弾が飛んできた。
 回避のために鎖から離された透乃は、水面に降り立つと水竜の直上まで走り、そこから再び潜り始めた。
「どうにか透乃ちゃんがもっと戦いやすいようにしないと……」
 空中で思案する陽子。
 そこへ、地底湖の奥へ向かっていた生徒達が帰ってきた。
「みんな大丈夫!? 今援護するわよ!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は走り込むと上着を脱ぎ捨てビキニ姿で湖に飛び込んだ。
 続いて飛び込んだセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は両手に麻酔弾の入った二丁拳銃を構える。
「セレン、一緒に水竜の目をこっちに向けさせるわよ!」
「了解したわ!」
 セレアナは分身を作り、セレンフィリティは不規則な動きで支柱を影にしながら弾丸を撃ちこむ。
「グラキエス行こう!」
「相手がその気なら仕方ない」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)も援護に向かう。
 二人は【神の目】や【遠当て】で一応威嚇をしてみるが、既に戦闘状態に入った水竜相手には無意味のようだった。
「くっ、戦わずに済めばいいんだが……ロア出来るだけ直撃は避けてくれ」
「わかりました、やってみます」
 ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は陸から時限式の機晶爆弾を【サイコキネシス】で操作する。
 水竜の傍で爆発するように調整しながら、仲間達が戦いやすい場所まで移動するように誘導していった。
 すると、水竜が反撃に水弾を打ち込んできた。
「避けろゴルガイス!」
「わかっている」
 グラキエスとゴルガイスは左右に別れて攻撃を避ける。
 だが、代わりに水弾は水辺に残っていた生徒達へと向かってしまった。
「危ない!」
 ユリエラ・ジル(ゆりえら・じる)は咄嗟にアイスフィールドを出現させ、弾を上空へと逸らして仲間を守った。
「くっ――大丈夫ですか?」
「ああ、助かった……ここを頼む」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)はユリエラの肩を叩くと、水面ギリギリを飛んで移動する。
「フレイはここで待っていてくれ。ここは俺達がどうにかする」
 漆黒の翼で飛び上がったベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、両手を振りかざして頭上に魔力を集中させる。
 魔力の塊は渦を巻きながら周囲の物体をかき集め、巨大な球体になっていく。
「巻け、巻け、捲け、捲け、マケ、マケマケマケ……とっておきだ! 存分に味わいな!」
 ベルクは存分に魔力を溜めると、巨大な球体となった【闇黒死球】を水竜目掛けて叩き込んだ。
 巨大な水柱をあげて水中に入った球体は、周囲の水を巻きこみ、水竜の動きを制限する。
「……捕えた……」
 セリスは球体が消滅する直前に【闇洞術『玄武』】で水竜の動きを封じると、眠りの針を続けざまに放った。
「こいつは痛いぞ。だから、あなたには聞きたいこともあるんだ、大人しく引いてくれ」
 グラキエスは溜めた【滅技・龍気砲】を水竜の硬い鱗が並んだ背中部分に向けて打ち込んだ。
 強烈な一撃は狙った通り背筋を掠り、焼けるような痛みに水竜が悲鳴をあげる。
 動きが止まっている間に生徒達は攻撃を打ち込む。
 それでも水竜が退くことはなく、交戦を続けていた。
「だけど、これを続けていればいずれは諦めてくれるだろう」
 二発目を打ち終ったベルクは地上に降り立つと、あがった呼吸を整えるべく深呼吸した。
 すると、水辺に立った忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が自信満々に宣言する。
「ふふん。下等水竜がやる気ならば最強の犬たる僕の出番ですね。水と言えば雷! 科学の犬の力を存分に思い知らせてやりますよ!」
 ポチの助の体毛が静電気で逆立つ。
「皆さんは危険ですので一端上がってください! あ、そこのエロ吸血鬼は寧ろ水中に入っていて下さい!」
「……いいから早くしろ」
「キャゥン!?」
 急かすように吠えるポチの助の尻を蹴飛ばすベルク。
 ポチの助は舌打ちを数回したのち、湖に向けて【サンダークラップ】を放った。

 湖に電流が走る。
「くそっ、早く戦闘を止めさせなくては!」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)は陽子の攻撃を避け、水竜に激しい攻撃をしかける生徒達の元へと向かう。
 その背中を見送りながら、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が陽子に尋ねた。
「追いかけなくていいのかい?」
「いいんですよ。それより、相手が増える前に目標を透乃ちゃんに倒してもらいましょう」
 陽子は水面に近づくと、月美 芽美(つきみ・めいみ)の名を呼ぶ。
 すると、勢いよく芽美が水中から飛び出してきた。
「何か用かしら、陽子ちゃん? 今、結構忙しいのよ」
 鉄心の相手を交代してもらった芽美は、空飛ぶ箒エンテで水中と空中を移動しながら水竜と戦っていた。
「軟な相手でもないけれど、早くしないと他の人達にとられそうな勢いよ」
「それなら大丈夫でしょう。彼らを止めに行った人がいますし」
「……なら問題ないか。けど、それはそれで厄介ね」
「はい。だから一気に決めましょう。すいませんが、透乃ちゃんを呼んできてもらえますか?」
「おっけい。少し待ってて」
 芽美は再び潜ると、水竜の周囲に裸同然の格好で殴りかかろうしている透乃を見つける。
「見つけたわ!」
「え!? なに、なに!?」
 透乃の腰を抱えるように掴むと、芽美は急上昇していった。
「おかえりなさい透乃ちゃん」
「ただいま――じゃなくて、いい所だったのに!?」
「状況が変わりました。ここは一気に決めましょう」
 陽子は事情を説明し、作戦を説明する。
 話を聞き終わると、泰宏は眉を潜めて質問した。
「その作戦には水竜をある程度水面に引き揚げないと無理だが、どうする?」
「引き揚げることが難しいなら来てもらうだけです」
 陽子は意味深に笑うと、水中の都市を指さす。
「先ほど爆弾が闇黒死球の影響でそこの方に流された時、水竜は都市を守るような行動をしていました。それを利用するのです」
 改めて作戦の説明を終え、四人はバラバラに散る。
 水竜から距離をとり、飛び石を隔てた対角線側に移動した陽子。
「さぁ、ちゃんと来てくださいよ」
 陽子は刃手の鎖を振り回すと、鋭く尖った天井の岩を次々と壊し始めた。
 周囲に高重力をかけたことにより、岩は勢いよく水面に叩きつけられて、巨大な水柱を生み出しながら都市へ目掛けて落ちていく。
 それに気づいた水竜は他の生徒との戦闘を中断して、陽子へと標的を変えてきた。
 支柱を破壊して急接近してくる水竜。
「やっちゃん、任せましたよ!」
「了解した」
 飛び散った支柱の破片の陰に隠れていた泰宏は、錠前を外して魔力を解放すると水面に向かって【バーディクト】を叩きこむ。
 我を忘れて水面まで上がってきた水竜は、V字に割れた水面の中央に舞い上がった。
「追撃いきます!」
 陽子は水竜の顎を【魔闘撃】で攻撃し、打ち出した水弾の軌道を逸らす。
 重力に従って落下する水竜に芽美が追い打ちをかける。
「まだ水の中には返さないわよ」
 芽美は割れた水面を走って近づくと、閃光のようにジグザグ左右の水面を高速移動しながら攻撃を繰り出す。
 そして、一定方向に攻撃が加えられた水竜の体が仰向けになった。
「透乃ちゃん!」
 水面から飛び出した透乃は拳を振りかざす。
「これで――」
 だが、そのまま渾身の一撃を叩き込むことを水竜はよしとしなかった。
 空中を降下してくる透乃に向けて、水弾が放たれたのである。
 それは避けようのない攻撃だった。
 強烈な一撃に意識が吹っ飛んだ。
「……まだ」
 それも一瞬。相手を倒すという闘志が切れかけた精神を繋いだのだ。
「吹っ飛べ――!!」
 透乃は僅かな間に態勢を直すと、その拳を水竜の腹部目掛けて叩き込んだ。
 轟音が地底湖に鳴り響き、水中都市まで突き落とされた水竜の口から血が流れる。
 割れていた湖が元に戻り、透乃が呑みこまれる。
「ちぃ……浅かったかな」
 水面から顔を出した透乃は、再び動き出そうとする水竜を見つめながら呟いた。
 遠くから鉄心の怒声が聞こえる。仲間への説明は終わったようである。
 このまま水竜と戦えば、全員と事を構えることになってしまう。
「透乃ちゃん、どうしますか?」
「それはもちろん……ん?」
 透乃が返答しようとした時、崩れた都市の間から無数の黒い手が伸びてくるのが見えた。
 黒い手は水竜に絡みつくと、生徒達の攻撃でも砕けなかった鱗をも溶かし始める。
「――――!!!!!!!!!!!」
 皮膚が融解し、肉と骨が露出しだした水竜が悲痛に満ちた呻き声をあげた。
「なにあれ!?」
「わかりません。わかりませんが、あれが湖を浸食している以上ここにいるのは危険だと思います」
 無数の手は湖を底から黒く染め上げ、飛び石の支柱が腐るように崩れていく。
 遠距離から攻撃を仕掛けても消し去ることはできず、生徒達は地底湖からの脱出する決断した。
 体を飲み込まれていく水竜が、最後の力を振り絞って次々と水弾を天井に打ち込んでいく。
「急げティー! 天井が崩れるぞ!」
「ま、待ってください鉄心!?」
 鉄心を追いかけ急いで地底湖を後にするティー・ティー(てぃー・てぃー)
『鍵ヲ……閉、ジヨ……』
 聞こえた声に振り返ると、地底湖に次々と岩盤が落下し、ティーは守られるように鉄心に伏せさせられた。