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契約者のススメ

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契約者のススメ

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起・始まりの時に思いを馳せる
 
 
「契約、ですか。
 わたくしには、特にこれといった思い出はありませんけれど」
 オススメのカフェでハルカと歓談しながら、出てきた話題に、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はそう言った。
 パートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)との契約のきっかけは、たまたま相性がよさそうだったから。それ以外には特に無い。
「どちらかというと、契約者となった後、陽太をせっついて蒼空学園に入学させた苦労話の方が多彩な気がいたしますわね」
「契約はきっかけで、新しい始まりなのですね」
 ハルカが頷いてそう言う。
 エリシアは、じっとハルカを見つめた。
「……ハルカも、いずれ始まるのですわ」
 ハルカにとって、契約した時が、パートナーと過ごす時間の終わりだった。
 今、パートナーのオリヴィエ博士とは離れて暮らしている。
 けれど、いつかまた、パートナーと共に生きる、ハルカの契約者としての日々は始まるのだから。
「はい」
 ハルカは頷く。
「そうそう、こないだは楽しかったですわね。チョコやカードゲームの話で盛り上がりましたし。
 陽太と環菜も、ハルカのお土産を喜んでいましたわ。改めて御礼を言っておいてと言われておりますわ」
 エリシアがそう話題を変えて、先日、山程のお土産を抱えて、陽太達の空京の仮宅を訪れた時のことを、ハルカも思い出して笑った。
「楽しかったのです。
 ひなちやん、小さくてとっても可愛かったのです」
 久しぶりに会った陽太は、以前より随分大人びていて、そして、幸せそうだった。
「またいらしてくださいな」
 エリシアの言葉に、はい、とハルカは明るく頷いた。


◇ ◇ ◇


「ヨシュアがお見合いをするんだって」
 剣の花嫁、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、話を聞いて、そわそわとバートナーの樹月 刀真(きづき・とうま)に言った。
「ちょっと、気になる。
 邪魔じゃなければ、見てみたいな」
 自分達の契約した時のことを思い出したのだろうか、くすぐったげに微笑んで、そうねだった月夜に、刀真も頷いた。
「そうだな、訊いてみようか」
 携帯を取り出し、ヨシュアの番号を探しながら、刀真もまた、その時のことを思い出す。


 月の、美しい夜だった。
 明かりはその月だけ、夜の中に更に暗く、その廃寺はあったのだった。
 痛んで穴だらけの屋根から、月の光が差し込んでいる。
 古寺の中に、そっと隠されていた、少女の石像。
 刀真の何に反応したのか、今でも解らない。
 刀真の目の前で、まるで何かが流れ落ちるようにして、石像は生きた人間になった。
 抱きかかえた刀真の腕の中で、ゆっくりと目を開け、見上げた少女の、月明かりに照らされた美しい黒髪が、とても印象的で。

 漆髪月夜――名前の無い少女に、そう、刀真が名づけた。


「……月夜」
 電話を切って、その名を、呼ぶ。
「うん」
 呼ぶ声に、込められた感情に気付いたのか、答えながら、月夜はふわりと微笑む。
「よかったら、是非来てくれと。待ち合わせ場所と時間を聞いた」
「楽しみ、だね」
 ふふ、と首を傾げた月夜の髪を、刀真はさらりと撫でた。



◇ ◇ ◇



 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、ハルカとイルミンスールで知り合った時、仲良く道に迷って彷徨いながら、色々な話をした。
 互いの学校生活のこと、ハルカは今のパートナーと契約して、まだ一年半ほどで、今は離れて生活していること、以前一緒に過ごしていた家には、彼の助手もいて、その人は契約者に憧れているということ……。

「王宮で働いている人なの?」
 その話を、後輩の朝永真深との世間話で話題にしたところ、真深のいつも眠そうな目が瞬いて、興味を示したらしいとさゆみは気付いた。
「そうなの、ハルカのパートナーは、ちょっと、事件を起こしちゃって服役中なんだけどね、その人の助手をしていたんですって」
「……知ってる。女王殺害未遂事件よね」
「ええ、そうらしいわ。知ってたの」
「だって、結構大きな事件だったじゃない」
「それもそうね」
 あれから一年半が過ぎ、シャンバラは事件に継ぐ事件で市井からその記憶は薄れつつあったが、当時それなりに大きな事件だった。
 犯人の名前は公表されているし、そのパートナーの名前も、事件を少し調べればすぐに解る。
「先輩、私その人に会ってみたいわ」
 その人と、パートナーになれたらいいなと思う。
 そう真深が言うので、さゆみはハルカを通じて、ヨシュアと約束を取り付けた。だが――