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リアクション
狩って採って
ニルヴァーナ校から東に向かって、そろそろ5km地点になるだろうか。鳥鍋の食材探しに向かった一行は「剣山地帯」に足を踏み入れていた。
「居ないな〜、居ないんやな〜、なんで居ぃへんのやろな〜ったく」
腕をダラリと前かがみ。上條 優夏(かみじょう・ゆうか)はすっかり飽きていた。「歩いて歩いてどこまで行っても虫の一匹も見つからへん。あ〜そうや、虫にも無視されとんねや、そら食材になりそうなもんなんて見つかるわけないわ、そうやきっとそうやわ間違いない」
長いこと一人でボヤいて一言「帰ろか」
「そこ、尖ってるから気をつけてね」
「ぅ……………………」
一蹴、というかスルー? フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)は応えるどころか顔を向けてもくれなかった。
「それにしても面白い所だね。岩の大きさもバラバラだし」
「……………………せやな」
自分の身長よりも何倍も大きな岩塊が並んだと思ったら膝丈ほどしかない岩が生えていたりする。確かに変わっているし珍しいとも言えるかもしれない、それでも、決して、面白くはない。
「もう! もっとシャキッとしてよ! こっちまで暗くなるでしょっ!!」
「ぅわっ! ちょっ、やめろや」
フィリーネが『神の目』を発動したまま優夏に向いてきた。強烈な光を発して隠れている相手を炙り出す魔法だ、そんなもので見られたら、というか正面に回り込まれたら眩しくて何も見えやしない。
「明るくなった? 明るいでしょ? 元気でた?」
「止めぃ言うてるやろ! 眩しいわ!」
「まぁこれでも、優夏の根暗は治らないんだけどね」
「やかましぃわ!」
そんな事で「HIKIKOMORI」が治ってたまるか、というかそもそも治す気だってない。今日だって何もしていないと思われるのが嫌で、なんとなく「狩り組」に加わっただけだ。加えて獲物は一匹も発見できていないこの状況。テンションを上げろと言う方が無理がある、そうだろう?
「早く学校に帰ってニルヴァーナのネ申について研究したい……」
「ここで頑張ればいい事あるって。ね? ファイト☆」
無ぇよ、んなもん。口にはせずに飲み込んで、代わりに溜息だけ吐いてやった。優夏の足は、いやはや重い。これはちっとも前には進みそうになかった。
「ゲテモノ〜、ゲテモノは居ないかぃ〜」
大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が呼びかける。まぁ当然「はい! 私がゲテモノです!」なんて応えが返ってくるわけはないのだが、
「ゲテモノさ〜ん? 居ないかな〜? ゲテモノさ〜ん?」
と金元 ななな(かねもと・ななな)はノリノリでこれに加わっていた。「ゲテモノは美味!」という康之の意見に簡単に乗っかったのだ。鍋の食材を探しに来たというに、今や完全に「ゲテモノ探し」になっている。
「そうだ! 何か反応は無いのか? そのアンテナ」
「アンテナ? あっ! そうか!!」
アホ毛をピコピコ。なななは両手を頭に当てて周囲を見回した。
グルリと一周、その場で回って、ある一点! すなわち元見ていた方向に何かを感じたようで―――
「居る……居るよ……」
「本当か?」
「うん。あの岩の先」
息を飲んでゆっくり歩き出す。音を立てぬよう、鼓動が聞こえてしまわぬように。岩の影から二人が「そぉっと」顔を出そうとしたとき―――
「康之!! 行ったぞ!!」
「へ?」
背後から声がした。パートナーの匿名 某(とくな・なにがし)の声だ。緊迫した声色を察して二人が振り向いてみると―――
「ぎゃあぁああああああああ!!!!」
「わーーーーーーーーーーー!!!!」
失禁しそうになった。すぐそこに『大甲殻鳥』が迫って、というか滑空してきていた!!
「ぬわぁあああああああああ!!!!」
「きゃーーははははははーー!!!!」
全力で逃げた。なななは楽しんでいるようにも見えたが、今は追求している場合ではない。喰われる、潰される、爪で裂かれる、連れ去られる。死亡フラグが盛りだくさんだ。……つか、アホ毛レーダー、役に立たないんだな。
「飛んでるのか、厄介だな」
某は『ウルフアヴァターラ・ソード』を狼形態にして放った。狩りはギフトに任せようと思っていたのだが、「大剣」に戻して戦った方が簡単かもしれない。ギフトと共に某も駆け出した。
「ハンティングなら、おまかせさん♪」
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)とシンク・カルムキャッセ(しんく・かるむきゃっせ)は共に駆けながらに『アンボーン・テクニック』を唱えて自身を強化した。大甲殻鳥はたくさんのトンボのような羽を振動させて飛んでいる。巨体を持っているというのに何ともキモイ方法を選んだものだ。
まぁそれはさておき、
「よし! まずはご挨拶っ!!」
ネージュが『シューティングスター☆彡』を唱える。流星のように降ってきたエネルギー塊が大甲殻鳥の羽に背中に墜落してゆく。
「きゅぉおおおおおおおん!!!」
大甲殻鳥が奇声をあげて宙で止まる。羽を撃たれ傷ついて観念したか、それともネージュたちを敵と認識したか。どちらにせよ飛翔は止み、その高度は下がった。となれば、
「本当は食べたくないんだけどっ!」
シンクの銃撃、そして某の狼が岩を登って飛びかかれる。どちらも顔を狙っている為、大甲殻鳥の焦点は揺れっぱなしになっていることだろう。
「よそ見したら、ダメですよ」
ネージュのさよなら宣言、「せっかくですけど、サヨナラです」
大甲殻鳥の上空に飛び出して『ファイアストーム』を叩き込んだ。
羽は焦げて裂き散って、また背に受けた直接の衝撃が決め手となった。
頭を揺らして奇声をあげて大甲殻鳥は落下を始めた、その先には剣のように尖った岩山が待ち構えている。
全身、串刺し。逃げる術はない。断末魔のような奇声があがる中、
「はぁあああっ!!」
某が大剣で大甲殻鳥の首を斬り落とした。
「悪くない」
思っていた以上に『ウルフアヴァターラ・ソード』の感触は良かった、それが一番の収穫だろうか。いやもちろん大甲殻鳥を狩れたことは文字通り収穫である。
どうにか無事に一行は「鳥」をゲットした。
「ん〜〜〜、ん! こっちだね!」
なななは懲りずに「アホ毛レーダー」での探索を行っている。頼んだのは火村 加夜(ひむら・かや)とノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)だ。
「近いよ! ずっと近いよ!! もうすぐかな?!!」
近いのか遠いのかハッキリしない……。加夜が苦笑いを浮かべる中、「これ、かな」とノアが声をあげた。
「これって、キノコだよね?」
「そうですね。わぁ……たくさんありますね」
背の低い剣山地帯、それらの岩の足にしがみつくようにキノコが周り生えていた。
「やったぁ、綺麗なキノコだよ。こっちは真っ赤っか、これは水玉もようだよ、面白い」
「………………」
ノアはすっかりご機嫌だ。
「赤と黒のおしゃれなキノコもある〜! 鳥さんのお土産にピッタリだね」
「待って、ノア」
「へ?」
「それはダメよ、それも、これもダメよ」
「えっ! へっ?! えぇええっ?!!」
ノアが手にしたキノコを加夜はことごとくに却下した。カラフルなキノコが全て毒性を持っているとは言えないが、それでも地球で見た覚えのある毒キノコに酷似している。どれもアウト、猛毒、食せば致死。
「うぅ……じゃあ、お土産として持って帰るのはいい? 綺麗だから。食べないでって言って渡すから……」
「………………そうね。じゃあ一つだけ、一つだけ持って帰りましょう」
「やった。どれにしようかな〜」
一応、とりあえずもう一度なななに探索をお願いした。食べられない種類だったとはいえ探し出したのは事実、その調子でやられると困るのだが、期待を込めてなななの後について行った。
こっちかな〜、なんて言った矢先の出来事、
「見つけたわ」
またも後方から声がした。右斜め後方、こちらは大きな岩の影でリーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)が手招きをしている。
「これもキノコね。たぶん食べられるんじゃないかしら」
加夜も確認した。確かに毒性は無いように見える。もっとも正確には持ち帰って調べる必要はあるだろうが、少なくとも見た目で明らかに毒性を持つと分かる種ではない。持ち帰っても構わないだろう。
「椎茸! エリンギ! 舞茸!」
点呼を取るようにマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)が指を差す。なるほど確かに椎茸にエリンギに舞茸に見える。地球で見る形とそっくりだ。
「ニルヴァーナ椎茸! ニルヴァーナエリンギ! ニルヴァーナ舞茸!」
名前を付けだした。まぁ、支障はないか。
リーシャが見つけたキノコは一角を埋めるようにビッシリと大量に生えていた。「大量確保!!」とマグナとリーシャが採取を始めた。食材としては味も量も期待できる。鳥人型ギフトの口に合うかどうかは不明だが、そこは「嫌いでない」ことと願うしかない。
「はぁ……はぁ……はぁ」
同時刻、少しばかり離れた地点では、鍛冶 頓知(かじ・とんち)がゾウのような鼻息で呼吸をしていた。疲労困憊、全身疲労に呼吸過多の全力乙女。その足下にはカメアリが横たわっていた。
「大丈夫ですか? トンチ」
鈴木 麦子(すずき・むぎこ)がトンチに寄りて窺う。トンチこと鍛冶 頓知(かじ・とんち)はどうにか息を整えて言ってやった。
「あんまり大丈夫じゃないわね。意外と力あるのよコイツ」
さんざん暴れて格闘した後、結局『ヒプノシス』で眠らせた。殺すならまだしも、捕獲するとなると骨の折れる相手だ。今後食材とするべきか考えものだろう。
先日発見された『カメアリ(巨大瘤つき蟻)』だが、その時は群れを成していたはずだ。頓知が見つけた時、コイツは単体一匹だった。
群れからはぐれたのだろうか、それともエサを探していただけか。どちらにせよ近くに群れや巣があるかもしれない、あまり長居はせずにこの場を去った方が良いだろう。
「この水は取った方が良いのでしょうか、それともこのまま焼いた方が良いのでしょうか」
「麦子……話聞いてた?」
「はい?」
「ここで料理する気なわけ?」
「そうですよ? 私に出来る事と言えばこれくらいですから」
「そっ……それはそうかもだけど……」
ボクのような「か弱い女の子」を狩りに放り出すなんて、と思っていたのだが、麦子は麦子で戦闘に参加できないことに負い目を感じていたのだろう。だからこそ自分に出来ることを、と探した結果が「この場で調理して味を見る」なのだ。確かに彼女ならこんな劣悪な環境下でも立派にこなすことだろう。しかし、それでも今ここで調理をするのは……。
「ふひひひひ。できたッスよ」
「うっ……なんだそれ」
頓知の懸念をブチ壊すような、そんな光景がそこにはあった。コンロにかけられた鍋を夜月 鴉(やづき・からす)が覗いている。調理したのはどっかの霊山の仙人 レヴィ(どっかのれいざんのせんにん・れう゛ぃ)のようだ。
「師匠、これ……何入れたんすか?」
「ふひひひひ。何を言いまスか、生きのいいワームを見つけたじゃないッスか、アレッスよ〜」
「アレ……入れたのか……」
ウネウネとしたナメクジのような、それでいて姿はおそらくワーム。人の体温を好むのか、鴉やレヴィの足を這い上がってきては、何もせずウネウネ、もしくはチュウチュウと肌を吸っていた。あの気持ち悪いワームを煮込んでいるのか……。
「最後に特製のマンドラゴラの粉を入れれば……完成ッス〜。はい、味見て見てッス」
「え?!! 俺っ?!!」
問答無用、即実行。ワーム入りスープを鴉の口に流し込む。と―――
「ごばぁあっ!!!」
一刀両断、一撃必殺。鴉の断末魔はかくも虚しくニルヴァーナの空に響いたという。
「ふむ」
星形のスッポンを手にとってジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)はジッと見つめた。いや、睨みつけた。
大きさは小型の手のひらサイズ。一見するとスッポンのようだが、どうにも甲羅はプニプニと柔らかい。驚くべきはその甲羅を彼らは仲間内で喰い合っているのだ。互いに首を伸ばして甲羅を喰い合うスッポン、甲羅を背負っていないスッポン、また甲羅だけが転がっているなんてのも見つかった。
「スッポン同士で食べてるんなら、ワタシたちだって食べられるはずだ」
パートナーの笠置 生駒(かさぎ・いこま)はそう言った。実際に生駒は甲羅だけの物を拾い上げては籠に入れている。この地の珍味を求めてやってきた、目的は果たしたと言わんばかりに片っ端から籠に詰め込んでいる。
しかしどうだ、本当にそうなのか?
「………………」
ジョージはジッとスッポンを見つめる。
どうしても納得できない、拭いきれない。いやだからこそ、その不安をここで拭うのだ!
甲羅に歯を立てて、さぁ一口。
「大量だなぁジョージ。あ、籠が足りなくなったら言ってくれよ、もう一つあるからさ」
手を止めずに顔も向けずに生駒は言った。しかしそれでは気付かない。ジョージの自爆に、またそれが示す結論にも気付かないのだ。
また一人、犠牲者が出た。
それらを見届けて、改めて頓知は思った。「ここで味見も調理もするべきではない」と。
「ね、麦子、帰ろう。帰ってから調理しよう? ほら、ギフトも待ってる事だし、食材は確保できたんだから、ちゃんとした所で調理しよう」
調理器具はもちろん、医療体制もここよりはずっと良い環境で。
「カメアリ」の群れだって、または先程の「大甲殻鳥」だって群れが無いとも限らない。それなりに収穫はあった、鳥人型ギフトに振る舞うだけの食材は十分に確保している。
ゲストの待つ学校へ。一行はそれなりの急ぎ足で学校へと戻っていった。
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