校長室
リアクション
◆ ◆ ◆ 「私たちに与えられた今回の主な任務は、創造主の元へ向かう方々の援護です!」 教導団第四師団としてこれまで戦ってきた騎凛 セイカ(きりん・せいか)らも部隊を率い、創造主の元を目指していた。 「それはそうと久々に喋ったでありますね。騎凛ちゃん」 マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)大尉がふふり、と笑う。騎凛セイカには軍師として的確な助言を与えてきた欠かせない存在だ。 「ずっとコンロンに閉じ籠っていましたからね。それはそれでしあわせな日々でしたが……私にはやっぱりこれ」 その手に懐かしいナギナタを掲げる。 「マリーさん。中軍はしっかりと任せましたよ」 「ふふり。承知であります。後方支援を引き受けている沙鈴大尉との仲介はワテに任せるであります」 「久々の戦いに、腕が鳴ります」 「ふふり……しかし無理はせぬよう。沙鈴大尉の元には治療班も控えているであります。毛が……いえ怪我した者は、ワテのイコン辮髪式輸送トラックに運ばせるでありますから。 騎凛ちゃんだって、毛が……いえ怪我した際には、きちんと一旦退いて頂きますぞ」 「そうそう腕は鈍ってはいませんよ。それよりあの。毛が、毛が……って明らかに突っ込んでほしいのはわかりますが、どう突っ込めばいい? こうですか、わかりません」 セイカはマリーの辮髪をぎゅっと引っ張る。 「おうふふりっ 誘い受けの騎凛ちゃんがまさかの責めで来るとは、属性が変わったでありますか? わての毛じゃなくて、勿論騎凛ちゃんのあそこの毛……」 と言ったところで、セイカを挟んで反対側にいた朝霧 垂(あさぎり・しづり)から正中一閃突きが飛んでマリーの顔面を捉える。 「おう゛ ふ、ふふり、やりましたね、垂ちゃん!」 「今や教導団のマリー大尉なんだ。そんなシモネタに固執してないで、さすがにそろそろしっかり仕事に戻るべきなんじゃないのか? ここは、前衛なんだ」 「そうでありましたね。ふう。ふふり、騎凛の嫁(逆か)はコワイコワイ。ではワテは中軍へ戻るであります! ともあれ騎凛殿。創造主……間違いなく、これまでで最強の敵。であれば、力だけで立ち向かうは危険……ワテら中軍以下をしっかりあてにしてくれでありますぞ! あと、ま、それから固執していたのはワテというよりも、このカナリーなんでありますが。それでは、ワテはこれで! お仕事お仕事」 マリーはどかどかと、イコン辮髪式輸送トラックで後方へ去っていった。 朝霧はふう、と溜め息をつくが、マリー大尉の実際の任務遂行力については無論認めている。 騎凛セイカの隣には、カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が残された。 「騎凛ちゃん……」 「え、ええ。お、お元気にしていましたか? カナリーさん?」 なかなか騎凛に会えないせいか、少しむすっと不満げな様子のカナリーだ。元々は【騎凛セイカ先生の恋人候補】の一人として、朝霧や、かの久多隆光らと恋の火花を散らしてきた。 今は無論、セイカは垂と結婚している間柄なので…… 「ど、どうしたましたか? とにかく今は、戦いの時ですよ! カナリーもしっかり、マリーの援護をしてあげてください。その……お約束的なことは、きっと後でしますから」 「わかった。じゃあ、これ」 「これは……」 カナリーはセイカにスープを手渡した。 「ギャザリングへクスでたんとスープを作ったから、夜の戦いに臨む騎凛ちゃんに精がつくよ、たんとおあがり」 「え、ええと、とりあえずありがとうございます」 「朝霧にも分けてあげるよ、3Pだね、オトナの世界だね、今唯゛創造主゛的エロスだね♪」 カナリーはそう言い残して、頑張るよ、夜も昼も。夜も昼も。と呟きを繰り返しながら去っていった。ずずず、とセイカは少し頬を赤らめてスープを口にした。 「はい。垂もどうぞ」 「もう、仕方ないなぁ。お約束的なことは後でと言っても今回そんなことに頁は割けないからな」 「ごめんなさい垂。でもまあ、その辺はやっぱり私のキャラのイメージもあるし……」 「(時間が経過したせいか、微妙にキャラ変わってないか?) それはそうと、俺たちの任務も、セイカ自身が最初に言ったように、そもそも援護が主任務なんだ。そんな風に、ナギナタを強く握りしめなくたっていいだろう」 「そ、そうでしたね。私としたことが久々で、つい……」 「それに、だ。セイカ自身も戦う気満々でいるのかもしれないし、マリーも創造主のことを最強の敵、と言っていたが、俺は単純にそうは思わないんだ」 「えっ。どういうことですか……」 「それはな」 兵らが、ざわつきだす。「騎凛隊長! お気をつけください。周囲に!」 どうやら、創造主の近くにまで到達したようだ。 緊張感が高まる。 周囲の他の部隊との連絡も密にしつつ、慎重な行動が要求されるところだ。 一方、こちらは後詰の沙 鈴(しゃ・りん)大尉の部隊。 騎凛セイカとは元同僚同志で、今は大尉として確実に任務をこなし教導団での評価を得ている。 「毎度のことながら、わたくしは兵站維持に努めますが……」 沙鈴は少し、微笑する。騎凛セイカとは久々に任務を共にする。そのことが嬉しくもあるし、久々と言え、彼女とは長年戦を共にしたきた。連携して軍を動かすのに支障はない。沙鈴はそう確信している。 今のところ、大きな動きはない。 しかし、沙鈴を中心とした後方部隊が、予備の武器・弾薬や食料、医療品の輸送を行い備えていることで、前線は安心して創造主の元へ行軍していけている、と言えるだろう。 勿論、何かあったときのために、しっかりと帰還ルートを確保しておくことも大事だ。 「情報収集を常に怠らぬよう」 沙鈴は兵に命ずる。 「他の部隊との連携を密に、後は臨機応変に動けるようにしておくことですわ」 こうした沙鈴らの備えにより、後方は問題ないだろう。さて、前線の方は…… いや、その前に。沙鈴も気づいている、パートナーの綺羅 瑠璃(きら・るー)の様子が少しおかしいことに。しかしその内情を沙鈴は察知してもいた。 瑠璃が考えていたのは、ジャレイラ・シェルタン(じゃれいら・しぇるたん)のことだ。かつてヒラニプラ南部の戦いで、命を落とした十二星華の一人……瑠璃は彼女のことを忘れていなかった。 この、世界の危機である今、彼女がいたら彼女はこの世界をどう思ったろう。 瑠璃は目を閉じて、ジャレイラに問いかけていた。彼女に殉じれなかった者として、せめて想いだけは、彼女に代わりそれを届けたい、と。 前線が騒がしくなっている、と聴こえてくる中、瑠璃はそれとは全く別の声を聞き届けていた。そうそれは確かに、ジャレイラその人の声に、彼女の想いに、違いなかった。それが瑠璃にははっきりと、わかっていた。 前線の騎凛セイカ、朝霧 垂ら。 創造主の周りに、光り輝くパートナーたちの姿が見えている。 「何だろうな……見た目は全く違うのに、何故か地球で初めてライゼと会った時を思い出しちまった」 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)と契約した、あの時。 「垂……」 「なあセイカ。さっきの話だが、ただこいつらを、敵対する存在として倒して、終わりなんだろうか。そんなことじゃないだろう?」 垂はそう半ば独り言のように呟き、 「あの時のライゼは、見えていて確かにそこに居るのに、不安に押しつぶされて今にも消えちまいそうな弱々しい状態だったな……光り輝いて目立ってはいるけどさ、お前たちも同じ様に見えるぜ?」 垂は光り輝くものらの前に一歩踏み出す。 ライゼ・エンブは、垂の思うところを察しておりそれを見守る。 垂は、語りかける。 「俺たちと共に来い! これから先の未来、一緒に生きていこうぜ?」 「垂、危ない、下がって!」 セイカは垂を引き止めようとして、光り輝くものたちにナギナタを向けるが、垂はそれを制する。 「セイカ。俺たちは、ただ受け入れるんだ。全てを」 「垂……わかりました」 セイカはナギナタを地に置き、垂の手をとり頷いた。 |
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