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【2021年】パラミタカレンダー

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【2021年】パラミタカレンダー
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リアクション



【8月】




 夏といえば海。
 海といえば輝く太陽、沸き立つ入道雲、そして白い砂浜!
 更衣室シャワー、スパ完備。全部そろった海で、最新マリンスポーツを楽しみたいなら海京へ!!


 パラミタと地上とを繋ぐ巨大エレベーター・天沼矛を背景に広がる近未来的都市・海京。その全景を収めた写真に踊る文字。
 旅行会社のパンフレットを鞄に突っ込み、
「っつーことで、やって来たぜ海京へ!」
 バスを降り立ったラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)の目の前に広がるのは、パンフレットの中身通りの、白い砂浜と海。
 もちろん海上都市である海京のこと、四方が海に囲まれているのは当然のことだ。逆に言えば、白い砂浜は人工的に作られたものということになるが……それはこの景色の前には些細なことで、作らない方が勿体ないようにも思われる8月、夏真っ盛り。
 バス停から砂浜へ続く短い道を、ラルクは柔道着入れのような形の鞄を肩にぶら下げながら、ゆっくりと歩く。快適な冷房が効いたバス内から、湿度の高いむわっとした日本独特の夏の空気に包まれる。照りつける太陽は早速、じりじりと皮膚を焼き始めた。
「海に来たら日焼けは基本だよな」
 ビーチサンダルの足がやがて砂浜をぎゅっぎゅっと踏むようになると、ラルクは待ちきれず、おっしゃと一声。海に向かって駆け出す。
「今日は遊ぶぜー」
 大学入学以後、学業を疎かにすることはなかったが、修行との同時並行の日々にはたまの息抜きも必要だ。海に遊びに来ていた、他の学生たちに混じっていく。学生たちは各校の生徒がいるようだが、特にここを拠点としている天御柱学院の生徒が目立つ。
 ビーチバレーに砂の城に砂風呂、それに課外活動として海上スポーツが盛んなためか、遠く遊泳区域の外では、水上バイク、ヨットや水上スキーを楽しむ学生までいた。
 その中で一際目を引く水上バイクがある。
「ん、何だか懐かしい形してんのがあるな……」
 スマートで近未来的な造形の水上バイクに混じって、やたら金属が突き出た、世紀末的バイクが海を爆走していた。バイクからは荒々しい筆遣いで「海漢」と書かれた旗が翻って遠目にも目立っている。
「よっしゃ、俺も行くか!」
 早速ラルクは旅行パックについてきた水上スキーの申請をすると、海の上に乗り出した。ボートに繋がれたロープを掴んで、曳航されながら水の上を滑る──その足元が、水飛沫の軌跡を後ろに描いていく。
「うおー! さっすが海京! パラミタじゃあこんな水上スポーツできねぇもんなー」
 両側に流れる風と景色のめまぐるしさに歓声をあげながら、ラルクは慣れたところで左に右に、体を傾けてブイを避けながら海を滑った。波が来れば乗り、飛び越える。ラルクの周囲を、水が鳥のはばたきのように広がった。
 ラルクは距離を置いて併走する、さっきの世紀末バイクに向けて太い腕を振った。形が懐かしく、そして操縦者が“お仲間”のように思えたからだ。
 乗っているのはジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)。ハーフパンツのウェットスーツに、サングラス。茶色の、たてがみを思わせるツンツンした髪が、風にあおられている。
 十分大柄で、巨漢・筋肉質のラルクだったが、【規格GUY】ジェイコブの場合、改造バイクでやっと比率を保っているようなところがある。もし普通の水上バイクに乗っていたら、大人が三輪車を乗り回すような雰囲気になってしまっていたに違いない。
「ちょっとエンジン音がデカ過ぎる気がするな。これも派羅魅多・飛蝗・喪迂汰吾(パラミタ・バッタ・モーター)に送っておこう」
 ジェイコブはスロットルを握る手を緩め、速度を落とす。
 このバイクは、発売されたばかり、パラ実向け水上バイクの新ブランドなのだ。ジェイコブはそのモニターとして当選していた──といっても、ハガキに記入した身長体重欄の影響が大きかったことは想像に難くない。
「爆音じゃくつろいでる奴の邪魔になるからな」
 ジェイコブが周囲を見回せば、ほど近い海上、ヨットの上で髪をなびかせ景色を楽しむ少女の姿。彼女アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は白に水色のラインが入った、蒼空学園の指定水着を着ている。
「パラミタから見下ろすのとは、また違った風景でいいわね」
 と、暫く景色を楽しんでいたアリアだったが……、視線をついっと自分の体に向ける。
「改めて見ると、際どいデザインの水着だったのね……」
 解放的なパラミタで、指定水着としてみんな着ているから気にならなかったけど。
 胸元が際どく開いたデザインに(というより、間を繋いでいるという方が正確だった)、大胆なハイレグカットのビキニ。ビーチバレーをすれば、肩紐がないせいで、脱げないように気を遣って大変だった。ずれたり、ずり下がったりずり落ちたり……見えちゃったりしないか、気になって試合にならない。
 あぁ、だからかぁ、とアリアはあることに思い当たって、頭を抱えた。
「うぅ、嫌な事も思い出しちゃった……」
 さっきはビーチバレーをしてたらじろじろ見られるし、男の人に絡まれてエッチな事されちゃったり、逃げようと思って海に出たら出たで、巨大ダコの触手に捕まって色々されたり……。巨大ダコに水着の露出なんて関係ないとは思うけど。
 受難続きのアリアにとって、ヨットはようやく手に入れた安息の地? なのだった。
 そのヨットだが、先ほどから同じところをぷかぷか浮いている。
 ──と、船の横にぷくぷくと空気が浮き上がり、かと思えば海面の一部がばしゃんと割れた。
「お帰りなさい」
 顔を出したのは、ウェットスーツの黒い頭だった。
 左手でゴーグルをたくし上げ、黒にエメラルドグリーンのウェットスーツのフード部分を脱ぐと、白い肌に青い瞳、後ろ髪をまとめた金髪が現れる。
「ただいま! ふふ、いい獲物が捕れたわよ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が右腕を挙げると、手銛に魚が一匹、腹部を貫かれていた。。体長六十センチほどもある、イナダ──出世魚である鰤の別名である──だ。たまたま普段より水深が浅いところを泳いでいたのを、スキューバダイビングで潜っていたローザマリアに手銛でひと突きされたのだ。
「ねぇ、皆で写真撮りましょうよ」
 ヨットに上がったローザマリアは、アリアやジェイコブ、ラルクにも声をかける。
 あらかじめ用意しておいた三脚とカメラを使って、砂浜で並んで、記念撮影。中央に立ったローザマリアは、ぐっと魚を突き上げるようにして、会心の笑みをみせる。
「やっぱり、海は最高だわ!」
 その後イナダは、彼女の手によって刺身になり、ユッケになり、ムニエルになり……ローザマリア達のお腹に美味しく収まったのだった。