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第四章 部長救出作戦2


「ひゃっはー! お客様のようだぜ、おまえら! 歓迎してやんな! かれんの声を録音したテープを流せ! ケンカ殺法忘れるなよ! 最後には放火だ。ひゃっはー!」
 鮪が突入部隊歓迎の準備を始める。
 そこに真っ先に飛び込んできたのは荒巻 さけ(あらまき・さけ)だった。
「さあ、覚悟なさい! かれんを救出に来ましたわ!」
「救出? もう遅いぜ」
「遅い?」
「森園かれんはもう俺の女になったァ〜。ヒャッハァ〜! 俺の言うがままされるがままだぜ、もう調教済みだぜェー!」
「ちょ、調教済みなんて、なんてことを……!」
「分かったなら帰りな! お子様はお帰りの時間だぜ!」
 バイクのエンジンをふかし、鮪が挑発する。
「そんな……そんなことはさせない!」
 小さな身長をものともせず、さけは鮪を見据える。
 すると、後から追ってきたミルディアと和泉 真奈(いずみ・まな)も、鮪の言葉を聞いて、憤慨した。
「かれんさんになんてことを! 許せないわ!」
「女性の敵ですわ! 許せませんわ!」
 普段臆病な守護天使も、パートナーの怒りに同調するように声を上げる。
「他校生だからおとなしくしてようかと思ったけれど……お友達を汚す人を許せたりなんてしない!」
「許せないならどうするよー」
「戦うまで!」
 さけ、ミルディア、真奈の女の子三人組は果敢に鮪に挑んで行った。

 一方、彼女たち三人ががんばる中、ほとんどの人たちは、かれん目指して進んでいた。
「どう?」
 ルークが背後を守る中、由香は黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)の様子を見ていた。
 先ほどから二人は交互で、洞窟内にある扉のピッキングをがんばっている。
「ん〜困ったねえ、あと少しで行けそうなんだけど」
「っていうか、なんで、洞窟の中に扉があるんだよ」
 ルークがにゃん丸と由香の気づいていない点をつっこむが、二人はピッキングに忙しくて、全然気づいていない。
 空気を読んだ鮪の作った部屋なのだが、とにかく二人は開けることをがんばっていた。
 しかし、その音を聞き、陽太が外の異変に気付いた。
「ねえ、かれん、何か音がしない?
「え?」
 陽太に言われて、かれんも立ち上がる。
「誰かいますかー?」
 扉の向こうに陽太が声をかけると、にゃん丸と由香がその時ちょうど、鍵を開けることができた。
「開いたぁ!」
 にゃん丸の青の瞳が輝く。
 鍵が開いたと同時に、九条 風天(くじょう・ふうてん)が中に入り、警備のゴブリンたちがいないかなどをチェックする。
 しかし、警報装置もなく、見張りのゴブリンなどもいないのが分かり、風天はかれんを促した。
「さ、急いでください。今のうちです」
「で、でも、私と一緒に逃げたりすると、皆さんにご迷惑が……」
 少し尻込みするかれんを見て、風天はちょっときつめに叱った。
「いいですか。そうやって人に迷惑とか言うなら、最初からこんな行動をしないでください。それくらいなら、自分の軽率さと、部長としての責任について、学校に帰ってからよーく反省すること。いいですね」
「は、はい」
 素直に頷いたかれんを見て、風天はちょっと表情を緩めて微笑んだ。
「そうちゃんと認められるのは良いことです。まずは反省の前に、学校に帰還ですね。行きましょう」
 風天はかれんの手をひっぱり、陽太も共に連れて、その場所を出た。
 彼らの後ろに、にゃん丸、由香、ルークも続き、彼らは村雨 焔(むらさめ・ほむら)たちと合流した。
「良かった、無事だったようだな」
「あ、はい。すみません」
 焔の言葉に、かれんが頭を下げる。
 すると、焔はそんなかれんに微笑みを見せた。
「なに、人間には間違いもある。謝るよりも次につなげることだ」
「はい。そうします」
 かれんの真剣な回答に、焔は優しい笑みを見せる。
「……」
 アリシア・ノース(ありしあ・のーす)はそれを見て、ちょっと顔を背けた。
 焔は優しい。
 それはとてもいい点だと思うし、アリシアもそういう焔がいいと思ってる。
 でも、たまに思ってしまうのだ。
 そういった微笑みもやさしさもできれば……。
 そこまで考えかけて、アリシアは頭からそれを振り払った。
 自分の思いかけた感情は、あまりいい感情だと思えなかったからだ。
「さ、それじゃ、どうぞ、みんなの中に入ってくださいな、お守りして外に出ます。外で、シープ・シープさんもお待ちですよ?」
「シープ・シープが? ありがとうございます」
 喜んでお礼を言うかれんを見て、アリシアは意地の悪い嫉妬を口にしないで良かったと思った。
 そして、アリシアの心のブレに気づかない焔はかれんに「離れちゃダメだよ」と声をかけ、進んだ。
 かれんを守る人数は十分すぎるほどにいた。
 宗地とアリエッタ・ブラックたちもいたし、支倉 遥(はせくら・はるか)ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)もいた。
 逆に言えば、突入組のほとんどが、かれん救出に向かってしまったため、さけ、ミルディア、真奈の3人は、女の子3人で奮闘することになった。
 さけは可愛らしく儚げな面影にいっぱいの汗をかき、鮪がけしかけるゴブリンたちを正面から斬っていた。
 その右後ろと左後ろを守るように、ミルディアと真奈が立ち、3人でゴブリンと戦ったが、なにせ多勢に無勢。
 かれんが助けられ、焔たちと合流した頃に、ミルディア達は引き始めた。
 徐々に入り口側に引き、ちょうど途中で、かれんを連れた一行と合流したのだ。
「大丈夫か? ここは任せて、先に行け!」
 走ってきたミルディア達を見て、一行とゴブリンの間に、宗地たちが立ち塞がった。
 ぼさぼさの乳白金の髪を振りながら、アサルトカービンを構え、それを守るように、アリエッタがカルスノウトを持って、立ちふさがる。
「ありがとう、お願い!」
 さけは息を切らせながら、入口に向かい、ミルディアはかれんと再会できたことを喜んだ。
「良かった! 無事で……」
「うん、ありがとう!」
 心配をしてくれていた友人に、かれんは頬笑みを返す。
 しかし、その足が少しもつれた。
「大丈夫?」
 ミルディアが心配げに聞くが、そこに凛とした声がかかった。
「かれんこっちに!」
「あ、は、はい」
 名前を呼ばれて、かれんは思わずカルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)の手を取った。
 するとカルナスは、すっと体を動かし、かれんを抱き上げ、お姫様抱っこして走り出した。
「え、え、えっ!?」
 かれんは驚いたが、カルナスはかれんを下ろそうとはしなかった。
「今は他のこと考えている場合じゃないから急ぐよ!」
「わ、わかりました!」
 少し恥ずかしいと思いながら、かれんはおとなしく従った。
 あと少しで、入口。
 しかし、いまだに追ってくるゴブリンは多い。
 ただ、みんなは知っていた。
 その出口のところが、ゴブリンにとって危険地帯になると。
「さて、それでは遠慮なく滑っちゃってください」
 幸がうれしげに出口のところで微笑んでいる。
 焔たちが避けて壁際を歩く中、距離を詰めようと、ゴブリンたちがまっすぐやってくる。
 そこをざーっとすべり、そのまま、ゴブリンたちは用意された落とし穴へと落ちて行った。
「幸の簡単クッキングのはじまり〜はじまり〜♪今日はゴブリンの油づけです♪」
 落とし穴の中に、幸が喜々として、とどめの油をまく。
 その幸に、襲いかかろうとしたゴブリンもいたが、ガートナにあっさりとメイスで道を塞がれた。
 幸が攻撃できないと分かったゴブリンたちは違う道を選んだが、今度は足掛け罠があった。
 地面に隠した網があがり滑車で吊り上がり、ゴブリンの網袋詰めができる。
「よし、後は任せろ!」
 八神 夕(やがみ・ゆう)がトラップを乗り越えたゴブリンたちの前に立ち塞がった。
「まずはかれんを安全な場所にやれ!」
「分かった!」
 遥が返事をし、ベアトリクスに手伝ってもらって、小型飛空挺にかれんを乗せる。
「あ、僕もその、手伝うよ」
 朱華が剣士としての意識を感じたのか、仲間を守るために夕の隣に並ぶ。
「あの、皆さんは……」
「それぞれ来る! 部長がいると、みんないろいろ気にして、やれないんだよ。それくらいわかれ!」
 遥にビシッと言われて、かれんはおとなしくなる。
 ベアトリクスは「さ、お早く」とかれんを促しつつ、彼女を小型飛空挺に乗せ、飛んで行った。
 夕はみんなをそれぞれの手段で逃がし、ゴブリンに向かって言った。
「さて……じゃあ、徹底的に教育ってのをしてやるぜ!」