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第五章 ゴブリンたちのその後

 洞窟にいて、かれんを取り返されてしまったゴブリンたちはもちろん、牧場に動物を奪いに行ったゴブリンたちも、ゆるスター小屋に行ったゴブリンたちも這う這うの体で帰ってきた。
「まったく痛いぜ、ひゃっはー!」
 自らも負傷した鮪が、ひーひー泣くゴブリンたちを前にそう言い放つ。
「それでは、我らと共に来て、学園の下働きをせぬか?」
「ああ〜ん、なんだ、おまえは」
藍澤 黎(あいざわ・れい)。薔薇の学舎の生徒だ」
 黎はフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)を伴って、ゴブリンの洞窟に来ていた。
 フィルラントは一応、ゴブリンたちを警戒したが、すでに疲弊したゴブリンたちが向かってくることはなかったし、マグロもけし掛けようとはしなかった。
「で? 下働きって何だ?」
「蒼空学園に話を通した。ゴブリンを全滅させるのでなければ、どちらにしろ、いたちごっこになる。それくらいならば、安定した仕事と場所を提供しよう。しばらくは被害の復興のために、ある程度、金を徴収させてもらうが、食べるに困るようなことはしない。我の提案に乗らぬか?」
 黎の言葉に、鮪は笑った。
「兄さんよう、そりゃ都合が良すぎるってものだぜ! おまえ、薔薇学の生徒なんだろ? なのに、薔薇学じゃなくて、蒼空学園で働かせる? そりゃねーな、ねーよ。自分が提案しておいて、自分はその面倒を見ないってか? そんな話は信用できねーな」
「いや、我は……」
 そういった形での反論を予想していなかった黎は、返答に窮した。
 すると、そこにもう一人の影が現れた。
 童顔で頼りなげな背のあまり高くない少年だ。
「それなら僕がいれば納得ですか?」
 蒼空学園の制服を着た大草 義純(おおくさ・よしずみ)の姿を見て、黎も鮪も驚く。
「ほう、青空学園の人間も協力か」
 鮪の表情が変わる。
「ま、元々は違う予定だったんですけどね」
 義純は本当はゴブリンを捕まえて家畜化しようかと思ったのだが、酪農部に行ってみて、黎の提案の話を聞き、それに一枚噛むことにしたのだ。
 ゴブリンの生活も保障でき、動物の世話もさせれば人手不足も解消、と一石二鳥だと思っていた。
「ゴブリン舎の建築申請をしないといけないですが……ま、しばらくは洞窟から通ってとのことでしたし、徐々に慣れていけばいいでしょう。どうですか? 飲みませんか?」
「ここまで一人で来た根性は褒めてやる。でも、坊ちゃんみたいなのに、俺らモヒカンゴブリンの面倒が見られるか?」
 鮪の挑発に、義純は溜息をついた。
 このパラミタには真っ当な生き方を求めてやってきたはずなのに、まさかこんなことになろうとは。
 それでも同じ学校の生徒がいなくて良かったと思いつつ、義純は腹をくくり、黒縁の伊達眼鏡を外した。
「ん? 何するんだ、坊ちゃんよ」
 鮪の問いに言葉で答えず、義純は自分の制服のボタンを外した。
 そして、背を向け、バッと上半身裸になった。
「えっ!」
 黎が思わず目を背ける。
 しかし、鮪は感嘆の声をあげた。
「……ほう」
 義純の背には『夫婦滝登り鯉』の刺青が彫られていた。
 極道に連なる家系の出身である義純の親が入れさせたものである。
 これのせいで水泳や修学旅行の風呂で困るだろうと思っていたが、こんなところで使うとは思っていなかった。
「この登り鯉に賭けて誓おう。お前らの身、俺が責任持って預かってやる」
「気に入った。それなら俺のモヒカンゴブリンどもは預けさせてもらおうか」
 鮪が膝を打ち、ゴブリンを蒼空学園で働かせることに同意した。
「ありがとう」
 義純は服を着て、礼を言った。
 黎はそれを見て、ホッと胸をなでおろしたが、その肩を鮪がポンと叩いた。
「こういうことってのはただ提案すればいいってもんじゃねーよな、兄ちゃん。戦って潰しちまうよりも、その族を面倒みるって方が百倍難しいんだ。兄ちゃんの選択、高くつくぜ〜」
 ニタ〜と笑う鮪の表情に、黎は思わず背筋が寒くなるのだった。