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第6章・キィちゃんの事情


 森の上空では、警備中だった織機 誠に、異変が起こっていた。箒で広い森の上を飛んでいるうちに、例の悪い癖が始まったのだ。
「悪くない…悪くないぜぇ…」
 普段の口調とガラリと変わった誠が呟いた。
「キメラはもらったぁっ! フォレストのサービスは俺のもんじゃあっ! ヒャッハー!」
 誠は、空飛ぶ箒の進路を森へ向け、急降下していく。彼は、箒に乗ると人格が豹変するタイプなのだ。
 そんな上空に比べ、丘の上は平和だった。
 ピクニック組はのんびりしているし、少し離れた所では、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が、幼い頃からの日課となっている練功を行っている。彼女は、レギンスの上に制服の上着という服装だったが、上着のサイズが大きいため、ワンピースの様にも見えた。
「はぁっ!」
 九弓が身体を大きく動かす度、後ろでゆるくまとめた金色のロングウェーブの髪が揺れる。
 パートナーの、13センチの小さな剣の花嫁マネット・エェル( ・ )は、九弓が傍らに置いていたマジックローブのフード部分を日よけ代わりにして、修行に励む彼女を見守っていた。
 純白のドレスの上から羽織ったヴェールが、丘の風に応える様に踊る。
 あまりの心地良さにマネットがうとうととし始めると、茂みがガサリと揺れた。
 マネットがぼんやりと目をやると、茂みの中から大きな鼻がひょっこりと覗く。
「九弓!」
 マネットは驚いてパートナーの名を呼ぶ。
「どうしたの?」
 九弓が振り返ると、茂みの奥からライオンが顔を出した。よく見ると、たてがみの隙間から空色の首輪が見えたので、九弓はその動物に訪ねた。
「あんた、もしかして迷子?」
 彼女が朝から丘に来ていなければ、それが皆の探しているキィちゃんだと分かっただろうが、何も知らない九弓は、動物に敵意がない事を確認すると修行の続きに戻る。
 そんな九弓を見て、マネットも落ち着きを取り戻し、元通り、パートナーの修業を見守る事にした。

 日奈森 優菜(ひなもり・ゆうな)とパートナーの柊 カナン(ひいらぎ・かなん)春告 晶(はるつげ・あきら)とパートナーの永倉 七海(ながくら・ななみ)の仲良し4人組も、キィちゃんを捜しに丘へと来ていた。手分けして周辺の森の中まで捜したのだが、キィちゃんは見つからず、また丘へと集まってきたのだ。
「キィちゃん、なかなか見つかりませんね」優菜がため息まじりに言う。
「あの人に話を聞いてみようよ!」
 七海が、九弓の姿を見つけて駆け寄っていった。
「すみませーん! この辺でキィちゃん見ませんでしたか?」
「キィちゃんって?」体術の修業を続けながら九弓が問い返す。
「知らないの? カフェのミリアさんのペットのキメラだよ。逃げ出したから皆で探してるんだ」
「多分、キメラなら見たよ」
「どこで見たの?」カナンの質問に、九弓は近くの茂みを指差した。
「最初そこにいて、それからあっちの方にいったよ」

 4人は礼を言うと、九弓が教えてくれた方向に走り出した。
 茂みを抜けた先には、キィちゃんらしき大きな動物がいた。しっぽのあたりで、身体を揺らしている蛇が確認出来る。
「よし! キィちゃ…」
「待ってくれ」
 七海が声を掛けようとした時、それを止める男がいた。近くの木の陰にいた永夷 零(ながい・ぜろ)だ。
 零は口に人差し指をあて、静かにするよう3人に頼んだ。彼が見守る先では、パートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)がゆっくりとキィちゃんに近づいていく所だった。
 彼らは、キィちゃんをぬいぐるみで引き寄せてから、ミリアのエプロンを着たルナにキィちゃんを懐かせ、そのままカフェまで連れ帰る、という作戦を立てていた。
 しばらくして、キィちゃんと打ち解けたルナが零達を手招きする。5人はキィちゃんを驚かせないよう、ゆっくりと近づいて行った。
「足止めして悪かったな。キィちゃんが興奮してルナに襲いかからないとも限らないから、ちょっと慎重にさせてもらったぜ」
「無事で良かったです」優菜が微笑む。
 ルナは、ミリアの口調を真似ながら、キィちゃんに話しかけていた。
「キィちゃん、ミリアさんが心配していますよ〜。おうちに帰りましょ〜?」
 ルナに撫でられていたキィちゃんは、帰るという単語を聞いて、視線をそらした。
「どうしました〜? ミリアさんと何かあったのですか〜?」
 零が真剣な顔でキィちゃんの目を覗く。
「言ってもいいんだぜ、キィちゃん。やっぱりミリアさんにお風呂でごにょごにょな事をされたから逃げ…っ!」
 ごすっと、ルナの手刀が零の脳天に落ちた。
「ぃ、痛いぜ、ルナ」
「キィちゃんにまで変な事を聞かないで下さいね」
「…も…ふ……に…ある」
 それまで静かにキィちゃんのたてがみを撫でていた晶が何事かをつぶやいた。
「どうしたのですか、晶?」
 優菜が声をかけると、晶は皆を手招き、キィちゃんの顎下を指さした。
「なんでしょう、これ?」
 ルナがキィちゃんのたてがみをかき分けると、ねじれて曲がったテープの切れ端と紙が体にからみついていた。
「……ゆっち」
 晶のもの言いたげな瞳に、優菜はぽんと胸を叩いた。
「まかせて下さい!」
 優菜がメイドの技術を駆使して、キィちゃんのたてがみからきれいにテープと紙を取り除いていく。
 晶は、たてがみに貼りついていた紙をじっと見ていたが、顔をあげるとキィちゃんを見た。
「わか…った……。これ…ミーちゃん…?」
 晶のキィちゃんは、正解だと教えるように、晶の手に鼻先を押し付けた。

 いくら待ってもキィちゃんが現れない為、森を捜す事にしたピクニック組の4人がこちらへやって来た。
「残念。先を越されましたか」
 晶に懐いているキィちゃんを見て遥が言う。その手には、ミリアの匂いがついているパラミタヒツジのぬいぐるみがあった。
 グルルルル……。
 突然、今まで皆に撫でられていたキィちゃんが地響きのような唸り声を出す。そのまま獲物を狙うように前足で足踏みをすると、いきなり遥に襲いかかった。
 ガウ!
「うわぁっ!」
「遥っ!!」
 パートナーのベアトリクスが叫び、自らの体内から光条兵器を取り出そうとするが、間に合わない。
 ガウガウ〜、ガゥ…。
 キィちゃんは、遥の手からこぼれ落ちたぬいぐるみを両前足ではさみこみ、齧りついたり舐めまわしたりしている。
「び、びっくりしました」
 さすがに顔を青くする遥をベアトリクスが助け起こして避難させた。
 キィちゃんがぬいぐるみ撫でると、鋭い爪がその腹を切り裂いて綿がはみ出し、大きな舌で舐めると毛がぬける。軽く噛む度にどこかがもげた。キィちゃん自身は気に入って可愛がっているつもりかもしれないが、ぬいぐるみ解体ショーにしか見えない。
「…かわ…カッコ…カッコ可愛い…?」
 晶の言葉に、全員が否定的な考えを抱いた。

「キィちゃん?」
 上の方から声がした。皆が見上げると、空飛ぶ箒に乗った朱宮 満夜(あけみや・まよ)とパートナーのミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)が、2メートルほどの高さで浮いている。彼らもキィちゃんを捜しに森へとやってきていたのだ。
「あなた達、キィちゃんに何をしているんです!」
 キィちゃんを取り囲む者達が、キィちゃんに攻撃しようとしているのではないかと懸念した満夜の声が、自然に厳しくなる。
「何って…」カナンが説明しようとした時、
 グルルル……。
 再びキィちゃんが唸った。見れば、満夜の箒にパラミタヒツジのぬいぐるみが吊り下げられていた。
 ガウガウッ!
 キィちゃんが満夜のぬいぐるみに襲いかかる。
「きゃっ!」
「満夜!」
 パートナーのミハエルが、キィちゃんを威嚇しようと雷術を発動する態勢に入る。
「ミハエル、やめて下さい!」
 ぬいぐるみを引っ張られ、空飛ぶ箒から落ちてしまった満夜がミハエルを制した。
「キィちゃんを傷つけたら許しませんっ!」
「満夜、お前、まさかまた……」
 満夜の態度にミハエルは、彼女が今度はキメラを手なずけようと考えている事に気がついた。

「皆さん、キィちゃんを見つけたのですか?」
 そこへ、皆と同様にキィちゃんを捜していた鷹野 栗(たかの・まろん)が輪に加わった。栗は、凛とした顔立ちを甘く弛め、満夜の側でキィちゃんを見つめる。
「想像以上に可愛いのです」
 キィちゃんは、ぬいぐるみを右の奥歯でがしがしと噛んでいる。可愛いとはだいぶかけ離れた形相だ。
「はい、私の持ってきたぬいぐるみもどうぞなのです。めーめー」
 栗が子供をあやすように差し出したぬいぐるみに、キィちゃんがぱくりと食らいついた。
「気に入ってもらえて嬉しいのです」
 満夜と栗に撫でられていたキィちゃんの耳がぴくりと動いた。立ち上がり、身を固くして森の方向をじっと見つめる。ようやく、皆の耳にもバイクの音が聞こえて来た。
 次の瞬間、キィちゃんは丘の方へ走った。
「見つけたぜ、キメラ!」
 茂みから武尊のバイクが飛び出し、半裸にぬいぐるみ姿のカガチと全裸にマントの変熊がそれに続く。
「きゃーっ!」
 女子から悲鳴があがる。
 想像を超えた事態に皆が動揺する中、最初に決意したのは栗だった。
「変態は嫌ですけど、キィちゃんが心配なので、私、行きます!」
 栗が悲壮な面持ちで、丘へと向かう決意を固めると、それぞれが同意するようにキィちゃんを追って丘へと向かった。

 キィちゃんは武尊達に追い詰められて丘へとやって来た。警戒するキィちゃんの目の前の木の陰から、ライオンの被り物がひょっこりと顔を覗かせた。反対側からはおもちゃのヘビがみょんみょんと揺れている。
 グルル……。
 さらに警戒を強めるキィちゃんに、被り物の中の人、瀬島 壮太(せじま・そうた)が首をかしげる。
(おかしいぜ。同じキメラになら、油断すると思ったんだがな)
 彼の計画では、同じキメラという事で油断したキィちゃんをおびき寄せて罠を使い、捕獲する予定だった。
 壮太はしびれを切らし、木の陰からキィちゃんを手招く。
(こっちに来いよ)
 心の中でそう念じるも、キィちゃんはかえってその場から立ち去ろうとした。
「あ、待てって!」うっかり壮太が声をだした時、
「キメラーっ!」
 武尊が叫びながらバイクで飛び出してきた。もちろん、カガチと変熊も一緒だ。
 3人は、話し合ったかのように散開してキィちゃんを囲い込む。
「さあ、覚悟しな」
 武尊は携帯で呼び出した、光条兵器の銃剣付き拳銃をキィちゃんに向ける。もちろん、威力は抑えてある。眼つぶしになる程度のダメージが与えられればいいのだ。
「キィたん、大丈夫だよぉ」
 カガチが、両腕を広げてじりじりとキィちゃんに近づく。
「こっちへおいで」
 変熊も、荒い息遣いでキィちゃんににじり寄る。
(こっ、恐い)
 木の陰からその光景を見ていた壮太は、あんな目にだけは会いたくないと心の底から思った。

「やっと見つけた!」
 素朴な雰囲気の如月 陽平(きさらぎ・ようへい)と、そのパートナーでぼさぼさ頭のシェスター・ニグラス(しぇすたー・にぐらす)も、空飛ぶ箒で上空からキィちゃんを捜していた。
 陽平は、キィちゃんを発見出来た喜びに、下の状況が掴めないまま、箒に繋いだ数珠つなぎのぬいぐるみをキィちゃんの目の前にぶら下げた。
 頭がライオンなら、ネコ科の性質に共通するものがあるに違いないと考えた陽平は、キィちゃんをめろめろにするべく、ぬいぐるみにたっぷりとマタタビを含ませていた。ぬいぐるみがキィちゃんの顔のまわりをくすぐるように揺る
「ほらほら、キィちゃん、遊ぼう」
 巨大ネコジャラシにまとわりつかれ、武尊とカガチと変熊に悪夢のように囁かれながら追い詰められたキィちゃんは、壮太が潜む木の方へと次第に追い詰められていく。
「待って下さい陽平、なにか下の様子がおかしいような……」
 シェスターが異様な雰囲気に気がつく。
 壮太のすぐ近くまで来たキィちゃんが、草むらに隠されていたロープに足を取られた。
「あ、キィちゃんそれは!」
 壮太が、まずいと判断するのと同時に、彼が仕掛けた金ダライが見事キィちゃんの脳天に直撃した。

 ガラン。

 音を立てて、金ダライが転がり、重苦しい沈黙が訪れる。

 ぷつり、と何かが切れた気がした。



 ――ガゥオオオオオォォォンッ!


 キィちゃんの瞳からは、理性が消えていた。
 咆哮に驚いて逃げそびれていた陽平のネコジャラシに、キィちゃんが飛びかかる。
「うわあっ!」
 空中から引き摺り下ろされた陽平の目の前で、ぬいぐみは引き裂かれ、噛み千切られ無残な姿となった。
 シェスターは陽平に駆け寄り、彼を守るようにしてホーリーメイスを構えた。
「大丈夫だよ、シェスター。怖がってばかりでは仲良くなれないと、ばっちゃも言ってたし」
「この状況でもそう言えるキミには感心しますが、命あっての物種とも言うんですよ」
 その時、銃弾がキィちゃんの頬を掠めた。
「ちっ、外しちまったぜ」
 悔しそうな武尊を見つけたキィちゃんが身構え、慌てて逃げるバイクに向かって火炎を吐いた。
「くらえっ!」
 武尊が再び、キィちゃんを狙って引き金を引く。しかし、怒ったキィちゃんの素早さは通常の比ではない。キィちゃんが武尊に飛びかかった。
 バイクごと引き倒された武尊の肩に爪が食い込む。絞め技に持っていこうとキィちゃんの首に手を回す。それが、カガチと変熊の目には、スキンシップに映った。
「ひとりだけキィたんと仲良くなろうなんて、ずるいよぉ!」
カガチがキィちゃんの背に飛び乗り、頬を摺り寄せた。
「俺様の先を行くとは、許せん!」変熊もキィちゃんの背に飛び乗る。
 キィちゃんは大きく身を震わせ、カガチと変熊を振り落とした。なおも両手を広げ近寄るカガチに、キィちゃんパンチがお見舞いされた。
「ぐはぁっ!」
カガチの胸元から血しぶきがあがったが、右腕のぬいぐるみが爪の向きをわずかに変えたため、致命傷は免れた。
「キィたんから俺に触れてくれるなんてぇ。…俺達、もう、友達…だよねぇ……」
 カガチは己の血潮を感じながらその場に倒れた。
「きゃあっ!!」
 離れたところから悲鳴があがる。栗達が、丘の光景に驚いて足を留めていた。続々と集まる人間達に、キィちゃんが本能的に立ち去ろうとした。しかし、その先には、最後の刺客、変熊がいた。
「来るがいい、心の友よ!」
 変熊が言い放つと同時にキィちゃんは助走をつけ、変熊の肩に噛みついた。裸の肩に、ずぶりと牙が食い込む。それでも変熊はキィちゃんの首に腕をまわし、優しく囁いた。
「俺様を理解出来るのは、貴様だけだ」
 首を固められ、身動きがとれずに唸るキィちゃんを、栗が制止する。
「キィちゃん、離してあげて下さい! それ以上はミリアさんが悲しむのですよ」
「キィちゃんは、恐かっただけなんですよね」満夜が微笑んだ。
 グルルと唸るキィちゃんに、満夜と栗が近付く。
「ほらね、怖くない」
「怖くないのです」
 栗と満夜がそっとたてがみを撫でると、キィちゃんは、ゆっくりと変熊の肩から牙を抜いた。支えを失った変熊が、ばたりと地面に転がった。
 そこに、着ぐるみを着たウィルネストとクロセル、社、少し遅れてヴェロニカが丘へとやって来た。
「いたぞ、キィちゃんだ!」
 ウィルネストの声に、キィちゃんがヒツジ達を見る。
「なんか、ちょっとマズイんとちゃうか?」
 丘の惨劇を見て、社の腰が引ける。
 グルルルル……。
 キィちゃんが、ヒツジ達に狙いを定める。ヴェロニカはチャンスとばかり、社の背をどんっと押した。
「ぎゃっ!」
 ガウっ!
 瞬間、キィちゃんは社ではなく、クロセルめがけて飛びかかってきた。
 やられる! 誰もがそう思った時、小さな影がクロセルの背を踏みつけて跳躍し、空中でキィちゃんの胸元に掌底をくらわせた。
 重力を無視したその技もさることながら、キィちゃんが跳ね返されたのも驚きだった。地上に降り立つ九弓の指には光条兵器の指輪が光る。
「何しよんねんっ!」
 あやうく餌食になるところだった社がヴェロニカに怒鳴るが、彼女はヒツジを食む生キメラを間近で見られなかった事を残念がるばかりだった。
「何これ?」
 カナンが、クロセルの懐から落ちた物を拾う。それは、袋に入ったパラミタヒツジの肉だった。匂いでひきつけようと思ってクロセルが用意していたのだ。
 カナンはそれを使い、キィちゃんの視線を引き付けながら、皆から離れる。
「よーしよし…」
 ガウ!
 カナンは襲いかかってくるキィちゃんを闘牛士よろしくひらりとかわし、皆とは違う方向に走らせると、同じ方向へ肉を投げた。
 空飛ぶ箒に乗ったウィルネストがその肉をキャッチし、キィちゃんの目の前を通って森へと向かった。
「このまま仕掛けに向かう!」
 ウィルネストが仲間に向かって叫ぶと、ヒツジ達は、ウィルネストとキィちゃんの先回りをするべく、空飛ぶ箒で森へと飛んで行った。

「で、どうします?」
 満夜は、丘の上に残された血まみれの3人を見た。
「一応、死んでもらっては困るのですよ。キィちゃんのためなのです」栗が言う。
「わかった。死なない程度に回復すればいいのだな」
 ベアトリクスは同じプリーストの縁と共にカガチと武尊の元へ、カナンとシェスターも重傷の変熊の元へ向かう。
「男のプリーストがいて良かったですね」
 恍惚の笑みを浮かべて全裸で意識を失っている変熊にシェスターが言い、カナンと共にヒールをかけはじめた。

「あれ? アキ、どこいくの?」
 皆から離れて茂みに分け入ろうとした晶に、七海が声を掛ける。
「……さがす」
 晶は、キィちゃんのたてがみにくっついていた紙を七海に見せた
「何これ?」
「ああ、これはハーブだよ。このあたりの郷土料理によく使うんだ」
 紙に描かれた植物の絵を見た陽平が説明する。
「…お手伝い……さがしに…きた…って…」
「キィちゃんが言ったの?」
 優菜が尋ねると、晶が頷いた。
「キィちゃんは、ミリアさんにハーブを持って帰りたかったんですね」
 ルナがキィちゃんが去った方向を見つめる。
「……森に、還りたかったわけじゃないんですね」
 寂しそうに満夜がつぶやいた。
「それじゃ、俺らでそいつを探してやろうぜ。ハーブを見れば、キィちゃんも何で森に来たか思い出して、落ち着くだろうからな」
 零の言葉に、その場にいた者達が賛同した。