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第一章 パラミタミステリー調査班設立!

「よく集まってくれた。私が、イレブン・オーヴィルだ。では、まずは私の推理を聞いてくれ」
 広場に集まった人々を見回し、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は高らかに言い放った。時刻は正午を過ぎた頃。高く昇った陽の光が燦々と照りつける中、さっと取り出した眼鏡を着用する。ぎらりと光るレンズの奥に茶の双眸を輝かせ、イレブンは片手に抱えたボードを大きく掲げて見せた。
「今回の誘拐事件。私は、鏖殺寺院が犯人だと思っている」
 ボードの中央に大きく赤で描かれた鏖殺寺院の文字に、人々がどよめく。それもその筈だ。
「鏖殺寺院なんて、あのメイドさん一言も言ってなかったぜ?」
 耳から垂れたイヤホンのコードをぷらぷらと揺らし、半信半疑の様子で比賀 一(ひが・はじめ)が疑問の声を上げる。協力を要請したメイドの提供した情報に、鏖殺寺院の文字は見当たらなかった。そのような物騒な名前、一目見たなら決して忘れはしないだろう。
 しかし、イレブンは怯まない。
「そもそも、あのメイドは怪しい。……これを見てくれ」
 言いながら、イレブンはボードに大きくRAPISUとMEIDOの文字を書き加える。
「まず、ラピスとメイドをローマ字にする。仮面の男の赤いマントが破れたということは赤いは不要ということだろうから、二つのローマ字からREDを削る」
 イレブンの解説に合わせ、彼のパートナーであるカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が手に持つスポンジでREDの文字を拭き取った。残ったAPISUMIOの文字を示しながら、イレブンは続ける。
「PはRの一部だと考え、MはEを横に倒したと考えるとAISUIOとなり、これを並べ替えると……」
 とうとうと語りながら元の羅列の下に文字を記入していくイレブンの手元に、人々の視線が集中する。ざわざわと聞こえていた会話の声も今やしんと静まり、彼の推理にその場の全員が耳を傾けている。
 そして描かれたOSAIIUの文字を勢いよく叩き、イレブンは声を張り上げた。

「IIは?を意味するのでOSA?U、おーさつう、鏖殺!! つまり、ラピスは鏖殺寺院の手先だったんだよ!!

 おおお、と感心の声が上がる中、集まっていた生徒たちの半数が背を向け去っていく。しかしそれを気にした様子も無く、そんな彼らを尻目に一際元気よく声を上げる生徒がいた。
「た、大変だ! それなら早くラピスさんを捕まえないと!」
 幼さの残る顔を焦燥に引き攣らせ、切羽詰まって様子で叫んだクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は早くも駆け出そうと背を向ける。そんな彼を制するように、パートナーのローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)は柔らかく肩を掴んだ。
「お待ち下さい、主よ。単独では危険でしょう」
 その言葉に、依然として残っていた生徒たちが顔を見合わせた。一つの推理の下に集った、同士とも呼べる生徒たちの姿をそれぞれに確認する。
「ワタシもラピスが怪しいと思う。皆で協力して証拠を探そうよ」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)の言葉にその場の全員が大きく頷く。彼らを一通り見回したイレブンは満足げに一つ頷き、ばん、とボードを叩いた。

「よし。私はここに、パラミタミステリー調査班の設立を宣言する! 班員となってくれる諸君は、携帯電話の番号を交換し合おう。こまめに連絡を取り合いながら、共に鏖殺寺院の魔の手から世界を救おうじゃないか!」

 彼の声に応えてわいわいと自己紹介を交えた番号の交換を始めた班員たちの姿を頼もしげに眺めながら、イレブンは腕組みをして宣言する。
「私は司令塔としてここに残ろう。私のパートナーのカッティには、ラピスの部屋を調査してもらう。短時間で調査を済ませる為に、協力を願いたい」
 その言葉を受けたミレイユが乳白金の髪を輝かせて手を上げ、傍らのシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)も同調するように頷いた。
「私とシェイドも行く。途中で周りの人たちの話も聞けそうだし……ラピスは怪しいけど、いまいち証拠が無いしね」
「僕とローレンスはラピスさんを見張りに行くよ。ラピスさんが怪しい行動に出たら、その時は……取り押さえます」
 幼い表情を決意に引き締めたクライスが応え、彼の意思を尊重したローレンスが重々しく首肯する。彼らに頷き返したイレブンは、次に番号の交換を終えた生徒たちへと目を向けた。
「俺たちは遺跡へ向かうぜ。あんたの奇抜な推理、信じてみるよ」
「ま、一単独じゃ危ねぇからな。俺もついていってやるよ」
 言うが早いか踵を返した一の肩をがっしりと掴み、からからと快活に笑いながらハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)が言い添えた。折れた片羽を揺らすハーヴェインの言葉に、一は肩を竦めて笑みを浮かべる。
「自分も遺跡にお供しますよ。戦力は多い方が良いでしょう」
 不意に声を上げた天津 輝月(あまつ・きづき)の思わせ振りな言葉に、一同が首を傾げる。充分に注目が集まったことを確認してから、輝月は表情を真剣なものへと変え、中性的な声を低く落とし言葉を続ける。

「……噂で聞いたことがあります。鏖殺寺院に協力する、メイド48人で構成された謎の工作部隊、通称『爆殺☆毒殺★冥土隊』なるものがあると!」

「ほ、本当ですか!?」
 輝月の言葉に息を呑んだ班員たちの中で、真っ先にクライスが叫び声を上げた。その面持ちには、驚愕とそれに伴う深刻な決意が滲み出ている。信じる騎士道の名の下、いざとなれば身を呈して仲間を庇う覚悟を決めた男の表情。ラピスの部屋の調査に名乗り出たミレイユとシェイドも固く拳を握り締め、班員全員に緊張の走った、次の瞬間。
「まあ、嘘ですが」
 あっけらかんと輝月の告げた言葉に、班員たちの肩ががくりと落ちた。
「とにかく、自分も遺跡に行きます。宜しくお願いしますね」
 そんな反応に愉快そうに喉を鳴らした輝月は、何事も無かったかのような軽い足取りで呆れ顔の一やハーヴェインたちへと歩み寄って行く。やれやれと吐息を漏らす班員たちの中で、城定 英希(じょうじょう・えいき)は可笑しそうに喉を鳴らして笑声を立てた。金色の瞳を興味深げに輝かせ、輝月たちの近くへと歩を進める。
「面白そうですね。俺も連れて行って下さい」
 握手を交わす遺跡組へと、もう一人歩み寄る影があった。薄茶の髪をひらりと掻き上げた、盛園 林檎(もりその・りんご)だ。
「あたしもそっちに行くよ。色んな事が腑に落ちないし……ね」
 含みを持たせて言葉を切った林檎も握手タイムへと突入したのを眺め、その場の全員が行動方針を定めたのを確認すると、イレブンはうんうんと頷いた。傍らで何やらやる気満々にメイスを素振りするカッティと目を合わせて頷き合い、直後に声を張り上げる。

「よし、では諸君の健闘を祈る!」

 イレブンのその言葉を合図に、おー、と声を揃えた生徒たちはそれぞれの目的地へと向かって駆け出した。そんな彼らの頼もしい背中を見送り、イレブンは片手の携帯電話を握り締める。
「……お前たちの思い通りにはさせんぞ、鏖殺寺院」
 酷く深刻な声音で呟かれたそれを、耳にする者はいなかった。