イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

エクリプスをつかまえろ!

リアクション公開中!

エクリプスをつかまえろ!

リアクション

 テントの設営がほぼ、終わったところで、カレーの良い匂いがしてくる。バトラーの翔、甲、北都、ミヒャエルらが、簡易テーブルのセッティングをし、テーブルごとにキャンドルを灯していくと、まるで野外のレストランのようなおもむきが出てきた。
「カレー美味しい! うわあ、なんだかやみつきになりそうな味だ!スパイスとやらがいっぱい入ってるに違いない! ごろごろした野菜も美味しい!」
「デズモンドさん、落ち着いて。カレーは服に付くと染みになってしまいます」

 その日の夜はみんな、疲れが出ていたせいで早々にテントで眠りに付いたのだった。

第3章 星見石の丘

 四日目。
 朝日が昇る頃、テントから生徒たちがごそごそと這い出して、顔を洗ったり、歯を磨いている。
「おはよー」
「おはよう」
 
「さて、今日は天体望遠鏡を設置する場所を探さないとな」
 カルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)とアデーレは天文部の機材設置を手伝い、それを交換条件にして、エクリプス・ハンティングのベストポジションを確保しようと、やる気満々だった。天文部のテントには、すでに数人の生徒たちが集まって、ああでもない、こうでもないとPCや資料を目の前にして、奮戦している。
「何かすることあるかい? ケテル」
「まだ機材設置の場所が割り出せてないから、することはないわ。それにベストポジションは、当日になるまで判らないの」
「ごめんね、また、後でお願いするよ」
 機材設置の場所がなかなか判明せず、イライラしたケテルはつっけんどんに言い返すが、それをマルクトがいつも通りにフォローする。
「こっわー。オレ、ケテルに怒られちゃったよ。それに比べてマルクトはフォローが上手いね。ほんと、凸凹コンビの双子だよねえ…」
「全くだね、カルナス」

「イライラしないで、ケテル」
「判ってるわ。でも集中したいの」
「ケテル、早速ですがソフトではベストポジションとして、ある場所が候補に挙がってきました」
 射月の冷静な声と反対に、ざわっと周囲が反応する。
「今、白波 理沙(しらなみ・りさ)が小型飛行艇で上空から探してくれていますよ。理沙、聞こえていますか?」
 ヘッドセットをしたエドワード・ショウが、理沙にコンタクトをとっている。
「聞こえるわ。そちらで何か判った?」
「射月が出したデータと資料を見ていると、一番高いところに『星見石』という天体観測用の石があるらしいんだ。そこで古代の人々は、天体観測を行っていたと言う記録がある。恐らく小高い丘がキャンプ地から南に30度の方向、少し先にあるだろう?」
 マルクトが応える。
「どうだい、理沙。みつかったかい?」
「…そうね、うーんと、ちょっと見あたらないかも…」
「大きくはないんだが、縦型の石だ。もっと地上近くで旋回してみてくれ」
「…あれかしら…ええ…ええ! 確かに、確かにそれらしいのがあるわ!」
「でかした!」
 ゆうが声を上げる。パートナーのカティアには内緒で、調べ物をしていたため、よりいっそう、エクリプスを見たいという気持ちが強かったのだ。
「これで、カティアにエクリプスを見せてあげられる!」
 急に活気づいた天文部のテントに、わらわらと生徒たちが集まってくる。
「エドワード、とても小さいもので、上空からでははっきりと判らないの。ちゃんと地上からも確認して」
「了解! みんな行くぞ!」
 天文部と、機材設置を担当する生徒たちは丘の星見石を目ざし、駆けだした。

 丘の上につくと、理沙がポニーテールを風になびかせながら、飛行艇を旋回させて星見石の場所を示していた。格闘技好きで運動神経がバツグンな理沙だけあって、飛行艇の操縦もなかなかのものだった。
「どこだ?」
「もしかして、これかな…」
 真ん中に穴が空いた2m程の石が、丘の上に佇んでいる。
「ストーンヘンジの小さい版みたい」
「でも確かに伝承の記述にある『星見石』そっくりだよ」
 佐々木 真彦(ささき・まさひこ)がどっしりとした風貌に似合わず、ささっと石に駆け寄り、伝承の本をぺらぺらとめくりながら確認する。真彦は、ここ数日の天候や星の運行といった観測記録をずっとつけていた。観測用の専用のサングラスも、持っていない人には彼が調達し、貸し出しをしていた。そんな姿をパートナーのドラゴニュート、関口 文乃(せきぐち・ふみの)がじっと見つめていた。
「いいぞ、佐々木。あんたの頑張りはみんなが見ている! ワタシは晴れたら、エクリプスにお願いするだけだ。どうか、どうか良い人と巡り会えますように!」
「私じゃないんですか」
「そのあたりは秘密だ」
「たぶん、『星見石』のこの穴から特定の星座や星が観測できるんだと思うよ。地球で言うなら、たとえば北極星とかを観察しながら、時候や方角、時間を判断するために使われてきたんだ。こういう石は意外に多くて、地球のあちこちにも遺跡として残っている場合が多いんだよ」
 マルクトの知識の多さに、幸はほうっとため息をつく。
「さすが、マルクト。同じ学術者として、尊敬します」
「さあ、機材を設置しましょう。リハーサルも必要だわ。あと3日に迫ったエクリプス・ハンティング、失敗しないように頑張りましょう!」
 ケテルの声に、機材設置班はいっせいに作業に取りかかった。
「ただ、雨が降らなければ良いのですがね…」
 ミヒャエル・ゲルデラー博士が不意に呟く。
 それが後々、不穏な予言となることは、その時、誰も知らなかった。