イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

猛女の恋

リアクション公開中!

猛女の恋

リアクション



1・ヴァイシャリーの湖畔にて

 うだるような夏の午後、百合園女学院の乙女たちが水辺で寛いでいる。大きなパラソルの下で談笑する乙女たちもいれば、水遊びに興じる乙女もいる。水面を渡る風が心地よく、ついうとうとしてしまう乙女の姿もある。穏やかな時間が過ぎている。突然、頭上からキーンと金切り声の歌が聞こえた。木々の間にいる鳥から発せられた声のようだ。


 「ああなんて愚かなカノン、
 邪悪な囁きに耳を貸し、偽りの自分を得た挙句
 愛する人は見えやせず、愛の言葉も伝わらず 、
 まんまと魔女の思う壺
 ああなんて愚かなカノン、取引の期限はもうすぐさ」



 独特のメロディがついた耳障りな音が響き渡る。極彩色の羽を持つオウムが歌いながら空中を旋回している。
「カノン・・・百合園の生徒でしょうか?」
 パラソルの下で水面に映る木漏れ日を楽しんでいた神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は、驚いて頭上を見上げる。
「その名前の生徒様はいらっしゃらないと思いますわ。それより愛する人って誰かしら。有栖お嬢様に危害がなければいいのですが。なんだか心配ですわ」
 パートナーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)も空を見上げる。オウムの姿はすでに消えていた。

 木陰で本を読んでいたフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)セラ・スアレス(せら・すあれす)も、オウムの歌に眉をひそめる。
「嫌な歌です」
「何か面倒が起こりそうだわ」



2・歌うオウム

 夏の光は強い。他の季節では光が届かない鬱蒼とした森の深部まで朝日が差し込んでいる。垂れ下がるシダや絡み合う樹木を避けて、器用に飛んでくる鳥がいる。極彩色の羽が朝日にまぶしい。


「「私だけが知っている、魔女の秘密を・・・
 私だけが知っている、恋の相手を・・・」



 キーンとした甲高い声が森に響く。耳障りでどこか人を苛立たせるその声に、
「うるせぇーぞ!どこだぁ!」
 寝ぼけ眼で森を駆けてくるのは)切縞 怜史(きりしま・れいし)だ。
「ちっとも寝れねぇ。お前なんか捕まえて食ってやる!どこだぁ!」
 苛立つ怜史とは対照的に、パートナーのラヴィン・エイジス(らうぃん・えいじす)は、森の朝を満喫している。ゆる族のラヴィンは、ももんがのように見え、森の景色にマッチしてるようにも見える。
「パラパッパラッパッパ〜♪ 早起きっていいよな!朝の空気はうまいのだ」
 そのとき頭上の枝が揺れ、甲高い声が響いてくる。
「朝の空気はうまいのだ。パラパッパラッパッパ〜♪ ケケケケケェ」
 極彩色の派手なオウムがラヴィンの声真似をしながら、ばたばた空を飛び回っている。

 そこにオウムの声を追いかけて、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)がやってきた。走ってきたのか、マイクロビキニに包まれた豊かな胸が弾んでいる。
「オウムさん、オウムさん、どこですか?」
 魅世瑠はオウムの姿を探すが、既にオウムは姿を隠していて、見つけることが出来ない。
「もうっ。うわっ、こんな森まで来るんじゃなかったよぉ。足が傷だらけだよ」
「金儲けのためだよ、あのオウムは金になる!我慢!んっ? おや、人がいる。人だよね?オウムじゃ・・・」
 フローレンスが少し離れた場所で様子を伺っていたと怜史とラヴィンを見て呟く。ゆる族のラヴィンはオウムに見えないこともないが。
 声が聞こえたのか、怜史が近づいてくる。
「俺らがあんな不快な声だすかよ。それになんだぁその格好?リゾートかぁ。お前ら、服着ろよ」
魅世瑠「恥ずい?あたし的にはこれが自然なカッコなんだけど?」
 大声を出す怜史に、むっとして答える魅世瑠。
「恥ずい?恥ずい?恥ずい?ケケケケケェ」
 またしても頭上から甲高い声が聞こえる。姿を現したオウムが旋回しながら飛び回る。
「見つけたぁ!オウムさん、オウムさん・・・待ってぇ〜、話があるんだよ〜」
魅世瑠が叫んでいる。

 森近くの荒野。
 砂煙を巻きあげ、1台のバイクが道なき道を突き進む。後部に取り付けられたポールには生肉がくくりつけられている。
 乗っているのはレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)。ハンドルを握るレベッカは丈の短い白のタンクトップ、後部シートアリシアは白のドレス姿、スカートの裾が風になびいている。レベッカはスパイクバイクに取り付けた黄金の単眼のドラゴンヘッドライトを空に向け、叫ぶ。
「おーい、オウム、どこにいるヨ。美味しいミートがあるョ、出ておいでョ」
「レベッカ様、大変ですわ」
 後部シートのアリシアが悲鳴を上げる。
「ハゲタカが付いてきていますわ、肉を狙っているのですわ。飛ばしましょう、もっと飛ばしましょう!」
「オッケーョ!」
レベッカがアクセルを吹かす。ハゲタカを振り切るため、バイクを全速力で走らせているとき、遠くの空に極彩色のオウムの姿が見えた。
「みつけましたわ、あっちですわ、レベッカ様、行きましょう」
 彼方に見えるオウムが飛ぶ森に向かって、よりスピードを上げて走るバイク、もうハゲタカも追いつけない。