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 第5章 混沌と化す戦場、だごーん様召喚のこと

 剣の花嫁の葉月 アクア(はづき・あくあ)は、愛美とマリエルを見つけると、あわてたように言った。
 「大変です! ショウがダイエット草を採取中にイルミン生に襲われたんです!」
 パートナーの葉月 ショウ(はづき・しょう)の危機を訴えるアクアに、愛美は言う。
 「早く助けに行きましょう! しかも、ダイエット草がみつかったのよね!」
 「そうなんです、早く行かないと奪われてしまいますよ!」
 そう言いつつ、アクアは蒼空生たちを先導する。
 「ショウ!」
 森の中、少し開けた場所には、ショウが倒れ伏していた。
 「早く回復しないとぉ……って、きゃあああ!?」
 「校長命令でも他人の土地の物を勝手に持って行くのはよくない。俺も蒼空学園の生徒だが妨害させてもらう!」
 駆け寄ったマリエルに、ショウは剣を振りかざす。
 蒼空学園の生徒を妨害するという、ショウとアクアの作戦だったのだ。
 「なんてことをするんですの!」
 荒巻 さけ(あらまき・さけ)は怒り、ショウに木刀を振りかぶる。
 蒼空メンバーは仲間同士で戦うことになり、戦況はさらに混乱した。

 逆に、イルミンスール生を罠にかけようとしている者たちもいた。
 蒼空学園の支倉 遥(はせくら・はるか)とパートナーの剣の花嫁ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)、イルミンスールの御厨 縁(みくりや・えにし)とパートナーの機晶姫サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)だった。
 「小谷さんはあのぷにっとしたところがかわいいのに……」
 遥はつぶやきながら、ベアトリクスを見る。
 「君も必要なさそうですよね。逆に脂肪付けないと……」
 「……何か言いましたかね?」
 胸部を見られて、ベアトリクスは遥をにらみつける。
 「……いや! いえ、なんでもないですよ。なにはともあれ早く済ませてほしいですね。……今度揉みましょうか?」
 「い、要らぬお世話です!」
 適当にごまかしつつ、手をワキワキ動かす遥に、ベアトリクスは怒りの声をあげる。
 一方、縁とサラスは、黒装束のミステリアス・パートナー1号&2号として、イルミンスールの捜索隊に参加していた。
 「ダイエットに興味はないけどぉ! 蒼空学園なんかにイルミンスールの森で好き勝手させましぇぇん! イルミンスールの森にあるものをぉ! 草木いっぽんっ、蒼空学園に渡してはなりましぇぇん! 薬草は絶対にイルミンスールの生徒が確保してみせなさぁい! 人という字はぁ! 「ひと」と「ひと」とが支えあってって「人」という字になりますぅ!! ……て校長言ってた」
 髪をかきあげながらエリザベートの物真似をするサラスに、縁がツッコミを入れる。
 「いや、最後違うじゃろ?」
 「師父がこういえばウケるって……」
 サラスの言う「師父」とは、支倉 遥のことである。
 「よおし、改めて気合いいれていくぜ! ファイヤー!」
 ジャックが叫び、イルミンスールの捜索隊は進んでいく。
 すると突然、煙幕が放られ、辺りは煙に包まれた。
 遥の仕業であった。
 「あっちに逃げたぞ!」
 視界の悪い中、見当違いの方向にイルミンスール生を誘導するため、遥が叫ぶ。
 「なんだと、うわあっ!!」
 煙の外に走り出したジャックに遥とベアトリクスが攻撃する。
 ベアトリクスの手には、パラ実生のような鈍器が握られていた。
 「伝説の釘バットによる攻撃、受けてみよ!」
 ベアトリクスは釘バットを振り回す。
 「ヤツがダイエット草を持ち去ったのじゃ!」
 その隙に走り出した遥の背に向かって縁が叫ぶ。
 イルミンスールの捜索隊も、大混乱に陥るのであった。

 蒼空チームの前に、大きな白旗を持ったイルミンスール生、佐伯 梓(さえき・あずさ)があらわれた。
 梓は、パートナーのカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)が作った禁猟区のかけられたアミュレットも持っていた。
 「うわああああーっ!?」
 わざと大声を出し、愛美とマリエルの前に、梓が飛び出してくる。
 「何の真似ですの!?」
 木刀を突きつけるさけに、梓は懇願する。
 「ひぇ! 俺は良い魔法使いだよー! ツァンダに友人がいるんだ、やめて何でもするから叩かないでー!」
 ヘタレっぷりを披露する梓に、さけは毒気を抜かれ、木刀を引っ込める。
 「何で飛び出すんですか、そしていきなり何言ってるんですか!」
 木の陰から様子を伺っていたカデシュは、やきもきしながらパートナーの梓を見守る。
 「これだけ愛美とマリエルに言いたかったんだ。ダイエット草の事だけどあんま食べない方がいいんじゃないか。余計な脂肪も減ったり……特に胸。逆に後で風船みたいに太っちゃったりしてな。こういうのって大体変なの多いもんなー」
 愛美とマリエルににっこり笑いかけて、梓は言う。
 「その薬草が偽物の可能性も否定できませんが。人の記憶なんて曖昧なもので……あ! もしかしたら……いえ、やっぱり恐ろしくて言えません」
 カデシュは梓を心配し、木陰から出てくると、適当にダイエット草に関する話を合わせはじめた。
 「マリエル……胸、やせてる?」
 「や、やせてないよお! 増えてもないけど……」
 愛美はマリエルと顔を見合わせる。
 「信じる信じないは愛美たち次第だよー」
 梓はそう言うが、真意は穏便に探索の妨害をすることであった。
 
 そこへ、蒼空学園の鳴海 士(なるみ・つかさ)があらわれた。
 なんと、士はダイエット草を手に持っていた。
 「あ、あの人は、エリザベート校長の手を握っていたという噂の人ね!」
 「ロ、ロリコンだよぉ!」
 愛美とマリエルは士を見るなり叫ぶ。
 「そ、そうか!? たしか、アーデルハイト様と仲直りさせるっていういい話じゃなかったか!? でも、たしか、ひざまずいて手は握ったんだよな!」
 いつのまにかイルミンスール捜索隊と一緒にやってきていたジャックも、士を見て大声をあげる。
 「ぼ、僕は……」
 士は、蒼空、イルミンスール両者を見比べ、そして、叫んだ。
 「世界一可愛い、エリザベートさんの笑顔は……僕のものだ!!!!!!」

 僕のものだ!
 僕のものだ!
 僕のものだ!

 士の声が、森の中に響き、エコーが鳴り止まない。
 呆然とする両校の捜索隊に背を向け、士は魔法学校に向かって走り始める。
 だが、次の瞬間、戦いの爆発に巻き込まれ、士は吹っ飛んでいった。
 
 一同が今のはいったいなんだったんだと思っていると、織機 誠(おりはた・まこと)いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)があらわれた。
 誠は、白装束に五寸釘を持ち、「祝いのわら人形」と誤字が書かれたわら人形を、木々に打ち付け始めた。
 「イケメンには死を! ブサメンには金を!!」
 「我ら信徒以外のY染色体を持つ生物が死滅しますよーに!」
 「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!!」
 さらに、誠はだごーん様の伝説を布教して回る。
 「皆、だごーん様の伝説を聞いてください! 200人のパラ実生に囲まれ、浴びせ蹴りで80人倒した! 清涼飲料水『椎茸の天然水』を発売、なぜか出汁としてスーパーの調味料コーナーに置かれた! イケメン税導入を公約に出馬するも泡沫候補止まりで供託金没収、信徒涙目でパート業務へ! 抱かれたい半魚人ランキング堂々の40年連続1位だがどうも半魚人ではないらしい! どうだ、すごいでしょう!」

 蛙に似た容貌をしており、近づくと魚の臭いがするぽに夫も、イケメンを罵倒しながら、法衣を着て、だごーん様の像に向かって祈りを捧げ始める。
 「地球では顔のせいで苛められていた僕を、イルミンは救ってくれたんだ! 恩返しをしなければ! だごーん様のご活躍で信徒も増えれば一石二鳥! 敵を退治し『ぽに夫くんステキ、抱いて!』と言われれば一石三鳥!  蒼学イケメンを倒せたら一石四鳥!」
 「いあ! いあ! だごーん! だごーん! あい! あい! だごーん! だごーん!」
 「だごーん様、どうか愚かなる蒼学どもに天罰を! 特にイケメンには重点的に! 特にイケメンには重点的に! 大事なことなので二回言いましたが、特にイケメンは重点的に!」
 「どうか僕の前に可愛い天使があらわれますように!」

 誠とぽに夫の行動に、またもや一同が呆然としていると、海の方から地響きが聞こえ始めた。
 巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)が、信者の祈りに応えるため、やってきたのだ。
 だごーんは、森の動物を驚かすまいと光学迷彩を使っていた。
 しかし、巨大な見えない存在がどんどん近づいてくる方が、動物も人間も怖い。
 ぎゃあぎゃあぎゃあ!! バサバサバサ!! わおーんわおーん!!
 動物達の逃げ惑う声とともに、地響きがどんどん近づいてくる。
 そして、学生達の前に姿を現した、鯨より遥かに大きく、鯨より遥かに重い存在が、咆哮する。


 「だごおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」


 その場にいた者たちは皆、狂気にこそ陥らなかったが、大パニックに陥った。
 「いやあああああ!!」
 「わあああん、助けてえ!!」
 愛美とマリエルの泣き声が響く。
 そんな中、木の上から敵を待ち伏せしていた初島 伽耶(ういしま・かや)と、パートナーの魔女アルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)が、顔を見合わせる。
 「一撃必殺」の鉢巻を締めた伽耶は、なるべく強そうなイルミン生に突撃するつもりだった。
 アルラミナも、相手を確実にしとめられるよう、伽耶の後に続くつもりである。
 「蒼空学園バンザ〜イ!!!」
 伽耶は、小型飛空艇もろとも、だごーんに突っ込んでいく。
 だごーんが、一番強そうな見た目のイルミン生であることは間違いない。
 「お母さ〜ん!!」
 続いて、アルラミナもだごーんに突っ込んでいく。
 「!!!!」
 人には理解できない断末魔を上げて、だごーんが地面に倒れる。
 地響きとともに、森の木々がなぎ倒された。
 
 「そ、そんなバカな……だごーん様ああああああああ!!」
 ぽに夫が、だごーんに駆け寄り、泣きじゃくる。
 「そ、そんな……私たちの希望が……!」
 誠も呆然と立ちすくむ。
 そこに、誠のパートナーのシャンバラ人上連雀 香(かみれんじゃく・かおり)があらわれ、思いっきり誠をぶん殴る。
 「お主はとりあえず反省せい! いいか、バツとして妾の夏休みの宿題を全部こなすのじゃ!」
 「い、痛いです、お嬢!」
 簀巻きにした誠の顔を空飛ぶ箒でグリグリなぶりながら、香が宣言する。
 「皆、失礼したのじゃ! こやつは妾が責任持って連れ帰り、更正させて見せるのじゃ!」
 香は誠をずるずる引きずって去っていこうとする。

 そこに、鷹野 栗(たかの・まろん)とパートナーのヴァルキリー羽入 綾香(はにゅう・あやか)が、突撃を仕掛けてきた。
 「駄目です、駄目なのです! 森を荒らさないでほしいのです! 森のかわいい生き物を……だごーん様をいじめないでほしいのです!!」
 「だごーん様は森の生き物じゃないと思うが……。いずれにせよ、私も森を荒らされては黙っておけぬ!」
 生き物大好きの栗にツッコミを入れつつも、綾香は一緒に蒼空生に攻撃を仕掛ける。
 「もう少し大自然に敬意を払ってもらいたいもんだねぇ。ね? 羽入」
 「まったくじゃ!」
 パートナーには猫かぶりが解けて素の口調になる栗に、綾香はうなずいて見せた。
 
 鳥羽 寛太(とば・かんた)とパートナーの守護天使伊万里 真由美(いまり・まゆみ)は、表向きイルミンスール捜索隊に参加し、戦闘中にこっそり抜け出してダイエット草を独り占めするつもりだったが、戦闘から離脱できず、それどころではなくなっていた。
 「まったく、環菜に売りつければ大金が手に入ると思ったのに! あんたのせいよ!」
 「そんなこと言われても……こんなに戦闘が激しかったら、ダイエット草を探すどころじゃないですよ」
 真由美は、寛太に八つ当たりする。
 寛太は、パートナーの作戦の言いなりになり、大図書室で図鑑を調べてまでダイエット草捜索の準備をしていたが、予想外の事態があまりにもたくさん発生してしまったのだった。
 寛太が爆発を受けそうになった瞬間、真由美は思いっきり突き飛ばす。
 「た、助かりました、ありがとうございます」
 「べっ別にあんたの為にやったんじゃないんだからねっ!」
 多額の生命保険に寛太を加入させている真由美は、この戦いでは保険の保障対象外になるだろうと思い、必死に守っていた。
 

 そして、事態はさらに混乱をきわめるのだった。