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◇第五章 お祭りにおけるゲームの達人 ―2― ◇

(いやぁ、まさか、あの有名な理子さんとお近づきになれるとは思っても見なかったなぁ〜)
 葛葉 翔(くずのは・しょう)は上機嫌で歩いていた。それもそのはず、なんと彼の隣には【魔剣の主】と呼ばれた高根沢 理子がいるからだ。理子と言えば、あの御神楽 環菜に呼び寄せられた剣士である。普通の生徒とは何かが違うとみんな思っていた。しかし……
「あたしと一緒にお祭りを回る? 別にいいよ。一緒に遊ぼ!」
「えっ、いいの?」
 ――あっさりと彼の願いはOKされてしまった。それには競争相手が一杯いるから、何とかして翔のサポートをしてやろうと考えて、草葉の陰で潜んでいたパートナーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)もビックリだ。
「だって、あたし、何だかみんなに避けられているんだもん」
「そ、そんな事ないよ」
「あたしだって、普通の女の子なのに。そこに隠れている女の子も一緒に遊ぼうよ」
「ビクッ!!?」
 アリアは驚いた。気配を消したつもりだったが、理子には見破られていたらしい。
 しかし、理子は寂しそうな顔を見せていた。それもしょうがないかもしれない。理子と言えば、蒼空のメガネや環菜と並ぶ、蒼空学園の顔である。人はあまりにも有名になりすぎると、どうしても相手が気負ってしまうようだ。理子や環菜に近寄らない人間多いのも頷ける。
 そう考えると翔の行為は勇者だと言えよう。中には環菜のような達観した奴もいるが……が、理子の正体は十五歳の少女である。遊びたい盛りの女の子の年なのだ。
(だよなぁ……)
 翔は少し反省した。相手の名声が高すぎるため、ちょっとばかり上を向きすぎていたらしい。
「じゃあ、行こうか!」
「きゃっ!!?」
 翔はアリアに頭を下げるといきなり理子の手を掴んで走りだした。突然の行為に理子は目をパチクリし、理子と翔を応援するつもりだったアリアはやれやれと言った表情を浮かべて言った。
「まったく、ワタシはいつもお姉さん役なのね。どこかにいい男はいないかしら?」
 さすがと言うべきだろうか? 理子は翔のスピードに余裕で尾いてきていた。しかし、その顔はほのかに赤い。
「ど、どこに行くの!?」
「悪い、せっかくのお祭りだし、理子さんと楽しまなきゃ!」
「〜さんはやめてよ。理子でいいよ」
「じゃあ、理子。どこへ行く?」
「翔が決めてよ」
 まるで恋人同士の会話だ。理子は普段のストレスを発散するかのように翔とお祭りを楽しんだ。
 ドドォォーーーーン!!☆
 大きな花火が何発もあがる頃、その手には水風船が握られていた。赤と青の色違いの水風船はお互いの手に一つずつだ。そして、翔は言う。
「これ、もしよかったら貰ってくれ。俺が持つより理子が持っていた方が絵になると思うから」
「クスッ、じゃあ、あたしもあげる……大事にしないと駄目だぞ! あたしもパートナーのあの娘もね」
 それは剣士達の束の間の休息なのかもしれない――

「いらっしゃい。やぁ、美しいお嬢さん。とりあえず、結婚してください」
 射的の店主は何か異様だった。額には「ぢぇらしぃ」の文字が入った奇妙なマスクを被り、麗若き乙女をナンパしていたのだ。
「キャアアアァァァァーーー!! 結婚申し込まれちゃった!! あたし、超カンキーィ!!」
「キャッ、キャッ!!」
(……うぅ、疲れる……)
 初島 伽耶とアルラミナ・オーガスティアのいけいけゴーゴーコンビの元気に圧されるかのように村雨 焔はため息をついた。積極的な相手のほうが面白そうかなと思っていたが、積極的すぎるのも疲れるらしい。しかも、彼女らは射的の怪しげなマスクマンと話していた。焔は仕方がないので帰ろうとする。すると……
「焔ぁ!!」
「えっ?」
 焔の胸に彼のパートナーのアリシア・ノースが飛び込んできたではないか。あまりの出来事に焔はよろめいてしまう。
「な、何だぁ!?」
「やれやれ、見つかったようですね。この娘のパートナー」
「もーう、大変だったんだからぁー、そこの小さな彼女さん!」
 その後ろには彼女を連れて歩いていた、黒峰 純と白波 理沙が立っていた。
「何をやってた、焔。お祭り、早く回ろ!」
「………………」
 焔は声が出せなかった。あろう事かパートナーであるアリシアを置き去りにして、見知らぬ誰かとデートを楽しもうとしていた自分の罪悪感にだ。少なくとも彼女は焔を探し回っていたはずなのだ。
「どした、顔色悪いぞ。大丈夫だよ、焔。私がついてる!」
「……そうだな、ははっ、確かにそうだ。悪い、アリシア。帰りにたこ焼きでも買って帰ろうな」
「焔、何で謝る? どーした? 回る、回るぞ」
「ごめん……」
 焔は小さく笑うとその小さな彼女の頭を撫ぜてやったのだ。

 何か爽やかな話だが、それを打ち破るように騒がしい連中が現れた。
「ニンニン、四ニン! 射的をやるでござる!! ニンニン、四ニン!」
「うわあぁあぁ、眩しいくて見えな〜い!!」
「わ、わたくし『どのような時でも優雅に』を心がけているんです」
「なぁ〜に、格好つけてんの!? 牛乳飲め、牛乳!! イシシシシッ!!」
 ついに来た!? 嵐を巻き起こす『かわいそうな人の【馬鹿騒ぎLOVE☆】会』だ!!
 椿 薫
 騎沙良 詩穂
 エルミル・フィッツジェラルド
 鈴虫 翔子 の四人組。さらに……
 白波 理沙
 黒峰 純
 神楽坂 有栖
 ミルフィ・ガレット
 本郷 翔
 ソール・アンヴィル
 清泉 北都
 クナイ・アヤシ が加わったから大変だ。

 皆が目を止めた商品は勿論、中央に置かれたBIGな『ゆる族のぬいぐるみ!?』である。冒険者達はチャチなモノなど狙わない……かもしれない。だが、それこそが非モテの戦士『マスク・ド・ぢぇらしぃ』の仕掛けた罠だったのだ。彼は夜店のおっちゃんに化けて絶対に上手くいかないイカサマ銃を渡し、ぬいぐるみの底に重りを仕掛けておくと言う卑劣な行為を行い、カップルの妨害をしようと企んでいたのだ。
「バビョーン!? あれ、この拳銃壊れてるよ?」
(クククッ……)
「あ〜ん、弾が真っ直ぐ出なくて面白くないよ〜!」
(クククッ……)
 人の不幸はとても面白い。すでに『マスク・ド・ぢぇらしぃ』の趣旨は変わっているのかもしれないが、彼は邪悪な笑みを浮かべていた。しかし、そんな彼の迫り来るのは、悦楽ではなくファティマ・シャウワールによる天誅の1トンのハンマーだ。
 ドドォォーーーーン!!☆
「他人に迷惑を掛けるようなバカはしないで、ってアレほど言ってるのに……あなたには言っても分からないみたいね、エドワード!」
「え、エドワード? い、いったい誰のことを言っているのかね?」
「帰るわよ!! みっちりお仕置きしてあげるんだから!! 今夜は寝かさないからね!!!」
「ヘルプ、ヘルプ・ミー!!」
 さらりといやらしい言葉を交えたのは気のせいだろうか? そして、彼女は射的をやっている人たちにペコリと頭を下げると言ったのだ。
「……なに? 私の顔に何かついてる?」
 誰もそれに答える事は出来なかった。前後の文が繋がっているように思えないからだ。
 こうして『マスク・ド・ぢぇらしぃ』は強制的に途中退場させられてしまったのだ。盛り上げてくれて本当にありがとう、『マスク・ド・ぢぇらしぃ』。そして、その後、彼の雄姿を見たものはいないと言う――

 そして、残されたメンバーは見事にちゃんとした銃で射的を楽しむ事が出来たようだ。ちなみに成果は……

 薫はリターニングダガーを使い退場      (大物を狙い面目ないでござる)
 詩穂はタバコをゲット            (パラ実の人に売ります)
 エルミルは超小さいお菓子系の景品をゲット  (途中で本物を……いえ、何でも)
 翔子は実弾でゆる族のぬいぐるみを銃殺!   (イシシッ、どーんとこい……って、ボクはどうして実弾を使うんだッ!!!?)
 理沙は小さな格闘家のケシゴム        (まぁ、やるからには勝たなくちゃねっ!)
 純は車に貼るワカバマーク          (何か意図的な物を感じますね。まぁ、いいですが……)
 有栖は『漆髪月夜のサイン入り料理のススメ』 (これで美味しいもの作れるかも?)
 ミルフィは赤いキャミソール         (このような物をどうやって落としたのでしょう?)
 翔は『時枝みことのサイン入り回覧板』    (誰のサインです?)
 ソールは鎖の付いた首輪           (俺らしいだろ?)
 北都は『一乗谷燕のサイン入りナニ』     (これ、何?)
 クナイはブルーハワイのシロップ       (青い色、好きな色なんですよね)
 だったそうデス。