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氷雪を融かす人の焔(第1回/全3回)

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氷雪を融かす人の焔(第1回/全3回)

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●第一章 イナテミス防衛戦〜本隊〜

「あれがイナテミスの町……くっ、何だ、あの魔物の数は」
「想像していたよりもひどい状況ですね……」
 イナテミス防衛のために集まった一行を率いてやって来たカイン・ハルティス、そしてパートナーのパム・クロッセは、遠景にイナテミスの町並みと、それを取り囲むように襲い掛かろうとしている魔物の群れを視界に捉え、顔をしかめる。
 そこに、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)からの着信を知らせるメロディが鳴る。
『カイン先生、みんな、来てくれてありがとう! 聞きたいことは色々あるかもしれないけど、まずは魔物からこのイナテミスを護ろう!』
「……分かった。リンネ君、我々はどうすればいい? 君の意見を聞こう」
『イナテミスには正門と二つの側門、合計で三つの門があるよ。魔物はそこを重点的に狙っているみたい。カイン先生、そっちで班を二つに分けて、正門と側門に向かってくれませんか?』
「了解した。リンネ君、君はどうするのだ?」
『あたし……リンネちゃんはみんなと合流するまで、正門を護っちゃうよー! 魔物なんかリンネちゃんの魔法で黒焦げなんだからっ! ……でも、長引くときっついかもだから、頑張って辿り着いてねー』
 そう言って携帯が切れる。リンネの勝手な物言いに一行はため息をつくが、とにもかくにも町の危機、一行は急いで準備へ取り掛かっていった。

「どうしてこんなところにモンスターが……ううん、今はそんなこと言ってられない! ……お願い兄さん、ボクを見守ってて!」
 決意の篭った言葉と共に、峰谷 恵(みねたに・けい)が箒にまたがり、上空からイナテミスを襲おうとしている魔物を見据える。
「私も微力ながらお手伝いいたしますわぁ。あまり無理はなさらないでくださいねぇ」
 シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)の祝福の力が、恵を包み込む。確かな力の手ごたえを感じながら、ふわりと浮き上がった恵は得物を引き抜き、浮遊しているクリスタルのような物体へ向けて狙いを定める。
「モンスターはボクの手で倒す!」
 放たれた弾丸がクリスタルを撃ち抜き、欠片となって地面へと降り注ぐ。仲間が撃ち倒されたことを悟ったのか、他のクリスタル状の魔物が体当たりでもするかのように迫ってくる。
「恵様、左右から来てますぅ!」
「分かってますっ!」
 シャーロットの忠告に頷いて、恵が上空へと進路を取る。同士討ちを狙った目論みはギリギリのところで魔物が進路を変え、ぴったりと恵の後を追うことで防がれた。
(簡単にはいかないか……だけど、ここで負けるボクじゃないっ!)
 恵は箒を巧みに操り、魔物の背後を取るべく複雑な軌道を描く。魔物もそうはさせぬとばかりに追従するが、やがて攻撃するのに絶好な位置、魔物の背後へ恵が身体を滑り込ませる。
「そこですっ!」
 引き金を引いた得物から光り輝く弾が放たれ、それは狙いたがわず魔物を撃ち抜き、欠片に帰す。
(よし! 次は――)
 一息をついた恵に、シャーロットの危機を知らせる声が飛ぶ。
「今度は上からですぅ!」
「上!? うあっ!?」
 戦闘の合間に恵の上空へ舞い込んだ鳥状の魔物が、氷点下の吐息をぶつける。無数の氷片を叩き付けられた恵は集中を失い、制御の利かなくなった箒と共に落ちていく。
「恵様! 今、癒しの力を!」
 シャーロットの癒しの力を身に受けて、再び意識を集中させた恵は、辛うじて地面との接触を避けて地上に足を着ける。
「ありがとう、助かったよ」
「ここではお互いさまですわぁ。……それにしても、すごい数ですねぇ」
 礼を言う恵に微笑んだシャーロットが、上空を覆う魔物の群れを見上げて呟く。
「……でも、ボクたちはここで引き下がるわけには行かない」
「そうですねぇ。それでは、参りましょう〜」
 二人頷いて、それぞれの戦場へと向かっていった。

「おっと、お前の相手は俺だ!」
 別の生徒が意識を他に向けているところへ、襲い掛かろうとしていた狼のような魔物に、森崎 駿真(もりさき・しゅんま)の鋭い一撃が叩き込まれる。悲鳴をあげた魔物が駿真に狙いを変え、飛び掛ってくる。
「駿真、気をつけてください!」
「分かってるって、セイ兄! すばしっこいからって、俺を抜けると思うなよ!」
 セイニー・フォーガレット(せいにー・ふぉーがれっと)の忠告に応えるように、駿真の狙いすました一撃が魔物の額を捉える。衝撃で数メートル転がった後、まるで雪が溶けるかのように魔物の姿が消え失せ、後に地面の染みだけが残った。
「ふぅ〜、しっかし、今回はなんだってんだ!? また無関係な人が巻き込まれてるし、それに謎の少女とか……あれかなセイ兄、今回の少女もまた精霊とかだったりするのかな?」
「どうだろうね、何が原因なんだろうね。それを突き止めるためにも、まずは目の前の脅威を取り除かねばならないね」
 呟いたセイニーの視界に、新たな魔物の影が映り込む。
「そうだよな! でなきゃ落ち着いた話もできやしないからな! んじゃ、いつも通りサポート頼むぜ、セイ兄!」
 言って駿真が、襲い来る魔物へ得物を構え迎え撃つ。
(……自警団の方が気になるけど、まだ門は突破されていないみたいだから、大丈夫かな。もし怪我をしているようなら、治療を施してあげないとね。もちろん、駿真がもし怪我するようなことがあったら、最優先で癒してあげるけれども)
 魔物相手に奮闘する駿真を見遣って、セイニーが一瞬の思慮に耽る。
(魔物を率いる少女の存在……そして、町を防衛しているというリンネ。何やら裏がありそうな様子ですが――)
 魔物の咆哮に、セイニーは意識を引き戻す。
 まずは魔物を追い払う、そう意識してセイニーが行動を開始する。

「ふむ……カインの指示は、『お互いに援護し合える距離を保ちながら、魔物を撃退し、正門へ向かう』か……。妥当だな」
 魔物と生徒たちが入り乱れた混戦状態の中で、ウェイド・ブラック(うぇいど・ぶらっく)は冷静な面持ちでカインからの指示を確認し、状況と照らし合わせる。
「む、孤立しかけている者たちがいるな。ならば彼らの支援に向かうか」
 言ったウェイドが向かった先では、複数の魔物たちに立ち向かう一組のペアの姿があった。
「無力なる者を襲う脅威よ……消え去れ」
 詠唱を終えたウェイドのワンドから放たれた火弾が、攻撃を繰り出そうとしていたまさに氷の壁と表現すべき魔物を直撃し、大きな穴を開けた魔物が恨めしそうにウェイドを見つめるが、直ぐに剣とランスの一撃を受けて氷片と化す。
「援護したのはあんたか? 助かった、礼を言う」
「少し出過ぎてしまったようだ。あのまま戦っていたら危ないところだった」
 ウェイドの下にやってきた士 方伯(しー・ふぁんぶぉ)とそのパートナー、ジュンイー・シー(じゅんいー・しー)が感謝の言葉を口にする。
「私は私の為すべきことをしたまでだ。礼を言われるほどのものではない」
 冷静な表情を崩さないウェイドの背後を、魔物の雄叫びと振動が襲う。振り向いた先には、先程のやはり壁にしか見えない魔物が立ちはだかっていた。ウェイドが詠唱を始めるよりも早く、方伯とジュンイーが魔物へ駆けていく。
「ったく、次から次からきりがねーな。ま、さっさと片付けてくか」
「そうだな。一つ一つ倒していくより他あるまい」
 得物を振り下ろした方伯の刀身から爆炎が巻き起こり、魔物を包んでいく。すさまじい熱量に身体を融かされ、魔物が苦痛の叫びをあげながらも、冷気の込められた吐息をぶつける。
「護りの力よ、今ここに!」
 方伯の前に立ったジュンイーの身体から、オーラが湧き起こる。強靭な精神力がもたらしたそれは冷気をものともせず弾き返し、方伯とウェイドを護る。
「ま、これで終わりってことで」
「炎の彼方に……消え去れ」
 攻撃を終え、無防備な姿を晒した魔物を、再び爆炎が包み込む。そこに、詠唱を終えたウェイドが放った火弾が、鉄槌を下すかのごとく降り注ぎ、魔物を撃ち抜く。断末魔の叫びも炎に消え、魔物は一片も残さず姿を消した。
「ふむ……即席にしては、なかなかの連携が取れていると言えるか」
「ま、悪くないな。んじゃ、この調子でさっさと次の魔物を片付けていくか」
「護りの方は俺に任せておけ、何とかしよう」
 喜びを分かち合うこともなく、ただ淡々と、着実に魔物たちに攻撃を仕掛けていく三人。彼らの行動は派手さこそないが頼もしく、他に戦う者たちに活力と勇気を与えることとなった。

「獣の姿をした魔物と、鳥の姿をした魔物が二体、町へ向かおうとしている。……そうだ、そいつらだ。……分かった、僕とアメリアとで牽制してみよう」
 箒で上空に飛び上がり、魔物たちの動向を偵察していた高月 芳樹(たかつき・よしき)が、仲間との連絡を一旦切ってアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)へ視線を向ける。
「あの魔物を攻撃すればいいの?」
「ああ、そうだ。無理をする必要はない、注意を僕たちへ引きつけられれば成功だ」
 芳樹とアメリアが、二つの集団から外れ、町へ駆け飛ぶ魔物たちに狙いを定める。
「町へ行かせはしない!」
 飛びながらという不安定な状況の中放たれた火弾は、それでも魔物たちの前方へ降り注ぎ、足止めをくらった形で魔物たちの足が止まる。
「受けなさい!」
 アメリアのかざした剣先から炎が舞い、魔物たちを覆う。威力はそれほどではないものの、注意をひきつけるには十分な効果であった。
「よし、後は仲間たちが準備している場所へおびき寄せる」
「この先でいいのね? 分かったわ。周りに気をつけてね、芳樹」
「大丈夫だ、仲間たちが上手くやってくれている。あの魔物たちも、きっと上手いこと倒してくれるはずだ」
 芳樹の言葉通り、おびき寄せられた魔物たちは、準備を整えていた生徒たちの攻撃を受け、態勢を立て直す間もなく姿を消す。空いた空間を生徒たちが埋め、他の魔物の付け入る隙を与えない。
「上手くいったみたいだな。この調子で偵察を続けよう、アメリア」
「ええ、向こうの魔物たち、動きがおかしいわ。様子を見た方がいいと思う」
「分かった、行こう」
 言って箒を巡らせる、行動の節々に自信のようなものを滲ませた芳樹に、アメリアはまるで子の成長を見守る親のような態度で、微笑みながら頷いた。

(逃げ遅れた人はいないか……この魔物の数じゃ、無事じゃ済まないかもしれないが――)
 町人や一般人の姿がいないかを確認していた橘 恭司(たちばな・きょうじ)へ、魔物の集団が牙や爪をきらめかせて襲い掛かる。
「襲う相手は選んだ方がいい。後、集団だからといって勝てると思わないことだ」
 呟いた恭司が、飛び掛ってきた狼の姿をした魔物の鼻先へ掌打を見舞う。悲鳴をあげた魔物が吹き飛ばされ、地面に震える身体を横たわらせる。次いで腕を振り上げた氷の塊とも表現すべき魔物、その懐へ蹴りを叩き込み、動きの止まったところを剣で首筋を裂き、地に伏せさせる。
「恭司! 一人で飛び込んで、無理はしないでください!」
 さらに攻撃を加えようとした恭司の背中から、クレア・アルバート(くれあ・あるばーと)の声が飛ぶ。
「クレア、町人や一般人の方は問題ないか?」
「ええ、そっちは大丈夫。町に魔物がいかない限り、安全だと思うわ」
「そうか……なら、ここで魔物の相手をしていればいいというわけだな。それが今できることなら、それをするだけだ」
 言って、再び飛び掛ってきた魔物を掌打で追い払い、追い討ちとばかりに爆炎を浴びせる。
「もう一人で突っ込むような真似はしないでくださいね。恭司の背中は、私が護ります」
 クレアが得物を構え、飛び掛かろうとする魔物たちを牽制するように強い視線で見据える。
「ささっと倒して、するつもりだった買い出し、できるといいな」
「……い、今はそのようなことを言っている場合ではありません!」
 軽口のようにも聞こえる恭司の言葉に、クレアが頬を染めて反論する。それでも向かってきた魔物へ、息の合った連携で瞬く間に切り伏せる二人の活躍は、戦況をより優位な方向へ持って行くこととなった。

「……そうか、分かった。ではこれからその場所へ向かう。よろしく頼む」
 魔物との応戦の最中、仲間と連絡を取っていた御鏡 焔(みかがみ・ほむら)が携帯をしまい、隣で支援に当たっていた古川 沙希(ふるかわ・さき)に振り向く。
「相手は何と言っていたのですか?」
「ここから先の地点へ、魔物を引き付けるとのことだ。俺たちはそこで襲撃を行い、魔物を殲滅する。剣の準備はいいか?」
「ええ、お望みとあればいついかなる時でも」
 言って沙希が胸部を露にすれば、光が生まれそこから剣の柄が引き出される。焔がおもむろに掴んで引き抜けば、彼の両手には真紅の刀身を煌かせた剣が握られる。
 仲間が指定した地点には、焔と沙希以外の姿は見られなかった。最初は固まって行動していた一行も、戦闘が推移するにつれ範囲が広がり、今では広範囲で小集団と魔物との戦闘が繰り広げられており、連携が得られにくい状況になっていた。
「魔物が下手にここを突破すれば、後方を脅かされることになる、か。こいつは責任重大だな」
「ええ、ですが無理はなさらないでください。私たちが囲まれてしまっては元も子もないのですよ」
「分かっている。こんなところで無残に散るわけにはいかないさ。……来たな」
 焔の視線の先に、上空を飛び過ぎる仲間の姿、そして釣られるようにしてやって来る獣の姿をした魔物が複数映りこむ。
(まだだ……まだ引き付けて、一撃で最大の効果を得る)
 剣を握る手に湿り気を感じながら、焔はその瞬間を待つ。やがて、視界のほとんどが魔物でいっぱいになろうかというくらいまで近付いた時、焔の身体が躍動する。
「那由他のはてまで飛んでいけ!」
 渾身の力を込めて振り下ろされた剣先から、激しい炎の風が巻き起こり、魔物たちを包んでいく。炎は全てを焼き尽くさんばかりに広がり、魔物たちの悲鳴も炎の中に掻き消えていった。

「キャー! あんなの見たことない! なにあれ! キラキラ光ってきれい!」
「ありゃあ火術の応用だろうな。あんなこともできるなんてすっげえなあ……っておい! それ危ねぇって! 近づくなよ嬢ちゃん!」
「キャー! なんか飛び散ったぁ! 怖い!」
「だから言っただろう。実戦は初めてなんだから、怪我したくなきゃ下がってろって」
 何もかもが初めてのことばかりだからか、感動と恐怖を同時に表現しているセレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)を、パートナーのウッド・ストーク(うっど・すとーく)が宥めようとしている。
「ったく、もう少しで正門だってのに、こんな調子じゃ――って、おい、こっちに来るぞ!」
 ウッドが指した先、雪が溶けかかったようないかにも醜い姿の魔物がゆっくりと向かってくる。
「キャー! 怖い! 怖いよう!」
「おい! 怖がってないで援護してくれ! でなきゃやられちまうぞ!」
「えっ、えっと……ふぁ、ふぁいやー!」
 ウッドに急かされるまま、セレンスの放った火弾はしかし、思いのほか魔物には痛打を与えたらしく、動きが目に見えて鈍った。
「よっしゃ、そのまま一気に潰してやるぜ! ヒョオオオォォォッ!!」
 すかさず、ウッドが魔物の眼前に滑り込み、繰り出したランスの一撃が身体を貫き、雪の破片を飛ばす。
「頑張って、ウッド!」
「これでとどめだ! ッシャアァァァァァァッ!!」
 気合の乗った一撃が魔物を捉え、崩れるようにその場に倒れ、そのまま動かなくなる。
「ウッド、すごいすごーい!」
「へっ、ざっとこんなもんだぜ! ……っと、ようやく見えてきたな、正門が」
 歓喜の声をあげるセレンスに応えたウッドは、目の前にそびえる正門を見上げて呟く。魔物の群れを突き崩し、カインたち率いる一行は正門に到達したのであった。

「リンネ君! どこにいるんだ、リンネ君!」
 正門に辿り着いたカインが声を飛ばすが、応える声はない。代わりにイナテミスを護っていた自警団の一人が進み出、答える。
「あなたの探している人かどうか分かりませんが、その方ならつい今しがた姿を消されました。「もうすぐ学校の人が来るから大丈夫だよ」と言葉を残していったのですが、本当にその通りになるとは……救援、感謝します」
「……そうか。リンネ君のことが気がかりではあるが、まずは町の安全が第一だ。ここは我々が何としても護る。あなたたちは他の手薄な門へ向かってください」
「分かりました。ご武運を!」
 頷いて、自警団の者たちが正門を後にしていく。
「先生……一体、何がどうなっているんでしょうか?」
 一人思慮に耽っていたカインの背中から、ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)の声が飛ぶ。
「どうも、私の予想していた事態とは異なる方向へと進んでいるような気がするのだ。そのことがどうにも気がかりでね」
「モンスターの集団行動、謎の少女、それにリンネさんのこと……気になりますね。前にも似たようなことがあったそうですが、それとの関係はあるのでしょうか……」
 言ったジーナの表情には、悩みや不安といった要素が見え隠れしていた。
「……大丈夫だ。我々にはこのイナテミスを護るという目的がある。まずはそのために全力を尽くそう」
「そう……ですね。ありがとうございます、先生」
 カインの言葉にジーナがわずかに微笑んだ次の瞬間、ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)が颯爽とした身なりで駆け込んできた。
「先生! 自分はこれからどういたしましょうか?」
「うむ……君は彼女と共に、可能な限り前線に立って魔物たちの進攻を食い止めてくれ。我々がここに辿り着いた今、魔物は必ず門の突破を狙ってくるはずだ、くれぐれも注意してくれ」
「了解しました。……自分はユウ・ルクセンベールだ。よろしく頼む」
「あ、はい……ジーナ・ユキノシタです。こちらこそよろしくお願いします」
 次々と指示を飛ばすカインに背を向けて、ユウとジーナは魔物と相対する最前線へと駆けていく。そこでは既に戦端が開かれており、そして二人の前に鳥の姿をした魔物が舞い降りてくる。
「お前たちの勝手にはさせない!」
 素早く得物を抜き放ったユウが、爆発的な加速をもって宙を翔け、魔物との距離を一気に詰める。吐きかけられた冷気をものともせず、すれ違いざまに繰り出した一撃が翼を貫き、悲鳴をあげながら魔物が地上に落下していく。
(分からないことばかりだけど……今は、戦う!)
 迷いを振り切り、ジーナの突き出したランスが魔物の首筋を捉える。砕けるようにして地面に消えていった魔物に背を向けたジーナを、駆け寄ったユウが激励する。
「今のはいい連携だった。この調子で魔物からイナテミスを護ろう」
「はい、ユウさんもどうかご無事で――」
 ジーナの言葉は、突如吹き荒れた強烈な寒波、そして降り注ぐ無数の氷柱に遮られる。最前線を端から端まで襲った冷気は、そこで防戦を続けていた者たちに甚大な被害を与えていった。
「くっ! 何だ、今の攻撃は――」
 その様子を後方で確認したカインが苦渋の表情を浮かべた矢先、傍らに控えていたパムが声をあげる。
「先生! 何者かがこちらに近付いてきます!」
 それからまさに一瞬という間の後に現れたのは、身の丈からすれば十二、三歳程度の、青と白のワンピースに身を包んだ、しかし背中には六対の青白く輝く氷の羽根を持った少女であった。
「……あんたがこの集団を束ねるリーダー? 随分とひ弱そうな見かけね」
「あなたが魔物たちを率いているリーダーというわけですか。初めまして、カイン・ハルティスと申します」
「あら、礼儀正しいのは好感が持てるわ。あたしはカヤノ。そうね……氷の精霊、とでも思ってくれればいいわ」
 微笑んだカヤノの全身からは、年相応とは思えないほど冷たく、震え上がらせるような雰囲気が溢れていた。
「氷の精霊……そんなあなたが、何ゆえにこのような真似をしているのですか?」
「そうね、色々あるのだけれど……それは、あんたたちを氷漬けにしてからにするわ!」
 言ってカヤノが、手をかざし冷気を浴びせかける――。