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魔糸を求めて

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魔糸を求めて
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リアクション

 
 
TETRA.もふもふとの遭遇
 
 
「いたいた。いたよー、織機くん、アルパカだよー」
 イルミンスール魔法学校の南西の渓谷にアルパカを求めてやってきた立川るると織機誠は、首尾よくアルパカの群れを見つけていた。
「やりましたね。さあ、もふもふを刈りまくっちゃいましょう!」
 持ってきたバリカンを手にして織機誠は言った。
「じゃ、呼びよせるね」
 立川るるは地上に降りると、持ってきた牧草を固めたタブレット状の餌を取り出してアルパカたちに声をかけた。
「こーい、こいこいこい。こーい、こいこいこい」
 必至に声をかけるが、アルパカたちはなかなかやってこようとはしない。諦めずに続けていくと、やがて一匹のアルパカが斜面を下りて近づいてきた。
「やったね」
 手の上の餌を見せびらかせて、立川るるはアルパカが近づいてくるのをじっと待った。最初はおずおずと近づいてきたアルパカだったが、一口餌を食べたとたんに遠慮がなくなった。あっという間にてのひらの上の餌を食べ尽くし、立川るるの持っていた袋の中の餌までも欲して、彼女にのしかかっていった。
「きゃあ」
「立川さん、危ない!」
 悲鳴をあげる立川るるに、織機誠は持っていたランスの先でアルパカの頭をごんと殴った。
 きゅうとばかりにアルパカが気絶する。
「ああ、アルパカさんが」
 立川るるが、倒れたアルパカのもふもふの毛並みをなでながら言った。
「ちょっとかわいそうでしたけれど、今がチャンスです。丸刈りにしてしまいましょう」
「それもそうね」
 気を失っている今なら、毛を刈っても暴れないだろうということで、二人はバリカンでアルパカの毛を刈っていった。ほどなくして、たくさんの毛が手に入り、丸刈りにされた情けないアルパカが残された。
「これだけ糸があれば、赤い糸だって作れそうね」
「赤い糸……」
 立川るるの言葉に、織機誠はちょっと頬を赤らめた。
「それにしても、なんだか、すっごく奇妙な生き物になっちゃったね」
 もこもこの毛がなくなってしまうと、アルパカの長い首は異様に細い。まるで、ラクダとダチョウのキメラじゃないかと思ってしまうほどだ。
「ええ、そうですね」
 織機誠が立川るると一緒に笑っていると、丸刈りにされたアルパカが意識を取り戻して立ちあがった。さすがに殴られたので不機嫌なようだ。しかも、目の前の人間たちは、明らかに彼の姿を見て笑っている。アルパカの怒りに火がついた。
「ぶふふふふ……ぺっ!」
「立川さん、危ない!」
 反射的に、織機誠はアルパカと立川るるの間に入って彼女を守った。そんな彼の顔に、アルパカの吐き出した唾が命中する。
「くっさ〜!!」
 織機誠が絶句した。怒ったときにアルパカが威嚇として吐き出す唾は、胃液が混じったもの凄く臭い物だ。
 思わず、立川るるでさえ、織機誠から一歩離れる。さすがにハンカチを出して顔を拭おうとした織機誠に、アルパカの次の攻撃が襲いかかった。
「うわっ」
 さすがに今度は立川るるを狙った物ではないので、織機誠も身を翻して避ける。それが、アルパカの怒りに油を注いでしまったようだ。
「ぶもももももー」
 アルパカがひときわ大きく鳴いた。その声に、他のアルパカたちも集まってくる。
「ぺっ、ぺっ」
「ひー」
 何頭ものアルパカの唾攻撃に、さすがに織機誠は悲鳴をあげた。
「待ってて、今魔法で追い払うから。絶対に殺しちゃダメだよ」
 そう言って、立川るるが軽く目を細めて魔法の詠唱に入る。
『星よ、我は願い人・るる……』
 呪文を唱え始めたのはいいのだが、詠唱が終わるまではその場を動けない。結果として、織機誠は彼女の盾として、唾を全部受けとめるしかなかった。
『我が讃えし輝きは、猛き牡牛の気高き瞳。汝がその煌きは、闇を照らせし星の導き』
「ぺっ、ぺっ」
「うげげげげ……」
『叶えたまえ、我が願い。聞き届けたまえ、我が祈り』
「ぺっ、ぺっ、ぺっ」
「うぎゃあ(るるさーん、早くしてくださいぃぃ……)」
『今、真の姿を現して、その手に持てる雷を。我が呼ぶ汝の名に応え、星の力を我が前に』
「ぺぺぺぺぺぺぺ……」
「うげぼあ……」
『いざ分け与えたまえ。アルデバラン!』
 かっと目を見開いて、立川るるが手に持った杖を頭上に勢いよくかかげた。瞬間空が暗くなったと思うと、一つ星がきらめき、雷光が大気を切り裂いて大地に突き刺さった。地面には、牡羊座の刻印が穿たれている。
 直撃を受けた者はいなかったが、雷鳴の大きさと閃光に驚いたアルパカたちは、蜘蛛の子を散らすようにあわてて逃げ去っていった。
「やったよ、織機くん。織機くん?」
 小さくガッツポーズをとった立川るるだったが、織機誠からの返事がない。
 足許を見ると、織機誠が倒れていた。全身がアルパカの唾まみれで、どろどろになって気を失っている。
「大丈夫、織機くん!」
 あわてて織機誠をだき起こそうとして、立川るるは直前でずざざざとあわてて後退った。
「くっさーい」
 全身がアルパカの唾づけである。無理もなかった。水をかけて洗ってあげたいところだが、ない物は使えない。せめて、氷術が使えれば、火術と組み合わせて水が作れたのだが。とはいえ、もし使えたとしても、うっかりすると、彼の身体の上に氷塊を叩き落として潰した上で、全身ごと火につつんで焼いてしまったかもしれない。
 とにかく、彼を一人残して水を汲みに行くわけにもいかないだろう。
「いったいどうしょお」
 意識を取り戻してだきついてきたら、火術で焼いちゃうかもしれないと思いつつ、立川るるは途方に暮れるのだった。
 とりあえずねんのために禁猟区を発動させると、立川るるは織機誠を少し遠巻きにしてしゃがみ込んだ。
「でも、ありがとう」
 そう一人つぶやくと、立川るるは、織機誠を見つめたまま気がつくのを辛抱強く待ち続けた。