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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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 走り駆けて南の別荘地に向かうはチーム「王族を狩る者」の5人である。空飛ぶ箒に飛空艇はあれど、絵柄兵に出会う前に打ち合わせとコミュニケーションを図ることが良き連携の為には必須であると判断した面々は、別荘地までを駆ける事にしたのだ。
「ふむ、やはり教諭の言う「ポイントを集める事」にどんな意味があるのか不明だな」
 イルミンスール魔法学校のナイト、姫神 司(ひめがみ・つかさ)が言えば、蒼空学園のソルジャー、大草 義純(おおくさ・よしずみ)が走り応えた。
「そうだのぅ、意味なんて初めから無いのだとしたら。一種の尺度というか、目安というか」
「どれだけ倒したか、その結果を示す為の存在、という事か」
「えぇ、まぁ何にせよ、どういった経緯で擬人化する対象をトランプにしたのかが分かれば、解決したも同然なのだがのぅ」
「なるほど、トランプを選んだ事に意味があるのなら、ポイントの必要性があるという事か」
「何だって構わねぇ。強ぇ奴を倒せば点が高ぇ、それだけだろ。それよりも戦闘だ、くぅぅ〜待ちきれねぇぜ」
 そう言って波羅蜜多実業高等学校のソルジャー、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はバーストダッシュを用いたのではないかと思える程に勢いよく加速した。
「待て、ラルク、総得点よりも獲得した枚数が評価されるという事も……」
「司、義純、遅れるな、行くぜ!」
「だから待てと言うに」
「頼もしい限りだのぅ」
 義純は笑えども司は笑えぬ。チームが成るには利害の一致に始まるも、いざの時、如何に互いを想えるかが成熟度に比例する。
 さて、このチーム、授業を持って同じ景色を見れるであろうか。


「さてと、まずは」
 白馬を降りて辺りを見回す。薔薇の学舎のバトラー、清泉 北都(いずみ・ほくと)は、別荘地帯をじっと見渡した。
 点々と小屋があり、小屋と小屋とを歩道が結んでいる、といっても歩道外は芝生になっているだけなので、通行は可能ではあるのだが。
「そうだなぁ、あの木にしようか」
 歩道の向こう、芝生のずっと向こうに茂み、そして森へと続いている、その境目の木に北都は近づいた。
「絵柄兵が通らないことを祈ろう、動く手間が増えるだけだからね」
「北都が戦うと決めれば、私は全力でサポートしますよ」
 パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)はロープの端を目の前の木に周回巻いてから縛り付けた。
「いいんだ、絵柄兵は強いんだろぅ? 確実に倒すには誰かと組んで戦わなくちゃならないし、得点が2倍でも複数で分けたら数字兵以下のポイントになりかねないんだ」
 北都はもう一方の端を地面に設置する。エリアを踏んだらロープの輪が締まる罠を設置する。単純な罠が最も効率が良いと論理立てたからだ。
「それに絵柄兵は12枚しかないだろう? きっと効率が悪いよ、だから」
 一方の端を縛り結わいて、北都は言った。
「僕は数字兵、特に10とかの数字が大きなものを狙うとするよ、数字兵なら強さは変わらない、なら大きな数字を狙うほうが効率が良いだろうからさ」
 論理立てに推理立て。狙いを定めて罠を巡らせて北都は笑みを浮かべた。


 北の山に到着した。険しい険しいとは言われているが、小型飛空艇で来れば大した事はない。
 蒼空学園のウィザード、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は飛空艇を降りて辺りを見回した。
「思ったとおりだ、死角が多い」
「嬉しそうですね、ィ、イオ」
 イーオンの事をイオと呼んだのはパートナーのセイバー、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)である。彼女はすぐにイーオンに双眼鏡を手渡した。
「ありがとう」
 岩の大きさは不揃いであり、大きなもので2メートル近くもある。ここは山の中腹であるが、死角を確保するには丁度良かったのかもしれない。
「よし、あの岩を中心にしよう。絵柄兵は後回し、確実に数字兵を倒していく」
 イーオンが指差した岩を中心にエリアを構築、敵を感知したなら一気に攻める。
「僕の魔法もアルの剣術もある、追い込めば、逃がさないよ」
 聞いたアルゲオは小さく頬を赤らめた。「アル」と呼ばれる度に、今でもこれまでも嬉しく思う。イオと呼ぶように、と言われた、今でもアルゲオは詰まると言うにイーオンは気付いていないのである。
 イーオンが目を輝かせている。アルゲオの嬉しさも、一つ追加されていた。


 百合園女学院の制服を着て、そう、それが似合わないと思える程に手際良く。いや、デキるメイドさんの如くと言うべきか。そこはやはりソルジャー故の動きであるのか。
 百合園女学院のソルジャー、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は何とも手際よく木々の根元に小箱を取り付けている。距離を測って間隔を開けて。
 パートナーのセラ・スアレス(せら・すあれす)はただじっと見ていたが、ようやくに、
「ねぇフィル、何か急いでる?」
「え? そんな事は無いですけど。そう見えますか?」
「うん、とっても」
「そうですか。罠の設置は集中力が鍵ですからね、自然と動きも速くなったのかも知れません」
 動きに一つのムダが混ざっていれば「焦っている」と見えるが、しかし、そんなムダは見えない。何度も練習したかのような機敏な動きだった。
「はい、ばっちりですわ」
 小さく良きを吐いて、フィルは戻り来た。
「フィル、あの小箱は?」
「爆薬ですよ」
「ばっ、爆薬?!」
「えぇ、絵柄兵さんはとても強いそうですので、爆発の力を借りようと思いまして」
 笑顔である、天使のような笑顔である。最近スキルの「破壊工作」を身につけたのはセラも知っていたが、さすがの手際だったと思った。
「さぁ、二人で絵柄兵さんを倒しましょう」
 拳を握って笑んでいる。純粋そのもの、この笑顔も、フィルの大きな魅力であるのだ。


 木の枝に座って足はブラブラ。イルミンスール魔法学校のナイト、水神 樹(みなかみ・いつき)に詰め寄って、パートナーのカノン・コート(かのん・こーと)は念を押した。
「本当に、本当に数字兵だけにしてくれよ」
「そう何度も言わなくても分かってるわ、そんなに信用できないの?」
「そうじゃない、樹はすぐに夢中になるから、だから」
 真っ直ぐな想いを受けて、樹は笑んだ。
「分かった。絵柄兵とは戦わない、数字兵だけにするわ」
「本当だよ? 無茶したらダメだからな」
「大丈夫よ、怪我してもカノンが治してくれるんでしょう?」
「怪我なんてしない方が良いんだ! 当たり前だ!」
 大きな声を出された事に、そして出した事にも驚いた。カノンは少し離れて小さくなった。
 そんなカノンを見て、樹は視線を足先に戻した。樹海の中の木々の枝上。単純な待ち伏せであるが故に見渡しが良い。
「強くなりたいと願う事は愚かな事であろうか」
 言葉にせずに樹は想う。
「強くなるには強き者と戦う事は避けられない、しかし、私が強き者と戦えば、カノンは悲しむ」
 樹海の中、視線の先。樹の願い、カノンの願い。現れるのは、どちらの兵であろうか。