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オークスバレー解放戦役

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9‐08 焼け跡の死闘

 オークの森の中の、何処か。繰り広げられる激戦も知らずに、ふらふらとさ迷う少年と、小さな女の子。
「あっれー……砦ってこっちだったよな……?」
「ここはオークと戦った森ではないかえ! 何で私達はこんなところにいるのじゃ!?」
 レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)と、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)。ちょっと可愛いはぐれ獅子……蒼学から、遅れて来た獅子小隊の二人だ。
 隊長レオンハルトらの待つ砦に合流するつもりが、ここはどうやら、オークの森のど真ん中。
「どうして地図見ながら迷えるのじゃ! レイのドジ、馬鹿ー!」
 ワンドでレイディスの頭をぽこぽこ。
 二人のやり取りを生温かく見守りつつも、周囲の警戒を怠らない、セシーの機晶姫ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)
「うっ、ご、ごめんセシー、……んっ。ここは」
 二人がやってきたのは、森の焼け跡。
 ここはかつて、獅子小隊がベオウルフ隊とともに、キングと戦ったところ……
「む……? あれは? 向こうで誰か戦っておる。見過ごすわけにはいかないのじゃっ!」
「よし、行こうセシー、……っと。なんか、飯食ってるでっかいオークを発見だ」
「背後とったりじゃ。レイ、こやつが向こう向いてるうちに……」
「セシー、例の技試す時が来たみたいだなっ」
「了解っ。私達の連携、見せてやるのじゃ!」
 セシー、レイの隣に並び、二人、剣の切っ先と杖の先端とを合わせる。
「獅子……!」
 心臓の位置に照準を合わす。レイの剣にほとばしる轟雷閃の電流が、セシーの雷術で増幅される、一瞬。
「雷貫閃ーーーーー!!」
 強大な電撃が敵を襲う。
「やったか?」
 バリバリバリ……煙を上げる中から現れ出て、二人を振り向いたのは……
「オ、オーク、キ、キ、……」
「セシリア様!」
 ファルチェが、二人の前に飛び出る。
「ファ、ファルチェっ!」
 強大な槍の一撃を、剣で受ける。剣の刃が欠ける。





 オークの本陣から、オーク兵らが、繰り出されてきている。
「ここは俺達がおさえる!」
 走りこんで、切りかかっていく葉月。押し寄せてきたオークの兵らがどっ、と倒れる。
 そのまま切りつける、一匹、二匹、……
 葉月に殺到するオークを、シャープシューターで確実に仕留めていく、影野。
 彼の射撃もかなり定まってきた。それは、普段の頼りない彼ではない。
 切り合う葉月の脇あいからも、なだれ込んでくるオークの兵。
 篠北も、それに向かっていく。
「危険だよ、姉貴は後ろへっ」
「あたしだって、これしきのこと、……おのれら、覚悟せんかぃ、おらぁ!!」
「姉貴が引かないっていうのなら、姉貴の体はあたしが守るっ」
 そんな中、ばりばりとオークを殺戮に酔いしれているのは、東條カガチだ。
「はっはぁー!!」
 教室でぽけーとしていた彼の姿は今どこにもない。
 ……所詮自分は寄せ集められた傭兵、ただ一つの舞い踊るただ一つの剣に過ぎない。そしてそれを振るうは雇用主である教導団、ならば存分に振るわれよう。
 一本の剣として……!!
 そう思う彼であるが、その剣の舞は自由自在だ。
「面白えぇぜぇ」
 が、
「ウガァァァァァァァ」
「ダリァァァァァァァ」
「ゴルァァァァァァァ」
 ドゴーン
 突進してくるオークチャリオット。
 葉月、篠北、ジェニス、東條一斉に飛んで、避ける。
 続ける影野の射撃も、装甲が通さない。
「陽太ちゃん、危ないぜっ」
 ドゴーン すんでで避ける、影野。
「こいつ、何とかならないのか……」
「ムゥ。ならば……」
 向かい合う、村雨。
 しかし、本陣から、どん。どん、歩いてくるあの巨大な影は……
「あ、焔、どこへ?」





「待ちな、このやろ!!」
 暴走するオーク戦車をボロボロになって追いまわす国頭、ヒールをかけながら国頭を追うシーリル。
 ギチギチギチ……再び向きを変え、国頭に襲い来る。
「ウガァァァァァァァ」
「ダリァァァァァァァ」
「ゴルァァァァァァァ」
「……南無八幡台菩薩。願わくばあのオークのドタマを射させてください、……ってな!」
 ドン! ぎりぎりまで引きつけ、一匹を撃ち落した。
「ダリァァァァァァァ」
「ゴルァァァァァァァ」
 そのまま蹂躙しようとするオークの操舵を、シーリルが光条銃で目くらましして、国頭を助ける。
「武尊さんっ」
「あぶねぇ。シーリル、大丈夫か?!」
 ダン、ダンッ
 そのとき、
 森の奥から、狙撃し、チャリオットを引き付ける者があった。
「ダリァァァァァァァ?」
「ゴルァァァァァァァ?」
 木陰より姿を現したのは、星野 勇(ほしの・ゆう)
 忍の一族「星野家」の末裔として、教導団へ送り込まれたのが、彼だ。
「なるほど……今まで俺達の近くでオークの伏兵を討ってくれてたのは、やつか。」
「こいつは俺にやらせろ」
 チャッ、銃を上げてオークを睨みつける星野。その目は冷徹だ。
 ギチギチギチ……チャリオットが、星野に向きを変える。
「ダリァァァァァァァ」
「ゴルァァァァァァァ」
 ドゴーン
 ダン、ダンッ 銃撃しつつ、森の奥の方へ、そのまま戦車を引き離していく、星野。
「あの忍び、一人で戦うつもりだ」「いいだろ。ここはあいつにまかせるぜ」





「はっ」
 即座に避ける、風森。スウェーにも、限界が来る。
 凄まじいランスの一撃。それを盾で防いで、ナイトのウェイルが加勢に入った。
「風森さん! 防御は俺にまかせて!」
「了解しました! ティア、今のうちに」
「巽!」
 ティアのパワーブレスが、戦う者の力を再び高める。
 そして風森は、制服のポケットから鋭いそれを取り出すと、ひそかに左手に隠し持った。
(ここへ来る前、空京で……
 来る戦に向けて、その準備に町を歩いていた風森とティアの二人。
 「遭遇戦の話を聞いたら、なんか豪華な装備したのもいるみたいだし、保険ね。投げて牽制とかもありだし……十本くらい買っておこっか!」
 「なるほど。さすがだな、ティア…… ……
 ……)
「巽! 気を付けて」
「し、しまった」
 ウェイルの脇を抜けてきたランスの攻撃に、剣を取り落とす風森。
 ニタ。
 モラッタ、とばかりにランスを後ろに大きく振りかぶるオーク騎士。
 だが、笑ったのは、風森の方だった。
 風森はその一瞬を狙って、相手の間合いに一気に入り込んだ。オークの体に飛びついて、兜の隙間から目を突き刺した。彼の手にあったのは、日用品のアイスピック。であったが、それを見事凶器に変えてみせた。
「!!」
 オークの兜から血が噴出する。
 ティアが彼に剣を投げて遣した。
「豪華な装備も体の中までは守れまい。轟雷閃!」
 鎧の隙間に、剣の一撃。とどめの電流を走らせた。





「もう少し近付けないものかしら……」
 飛びかかってくるハーフオークを振り払いながら、魔道師との間合いを詰めたい十六夜。
 光学迷彩で隠れた如月が、火術でハーフオークを牽制しつつ近付こうとするも、魔道師には察知されるらしく、すぐに兵を壁に回してくる。
 魔力は温存しつつ、ドラゴンアーツでハーフオークと格闘する十六夜、
「くっ。間合いを詰めれるなら、私の魔闘拳術で……!」
 だが、ハーフオークが、邪魔だ。
「やむを得ないわ。こうなれば、ハーフオークもろとも」
「僕にやらせてみて」
 そこへ、清泉北都。
「魔術師のせいだとしたら、できれば殺さずに済ませたいと思うよ」
「あの者達、操られているのでありますれば」
 クナイが、キュアポイゾンを試みる。
「どうか正気に戻って頂きたい」
 クナイの術効が一帯に広がると、ハーフオークの動きが、徐々にだが鈍ってきているようだ。
「この浮かび上がっている紋章が原因ならっ!」
 泥を塗りつけて、ハーフオークの体の模様を消そうとする北都。
「エエィ、コシャクな!」
 魔術師から、邪気の魔法がクナイに発せられる。
「クナイ!」
「……何これしきのこと」
 十六夜が、頭をかかえたり、ふらつくハーフオークの合い間を縫って、一気に距離を詰めた。すでに詠唱は始まっている。魔術師が邪気を十六夜に向ける。
「我が一撃は龍の咆哮!!」
 火術と雷術を拳に纏い、ドラゴンアーツの右ストレートで、撃ち抜く!

 どさっ、魔力を使い果たし、ひざをつくクナイ。
「クナイ」
「北都様……やりましたかな」
 が、再び、立ち上がってくるハーフオーク。
「?!」
「そうか、魔術師は、もう一体……どこだ?」
 近くの茂みに、雷術が落ちた。
 そこから、どっと倒れ出てくる魔術師。すでに、剣が突き立っている。
「助太刀するのじゃ!」
 姿を現したのは、セシリア・ファフレータ。そして、レイディス・アルフェイン。魔術師にとどめを刺す。
 突き立てた剣を抜き、機晶姫のファルチェ、
「皆さん。あちらです! 村雨さん達が、今」
 皆、森の奥の方へと走る。





 ギチギチギチ……
「ダリァァァァァァァ」
「ゴルァァァァァァァ」
 ドゴーン
 ダン、ダンッ 木から木へと移り、戦車の突進を交わす星野。
 銃弾を受けたオークの操手が、ぐらりと車体から引き剥がれる。
「ゴルァァァァァァァ」
「あと一匹」
 突っ込んで来る車体にふっと飛び乗る、星野。頭に銃口。
「ゴルァ、ゴ、ゴ、ゴメンナサ」
 引き金を引いて、戦車から飛び降りる。
「…………こんなものか」





 ドーン!!
 近くで、オークチャリオットの大破する音が響く。
 森奥の焼け跡に集ったチェックIIの戦士達。
 東條、葉月、影野の周囲で、あらかたのオーク兵は討ち果たされている。
 その前方、村雨焔と向かい合うのは……
「やはり、貴様だったか……キング」
 次々駆けつけてくる、ウェイル、フェリシア、風森、ティア。篠北、ジェニス。
 セシーにレイ、十六夜、如月、清泉、クナイ。
 
 そして後方の森からも……
「あら。皆様」
 藤原優梨子。手に、女王の首をぶら下げている。
 後ろに、永谷達。チェックIの者達も、片が着いたようだ。
「チェックメイト……」
 村雨が、剣を構えた。
「ってことだな!」
 クレアも銃を向ける。