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第10章 ハーフオークと共に

 ライゼからの報告を受け、博士達より一足先に外れの村へと赴いた、教導団からの親善大使、林田とジーナ。ライゼも一緒だ。
「えー。教導団からの正式な使者としてまいった、林田樹だ。で、こちらが」
「ジーナですー!」
「、だ。
 まず教導団からの返事を伝える。ええ、教導団は、オークの支配を解いた後は、この土地に住むすべての者に絶対に危害を加えない。
 教導団は、ここに住む者達に協力する。
 以上」
「……」
「と、いうわけで」
 林田は朝霧の方を向き、
「メイド。私たちも今から一緒に、交流を始めるとしよう」
「ああ! それは嬉しい。皆、いいやつらばかりだぞ」


10-01 異文化交流

 ハーフオークはひっそりと農耕を営んで暮らしている、と伝え聞く通り、村から山岳へ伸びる丘陵帯が、畑になっていた。
 林田は、早速彼らの農作業を手伝い始めた。
「ほう、こんな作物があるのか」
 真っ赤ででこぼこしたとげとげのある固くて四角い野菜だった。「(食べれるのであろうか……。)」
「スープニ入レテ食ベルノダ。ウマイゾゥ」
「私が持ってきたものは、これだ」
「ホーゥ?? コレハ、何デスカナナ?」
「これは、地球のジャガイモ・サツマイモの種芋だぞ。荒れた土地でも育つ作物だから、これを植えてみてはどうかと考えるが」
「ジャガイモ……」
「サツマイモ……」

 家のなかでは、ジーナが料理を手伝っている。
 村にある食材を使って出来るメニューを紹介している。ジーナ自慢の料理を披露するつもりだ。
 てきぱきと動きのいいジーナ。
 制服を改造したメイド服が似合っている。
「俺も手伝うぞ。メイドとしちゃ負けてられないからな」
「垂は凄いよっ! 料理の味付け以外は!!!」
 こ、こらっ! ライゼは久々に朝霧のゲンコツを食らった。「今から料理を手伝おうって言ってるのにそのキメ台詞が来るか!」
 ジーナの周りには、ハーフオークの子どもらが集まって見ている。
「あとですね、近くにキノコの採れるところはありませんか?」
「ボクラ知ッテルゾ」
「ジーナニ、トビキリノキノコ採テクルゾ」

 たちまち日が暮れて、夕飯の時間になる。
 ジーナも、朝霧、ライゼも一緒に、家の前の丸太の椅子へ腰かけて、ハーフオーク特性のスープを飲み、夕日が沈む丘陵を眺める。その向こうに聳える鉱山。
 森の近くでは、ハーフオークの子どもらが遊んでいるのが、影絵のように見える。
 スープをひとくち、口に入れ、ほっと息をつく林田。
「とても良い景色だな」
 この土地が、もっと豊かになることを、彼女は願った。



10‐02 本当の幸せとは何か、おまえは答えられるのか

 その夜、招かれざる訪問者。
「オークの本巣で間もなく決戦となることが予想される」
 ハーフオークの男たちを徴兵に来た、魔道師だ。屈強なオークの護衛を引き連れている。
「ラァァ!! 戦エル奴ラ、皆出ルダォォォォク!!」
 ばだーん!! 扉を空けて踏み込んでくるオーク。そこにいるのは……
「失せろ、平和な暮らしにおまえたちは要らない」
 アサルトカービンを構えた、林田。
 どんっ 倒れるオーク。
「ふえーん、嫌ですー、あっち行ってください!!」
 続けて、ジーナに切り付けられ追い立てられ、オークどもは外へ逃げ散っていった。
 ばしっ それを薙ぎ払う、朝霧の光条鞭。
 魔道師と向かい合う朝霧。
 ヒュン、唸る鞭が、魔道師のワンドを空へ飛ばした。
「くっ。ハーフオークを助けたつもりか。教導団、どうせ貴様らとて都合のよいようにこいつらを利用するだけだろ。
 貴様らの隊長に言っておけ。こちらにとっては貴様らは侵略者なわけだ。この峡谷から出て行くがいい、とな!」
「何……!」
 林田、ジーナも、駆けつけてくる。ハーフオークも、魔道師の周りを取り囲んだ。
「魔道師。今までここで好き勝手にやってきてよく言うな。これはこの峡谷そのものの解放戦となろう」
 銃を向ける、林田。
「ほざくな、ニンゲンめ。いいか。予言しよう、貴様らとて必ず、ここにいるハーフオークどものひそやかな暮らしを乱すことになる!」
 魔術師は、言いつつ、後ろに回した手に魔力を集めた。
「よく言うな」あきれる、林田。
「死ね!!」笑いながら、手のひらに火術を掲げる魔道師。
「お見通しだ」腕を撃ち抜く。
「うっ。はあ、っ……ハハハ、貴様ら教導団が、これからどんなふうにこの峡谷を破壊していくのか、見物だな」
「……」――垂。……本当の幸せとは何か、おまえは答えられるのか? 朝霧は自らに問うた。
 今は戦う他ない。朝霧は光条鞭をとる。



10-03 正義の仮面と悪の仮面

 前回、西の集落でヒーローショーを演じた神代 正義(かみしろ・まさよし)
 その後彼は本隊からの連絡を受けると、住民に涙の別れを告げ、次なる戦いの場へと向かったのだった。
「これからは自分達の力で村を守っていくんだぞ……。でもどうしても理不尽な暴力に襲われた時、シャンバランはきっと助けに来るからな!」
「いつまでウジウジしてるんですか……帰りにまた寄ればいいだけじゃないですか」
 ラブリーアイちゃんこと大神 愛(おおかみ・あい)はそんな彼を引っ張り、皆の待つ砦へ。
 軍議の場にも居合わせ、腕組みし静かにその話を聞いた、神代。
 俺の助けを呼んでいる声がする、と彼は思ったかもしれない。

 彼はオークスバレーの北部で、ハーフオークの隠れ里を探した。
 しかし元来、隠れ里とは、容易に人に見つかる類のものではなく……
 森と丘陵の折り重なりの中、二人は迷ってしまった。
 が、程なく、運良く彼らはハーフオークと出遭うことになる。それは、戦場で押されているオーク勢の兵力増強のため、連行されていくハーフオークの一団であった。
 神代はすかさず、ハーフオークの前に踊り出た。武器をさっとしまうと、
「大丈夫! 貴方の親愛なる隣人シャンバランがきたよ!」
 不信げに、顔を見合わせるハーフオーク達。まだ戦意を掻き立てられている状態ではないので、襲ってくる気配はないが……
「オイ。なんだ、何してる? さっさと行かぬか、早く戦場へ向かうのだ!」
 後方から、ハーフオークを引き連れて行く魔道師が出てくる。
「出たな悪の魔術師フロシキ仮面!」
「なっ、なんだ貴様……」
「マジシャンだか怪しげなエスパーだか知らないが、俺がやっつけてやる!!」
 ばっ 神代はその前に立ち、お面をかぶりつついつものポーズをキメた。
「俺は怒りの王子! パラミタ刑事シャンバラン!!」
 全速力で切りかかる。
 斬ッ
 ヒット&アウェイするまでもなく、一撃で倒してしまった。
「おっ……」
「……」ハーフオークたちも、どうしたらいいのか、ただ顔を見合わせる。
「み、皆さん? あたし達にはこのとおり敵意なく、教導団はオークを撃退しに来ているんです!」
 愛は必死に説明する。が、ハーフオークの顔つきが、徐々に険しくなってくる。後方で、怪しい調べ。
「もう一匹いたか!?」
 ハーフオークに悪意と戦意が満ち、打ちかかってくる。
「わっ」
 半泣きで避ける愛。
 魔道師にかかっていくシャンバラン。うっ この踊りたくなる調べは……人をも、操るというのか!?
「クソッ卑怯な!」
 シャンバランは、操られた。……気がしただけだった。
 魔道師には、人を操る力はないのか。
「しっかりしてえ! シャンバラン、正気に戻って」
 ごつん、愛のメイスを食らう、シャンバラン。
「いてて……」
 気を取り直して、
「いざ勝負!」
 そこへ、反対の方角、本巣のある方面から、ぞろぞろと、大勢のハーフオークがやって来た。
「な、……こ、こりゃダメか??」
 取り囲まれたシャンバランとアイ。しかし……
 そちらのハーフオークを率いているのは、小さな男の子だ。
「ボクたちは、彼らの村へ戻ります。皆さんも一緒に、行きましょう」
 本巣から、助けたハーフオークと一緒にやって来たガーデァ・チョコチップだ。
「な、何?! ええい、このお子様が!
 おいハーフオークども、わしらに逆らっていいと思うのか。そら、お前ら、裏切ったやつらを殺せ!!」
 操られたハーフオークが、ガーデァたちの前に立ちはだかる。
 が。そのとき……
 周囲の森から、更に四方を詰め尽くす数のハーフオークたちが、現れた。
「!?」
 辺りを見回し、うろたえる魔道師に、
「シャンバランダイナミィィィック!!!! 悪は滅びろ!!」
「グヮヮ!!」
 ガーデァも、シャンバラン、アイちゃんも、周囲を見渡す。これは一体……??
「心配シナイデイイ。彼ラ、仲間ダ」
 兵として駆り出された、ハーフオーク戦士の、家族たちだ。
 朝霧がハーフオークとの友情を結び、使者の林田によって、教導団はハーフオークと結ぶことが告げられた。
 外れの村から、丘陵の裏を伝って、ハーフオークの村々にそのことは広まった。
「我我、教導団ニ味方スル……」
 ハーフオークの戦士が、ガーデァ、シャンバランに向き合う。
「我ラ、仲間ダ」
「うん!」
「言ったとおり、俺は貴方の親愛なる隣人シャンバランだぜ!」